北きた史し/卷まき099

卷まき九きゅう十じゅう八はち ◄

北きた史し 卷まき九十九つくも　列傳れつでん第だい八はち十じゅう七なな　突厥　鐵てつ勒

► 卷まき一いち百ひゃく

突厥　鐵てつ勒

突厥

突厥者しゃ，其先居きょ西海さいかい之の右みぎ，獨どく為ため部落ぶらく，蓋ぶた匈奴きょうど之の別種べっしゅ也。姓せい阿おもね史し那な氏し。後こう為ため鄰國所しょ破やぶ，盡つき滅めつ其族。有ゆう一いち兒じ，年ねん且十じゅう歲さい，兵へい人見ひとみ其小，不ふ忍にん殺ころせ之これ，乃刖足あし斷だん其臂，棄草澤中さわなか。有ゆう牝めす狼おおかみ以肉餌えさ之の，及長，與あずか狼おおかみ交合こうごう，遂とげ有ゆう孕焉。彼かれ王おう聞此兒じ尚なお在ざい，重じゅう遣や殺ころせ之これ。使者ししゃ見み在ざい狼おおかみ側がわ，並なみ欲よく殺ころせ狼おおかみ。于時若わか有ゆう神しん物ぶつ，投とう狼おおかみ於西海うみ之の東ひがし，落高昌あきら國こく西北にしきた山さん。山やま有洞うとう穴あな，穴あな內有平壤ぴょんやん茂草もぐさ，周しゅう迥數百ひゃく里り，四面しめん俱山。狼おおかみ匿其中ちゅう，遂とげ生せい十じゅう男なん。十じゅう男なん長ちょう，外そと托たく妻つま孕，其後各かく為ため一いち姓せい，阿おもね史し那な即そく其一也かずや，最さい賢けん，遂とげ為ため君くん長ちょう。故こ牙きば門もん建けん狼おおかみ頭あたま纛，示しめせ不ふ忘本也。漸やや至いたり數すう百ひゃく家いえ，經けい數すう世せい，有ゆう阿おもね賢けん設しつらえ者しゃ，率りつ部落ぶらく出で於穴中ちゅう，臣しん於蠕蠕。至いたり大葉おおば護まもる，種類しゅるい漸やや強つよ。當とう魏ぎ之これ末まつ，有ゆう伊い利り可か汗あせ，以兵擊げき鐵てつ勒，大敗たいはい之の，降くだ五ご萬まん餘あまり家か。遂とげ求婚きゅうこん於蠕蠕主。阿おもね那な瑰大怒いか，遣や使つかい罵ののし之これ。伊い利り斬き其使，率りつ眾襲蠕蠕，破やぶ之これ。卒そつ，弟おとうと阿おもね逸いっ可か汗あせ立りつ，又また破やぶ蠕蠕。病やまい且卒，舍しゃ其子攝と圖ず，立たて其弟俟叔稱しょう為ため木き杆可汗あせ。

或ある云うん突厥本ほん平ひらた涼すずし雜ざつ胡えびす，姓せい阿おもね史し那な氏し。魏ぎ太ふとし武たけ皇帝こうてい滅めつ沮渠氏し，阿おもね史し那な以五百ひゃく家いえ奔蠕蠕。世よ居きょ金山かなやま之の陽ひ，為ため蠕蠕鐵工てっこう。金山かなやま形がた似に兜かぶと鍪，俗ぞく號ごう兜かぶと鍪為突厥，因いん以為號ごう。

又また曰突厥之先さき，出で於索國こく，在ざい匈奴きょうど之の北きた。其部落ぶらく大人おとな曰阿謗そし步ふ，兄弟きょうだい七なな十じゅう人にん，其一曰伊質泥師都，狼おおかみ所生しょせい也。阿おもね謗そし卻等性せい並なみ愚癡ぐち，國くに遂とげ被ひ滅めつ。泥どろ師もろ都と既すんで別べつ感かん異い氣き，能のう征せい占うらない風雨ふうう。取と二に妻つま，雲くも是ぜ夏なつ神しん、冬ふゆ神しん之の女おんな。一いち孕而生せい四よん男なん：其一變いっぺん為ため白しろ鴻おおとり；其一國こく于阿輔水、劍けん水すい之の間あいだ，號ごう為ため契ちぎり骨こつ；其一國于處折水；其一居跋斯處折施山，即そく其大兒じ也。山上さんじょう仍有阿おもね謗そし步ふ種類しゅるい，並なみ多た寒露かんろ，大だい兒こ為ため出火しゅっか溫ぬる養やしなえ之これ，咸得全ぜん濟すみ。遂とげ共ども奉たてまつ大だい兒こ為ため主ぬし，號ごう為ため突厥，即納そくのう都と六ろく設しつらえ也。都と六ろく有ゆう十じゅう妻つま，所ところ生子いくこ皆みな以母族ぞく姓せい，阿おもね史し那な是ぜ其小妻つま之子ゆきこ也。都と六ろく死し，十母子內欲擇立一人，乃相率りつ於大おだい樹下じゅか，共きょう為ため約やく曰：「向むかい樹いつき跳躍ちょうやく，能のう最高さいこう者しゃ，即そく推立之の。」阿おもね史し那な子こ年ねん幼よう而跳最高さいこう，諸子しょし遂とげ奉たてまつ以為主ぬし，號ごう阿おもね賢けん設しつらえ。此說雖殊，終おわり狼おおかみ種しゅ也。

其後曰土門もん，部落ぶらく稍やや盛もり，始はじめ至いたり塞ふさが上市うわいち繒絮，願ねがい通どおり中國ちゅうごく。西にし魏たかし大だい統すべ十じゅう一いち年ねん，周しゅう文ぶん帝みかど遣や酒さけ泉いずみ胡えびす安やす諾だく槃陀使し焉。其國皆みな相しょう慶けい曰：「今こん大國たいこく使し至いたり，我國わがくに將はた興きょう也。」十じゅう二に年ねん，土門どもん遂とげ遣や使つかい獻けんじ方かた物ぶつ。時とき鐵てつ勒將伐き蠕蠕，土門どもん率りつ所部ところぶ邀擊ようげき破やぶ之これ，盡つき降ぶ其眾五ご萬まん餘あまり落。恃其強きょう盛もり，乃求婚きゅうこん於蠕蠕主。阿おもね那な瑰大怒いか，使つかい人じん詈辱之の曰：「爾しか是これ我わが鍛きたえ奴やつ，何なに敢發是ぜ言げん也！」土門どもん亦また怒いか，殺ころせ其使者しゃ，遂とげ與あずか之これ絕ぜっ，而求婚きゅうこん于魏。周しゅう文ぶん帝みかど許もと之の，十じゅう七なな年ねん六ろく月がつ，以魏長樂ながら公主こうしゅ妻つま之の。是これ歲さい，魏ぎ文ぶん帝みかど崩くずれ，土門どもん遣や使つかい來らい吊つるし，贈おく馬うま二に百ひゃく疋。廢帝はいてい元年がんねん正月しょうがつ，土門どもん發はつ兵へい擊げき蠕蠕，大破たいは之の於懷荒北あらきた。阿おもね那な瑰自殺じさつ，其子庵あん羅ら辰たつ奔齊，餘あまり眾復立りつ阿おもね那な瑰叔父おじ鄧叔子こ為ため主ぬし。土門どもん遂とげ自じ號ごう伊い利り可か汗あせ，猶なお古いにしえ之の單たん于也；號ごう其妻為ため可か賀が敦あつし，亦また猶なお古いにしえ之の閼氏也。亦また與あずか齊ひとし通どおり使し往來おうらい。

土門どもん死し，子こ科か羅ら立りつ。科か羅ら號ごう乙おつ息いき記き可か汗あせ，又また破やぶ叔子よしこ于沃野北のぎた賴よりゆき山さん。且死，舍しゃ其子攝と圖ず，立たて其弟俟斤，是ぜ為ため木き杆可汗あせ。

俟斤一いち名めい燕つばめ都と，狀じょう貌奇異きい，面めん廣こう尺しゃく餘あまり，其色赤あか甚，眼め若わか琉璃，剛つよし暴，勇いさむ而多知ち，務つとむ於征伐せいばつ。乃率兵へい擊げき鄧叔子こ，破やぶ之これ。叔子よしこ以其餘燼よじん奔西魏ぎ。俟斤又また西にし破やぶ嚈噠，東ひがし走はし契ちぎり丹に，北きた並なみ契ちぎり骨こつ，威服いふく塞外さいがい諸國しょこく。其地，東ひがし自じ遼りょう海うみ以西いせい，至いたり西海さいかい，萬里ばんり；南みなみ自じ沙漠さばく以北いほく，至いたり北海ほっかい，五ご六ろく千里せんり：皆みな屬ぞく焉。抗こう衡中國こく，後ご與あずか魏ぎ伐き齊ひとし，至いたり并州。

