BMW M5コンペティション（4WD/8AT）【試乗しじょう記き】 浮世うきよ離ばなれのパワーエリート

最上級さいじょうきゅうの上うえを行いく

1972年ねんの初代しょだいモデル誕生たんじょうから、間まもなく半はん世紀せいき。BMWのモデルラインナップの中なかにあって特とくに長ながい歴史れきしを刻きざむ5シリーズは、現行げんこう型がたもその登場とうじょうから4年ねん半はんの時ときが過すぎようとしている。

そうしたタイミングで内うち外装がいそうの一部いちぶを化粧直けしょうなおしするとともに、ハンズオフ機能きのう付つきの渋滞じゅうたい時じ運転うんてん支援しえんシステムや最新さいしんのコネクティビティー機能きのう、iPhoneを活用かつようしたデジタルキーを標準ひょうじゅんで採用さいようするなど、モデルライフ半なかばと思おもわれる大幅おおはばなマイナーチェンジが2020年ねん秋あきに行おこなわれた。そして、そんなベースモデルのアップデートを受うけて、やはりさまざまなリファインの手てが加くわえられることになったのが、シリーズのフラッグシップたる「M5」の最新さいしんモデルである。

今回こんかいテストドライブを行おこなったM5は、ベーシックな仕様しように対たいして「よりアグレッシブなスポーツ走行そうこうを想定そうていした」というコンペティションと名なづけられたグレード。強化きょうか型がたの専用せんようエンジンマウントを介かいして搭載とうさいされるツインターボの4.4リッターV型がた8気筒きとうは、こちらも専用せんようチューニングが施ほどこされたことで、ベースモデルに対たいして25PSが上乗うわのせされた625PS（！）という最高さいこう出力しゅつりょくを同おなじ6000rpmで発生はっせいする高性能こうせいのうユニットだ。

ハイグロスブラック仕上しあげのキドニーグリルやテールパイプ、専用せんようデザインのシートベルトを採用さいようするなど見みた目めの差異さい化かが図はかられると同時どうじに、カーボンセラミックブレーキやカーボンエンジンカバー、フロントマッサージシートなど、いかにもエクスクルーシブな内容ないようのアイテムがオプション設定せっていされているのも、このグレードのみのトピック。

要ようは、「最上級さいじょうきゅうの上うえを行いくモデル」と紹介しょうかいできるのが、コンペティションの名なが加くわえられたM5である。

2020年ねん9月がつ29日にちに導入どうにゅうが発表はっぴょうされた「BMW M5」および「M5コンペティション」のマイナーチェンジモデル。今回こんかいの試乗しじょう車しゃはシリーズの頂点ちょうてんに位置いちする最高さいこう出力しゅつりょく625PSの後者こうしゃで、車両しゃりょう本体ほんたい価格かかくは1877万まん円えん。

拡大かくだい

フロントフェンダー左右さゆうに設もうけられたエアアウトレットに「M5 competition」のエンブレムが装着そうちゃくされている。

拡大かくだい

ヘッドレスト部分ぶぶんに「M5」のエンブレムがあしらわれる「Mマルチファンクションシート」を標準ひょうじゅん装備そうび。

拡大かくだい

「5シリーズ」と同おなじL字じをモチーフとする伝統でんとう的てきなリアコンビネーションランプを採用さいよう。トランクリッド後ご端はしに装着そうちゃくされた「Mリアスポイラー」によって「M5」であることを主張しゅちょうしている。

拡大かくだい

約やく70km/hを超こえるハイビーム走行そうこう時じに、LEDライトの2倍ばいに相当そうとうする最大さいだい600m先さきまで照てらす「BMWレーザーライト」を標準ひょうじゅん装備そうび。ハイグロスブラック仕上しあげのキドニーグリルも専用せんようのアイテムだ。

拡大かくだい

初代しょだいからは隔世かくせいの感かん

ほぼ5mという全長ぜんちょうに1.9mを超こえる全幅ぜんぷく──最新さいしんのM5はパーソナルカーとしてはもはや上限じょうげんに近ちかいとも思おもえる、そんなサイズのスーパーセダンでもある。2代目だいめ5シリーズをベースに生うみ出だされた初代しょだいM5の心臓しんぞうが3.5リッターの自然しぜん吸気きゅうき直列ちょくれつ6気筒きとうで、その最高さいこう出力しゅつりょくも300PSに届とどかないという、最新さいしんモデルの“半分はんぶん以下いか”にすぎなかったことを思おもえば、35年ねん後ごの現在げんざいに生いきるM5コンペティションとの関係かんけいは、「名称めいしょうは受うけ継つぎつつも、もはや血縁けつえん関係かんけいはとても薄うすい」と紹介しょうかいすべきものかもしれない。そもそも、当時とうじの5シリーズが“5ナンバーサイズ”だったと知しれば、「隔世かくせいの感かんとはこのことか」と納得なっとくするしかないだろう。

