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ビジネス環境の急変に素早く対応するため、「アジャイル組織」が注目を集めている。スピーディーな意思決定を実現し、ユーザーニーズに応じたサービスなどを提供する。アジャイル(迅速な)開発と同じく、短期間で実行とレビューを繰り返しながら新たな価値を生み出す組織が求められている。
ただし組織変革には抜本的な対応が求められるため、一筋縄ではいかない。アジャイル組織を目指しても、何から着手すればいいのかを迷ってしまうこともあるだろう。アジャイル組織の構築に二の足を踏んでしまう企業は多いといえる。
しかし大規模アジャイルフレームワークの普及でアジャイル組織への道が開かれようとしている。フレームワーク「SAFe(Scaled Agile Framework、セーフ)」を提供するScaled Agile-Japanの中谷浩晃ストラテジックアドバイザーは「フレームワークに沿った変革・運用が肝要だ」と説明する。フレームワークを適用すれば変革プランが明確となり、組織にアジャイルを導入しやすくなるからだ。
では、アジャイル組織に変革した先行企業の成功の秘訣は何か。グルメ情報サービスを提供するRettyの事例からその勘所を探る。
意思決定に基づいたリソース投入を目指す
「従業員は増えたが、しかるべき場所にリソースを投入できていなかった」――。このように振り返るのは、Rettyの常松祐一執行役員VPoEプロダクト部門長だ。Rettyは、アジャイル開発手法の1つであるScrum(スクラム)を採用してサービス開発を進めていた。しかし検索機能を作成する「検索チーム」やSEO対策を実施する「SEOチーム」、飲食店を予約する機能を開発する「予約チーム」など、各部門が縦割りの組織構造となっており、部門間で連携しづらい状況になっていたという。
このため優先して開発したいサービスがあっても各チームによって優先度が異なるため、「顧客に価値を提供するスピードが追い付いていないことがあった」(常松執行役員)。チーム横断でサービスを開発する場合、チームごとに足並みがそろわず、開発に遅延が発生することがあったという。
アジャイル導入前の課題
(出所:Rettyへの取材を基に日経クロステック作成)
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そこで常松執行役員らが考えたのが大規模アジャイルフレームワーク「Large Scale Scrum(LeSS)」の採用だった。LeSSは複数のスクラムチームを束ねて大規模な開発を進めるためのフレームワークである。採用の理由は、常松執行役員が前職で採用した経験があったことや、当時のプロダクトの責任者が興味を持ったことなどが挙げられるという。
LeSS導入によるメリットは、経営陣の意思決定から素早くプロダクトバックログを作成できることだ。プロダクトバックログは要件や要求に基づいて、優先順位を付けたタスクリストである。
開発方針を定める際は、四半期ごとに全体のプロダクトバックログを作り、毎月のタスクに落とし込む。週1回開催される経営会議で役員とスクラムチームに所属していない営業部門長などが集まり、大まかな方針を決定する。方針はプロダクトオーナーに引き継がれて、デザインと企画の担当者に共有してバックログに積む施策を検討する。その後、プロダクトオーナーはバックログの優先順位を決定し、開発部門などに割り当てる。
アジャイルな組織運営の流れ
(出所:Rettyへの取材を基に日経クロステック作成)
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