其俗：被ひ髮かみ左衽さじん，穹廬氈帳，隨ずい逐水草くさ遷徙，以畜牧まき射しゃ獵りょう為事しごと，食肉しょくにく飲いん酪，身み衣ころも裘褐きゅうかつ。賤老貴き壯たけし，寡廉恥はじ，無禮ぶれい義よし，猶なお古いにしえ之の匈奴きょうど。其主初はつ立だて，近侍きんじ重臣じゅうしん等とう輿こし之の以氈，隨ずい日び轉てん九きゅう回かい，每回まいかい臣下しんか皆みな拜はい，拜はい訖乃扶令乘馬じょうば，以帛絞しぼ其頸，使つかい才ざい不ふ至いたり絕ぜっ，然しか後ご釋しゃく而急問とい之の曰：「你能作さく幾いく年ねん可か汗あせ？」其主既すんで神しん情じょう瞀亂，不能ふのう詳しょう定てい多少たしょう。臣下しんか等とう隨ずい其所言ごと，以驗修おさむ短たん之これ數すう。大だい官有かんゆう葉は護まもる，次じ設しつらえ，次じ特とく勤つとむ，次じ俟利發はつ，次じ吐屯發はつ，及餘小官しょうかん，凡二に十じゅう八はち等とう，皆みな世せい為之ためゆき。兵器へいき有ゆう角かく弓ゆみ、鳴鏑なりかぶら、甲きのえ、槊、刀かたな、劍けん、佩飾則そく兼有けんゆう伏ふく突。旗はた纛之上じょう，施ほどこせ金きん狼おおかみ頭あたま。待まち衛まもる之これ士し謂いい之の附つけ離はなれ，夏なつ言ごと亦また狼おおかみ也。蓋ぶた本ほん狼おおかみ生せい，志こころざし不ふ忘舊。善ぜん騎射きしゃ，性せい殘忍ざんにん。無む文字もじ，其徵發はつ兵馬へいば及諸稅しょぜい雜ざつ畜，刻こく木き為ため數すう，並なみ一いち金きん鏃箭，蠟封印ふういん之の，以為信しん契ちぎり。候こう月がつ將はた滿まん，轉てん為ため寇抄。其刑法ほう：反はん叛、殺人さつじん、及奸人じん之これ婦ふ、盜ぬすめ馬ば絆きずな者しゃ，皆みな死し；淫いん者しゃ，割わり勢ぜい而腰斬き之これ；奸人女おんな者しゃ，重責じゅうせき財物ざいぶつ，即そく以其女おんな妻つま之の；鬥傷人じん者しゃ，隨ずい輕重けいちょう輸物，傷きず目め者しゃ償つぐなえ以女，無む女おんな則そく輸婦財ざい，折おり支ささえ體からだ者しゃ輸馬；盜ぬすめ馬ば及雜物ぶつ者しゃ，各かく十じゅう餘よ倍ばい征之まさゆき。死者ししゃ，停とま屍かばね於帳，子孫しそん及親屬ぞく男女だんじょ各かく殺ころせ羊ひつじ、馬うま，陳ちん於帳前まえ祭さい之の，繞にょう帳ちょう走はし馬うま七なな匝，詣まい帳とばり門もん以刀剺面且哭，血淚けつるい俱流，如此者しゃ七なな度ど乃止。擇よ日ひ，取と亡者もうじゃ所しょ乘馬じょうば及經服用ふくよう之の物もの，並なみ屍かばね俱焚之の，收おさむ其餘灰はい，待まち時じ而葬。春はる夏なつ死者ししゃ，候こう草木くさき黃き落；秋冬あきふゆ死者ししゃ，候こう華はな茂しげる，然しか後こう坎而痤之。葬そう日び，親おや屬ぞく設しつらえ祭さい及走馬ば、剺面如初死し之の儀ぎ。表おもて為ため塋，立だて屋や，中ちゅう圖畫ずが死者ししゃ形がた儀ぎ，及其生せい時じ所しょ戰陣せんじん狀じょう，嘗殺一いち人にん，則のり立りつ一いち石せき，有ゆう致千百ひゃく者しゃ。又また以祭之の羊ひつじ、馬頭ばとう，盡つき懸がか之これ於標上じょう。是ぜ日び也，男女だんじょ咸盛服飾ふくしょく，會かい於葬所しょ，男おとこ有ゆう悅えつ愛あい於女者しゃ，歸き即そく遣や人ひと聘問，其父母ちちはは多た不ふ違たがえ也。父ちち、兄あに、伯はく、叔死，子し、弟おとうと及侄等とう妻つま其後母はは、世よ叔母おば、嫂あによめ，唯ただ尊者そんじゃ不ふ得とく下か淫いん。移徙わたまし無常むじょう，而各有ゆう地ち分ぶん。可か汁しる恆つね處しょ於都斤きん山さん，牙きば帳ちょう東開とうかい，蓋ぶた敬けい日び之の所出しょしゅつ也。每歲まいさい率りつ諸しょ貴人きじん，祭まつり其先窟くつ。又また以五ご月がつ中旬ちゅうじゅん，集しゅう他人たにん水すい拜はい祭さい天神てんじん。於都斤きん西にし五百里いおり有ゆう高山たかやま迥出，上うえ無草むそう樹じゅ、謂いい為ため勃登凝しこり梨なし，夏なつ言げん地神ちじん也。其書字じ類るい胡えびす，而不知ふち年ねん曆れき，唯ただ以草青あお為ため記き。男子だんし好こう樗ぶな蒲がま，女子じょし踏鞠，飲いん馬ば酪取醉よい，歌うた呼よび相對そうたい。敬けい鬼神きじん，信しん巫みこ覡，重じゅう兵へい死し，恥はじ病びょう終おわり，大だい抵與匈奴きょうど同どう俗ぞく。

俟斤部ぶ眾既盛もり，乃遣使し請誅鄧叔子こ等とう，周しゅう文ぶん帝みかど許もと之の，收おさむ叔子よしこ已やめ下か三さん千せん人にん，付づけ其使者しゃ，殺ころせ之の於青門外もんがい。三さん年ねん，俟斤襲擊しゅうげき吐谷渾破之の。周明しゅうめい帝みかど二に年ねん，俟斤遣や使つかい來らい獻けんじ。保ほ定元さだもと年ねん，又また遣や三さん輩やから，貢みつぎ其方物ぶつ。時とき與あずか齊ひとし人じん交爭，戎えびす車しゃ歲とし動どう，故こ連結れんけつ之の，以為外がい援。初はつ，恭きょう帝みかど時じ，俟斤許もと進しん女おんな于周文ぶん帝みかど，契ちぎり未定みてい而周文ぶん崩くずし。尋ひろ而俟斤きん又また以他女おんな許もと武たけ帝みかど，未み及結納ゆいのう，齊ひとし人じん亦また遣や求婚きゅうこん，俟斤貪むさぼ其幣厚あつ，將はた悔之。至いたり是ぜ，武たけ帝みかど詔みことのり遣や涼りょう州しゅう刺史しし楊薦、武たけ伯はく王おう慶けい等とう往結之の。慶けい等とう至いたり，諭さとし以信義しんぎ，俟斤遂とげ絕ぜっ齊ひとし使つかい而訂婚こん焉。仍請舉國東ひがし伐き，於是詔みことのり隨ずい公こう楊忠率りつ眾一萬與突厥伐齊。忠ちゅう軍ぐん度ど陘嶺，侯ほう斤きん率りつ騎き十じゅう萬まん來會らいかい。明年みょうねん正月しょうがつ，攻おさむ齊ひとし主しゅ于晉陽ひ，不ふ克かつ，俟斤遂とげ縱たて兵へい大だい掠かすめ而還。忠ちゅう還かえ，言げん于武帝みかど曰：「突厥甲かぶと兵へい惡あく，賞罰しょうばつ輕けい，首領しゅりょう多た而無法令ほうれい，何なに謂いい難なん制馭せいぎょ？由比ゆひ者しゃ使つかい人じん妄道其強盛もり，欲よく令れい國家こっか厚あつ其使者しゃ，身み往重取と其報。朝廷ちょうてい受其虛言きょげん，將士しょうし望もち風ふう畏かしこ懾。但ただし虜とりこ態たい詐いつわり健けん，而實易えき與あずか耳みみ。今こん以臣觀かん之の，前後ぜんご使し人じん皆みな可か斬き也。」武たけ帝みかど不納ふのう。是これ歲さい，俟斤復ふく遣や使つかい來らい獻けんじ，更さら請東伐き。詔みことのり楊忠率りつ兵へい出で沃野よくや，晉すすむ公おおやけ護まもる趣おもむき洛陽らくよう以應之の。會かい護まもる戰せん不利ふり，俟斤引還。五ご年ねん，詔みことのり陳ちん公純きんいと、大だい司つかさ徒と宇文うぶん貴たか、神武じんむ公こう竇毅、南みなみ安やす公おおやけ楊薦往逆女おんな。天和てんわ二に年ねん，俊しゅん斤きん又また遣や使つかい來らい獻けんじ。陳ちん公純きんいと等とう至いたり，俟斤復ふく貳に于齊。會かい有ゆう雷かみなり風ふう變へん，乃許純じゅん等とう以後いご歸き。四よん年ねん，又また遣や使つかい貢獻こうけん。

