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ユーザー企業において日本IBM出身のCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)が増えている。同社はかねて人材輩出企業といわれてきたが、ここにきて「CIO輩出企業」として再び注目を集める。日本IBM出身のCIO/CDOは、それまで培った経験や強みをどう生かしてDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいるのか。インタビューや鼎談(ていだん)を通して、その「強みの源泉」をひもとく。
左からアシックスの富永満之社長COO(最高執行責任者)、三井化学の三瓶雅夫常務執行役員CDO・デジタルトランスフォーメーション推進本部長、双日の荒川朋美専務執行役員CDO兼CIO兼デジタル推進担当本部長、JTBの黒田恭司常務執行役員兼CIO兼CISO、志済聡子氏(中外製薬の上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長を2024年3月末に退任)(写真:菅野 勝男(富永氏)、陶山 勉(黒田氏)、北山 宏一(荒川氏、志済氏、三瓶氏))
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「人を動かす力のある人材を意識的に育ててきた結果だ」。IT業界の動向に詳しい調査・コンサルティング会社アイ・ティ・アール(ITR)の内山悟志会長兼エグゼクティブ・アナリストは、日本IBMがCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)を数多く輩出している背景をこう分析する。
日本IBM出身のCIO/CDOを起用した主な企業一覧を見てほしい。CIO/CDOの多くが日本IBMへ入社したのは、国内に外資系のIT企業がまだ少なかった1980年代だ。その中で日本IBMは「突出して人材の研修に力を入れていた」とITRの内山会長は指摘する。「経営層や事業部門長レベルへの成長を見据え、リーダーシップや組織マネジメントといった研修を徹底して実施してきた」(同)。
表 日本IBM出身の主なCIO/CDO経験者
転身先の業種は多岐にわたる
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経営課題の解決法を仕組み化
2024年1月、アシックスの社長COO(最高執行責任者)に就任した富永満之氏は、日本IBM執行役員などを経て、2018年にアシックスへ入社。常務執行役員CDO・CIOなどを務めた。富永社長は「(1980年代は)IBMも大きく変わった時期だった」と振り返る。米IBMはメインフレームにおいて強固な地位を築いており日本でも同様だったが、1980年代以降、1人1台コンピューターを持つ時代へと変化していった。
すると「ITに関する意思決定に経営層が関与するようになってきた」(富永社長)。日本IBMには、経営層の考え方を理解し、ITをどのように使えば経営がよくなるかという提案をする必要が生じた。
「ITに関する意思決定に経営層が関与するようになってきた」(富永社長)(写真:菅野 勝男)
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IBMでは顧客の経営課題を分析し、解決策を探りキーパーソンへ説明し納得してもらう一連の営業ノウハウが社内でプロセス化されている。それが「思考回路に染みついている」と中外製薬で上席執行役員デジタルトランスフォーメーションユニット長を務めた志済聡子氏は語る(2024年3月末に退任)。
日本IBM出身CIO/CDOがユーザー企業のDXで力を発揮する傾向があるのは、リーダーシップ研修とともに、「顧客の経営課題解決に向けた手法が営業プロセスの中で仕組み化され、そのやり方を踏んでいなければ『まぐれ』だと言われるほど定着しているためだろう」とITRの内山会長は見る。