さらにM5として6代目だいめとなる現行げんこう型がたでは、歴代れきだいモデルで初はつとなる4WDシャシーが採用さいようされていることもトピック。たとえ同様どうように600PS級きゅうを誇ほこるエンジンであっても、それが自然しぜん吸気きゅうきによるものか過か給きゅう機きが与あたえられたものかで、大おおきく異ことなるのがトルクの値ね。実際じっさい、先代せんだいを一気いっきに70N・mも上回うわまわる最新さいしんモデルの750N・mという最大さいだいトルク値ちは、常識じょうしき的てきに考かんがえてもはや「リアの2輪りんのみでコントロール可能かのうな範囲はんいを大おおきく逸脱いつだつしている」と判断はんだんせざるを得えないスペックだ。

先代せんだいの7段だんDCTから、8段だんステップATへとトランスミッションが代替だいたいされたのに合あわせ、M5は現行げんこう型がたへの世代せだい交代こうたい時じに駆動くどう系けいをフルモデルチェンジしている。M5の歴史れきしはここに至いたって、ひとつの大おおきな転換期てんかんきを迎むかえたといってもいいだろう。

そんな現行げんこう型がたの最新さいしんバージョンへと乗のり込こんでスターターボタンをプッシュすると、前述ぜんじゅつのごとく標準ひょうじゅん仕様しように対たいして25PSのエキストラパワーが与あたえられた心臓しんぞうは瞬時しゅんじに目めを覚さます。ただし、その際さいに標準ひょうじゅんで装備そうびされる「Mスポーツエキゾーストシステム」から周囲しゅういに放はなたれるのは、早朝そうちょう・深夜しんやの住宅じゅうたく街がいでは間違まちがいなくはばかられる大だい音量おんりょう！ ライバルとなるAMGの場合ばあいとは異ことなり、うっかり「一番いちばん高たかいやつ持もってこい！」のノリで手てを出だすと、「こんなはずではなかったのに……」ということになりかねないのは、今いまも昔むかしも変かわることのない“ピュアなMモデル”ならではの要注意ようちゅういポイントなのだ。

「M5コンペティション」のボディーサイズは全長ぜんちょう×全幅ぜんぷく×全高ぜんこう＝4990×1905×1475mm、ホイールベースは2980mm。車くるま重じゅうは1940kgと発表はっぴょうされている。

拡大かくだい

4.4リッターV8ツインターボエンジンは最高さいこう出力しゅつりょく625PS/6000rpm、最大さいだいトルク750N・m/1800-5860rpmを発生はっせい。

拡大かくだい

インテリアデザインは基本きほん的てきに「5シリーズ」と同様どうよう。試乗しじょう車しゃは「アラゴンブラウン／ブラック」のコンビネーションからなる、オプションのフルレザーメリノインテリアが選択せんたくされていた。

拡大かくだい

トランスミッションは8段だんAT。シフトノブの上部じょうぶに、3つのシフトプログラムから好このみのモードを選択せんたくできるスイッチを配置はいちしている。

拡大かくだい

選択せんたくした走行そうこうモードに合あわせて、音量おんりょうや音質おんしつを変化へんかさせる「Mスポーツエキゾーストシステム」を標準ひょうじゅん装備そうび。

拡大かくだい

速はやさはスーパーカー級きゅう

かくして“重厚じゅうこう長大ちょうだい”化かの歴史れきしをたどってきたM5最新さいしんモデルの重量じゅうりょうは、前述ぜんじゅつのように新あらたに4WDシャシーを採とり入いれたこともあって、今いまやとうとう1.9t超ちょう。しかし、そこはそもそも4.4リッターという排気はいき量りょうの持もち主ぬしである。ターボブーストの高たかまりに頼たよるまでもなく、その動力どうりょく性能せいのうはあらゆるシーンでヘビー級きゅうの車くるま重じゅうを一切いっさい意識いしきさせないゆとりにあふれている。

さらに、ある程度ていど以上いじょうにアクセルの踏ふみ込こみ量りょうを増まし、有効ゆうこうなターボブーストが得えられる領域りょういきへと入はいってくると、このモデルの動力どうりょく性能せいのうはまた新あらたな局面きょくめんをうかがわせる。もはや「パワーは無尽蔵むじんぞうに湧わき上あがる」という印象いんしょうへと至いたり、瞬時しゅんじに前方ぜんぽうへとワープをするかのごとく、何なにかに吸すい込こまれるかのような加速かそく感かんが延々えんえんと得えられることになるからだ。