俟斤死し，復ふく舍しゃ其子大だい邏便而立じりつ其弟，是ぜ為ため他た缽可汗あせ。他た缽以攝圖ず為ため爾なんじ伏ふく可か汗あせ，統みつる其東面めん；又また以其弟おとうと褥しとね但ただし可か汗あせ為ため步ふ離はなれ可か汗あせ，居きょ西方せいほう。自じ俟斤以來いらい，其國富強ふきょう，有ゆう淩轢中ちゅう夏なつ之の志こころざし。朝廷ちょうてい既すんで與あずか之これ和親わしん，歲さい給きゅう繒絮、錦にしき彩いろどり十じゅう萬まん段だん。突厥在京ざいきょう師し者しゃ，又また待まち以優禮れい，衣ころも錦にしき食肉しょくにく，常つね以千數すう。齊ひとし人じん懼其寇掠，亦また傾かたぶけ府ふ藏ぞう以給之の。他た缽彌復ふく驕傲きょうごう，仍令其徒屬ぞく曰：「但ただし使つかい我わが在ざい南みなみ兩個りゃんこ兒じ孝こう順じゅん，何なに憂う無む物もの邪よこしま？」齊ひとし有ゆう沙門しゃもん惠めぐみ琳，掠かすめ入にゅう突厥中ちゅう，因いん謂いい他た缽曰：「齊ひとし國こく強きょう富とみ，皆みな為ため有ゆう佛法ぶっぽう。」遂とげ說せつ以因緣えん果報かほう之の理り。他た缽聞而信之の，建けん一いち伽藍がらん，遣や使つかい聘齊，求もとめ《淨きよし名めい》、《涅槃ねはん》、《華嚴けごん》等とう經けい，並なみ《十じゅう誦律》。他た缽亦躬自齋戒さいかい，繞にょう塔とう行道ぎょうどう，恨不生せい內地。建德けんとく二に年ねん，他た缽遣使し獻けんじ馬ば。及齊滅ほろび，齊定なりさだ州しゅう刺史しし、范陽王おう高だか紹義自じ馬うま邑奔之の。他た缽立紹義為ため齊ひとし帝みかど，召集しょうしゅう所しょ部ぶ，雲くも為之ためゆき復仇ふっきゅう。宣政のぶまさ元年がんねん四よん月がつ，他た缽遂入寇にゅうこう幽かそけ州しゅう。柱はしら國こく劉りゅう雄つよし拒こばめ戰せん，兵へい敗はい死し之の。武たけ帝みかど親おや總そう六ろく軍ぐん，將はた北きた伐き，會かい帝みかど崩くずれ，乃班師し。是ぜ冬ふゆ，他た缽復寇邊，圍かこえ酒しゅ泉いずみ，大だい掠かすめ而去。大だい象ぞう元年がんねん，他た缽復請和親おや，帝みかど策さく趙ちょう王おう招女為ため千金せんきん公主こうしゅ以嫁之の，並なみ遣や執と紹義送おく闕。他た缽不許もと，仍寇并州。二に年ねん，始はじめ遣や使つかい奉獻ほうけん，且迎公主こうしゅ為ため親おや，而紹義尚よしなお留とめ不ふ遣や。帝みかど又また令れい賀が若わか誼よしみ往諭之の，始はじめ送おく紹義。

他た缽病且卒，謂いい其子庵あん邏曰：「吾われ聞親莫過於父子ふし。吾われ兄けい不ふ親おや其子，委い位い於我，我わが死し，汝なんじ當とう避大邏便。」及卒，國くに中將ちゅうじょう立大りつだい邏便，以其母はは賤，眾不服ふく。庵あん邏實貴とうと，突厥素もと重之しげゆき。攝と圖ず最後さいご至いたり，謂いい國こく中ちゅう曰：「若わか立たて庵あん邏者，我わが當とう率りつ兄弟きょうだい以事之の；如立大だい邏便，我わが必守境さかい，利刃りじん長ちょう矛ほこ以相待まち。」攝と圖ず長ちょう而且雄ゆう，國人くにびと莫敢拒こばめ，竟立庵あん邏為嗣。大だい邏便不ふ得とく立りつ，心こころ不服ふふく庵あん邏，每まい遣や人ひと詈辱之の。庵あん邏不能ふのう制せい，因いん以國讓ゆずる攝と圖ず。國中くになか相しょう與あずか議ぎ曰：「四よん可か汗あせ子こ，攝と圖ず最さい賢けん。」因いん迎むかえ立りつ之の，號ごう伊い利り俱盧設しつらえ莫何始はじめ波なみ羅ら可か汗あせ，一いち號ごう沙すな缽略，居い都と斤きん山やま。庵あん邏降居い獨どく洛らく水すい，稱たたえ第だい三さん可か汗あせ。大だい邏便乃謂沙すな缽略曰：「我わが與あずか爾しか俱可汗あせ子こ，各かく承うけたまわ父ちち後ご，爾しか今いま極ごく尊みこと，我わが獨どく無位むい，何なに也？」沙すな缽略患之，以為阿波あわ可か汗あせ，還かえ領りょう所しょ部ぶ。

沙すな缽略勇いさむ而得眾，北きた夷えびす皆みな歸き附ふ之の。隋ずい文ぶん帝みかど受禪じゅぜん，待まち之の甚薄，北きた夷えびす大だい怨。會かい營州刺史しし高だか寶たから甯作亂みだれ，沙すな缽略與あずか之これ合ごう軍ぐん，攻おさむ陷おちい臨渝鎮。上うえ敕緣邊べ修おさむ保ほ鄣，峻たかし長城ちょうじょう，以備之の。沙すな缽略妻つま，周しゅう千金せんきん公主こうしゅ，傷きず宗むね祀まつ絕滅ぜつめつ，由ゆかり是ぜ悉眾來寇らいこう，控ひかえ弦つる士し四よん十じゅう萬まん。上うえ令れい柱はしら國こく馮昱屯たむろ乙おつ弗どる泊はく，蘭あららぎ州しゅう總そう管かん叱しか李り崇たかし屯たむろ幽かそけ州しゅう，達いたる奚長儒據周しゅう槃，皆みな為ため虜とりこ敗はい。於是縱たて兵へい自じ木き硤、石門せきもん兩道りょうどう來寇らいこう，武威ぶい、天水てんすい、安定あんてい、金城きんじょう、上郡かみごおり、弘ひろし化か、延のべ安やす六ろく畜咸盡つき。天子てんし震ふるえ怒いか，下しも詔みことのり曰：

往者おうしゃ周しゅう、齊ひとし抗こう衡，分割ぶんかつ諸しょ夏なつ，突厥之の虜とりこ，俱通二に國こく。周しゅう人じん東ひがし慮おもんばか，恐こわ齊ひとし好之よしゆき深ふか；齊ひとし氏し西にし虞おそれ，懼周交之厚あつ。各かく謂いい慮おもんばか意い輕重けいちょう，國くに遂とげ安危あんき。非ひ徒と並なみ有ゆう大敵たいてき之の憂ゆう，思おもえ減げん一いち邊へん之の防ぼう。竭生靈れい之の力ちから，供きょう其來往らいおう，傾かたぶけ府ふ庫こ之の財ざい，棄於沙漠さばく。華はな夏なつ之の地ち，實じつ為ため勞ろう擾。朕ちん受天明てんめい命いのち，子し育そだて萬まん方ぽう，湣臣下之したの勞ろう，除じょ既往きおう之の弊へい。回かい入にゅう賊ぞく之の物もの，加か賜たまもの將士しょうし；息いき在ざい路ろ之これ人にん，務つとむ於耕織お。凶きょう醜みにく愚暗ぐあん，未知みち深ふか旨むね，將はた大だい定之さだゆき日び，比ひ戰國せんごく之の時とき，乘じょう昔むかし世よ之の驕おご，結ゆい今時いまどき之の恨。近こん者しゃ，盡つき其巢窟くつ，俱犯北邊ほくへん，而遠鎮偏師し，逢而摧翦，未み及南上じょう，遽已奔北。

且彼渠みぞ師し，其數凡五，昆こん季き爭そう長ちょう，父ちち叔相猜，世せい行ぎょう暴虐ぼうぎゃく，家法かほう殘忍ざんにん。東夷あずまえびす諸國しょこく，盡つき挾はさみ私わたし讎；西戎せいじゅう群ぐん長ちょう，皆みな有ゆう宿怨しゅくえん。突厥之の北きた，契ちぎり骨こつ之の徒と，切きり齒磨はみがき牙きば，常つね伺其後ご。達いたる頭あたま前ぜん攻おさむ酒しゅ泉いずみ，于闐、波なみ斯、揖怛三さん國こく，一時いちじ即そく叛；沙すな缽略近きん趣おもむき周しゅう槃，其部內薄孤こ、東ひがし紇羅尋ひろ亦また翻こぼし動どう。往年おうねん利り稽察大だい為ため高麗こうらい、靺鞨所しょ破やぶ，沙すな毗設又また為ため紇支可か汗あせ所しょ殺ころせ。與あずか其為鄰，皆みな願ねがい誅剿，部落ぶらく之の下した，盡つき異い純じゅん人じん。千種ちくさ萬まん類るい，仇敵きゅうてき怨偶，泣血拊心，銜悲積せき恨。圓えん首くび方かた足あし，皆みな人類じんるい也，有ゆう一いち於此，更さら切きり朕ちん懷ふところ。彼かれ地ち咎とがめ征せい妖作，將はた年とし一いち紀き。乃獸為ため人語じんご，人にん作さく神かみ言ごと，雲くも其國亡ほろび，訖而不ふ見み。每まい冬ふゆ雷かみなり震ふるえ，觸さわ地ち火ひ生せい。種類しゅるい資し給きゅう，唯ただ藉水草そう，去歲きょさい四よん時じ，竟無雨う雪ゆき，川かわ枯蝗暴，卉木燒盡しょうじん，饑ひだる疫死亡しぼう，人畜じんちく相しょう半はん。舊居きゅうきょ之の地ち，赤土あかつち無な依よ，遷徙漠ばく南みなみ，偷存晷刻。斯蓋上天じょうてん所しょ忿，驅か就齊斧おの，幽明ゆうめい合あい契ちぎり，今こん也其時じ。

故こ選せん將はた練兵れんぺい，贏糧聚甲，義士ぎし奮發ふんぱつ，壯夫たけお肆憤，願ねがい取と名めい王おう之の首くび，思おもえ撻單于之背せ。此則王おう恢所說せつ，其猶射しゃ癰よう，何なに敵てき能のう當とう，何なに遠とお不ふ克かつ。但ただし皇すめらぎ王おう舊跡きゅうせき，北きた止とめ幽かそけ都と，荒あら遐之表ひょう，文ぶん軌所棄，得とく其地不可ふか而居，得とく其人不ふ忍にん皆みな殺ころせ。無む勞ろう兵革へいかく，遠とお規ぶんまわし溟海。普ひろし告つげ海かい內，知ち朕ちん意い焉。

