星ほし槎

西曆せいれき一いち九きゅう五ご二に年ねん，美國びくに新澤にいざわ西にし州しゅう，星ほし槎凌天てん

星ほし槎，通つう曰幽かそけ浮，不知ふち所しょ自じ，不明ふめい形質けいしつ，淩虛空こくう而駕星ほし漢かん者しゃ也。天外てんがい物もの凡不得とく明察めいさつ辨べん認みとめ者しゃ，俱以星ぼし槎名之の。

誌し

明あきら萬まん曆れき三さん十じゅう七なな年ねん八はち月がつ廿にじゅう五ご未ひつじ時じ，朝鮮ちょうせん襄じょう陽ひ府ふ品ひん官かん全文ぜんぶん緯ぬき宅たく庭にわ下か忽ゆるがせ有ゆう圓盤えんばん，其光炯如。初はつ若わか着地ちゃくち，遂とげ見み屈こごめ上じょう一いち丈たけ許もと，有ゆう氣き浮空，大だい如一圍かこえ，長ちょう如半疋布，其東則そく白色はくしょく，中央ちゅうおう則そく靑あお熒，其西則そく赤色あかいろ，望もち之の如虹，宛あて轉てん纏繞てんじょう，狀じょう如捲旗き。及上半はん空そら，渾爲赤色あかいろ，上端じょうたん尖とんが而下本ほん截斷せつだん，直ちょく上天じょうてん中略ちゅうりゃく北きた，化か爲ため白雲しらくも，視し之の鮮明せんめい。而猶似に粘着ねんちゃく天面あまつら，飛ひ動どう觸さわ挿，若わか有生ゆうせい氣き者しゃ。忽ゆるがせ又また中斷ちゅうだん爲ため二に。其一向いっこう東南とうなん丈たけ許もと，烟けむり消けし。其一浮原處しょ，形かたち如布席せき。少すくな頃ころ，雷かみなり動どう數すう聲ごえ，終おわり如擂鼓こ聲ごえ，自じ其中出で，良久よしひさ乃止。時とき天てん色しょく清明せいめい，四よん際さい無む翳かげ。

清きよし光ひかり緒いとぐち十じゅう年ねん九きゅう月がつ二に十じゅう八はち日にち戌いぬ正ただし，金きむ陵りょう有ゆう赤あか焰自天てん而來。眾攢聚城南じょうなん朱雀すじゃく橋きょう觀かん之の。善ぜん畫が者しゃ吳ご有ゆう如既見み，作さく《赤あか燄騰空そら圖ず》。題だい記き曰：「金かね陵りょう城南しろみなみ，偶忽見み火ひ毬かさ一いち團だん，自じ西向にしむき東ひがし，形かたち如巨卵たまご，色しょく紅べに而無光こう，飄蕩半はん空そら，其行甚緩。維時浮雲うきぐも蔽空，天てん色しょく昏暗。舉頭仰視ぎょうし，甚覺分明ふんみょう，立たて朱雀すざく橋きょう上じょう，翹首踮足者しゃ不ふ下した數すう百ひゃく人にん。約やく一炊許漸遠漸減。有ゆう謂いい流星りゅうせい過か境さかい者しゃ，然しか星ほし之の馳はせ也，瞬まどか息いき即そく杳。此球自じ近きん而遠，自じ有ゆう而無，甚屬濡滯，則のり非ひ星ほし馳はせ可知かち。有ゆう謂いい兒童じどう放ひ天てん燈とう者しゃ，是ぜ夜よる風ふう暴向北きた吹，此球轉向てんこう東ひがし去さ，則のり非ひ天てん燈とう又また可知かち。眾口紛紛ふんぷん，窮きゅう於推測すいそく。有ゆう一いち叟云，是ぜ物ぶつ初はつ起おこり時じ微ほろ覺さとし有ゆう聲ごえ，非ひ靜聽せいちょう不覺ふかく也，係かかり由よし南みなみ門外もんがい騰あが越えつ而來者しゃ。嘻，異い矣！」