なにせ、0-100km/h加速かそくは3.3秒びょうというデータ。その速はやさは完全かんぜんなるスーパーカー級きゅうだ。常識じょうしき的てきな感覚かんかくの持もち主ぬしであれば、もはや恐怖きょうふ心しんが先さきに立たって「アクセル全開ぜんかい状態じょうたいは1秒びょうと維持いじできない」に違ちがいないのが、このモデルの“速はやすぎる加速かそく力りょく”なのである。

かくして、絶対ぜったい的てきな加速かそく能力のうりょくという点てんでは注文ちゅうもんなどあろうはずもない一方いっぽうで、そんな“常識じょうしき外はずれ”のパワーユニット性能せいのうゆえに、「V8サウンドや緻密ちみつな回転かいてんのフィーリングなどを、悠長ゆうちょうに味あじわっている暇ひまもない」という印象いんしょうを抱だいてしまうのもまた事実じじつ。今いまとなって振ふり返かえってみれば、M5というモデルの動力どうりょく性能せいのうに最もっとも刺激しげきと感銘かんめいを覚おぼえたのは、初はじめて400PSという大台おおだいに乗のったV8エンジンを搭載とうさいしたE39型がたや、そこから世代せだい交代こうたいしてF1マシンを連想れんそうさせるV10エンジンを搭載とうさいしたE60型がたという、いずれも自然しぜん吸気きゅうきエンジン時代じだいのM5であったことを思おもい起おこす。

過か給きゅう機きが付ついて絶対ぜったい的てきな速はやさが増ました一方いっぽうで、「フィーリング面めんでのエモーショナルさが薄うすれてしまった」というのは、ブランドを問とわず実じつは今いまの時代じだいにはありがちなハナシ。そして残念ざんねんなことにM5の場合ばあいも、まさにその典型てんけいという印象いんしょうなのだ。

「M５」の外装がいそう色しょくは、今回こんかいの試乗しじょう車しゃがまとっていたオプションの「スナッパーロックブルー」を含ふくめ、全ぜん19種類しゅるいから選択せんたくできる。

拡大かくだい

試乗しじょう車しゃは「M５コンペティション」に標準ひょうじゅん装備そうびされる「Mマルチファンクションシート」に、オプションのマッサージ機構きこうを組くみ込こんでいた。

拡大かくだい

前後ぜんごドアにソフトクローズシステムを標準ひょうじゅん装備そうび。リアシートの背せもたれには、40：20：40の分割ぶんかつ可か倒たおせ機構きこうが備そなわる。

拡大かくだい

「M５／M5コンペティション」は、カーボンファイバー強化きょうか樹脂じゅし製せいルーフを標準ひょうじゅん装備そうび。オプションの電動でんどうガラスサンルーフを選択せんたくした場合ばあいは、スチール製せいルーフになる。

拡大かくだい

荷に室しつ容量ようりょうは、5人にん乗車じょうしゃの通常つうじょう使用しよう時じで530リッター。リアバンパー下かに足あしをかざす動作どうさでトランクリッドの開閉かいへいが行おこなえる「オートマチックトランクリッドオペレーション」を標準ひょうじゅん装備そうびしている。

拡大かくだい

快適かいてき性せいに課題かだいあり

もはや「行いきつくところまで行いってしまった」という思おもいを拭ふい切きれない、すさまじいまでのパフォーマンス。それが最新さいしんM5の大おおきな魅力みりょくのひとつになっていることは間違まちがいない。

しかし、そんな浮世うきよ離ばなれした過激かげきな加速かそく性能せいのうが、もはやドイツ・アウトバーンですら持もて余あますと思おもえる水準すいじゅんに達たっしてしまっていることもまた事実じじつ。だからこそ、こうした怒涛どとう（どとう）のパフォーマンスの多おおくを“リザーブパワー”へと回まわして、今回こんかい実施じっしされたような最先端さいせんたんのADASやコネクティビティー機能きのうを極きわめるというリファインによって、あらためて新しん時代じだいのパワーエリート像ぞうを模索もさくするという道みちを歩あゆむことは、パワーユニット性能せいのうの“天井てんじょう”へと到達とうたつしたこの種たねのモデルが生いき残のこっていくための、ひとつの理りにかなった方向ほうこう性せいだろう。