於是河間こうま王おう弘ひろし、上うえ柱ばしら國こく豆まめ盧の績、竇榮定じょう、左ひだり僕ぼく射しゃ高だか熲、右みぎ僕ぼく射しゃ虞おそれ慶けい則そく並なみ為ため元帥げんすい，出で塞ふさが擊げき之の。沙すな缽略率りつ阿波あわ、貪むさぼ汗あせ二可汗來拒戰，皆みな敗走はいそう。時とき虜とりこ饑ひだる不能ふのう得とく食しょく，粉こな骨こつ為ため糧かて，又また多た災わざわい疫，死者ししゃ極ごく眾。

既すんで而沙缽略以阿波は驍悍，忌き之の，因いん其先歸き，襲擊しゅうげき其部，大破たいは之の，殺ころせ阿波あわ母はは。阿波あわ還かえ無む所ところ歸き，西にし奔達頭あたま可か汗あせ。達いたる頭あたま者しゃ，名めい玷厥，沙すな缽略之の從したがえ父ちち也，舊きゅう為ため西にし面めん可か汗あせ。既すんで而大怒いか，遣や阿波あわ率りつ兵へい而東，其部落ぶらく歸き之これ者しゃ將はた十じゅう萬まん騎き，遂とげ與あずか沙すな缽略相しょう攻おさむ。又また有ゆう貪むさぼ汗あせ可か汗あせ，素もと睦むつみ于阿波は，沙すな缽略奪りゃくだつ其眾而廢之の，貪むさぼ汗あせ亡ほろび奔達頭あたま。沙すな缽略從弟じゅうてい地ち勤つとむ察，別べつ統みつる部落ぶらく，與あずか沙すな缽略有ゆう隙すき，復ふく以眾叛歸阿波あわ。連れん兵へい不ふ已やめ，各かく遣や使つかい詣まい闕，請和求もとめ援，上うえ皆みな不ふ許もと。

會かい千金せんきん公主こうしゅ上書うわがき，請為一いち子し之の例たとえ，文ぶん帝みかど遣や開府かいふ徐じょ平和へいわ使し于沙缽略。晉すすむ王おう廣ひろ時じ鎮并州しゅう，請因其釁乘じょう之の，上うえ不ふ許もと。沙すな缽略遣や使つかい致書曰：「辰たつ年ねん九きゅう月がつ十じゅう日にち，從したがえ天生あもう大だい突厥天下でんか賢けん聖せい天子てんし伊い利り俱盧設しつらえ莫何始はじめ波なみ羅ら可か汗あせ致書大だい隋ずい皇帝こうてい：使つかい人じん開府かいふ徐じょ平和へいわ至いたり，辱はずかしめ告つげ言語げんご，具ぐ聞也。皇帝こうてい是ぜ婦ふ父ちち，即そく是ぜ翁おう，此是女おんな夫おっと，即そく是ぜ兒じ例れい，兩りょう境さかい雖殊，情義じょうぎ是ぜ一いち。今こん重疊ちょうじょう親おや舊きゅう，子子孫孫ししそんそん，乃至ないし萬世ばんせい不斷ふだん。上天じょうてん為ため證しょう，終おわり不ふ違たがえ負まけ。此國所有しょゆう羊ひつじ、馬うま，都みやこ是ただし皇帝こうてい畜生ちくしょう；彼かれ有ゆう繒彩，都みやこ是ただし此物。彼此ひし不ふ異い也。」文ぶん帝みかど報ほう書しょ曰：「大だい隋ずい天子てんし貽書大だい突厥伊い利り俱盧設しつらえ莫何沙すな缽略可か汗あせ：得とく書しょ，知大ともひろ有ゆう好こう心しん向こう此也。既すんで是ぜ沙すな缽略婦翁ふおう，今日きょう看み沙すな缽略共ども兒じ子こ不ふ異こと。既すんで以親舊きゅう厚意こうい，常つね使つかい之の外そと，今こん特別とくべつ遣や大臣だいじん虞おそれ慶けい則そく往彼看み女おんな，復ふく看み沙すな缽略也。」沙すな缽略陳ひね兵へい列れつ其寶物ぶつ，坐すわ見み慶けい則そく，稱しょう病びょう不能ふのう起おこり，且曰：「我わが伯父おじ以來いらい，不ふ向むこう人じん拜はい。」慶けい則そく責せめ而喻之の。千金公主私謂慶則曰：「可か汗あせ豺狼さいろう性せい，過か與あずか爭そう，將はた齧かじ人ひと。」長ちょう孫まご晟あきら說諭せつゆ之の，攝と圖ず屈こごめ，乃頓顙受璽書，以戴於首。既すんで而大慚，其群下か因いん相しょう聚慟哭どうこく。慶けい則そく又また遣や稱しょう臣しん，沙すな缽略謂いい其屬曰：「何なん名めい為ため臣しん？」報ほう曰：「隋ずい國臣くにおみ，猶なお此稱奴やつ。」沙すな缽略曰：「得とく作さく大だい隋ずい天子てんし奴やつ，虞おそれ僕ぼく射しゃ之の力也りきや。」贈おく慶けい則そく馬ば千せん匹ひき，並なみ以從妹いもうと妻つま之の。

時どき沙すな缽略既すんで為ため達たち頭あたま所しょ困こま，又また東ひがし畏かしこ契ちぎり丹に，遣や使つかい告つげ急きゅう，請將部落ぶらく度ど漠ばく南みなみ，寄居よりい白しろ道川みちかわ內。有ゆう詔みことのり許もと之の。晉すすむ王おう廣ひろ以兵援之，給きゅう以衣食しょく，賜たまもの以車服ふく、鼓吹こすい。沙すな缽略因いん西にし擊げき阿波あわ，破やぶ擒とりこ之の。而阿拔國部落ぶらく乘じょう虛きょ掠かすめ其妻子こ。官軍かんぐん為ため擊げき阿おもね拔，敗はい之の，所しょ獲え悉與沙すな缽略。沙すな缽略大喜だいぎ，乃立約やく，以磧為ため界かい。因よし上表じょうひょう曰：「大だい突厥伊い利り俱盧設しつらえ始はじめ波なみ羅ら莫何可か汗あせ臣しん攝と圖ず言ごと：大使たいし、尚書しょうしょ右みぎ僕ぼく射しゃ虞おそれ慶けい則そく至いたり，伏ふく奉たてまつ詔書しょうしょ，兼けん宣せん慈旨，仰おおせ惟おもんみ恩おん信之のぶゆき著ちょ，愈いよいよ久ひさし愈いよいよ明あきら，徒と知ち負荷ふか，不能ふのう答こたえ謝しゃ。突厥自じ天てん置おけ以來いらい，五ご十じゅう餘あまり載の，保有ほゆう沙漠さばく，自じ王おう蕃しげる隅すみ，地ち過か萬里ばんり，士し馬ば億おく數すう，恆つね力りょく兼けん戎えびす夷えびす，抗こう禮れい華はな夏なつ，在ざい於戎狄，莫與為ため大だい。頃ごろ者しゃ，氣候きこう清和せいわ，風雪ふうせつ順序じゅんじょ，意い以華夏なつ其有大聖たいせい興きょう焉。伏ふく惟おもんみ大だい隋ずい皇帝こうてい真ま皇帝こうてい也，豈あに敢阻兵へい恃險，偷竊名號みょうごう？今こん便びん感かん慕淳風ふう，歸心きしん有道ありみち。雖復南みなみ瞻魏闕，山川やまかわ悠遠ゆうえん，北面ほくめん之の禮れい不ふ敢廢。當とう令れい侍さむらい子こ入朝にゅうちょう，神馬じんば歲とし貢みつげ，朝夕ちょうせき恭きょう承うけたまわ，惟おもんみ命いのち是ぜ親おや。謹遣第だい七兒臣窟合真等奉表以聞。」文ぶん帝みかど下か詔みことのり曰：「沙すな缽略往雖與和わ，猶なお是ぜ二に國こく，今いま作さく君臣くんしん，便びん成なり一體いったい。已やめ敕有司し，肅告郊廟，宜むべ傳播でんぱ天下でんか，咸使知ち聞。」自じ是ぜ詔みことのり答こたえ諸事しょじ，並なみ不ふ稱しょう其名以異之の。其妻可か賀が敦あつし周しゅう千金せんきん公主こうしゅ，賜たまもの姓せい楊氏，編へん之の屬ぞく籍せき，改あらため封ふう大義たいぎ公主こうしゅ。策さく拜はい窟くつ合あい真ま為ため柱ばしら國こく，封ふう安國やすくに公こう，宴うたげ於內殿どの，引見いんけん皇后こうごう，賞しょう勞ろう甚厚。沙すな缽略大だい悅えつ。於是，歲さい時じ貢獻こうけん不ふ絕ぜっ。

七なな年ねん正月しょうがつ，沙すな缽略遣や其子入貢にゅうこう方かた物ぶつ。因よし請獵於恆、代だい之の間あいだ，詔みことのり許もと之の，仍遣使し人じん，賜たまもの其酒食しょく。沙すな缽略率りつ部落ぶらく再さい拜受はいじゅ賜たまもの。沙すな缽略一いち日にち手しゅ殺ころせ鹿しか十じゅう八はち頭とう，齎尾舌した以獻。還かえ至いたり紫むらさき河かわ鎮，其牙帳ちょう為ため火ひ所しょ燒しょう，沙すな缽略惡あく之の，月餘げつよ而卒。上うえ為之ためゆき廢朝はいちょう三さん日にち，遣や太ふと常つね弔ちょう祭さい焉，贈物おくりもの五ご千せん段だん。

初はつ，攝と圖ず以其子こ雍虞閭性懦，遣や令れい立たて其弟葉は護まもる處ところ羅ら侯こう。雍虞閭遣使し迎むかえ處ところ羅ら侯こう，將はた立だて之の，處ところ羅ら侯こう曰：「我わが突厥自じ木き杆可汗あせ來らい，多た以弟代だい兄けい，以庶奪だつ嫡，失しつ先祖せんぞ之の法ほう，不ふ相あい敬けい畏かしこ。汝なんじ當とう嗣位，我わが不ふ憚はばか拜はい汝なんじ也。」雍虞閭又遣や使つかい謂いい處しょ羅ら侯こう曰：「叔與我わが父ちち，共きょう根ね連體れんたい，我わが是枝これえだ葉よう，寧やすし有我ありが作さく主ぬし，令れい根本こんぽん反はん同どう枝葉えだは？願ねがい叔勿疑。」相しょう讓ゆずる者しゃ五ご六ろく，處しょ羅ら侯こう竟立，是ぜ為ため葉は護まもる。遣や使つかい上表じょうひょう言げん狀じょう，上うえ賜たまもの之の鼓吹こすい、幡はた旗はた。處ところ羅ら侯こう長ちょう頤僂背せ，眉目びもく疏朗，勇いさむ而有謀はかりごと。以隋所しょ賜たまもの旗鼓きこ，西にし征ただし阿波あわ，敵てき人じん以為得とく隋ずい兵へい所しょ助すけ，多た來き降くだ附ふ，遂とげ擒とりこ阿波あわ。既すんで而上書うわがき，請阿波は死生しせい之の命いのち。上下じょうげ其議，左ひだり僕ぼく射しゃ高だか熲進曰：「骨肉こつにく相しょう殘ざん，教之のりゆき蠹也，宜むべ存そん養やしなえ以示寬大かんだい。」上じょう曰：「善ぜん。」熲因奉たてまつ觴進曰：「自じ軒のき轅ながえ以來いらい，獯粥多た為ため邊べ患。今いま遠とお窮きゅう北海ほっかい，皆みな為ため臣しん妾わらわ，此之盛事せいじ，振古しんこ未聞みもん。臣しん敢再拜さいはい上壽じょうじゅ。」

後こう處しょ羅ら侯こう又また西にし征せい，中ちゅう流矢ながれや卒そつ，其眾奉雍虞閭為主ぬし，是ぜ為ため頡伽施ほどこせ多那たな都と藍あい可か汗あせ。雍虞閭遣使し詣まい闕，賜物たまもの三さん千せん段だん，每歲まいさい遣や使つかい朝貢ちょうこう。時とき有ゆう流人るにん楊欽，亡ほろび入にゅう突厥中ちゅう，謬雲彭國公こう劉りゅう昶あきら與あずか宇文うぶん氏し謀反ぼうほん，令れい大義たいぎ公主こうしゅ發はつ兵へい擾邊。都と藍あい執と欽以聞，並なみ貢みつぎ勃布、魚さかな膠にかわ。其弟欽羽設しつらえ部落ぶらく強きょう盛もり，都と藍あい忌き而擊之の，斬首ざんしゅ於陣。其年，遣や其母弟おとうと褥しとね但ただし特とく勤つとむ獻けんじ于闐玉だま杖つえ，上うえ拜はい褥しとね但ただし為ため柱ばしら國こく、康かん國こく公こう。明年みょうねん，突厥部落ぶらく大人おとな相しょう率りつ遣や使つかい貢みつぎ馬ば萬まん匹ひき，羊ひつじ二に萬まん口くち，駝、牛うし各かく五ご百ひゃく頭とう。尋ひろ遣や請緣邊べ置市ちし，與あずか中國ちゅうごく貿易ぼうえき，詔みことのり許もと之の。

平ひら陳ひね後ご，上うえ以陳叔寶屏風びょうぶ賜たまもの大義たいぎ公主こうしゅ，主しゅ心しん恆つね不平ふへい，因いん書しょ屏風びょうぶ為ため詩し，敘陳亡ほろび以自寄よせ曰：「盛衰せいすい等とう朝暮ちょうぼ，世道せどう若わか浮萍，榮華えいが實じつ難なん守もり，池いけ台たい終おわり自じ平たいら。富貴ふうき今いま安在あんざい？空事そらごと寫うつし丹青たんせい。杯はい酒しゅ恆つね無む樂らく，弦歌げんか詎有聲ごえ？餘よ本ほん皇すめらぎ家子いえこ，飄流入りゅうにゅう虜とりこ庭にわ，一朝いっちょう睹成敗せいばい，懷抱かいほう忽ゆるがせ縱橫じゅうおう。古來ふるく共ども如此，非我ひが獨どく申さる名めい。唯ただ有ゆう《昭あきら君くん曲きょく》，偏へん傷きず遠どお嫁よめ情じょう。」上聞じょうぶん惡あく之の，禮れい賜たまもの益えき薄うす。公主こうしゅ復ふく與あずか西にし突厥泥どろ利り可か汗あせ連結れんけつ，上うえ恐おそれ其為變へん，將しょう圖ず之の。會かい主おも與あずか所ところ從したがえ胡えびす私通しつう，因いん發はつ其事，下しも詔みことのり廢はい之の。恐こわ都みやこ藍あい不ふ從したがえ，遣や奇き章あきら公おおやけ牛ぎゅう弘ひろし將はた美妓びぎ四よん人にん以啖之の。時とき沙すな缽略子こ曰染幹みき，號ごう突利可か汗あせ，居きょ北方ほっぽう，遣や使つかい求婚きゅうこん。上うえ令れい裴矩謂いい曰：「當とう殺ころせ大義たいぎ公主こうしゅ方かた許婚きょこん。」突利以為然しか，復ふく譖之。都と藍あい因いん發はつ怒いか，遂とげ殺ころせ公主こうしゅ于帳。

都と藍あい因いん與あずか突利可か汗あせ有ゆう隙すき，數すう相そう征伐せいばつ，上うえ和解わかい之の，各かく引兵去さ。十じゅう七なな年ねん，突利遣や使つかい來き逆ぎゃく女おんな，上うえ舍しゃ之の太ふと常つね，教習きょうしゅう六ろく禮れい，妻つま以宗女おんな安あん義よし公主こうしゅ。上うえ欲よく離間りかん北狄ほくてき，故こ特とく厚あつ其禮，遣や牛ぎゅう弘ひろし、蘇そ威たけし、斛律孝こう卿きょう相しょう繼つぎ為ため使し。突厥前後ぜんこう遣や使つかい入朝にゅうちょう，三さん百ひゃく七なな十じゅう輩やから。突利本ほん居きょ北方ほっぽう，以尚主ぬし故こ，南みなみ徙度斤きん舊きゅう鎮，錫すず賚優厚あつ。雍虞閭怒曰：「我わが大だい可か汗あせ也，反はん不ふ如染幹みき！」於是朝貢ちょうこう遂とげ絕ぜっ，數かず為ため邊べ患。

十じゅう八はち年ねん，詔みことのり蜀しょく王おう秀しゅう出で靈れい州しゅう道どう擊げき之の。明年みょうねん，又また遣や漢かん王おう諒りょう為ため元帥げんすい，左ひだり僕ぼく射しゃ高だか熲率將軍しょうぐん王おう察、上うえ柱ばしら國こく趙ちょう仲なか卿きょう並なみ出で朔ついたち州しゅう道どう，右みぎ僕ぼく射しゃ楊素率りつ柱はしら國こく李り徹とおる、韓かん僧そう壽ことぶき出いずる靈れい州しゅう道どう，上うえ柱ばしら國こく燕つばめ榮さかえ出で幽かそけ州しゅう，以擊之の。雍虞閭與玷厥舉兵攻おさむ染しみ幹みき，盡つき殺ころせ其兄弟子でし女おんな，遂とげ渡河とか入にゅう蔚州。染しみ幹みき夜よる以五騎與隋使長孫晟歸朝。上うえ令れい染しみ幹みき與あずか雍虞閭使者しゃ因いん頭あたま特とく勤つとむ相しょう辯べん詰つめ，染しみ幹みき辭じ直じき，上乃うえの厚あつし待まち之の。雍虞閭弟都と速そく六ろく棄其妻子さいし，與あずか突利歸朝きちょう。上うえ嘉之よしゆき，敕染幹みき與あずか都と速そく六ろく樗ぶな蒱，稍やや稍やや輸以寶物ほうもつ，用よう歸き其心。六月ろくがつ，高こう熲、楊素擊げき玷厥，大破たいは之の。拜はい染しみ幹みき為ため意い利り珍ちん豆まめ啟けい人じん可か汗あせ，華はな言げん意い智さとし健也けんや。啟けい人じん上表じょうひょう謝恩しゃおん。上うえ於朔州しゅう築ちく大利おおとし城じょう以居之の。時安ときやす義ぎ公主こうしゅ以卒，上うえ以宗女おんな義ぎ城じょう公主こうしゅ妻つま之の。部落ぶらく歸き者しゃ甚眾。雍虞閭又擊げき之の，上うえ復ふく令れい入いれ塞ふさが。雍虞閭侵掠しんりゃく不ふ已やめ，遂とげ遷于河南かなん，在ざい夏なつ、勝かち二に州しゅう間あいだ，發はつ徒と掘ほ塹數百ひゃく里り，東西とうざい距河，盡つき為ため啟けい人畜じんちく牧まき地ち。