一方いっぽうで、そうした観点かんてんからするとこのモデルに対たいして少々しょうしょう物足ものたりなくも思おもえたのは、路面ろめん上じょうのわだちなど外乱がいらんを拾ひろった際さいのタフネスぶりが期待きたいほど高たかくはなく、直進ちょくしん性せいに圧倒的あっとうてきという印象いんしょうを得えられなかったことである。さらに、せっかくのセダンでありながら後こう席せきでの快適かいてき性せいが前ぜん席せきに対たいして明確めいかくに見劣みおとりし、特とくに排気はいきのこもり音おんや荒あれた路面ろめんでのロードノイズの高たかまりが、長時間ちょうじかんは耐たえ難がたいレベルに達たっしていたことも付つけ加くわえなければならないだろう。

率直そっちょくなところ、こうしたハイパフォーマンスなパワーユニットを4WDシャシーと組くみ合あわせるという点てんにおいては、BMWではまだつくり慣なれていないという部分ぶぶんもあるのかもしれない。

実じつは最新さいしんのM5にはさらにパワーを上乗うわのせした心臓しんぞうを、カーボンフロントフードの採用さいようなどでより軽量けいりょう化かしたボディーに組くみ合あわせた「CS」の名なを冠かんしたハードコアモデルも設定せっていされている。しかし、これまで歴代れきだいM5がエモーショナルな走はしりでドライバーを魅了みりょうしてきたのに対たいして、“速はやさ一辺倒いっぺんとう”になってしまったように感かんじられ、ちょっと惜おしいと思おもうのは自分じぶんだけであろうか。

（文ぶん＝河村かわむら康彦やすひこ／写真しゃしん＝花村はなむら英典ひでのり／編集へんしゅう＝櫻井さくらい健一けんいち）

今回こんかいの試乗しじょう車しゃは、オプションの20インチ「MライトアロイホイールYスポークスタイリング789Mバイカラー」に前まえ275/35ZR20、後うしろ285/35ZR20サイズの「ピレリPゼロ」タイヤが組くみ合あわされていた。

拡大かくだい

試乗しじょう車しゃのダッシュボードやドアの内張うちばりには、オプションの「ダークカーボンアルミトリム」が装着そうちゃくされていた。

拡大かくだい

ステアリングホイールのスポーク上部じょうぶに「Mモード」選択せんたくボタンが2つ並ならぶ。任意にんいに組くみ合あわせた設定せっていをあらかじめそれぞれに登録とうろくしておき、ワンタッチで呼よび出だせる。

拡大かくだい

試乗しじょう車しゃには「リアエンターテインメントシステム」に加くわえ、「Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム」がオプション装備そうびされていた。

拡大かくだい

今回こんかいの試乗しじょうでは高速こうそく道路どうろと山岳さんがく路ろをメインに約やく500kmを走行そうこう。燃費ねんぴは満まんタン法ほうで8.1km/リッターを記録きろくした。

拡大かくだい

テスト車しゃのデータ

BMW M5コンペティション

ボディーサイズ：全長ぜんちょう×全幅ぜんぷく×全高ぜんこう＝4990×1905×1475mm
ホイールベース：2980mm
車くるま重じゅう：1940kg
駆動くどう方式ほうしき：4WD
エンジン：4.4リッターV8 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション：8段だんAT
最高さいこう出力しゅつりょく：625PS（460kW）/6000rpm
最大さいだいトルク：750N・m（76.5kgf・m）/1800-5860rpm
タイヤ：（前まえ）275/35ZR20 102Y／（後ご）285/35ZR20 104Y（ピレリPゼロ）
燃費ねんぴ：--km/リッター
価格かかく：1877万まん円えん／テスト車しゃ＝2142万まん5500円えん
オプション装備そうび：メタリックペイント＜スナッパ―ロックブルー＞（10万まん円えん）／フルレザーメリノインテリア＜アラゴンブラウン／ブラック＞（76万まん7000円えん）／Mカーボンエンジンカバー（16万まん4000円えん）／Mカーボンセラミックブレーキシステム（12万まん円えん）／フロントマッサージシート（15万まん1000円えん）／ダークカーボンアルミインテリアトリム（7万まん9000円えん）／リアエンターテインメントシステム（37万まん1000円えん）／Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステム（56万まん8000円えん）／Mドライバーズパッケージ（33万まん5000円えん）

テスト車しゃの年とし式しき：2020年ねん型がた
テスト開始かいし時じの走行そうこう距離きょり：3485km
テスト形態けいたい：ロードインプレッション
走行そうこう状態じょうたい：市街地しがいち（1）／高速こうそく道路どうろ（6）／山岳さんがく路ろ（3）
テスト距離きょり：489.9m
使用しよう燃料ねんりょう：60.2リッター（ハイオクガソリン）
参考さんこう燃費ねんぴ：8.1km/リッター（満まんタン法ほう）／8.3km/リッター（車載しゃさい燃費ねんぴ計けい計測けいそく値ち）

BMW M5コンペティション

拡大かくだい

拡大かくだい