於是遣や越えつ國こく公おおやけ楊素出で靈れい州しゅう，行軍こうぐん總そう管かん韓かん僧そう壽ことぶき出いずる慶州けいしゅう，太平たいへい公おおやけ史し萬まん歲出さいしゅつ燕つばめ州しゅう，大將軍だいしょうぐん姚辯出で河かわ州しゅう，以擊都と藍あい。師し未み出で塞ふさが，而都藍あい為ため其麾下か所しょ殺ころせ，達いたる頭あたま自立じりつ為ため步ふ伽とぎ可か汗あせ，其國大亂たいらん。遣や太平たいへい公おおやけ史し萬歲出朔州以擊之，遇ぐう達たち頭あたま於大おだい斤きん山さん，虜とりこ不戰ふせん而遁。尋ひろ遣や其子侯こう利り伐き徒と磧東攻おさむ啟けい人じん，上うえ又また發はつ兵へい助じょ啟けい人じん守もり要路ようろ，侯ほう利とし伐き退ずさ走入はしり磧。啟けい人じん上表じょうひょう陳謝ちんしゃ曰：「大だい隋ずい聖人せいじん莫緣可か汗あせ憐養，百姓ひゃくしょう蒙こうむ恩おん，赤心せきしん歸服きふく，或ある南みなみ入にゅう長城ちょうじょう，或ある住じゅう白しろ道どう。染しみ幹みき如枯木かれき重じゅう起おこり枝葉えだは，枯骨ここつ重生しぎょう皮肉ひにく，千せん世せい萬まん世せい，長與ながよ大だい隋ずい典てん羊ひつじ、馬うま也。」

仁じん壽ことぶき元年がんねん，代だい州しゅう總そう管かん韓かん洪ひろし為ため虜とりこ敗はい于恆安やす，詔みことのり楊素為ため雲くも州しゅう道行みちゆき軍ぐん元帥げんすい，率りつ啟けい人じん北きた征せい。斛薛等とう諸しょ姓せい初はつ附ふ於啟人じん，至いたり是ぜ而叛。素もと軍ぐん河北かほく，逢突厥阿勿思力りょく俟斤等とう南みなみ渡わたり，掠かすめ啟けい人じん男女だんじょ雜ざつ畜而去さ，素もと率りつ上じょう大將軍だいしょうぐん梁はり默だま追つい之これ，大破たいは俟斤，悉得人畜じんちく以歸啟けい人じん。素もと又また遣や柱はしら國こく張ちょう定じょう和わ、領りょう軍ぐん大將軍だいしょうぐん劉りゅう升ます別べつ路ろ邀擊ようげき，並なみ多た斬き獲え而還。兵へい既すんで渡河とか，賊ぞく復ふく掠かすめ啟けい人じん部落ぶらく，素もと率りつ驃騎范貴于窟結ゆい谷たに東南とうなん復ふく破やぶ之これ。

是これ歲さい，泥どろ利り可か汗あせ及葉護まもる俱被鐵てつ勒所敗はい，步ほ迦尋亦また大亂たいらん。奚、雪ゆき五ご部ぶ內徙，步ほ伽とぎ奔吐谷たに渾，啟けい人じん遂とげ有ゆう其眾，遣や使つかい朝貢ちょうこう。

大業おおわざ三さん年ねん，煬帝幸こう榆林，啟けい人じん及義城じょう公主こうしゅ來朝らいちょう行宮あんぐう，前後ぜんご獻けんじ馬ば三さん千せん匹ひき。帝みかど大だい悅えつ，賜たまもの帛萬まん三さん千せん段だん。啟けい人じん及義城じょう公主こうしゅ上表じょうひょう曰：「已やめ前ぜん聖人せいじん先帝せんてい莫緣可か汗あせ存そん日び，憐臣，賜たまもの臣しん安あん義よし公主こうしゅ，臣しん種しゅ末まつ為ため聖人せいじん先帝せんてい憐養。臣しん兄弟きょうだい妒惡，相そう共ども殺ころせ臣しん。臣しん當時とうじ無む處しょ去さ，向上こうじょう看み只見ただみ天たかし，下した看み只ただ見地けんち，實じつ憶聖人じん先帝せんてい言語げんご，投とう命いのち去來きょらい。聖人せいじん先帝せんてい見み臣しん，大だい憐臣死命しめい，養やしなえ活かつ勝しょう於往前まえ，遣や臣しん作さく大だい可か汗あせ坐すわ著しる也。突厥百姓ひゃくしょう死者ししゃ以外いがい，還かえ聚集作さく百姓ひゃくしょう也。至尊しそん今いま還かえ如聖人じん先帝せんてい于天下か四方しほう坐すわ也，還かえ養やしなえ活かつ臣しん及突厥百姓ひゃくしょう，實じつ無む少しょう短たん。至尊しそん憐臣時じ，乞依大國たいこく，服飾ふくしょく法用ほうよう一同いちどう華はな夏なつ。帝みかど下か其議，公卿くぎょう請依所しょ奏かなで，帝みかど以為不可ふか。乃詔曰：「君子くんし教きょう人じん，不ふ求もとめ變へん俗ぞく，何なに必化諸しょ削そぎ衽おくみ，縻以長ちょう纓えい？」乃璽書しょ答こたえ啟けい人じん，以為磧北未み靜せい，猶なお復ふく征戰せいせん，但ただし使つかい存そん心こころ孝こう順じゅん，何なに必改衣服いふく也。帝みかど法ほう駕が御ご千せん人にん大だい帳ちょう，享とおる啟けい人じん及其部落ぶらく酋長しゅうちょう三さん千せん五ご百ひゃく人にん，賜物たまもの二に千せん段だん，其下各かく有ゆう差さ。復ふく下か詔みことのり褒寵之の，賜たまもの路ろ車しゃ、乘馬じょうば、鼓吹こすい、幡はた旗はた，贊さん拜はい不ふ名な，位い在ざい諸侯しょこう王おう上じょう。帝みかど親おや巡じゅん雲くも中ちゅう，溯さかのぼ金きむ河かわ而東，北幸きたさいわい啟けい人じん所しょ居きょ。啟けい人じん奉たてまつ觴上壽じょうじゅ，跪伏甚恭。帝みかど大だい悅えつ，賦ふ詩し曰：「鹿しか塞ふさが鴻おおとり旗はた駐ちゅう，龍りゅう庭にわ翠みどり輦回，氈帳望もち風ふう舉，穹廬向こう日開ひがい。呼よび韓かん頓ひたぶる顙至，屠ほふ耆接踵かかと來らい，索さく辮擎膻肉，韋韌獻けんじ酒杯しゅはい。何なに如漢天子てんし，空そら上じょう單たん于台？」帝みかど賜たまもの啟けい人じん及主金きん甕う各かく一いち，及衣服ふく、被ひ褥しとね、錦にしき彩いろどり；特とく勤つとむ以下いか各かく有ゆう差さ。

先さき是ぜ，高麗こうらい私通しつう使し啟けい人じん所しょ，啟けい人じん不ふ敢隱境さかい外がい之の交，是ぜ日び，持もち高麗こうらい使し見み。敕令牛ぎゅう弘ひろし宣旨せんじ謂いい曰：「朕ちん以啟人じん誠まこと長ちょう奉たてまつ國くに，故こ親おや至いたり其所。明年みょうねん當とう往涿郡ぐん。爾なんじ回かい日び，語ご高麗こうらい主ぬし，宜むべ早はや來朝らいちょう。」使つかい人じん甚懼。啟けい人じん乃扈從こしょう入いれ塞ふさが至いたり定てい襄じょう，詔みことのり令れい歸かえり蕃しげる。明年みょうねん，朝ちょう於東おひがし都と，禮れい賜たまもの益えき厚あつ。是これ歲さい，疾やまし終おわり，上うえ為ため廢朝はいちょう三さん日にち。

其子吐吉立りつ，是ぜ為ため始はじめ畢可汗あせ。表ひょう續ぞく尚なお公主こうしゅ，詔みことのり從したがえ其俗。十じゅう一いち年ねん，來朝らいちょう於東おひがし都と。其年，車くるま駕が避暑ひしょ汾陽宮みや。八はち月がつ，始はじめ畢率其種落入寇にゅうこう，圍かこえ帝みかど於雁門もん。援兵えんぺい方かた至いたり，始はじめ畢引去さ。由よし是ぜ朝貢ちょうこう遂とげ絕ぜっ。明年みょうねん，復ふく寇馬邑，唐から公おおやけ擊げき走はし之これ。隋ずい末まつ亂らん離はなれ，中國人ちゅうごくじん歸き之これ者しゃ無數むすう，遂とげ大だい強きょう盛もり。迎むかい蕭しょう後ご置おけ於定襄じょう。薛舉、竇建德けんとく、王おう世よ充たかし、劉りゅう武周ぶしゅう、梁はり師もろ都と、李り軌、高こう開ひらく道之みちゆき徒と，雖僭尊號そんごう，皆みな稱しょう臣しん，受其可か汗あせ之これ號ごう，使者ししゃ往來おうらい，相そう望もち於道。

西にし突厥

西にし突厥者しゃ，木き杆可汗あせ之子ゆきこ大だい邏便也。與あずか沙すな缽略有ゆう隙すき，因いん分ぶん為ため二に，漸やや以強盛もり。東ひがし拒こばめ都と斤きん，西にし至いたる龜かめ茲，鐵てつ勒、伊い吾われ及西域せいいき諸しょ胡えびす悉附之の。大だい邏便為ため處しょ邏侯所しょ執と，其國立こくりつ鞅素特とく勤つとむ之子ゆきこ，是ぜ為ため泥どろ利り可か汗あせ。卒そつ，子こ達たち漫立，號ごう泥どろ撅處羅ら可か汗あせ。其母向むかい氏し，本ほん中國人ちゅうごくじん，生なま達たち漫而泥どろ利り卒そつ，向むかい氏し又また嫁よめ其弟婆ばば實じつ特とく勤つとむ。開ひらき皇すめらぎ末まつ，婆ばば實じつ共とも向むかい氏し入朝にゅうちょう，遇ぐう達たち頭あたま之の亂みだれ，遂とげ留とめ京師けいし，每ごと舍しゃ之の鴻おおとり臚寺。處ところ羅ら可か汗あせ居い無む恆つね處しょ，終おわり多た在ざい烏がらす孫まご故こ地ち。復ふく立りつ二に小しょう可か汗あせ，分ふん統みつる所部ところぶ，一いち在ざい石いし國北くにほく，以制諸しょ胡えびす國こく；一いち居きょ龜かめ茲北，其地名めい應おう娑しゃば。官有かんゆう俟發、閻洪達たち，以評議ひょうぎ國事こくじ，自余じよ與あずか東國とうごく同どう。每まい五ご月がつ、八はち月がつ，聚祭神しん，歲さい使し重臣じゅうしん向こう其先世よ所しょ居きょ之の窟くつ致祭焉。

當とう大業おおわざ初はつ，處ところ羅ら可か汗あせ撫なで禦無道どう，其國多た叛，與あずか鐵てつ勒屢相しょう攻おさむ，大だい為ため鐵てつ勒所敗はい。時とき黃門こうもん侍さむらい郎ろう裴矩在ざい敦煌とんこう引致いんち西域せいいき，聞其國こく亂みだれ，復ふく知ち處しょ羅ら思おもえ其母氏し，因いん奏そう之の。煬帝遣や司つかさ朝ちょう謁者崔ちぇ君くん肅齎書しょ慰諭之の。處ところ羅ら甚踞，受詔不ふ肯起。君くん肅謂處しょ羅ら曰：「突厥本ほん一いち國こく也，中分なかぶん為ため二に，自じ相あい仇敵きゅうてき，每歲まいさい交兵，積せき十年而莫能相滅者，明知めいち啟けい人じん與あずか處しょ羅ら國こく其勢敵てき耳みみ。今こん啟けい人じん舉其部落ぶらく，兵へい且百ひゃく萬まん，入にゅう臣しん天子てんし，甚有丹誠たんせい者しゃ，何なに也？但ただし以切恨可汗あせ而不能ふのう獨どく制せい，故こ卑事天子てんし以借漢かん兵へい，連れん二に大國たいこく，欲よく滅ほろび可か汗あせ耳みみ。百官兆庶咸請許之，天子てんし弗どる違たがえ，師し出で有ゆう日び矣。顧可汗あせ母はは向むかい氏し，本ほん中國人ちゅうごくじん，歸かえり在京ざいきょう師し，處しょ於賓館かん，聞天子こ之の詔みことのり，懼可汗あせ之の滅ほろび，旦夕たんせき守もり闕，哭甚悲哀ひあい，是ぜ以天子てんし憐焉，為ため其輟策さく。向こう夫人ふじん又また匍匐ほふく謝罪しゃざい，因いん請發使し以召可か汗あせ，令れい入いれ內屬，乞加恩おん禮れい，同どう於啟人じん。天子てんし從したがえ之これ，遣や使つかい到いた此。可か汗あせ若わか稱しょう籓拜詔みことのり，國くに乃永安やす，而母得とく延壽えんじゅ；不ふ然しか者しゃ，則のり向こう夫人ふじん為ため誑天子こ，必當取と戮而傳でん首くび虜とりこ庭にわ。發はつ大だい隋ずい之の兵へい，資し北きた蕃しげる之の眾，左ひだり提ひさげ右みぎ挈，以擊可か汗あせ，死亡しぼう則そく無む日にち矣！奈何いかん惜兩拜はい之の禮れい，剿慈母はは之の命めいじ，吝しわ一いち句く稱たたえ臣しん，喪も匈奴きょうど之の國くに也？」處しょ羅ら聞之，瞿然而起，流涕りゅうてい再拜さいはい，跪受詔書しょうしょ。

君きみ肅又說せつ處しょ羅ら曰：「啟けい人じん內附，先帝せんてい嘉之よしゆき，賞賜しょうし極ごく厚あつし，故こ致兵強きょう國富こくふ。今こん可か汗あせ後ご附ふ，與あずか之これ爭そう寵ちょう，須深結ゆい于天子こ，自じ表ひょう至誠しせい。既すんで以遠いえん道どう，未み得とく朝あさ覲，宜むべ立たて一いち功こう，以明臣節しんせつ。」處しょ羅ら曰：「如何いか？」君くん肅曰：「吐谷渾者，啟けい人じん少子しょうし莫賀咄設之の母はは家か也。今こん天子てんし又また以義城じょう公主こうしゅ妻つま于啟人じん，畏かしこ天子てんし之の威い，而與之の絕ぜっ。吐谷渾亦因いん憾漢，職しょく貢みつぎ不ふ修おさむ。可か汗あせ若わか請誅之の，天子てんし必許。漢かん擊げき其內，可か汗あせ攻おさむ其外，破やぶ之これ必矣。然しか後ご自じ入朝にゅうちょう，道路どうろ無む阻，因いん見み老母ろうぼ，不ふ亦また可か乎？」處しょ羅ら大喜だいぎ，遂とげ遣や使つかい朝貢ちょうこう。

帝みかど將しょう四よん狩かり，六ろく年ねん，遣や侍さむらい御ご史し韋節召處羅ら，令れい與あずか車くるま駕が會かい於大おだい鬥拔穀こく。其國人じん不ふ從したがえ，處ところ羅ら謝しゃ使者ししゃ，辭じ以他故ゆえ。帝みかど大だい怒いか，無む如之何なに。適てき會かい其酋長ちょう射しゃ匱遣使し來らい求婚きゅうこん，裴矩奏そう曰：「處ところ羅ら不ふ朝あさ，恃強大だい耳みみ。臣しん請以計けい弱じゃく之の，分裂ぶんれつ其國，即そく易えき制せい也。射い匱者，都と六ろく之子ゆきこ，達いたる頭あたま之の孫まご，世せい為ため可か汗あせ，君臨くんりん西にし面めん。今こん聞其失職しっしょく，附ふ隸于處しょ羅ら，故こ遣や使つかい來らい以結援。願ねがい厚あつ禮れい其使，拜はい為ため大だい可か汗あせ，則のり突厥勢ぜい分ぶん，兩りょう從したがえ我わが矣。」帝みかど曰：「公言こうげん是也これや。」因いん遣や裴矩，朝夕ちょうせき至いたり館かん，微ほろ諷喻之の。帝みかど於仁風ふう殿どの召其使者ししゃ，言げん處しょ羅ら不順ふじゅん之の意い，稱しょう射しゃ匱有好こう心しん，吾われ將はた立たて為ため大だい可か汗あせ，令れい發はつ兵へい誅處羅ら，然しか後こう當為とうい婚こん也。取と桃もも竹ちく白羽しらは箭や一枚以賜射匱，因いん謂いい之の曰：「此事宜よろし速そく，使つかい疾やまし如箭也。」使者ししゃ返かえし，路みち經けい處しょ羅ら。愛あい其箭，將はた留とめ之の，使者ししゃ譎而得とく免めん。射い匱聞而大喜き，興きょう兵へい襲かさね之の，處ところ羅ら大敗たいはい，棄妻子さいし，將はた左右さゆう數すう千せん騎き東ひがし走はし。在ざい路みち又また被ひ劫掠ごうりゃく，遁于高だか昌あきら，車くるま保ほ時じ羅ら漫山。高こう昌あきら王おう麹こうじ伯はく雅みやび上うえ狀じょう，帝みかど遣や裴矩將はた向むかい氏し親おや要よう左右さゆう，馳はせ至いたり玉門ぎょくもん關せき晉すすむ昌あきら城じょう。矩のり遣や向むかい氏し使し詣まい處しょ羅ら所しょ，論ろん朝廷ちょうてい弘ひろし養やしなえ之これ義ぎ，丁ちょう甯曉喻之。遂とげ入朝にゅうちょう，然しか每まい有ゆう怏怏おうおう之の色いろ。

以七なな年ねん冬ふゆ，處ところ羅ら朝ちょう于臨朔ついたち宮みや。帝みかど享とおる之の，處ところ羅ら稽首謝しゃ曰：「臣しん總そう西にし面めん諸しょ蕃しげる，不ふ得とく早來はやきた朝拜ちょうはい，今こん參さん見み遲おそ晚ばん，罪責ざいせき極ごく深ふか。臣しん心裏しんり悚懼，不能ふのう盡つき道どう。」帝みかど曰：「往者おうしゃ與あずか突厥遞相侵おかせ擾，不ふ得とく安居あんきょ。今こん四海しかい既すんで清きよし，與一よいち家か無む異こと，朕ちん皆みな欲よく存そん養やしなえ，使つかい遂とげ性せい靈れい。譬たとえ如上じょじょう天てん，止とめ有ゆう一いち個こ日照ひでり臨，莫不寧やすし帖じょう；若わか有ゆう兩個りゃんこ、三さん個こ日び，萬物ばんぶつ何なん以得安やす？比ひ者しゃ，亦また知ち處しょ羅ら總そう攝と事こと繁しげる，不ふ得とく早來はやきた相しょう見み。今日きょう見處みどころ羅ら，懷抱かいほう豁然かつぜん歡喜かんき。處ところ羅ら亦また當とう豁然かつぜん，不ふ煩はん在ざい意い。」明年あきとし元もと會かい，處ところ羅ら上壽じょうじゅ曰：「自じ天てん以下いか，地ち以上いじょう，日月じつげつ所しょ照あきら，唯ただ有ゆう聖人せいじん可か汗あせ。今こん是ぜ大日だいにち，願ねがい聖人せいじん可か汗あせ千せん歲さい、萬歲ばんざい，常つね如今日び也。」詔みことのり留とめ其羸弱じゃく萬まん餘よ口くち，令れい其弟達たち度ど闕設牧畜ぼくちく會かい寧やすし郡ぐん。處ところ羅ら從したがえ征せい高だか麗うらら，號ごう為ため曷薩那な可か汗あせ，賞賜しょうし甚厚。

十じゅう年ねん正月しょうがつ，以信義しんぎ公主こうしゅ嫁よめ焉，賜たまもの錦にしき彩いろどり，袍ほう千せん具ぐ、彩いろどり萬まん匹ひき。帝みかど將しょう復ふく其故地ち，以遼東之ひがしの役やく，故こ未み遑也。每まい從したがえ行幸ぎょうこう。江え都と之の亂みだれ，隨ずい化か及至河北かほく。化か及將敗はい，奔歸京師けいし，為ため北きた蕃しげる突厥所しょ害がい。

鐵てつ勒

鐵てつ勒之先さき，匈奴きょうど之の苗裔びょうえい也。種類しゅるい最多さいた，自じ西海さいかい之の東ひがし依よ山やま據よりどころ穀こく，往往おうおう不ふ絕ぜっ。獨どく洛らく河北かほく，有ゆう僕ぼく骨こつ、同どう羅ら、韋紇、拔也古いにしえ、覆くつがえ羅ら，並なみ號ごう俟斤，蒙こうむ陳ひね、吐如紇、斯結、渾、斛薛等とう諸しょ姓せい，勝しょう兵へい可か二に萬まん。伊い吾われ以西いせい，焉耆之の北きた，傍はた白山はくさん，則のり有ゆう契ちぎり弊へい、薄うす落職、乙おつ栎至、蘇そ婆ばば、那な曷、烏がらす護まもる、紇骨、也栎至いたり、於尼護まもる等とう，勝しょう兵へい可か二に萬まん。金山かなやま西南せいなん，有ゆう薛延阤、栎至勒兒、十じゅう盤ばん、達いたる契ちぎり等とう，一いち萬まん餘あまり兵へい。康やすし國北くにほく，傍はた阿おもね得とく水すい，則のり有ゆう訶栎至いたり、曷截、撥ばち忽ゆるがせ、比ひ干ひ、具ぐ海うみ、曷北悉、何なに嵯蘇、拔也末まつ、謁達等とう，有ゆう三さん萬まん許もと兵へい。得とく嶷海東西とうざい，有ゆう蘇そ路ろ羯、三さん素もと咽むせ、篾促、薩忽等とう諸しょ姓せい，八はち千せん餘あまり。拂はらい菻東，則のり有ゆう恩おん屈こごめ、阿おもね蘭らん、北きた褥しとね、九きゅう離はなれ、伏ふく嗢昏等とう，近きん二に萬まん人にん。北きた海南かいなん，則すなわち都と波なみ等とう。雖姓氏し各かく別べつ，總そう謂いい為ため鐵てつ勒。並無ならびな君くん長ちょう，分ふん屬ぞく東西とうざい兩りょう突厥。居きょ無む恆つね所しょ，隨ずい水草みずくさ流りゅう移うつり。人性じんせい凶きょう忍しのべ，善ぜん於騎射きしゃ，貪婪どんらん尤ゆう甚，以寇抄しょう為ため生せい。近きん西にし邊べ者しゃ，頗為藝げい植うえ，多た牛うし而少馬ば。

自じ突厥有ゆう國こく，東西とうざい征討せいとう，皆みな資し其用，以制北荒きたあら。開ひらき皇すめらぎ末まつ，晉すすむ王おう廣ひろ北きた征せい，納おさめ啟けい人じん，破やぶ步ふ迦可汗あせ，鐵てつ勒於是ぜ分散ぶんさん。大業おおわざ元年がんねん，突厥處しょ羅ら可か汗あせ擊げき鐵てつ勒諸部ぶ，厚あつ稅ぜい斂其物ぶつ，又また猜忌さいき薛延陀等，恐こわ為ため變へん，遂とげ集しゅう其魁帥そち數すう百ひゃく人にん，盡つき誅之。由よし是ぜ一いち時じ反はん叛，拒こばめ處しょ羅ら。遂とげ立たて俟利發はつ、俟斤契ちぎり弊へい歌か楞為易えき勿真莫何可か汗あせ，居い貪むさぼ汗あせ山やま；復ふく立りつ薛延陀內俟斤子こ也栎至いたり為ため小しょう可か汗あせ。處ところ羅ら既すんで敗はい，莫何可か汗あせ始はじめ大だい。莫何勇いさむ毅あつし絕倫ぜつりん，甚得眾心，為ため鄰國所しょ憚はばか，伊い吾われ、高こう昌あきら、焉耆諸國しょこく悉附之の。

其俗大だい抵與突厥同どう。唯ただ丈夫じょうぶ婚こん畢，便びん就妻家か，待まち產さん乳ちち男女だんじょ，然しか後こう歸き舍しゃ；死者ししゃ埋うめ殯之：此其異い也。大業おおわざ三さん年ねん，遣や使つかい貢みつげ方かた物ぶつ，自じ是ぜ不ふ絕ぜっ云うん。

【論ろん】

論ろん曰：四夷之為中國患也，久ひさ矣，北狄ほくてき尤ゆう甚焉。種たね落實繁しげる，迭雄邊あたり塞ふさが，年代ねんだい遐邈，非ひ一いち時じ也。五ご帝みかど之の世よ，則のり有ゆう獯鬻焉；其在三さん代だい，則のり獫狁焉；逮乎兩りょう漢かん，則のり匈奴きょうど焉；當とう塗ぬり、典てん午うま，則のり烏丸からすま、鮮卑焉；後ご魏ぎ及周，則のり蠕蠕、突厥。此其酋豪相しょう繼つぎ，互為君くん長者ちょうじゃ也。皆みな以畜牧まき為ため業ぎょう，侵おかせ抄しょう為ため資し，倏來忽ゆるがせ往，雲くも飛鳥あすか集しゅう。智謀ちぼう之の士し，議ぎ和親わしん於廟堂之上どうのうえ；折おり沖おき之の臣しん，論ろん奮擊於塞垣かき之の下した。然しか事こと無む恆つね規ぶんまわし，權けん無む定じょう勢ぜい，親おや疏因其強弱じゃく，服ふく叛在其盛衰おとろえ，衰おとろえ則そく款塞頓ひたぶる顙，盛もり則のり率りつ兵へい寇掠。屈伸くっしん異い態たい。強弱きょうじゃく相反あいはん。正せい朔ついたち所しょ不ふ及，冠かん帶たい所しょ不ふ加か。唯ただ利り是ぜ視し，不ふ顧盟誓ちかい，至いたり於莫相しょう救護きゅうご，驕おご黠憑陵りょう。和親わしん結ゆい約やく之これ謀はかりごと，行ぎょう師し用兵ようへい之の事こと，前史ぜんし論ろん之の備矣，故こ不詳ふしょう而究焉。

及蠕蠕衰微すいび，突厥始はじめ大だい，至いたり於木杆，遂とげ雄お朔ついたち野の。東ひがし極東きょくとう胡えびす舊きゅう境さかい，西にし盡つき烏がらす孫まご之の地ち，彎弓數すう十じゅう萬まん，列れつ處しょ於代陰かげ，南みなみ向こう以臨周しゅう、齊ひとし。二國莫之能抗，爭そう請盟好このみ，求もとめ結ゆい和親わしん。乃與周しゅう合從がっしょう，終おわり亡ほろび齊ひとし國こく。隋ずい文ぶん遷鼎，厥徒孔あな熾おき，負ふ其眾力りょく，將はた蹈秦郊。內自相しょう圖ず，遂とげ以乖亂みだれ，達いたる頭あたま可か汗あせ遠どお遁，啟けい人じん願ねがい保たもて塞ふさが下した。於是推亡固かた存そん，返かえし其舊地ち，追討ついとう餘燼よじん，部ぶ眾遂強きょう，卒そつ于仁壽ことぶき，不ふ侵おかせ不ふ叛。暨乎始はじめ畢，未み虧臣禮れい。煬帝撫なで之の非道ひどう，始はじめ有ゆう雁かり門もん之の圍かこえ，俄にわか屬ぞく群盜ぐんとう並なみ與あずか，於此浸以雄盛もり。豪傑ごうけつ雖建名號みょうごう，莫不請好息いき人じん。於是分ぶん置おけ官かん司し，總統そうとう中國ちゅうごく，子女しじょ玉だま帛，相そう繼つぎ于道，使者ししゃ之の車くるま，往來おうらい結ゆい轍わだち。自じ古こ蕃夷ばんい驕おご僭，未み有ゆう若わか斯之甚也。

及聖哲せいてつ應おう期き，掃除そうじ氛祲。暗くら于時變へん，猶なお懷ふところ抵拒，率りつ其群醜みにく，屢隳亭てい鄣，殘ざん敗はい我わが雲くも、代だい，搖ゆら盪我太ふと原はら，肆掠于涇陽ひ，飲いん馬ば於渭汭。太ふとし宗そう文ぶん皇帝こうてい奇き謀はかりごと內運，神かみ機密きみつ動どう，遂とげ使し百ひゃく世せい不羈ふき之の虜とりこ，一いち舉而滅めつ。瀚海龍りゅう庭にわ之の地ち，盡つき為ため九州きゅうしゅう；幽かそけ都と窮きゅう發はつ之の鄉さと，隸於編戶あみど。實じつ帝みかど皇すめらぎ所しょ不ふ及，書契しょけい所しょ未聞みもん。由よし此言之の，雖天道どう有ゆう盛衰せいすい，亦また人事じんじ之の工こう拙つたな也。加か以為而弗恃，有ゆう而弗居い，類るい天地てんち之の含容，同どう陰陽いんよう之の化育かいく，斯乃大道だいどう之これ行ぎょう也，固かた無む得とく而稱焉。