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玉井 真理子・中澤 英之・阿部 史子「3-1-2 突然変異遺伝子の発症前検査についての勧告」
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「3-1-2 突然変異とつぜんへんい遺伝子いでんし発症はっしょうぜん検査けんさについての勧告かんこく

玉井たまい 真理子まりこ中澤なかざわ 英之ひでゆき阿部あべ 史子ふみこ 19970901 遺伝いでん医療いりょう倫理りんり』(バイオエシックス資料集しりょうしゅう だいしゅう
信州大学医療技術短期大学しんしゅうだいがくいりょうぎじゅつたんきだいがく心理しんりがく研究けんきゅうしつ

last update: 20131126

◆3-1-2

p53突然変異とつぜんへんい遺伝子いでんし発症はっしょうぜん検査けんさについての勧告かんこく

Frederick P. Li, Judy E. Garber, Stephan H. Friend, Louise C. Strong, Andrea F. Patenaude, Eric T. Juengst, Philip R. Reilly, Pelayo Correa, Joseph F. Fraumann 1992 Recommendations on Predictive Testing for Germ Line p53 Mutations Among Cancer-Prone Individuals, Journal of the National Cancer Institute 84:1156-1160

報告ほうこく冒頭ぼうとう抄訳しょうやくと、だい分科ぶんかかい「リフラウメニ症候群しょうこうぐん家族かぞくたいして発症はっしょうぜん検査けんさくだり うにあたっての倫理りんりてき問題もんだい」(Ethical Issues in Predictive Testing in Li-Fraumeni Families)およびだい分科ぶんかかい介入かいにゅうとその評価ひょうか」(Interventions and Evaluation)の部分ぶぶん全訳ぜんやく

 アメリカがん研究所けんきゅうじょ(National Cancer Institute)とアメリカヒトゲノム研究けんきゅうセ ンター(National Center for Human Genome Research)がスポンサーとなって1991 ねんにワークショップが開催かいさいされ、p53突然変異とつぜんへんい遺伝子いでんし検査けんさ問題もんだいはなわれた。 p53遺伝子いでんしは、家族かぞくせいがんであるリフラウメニ症候群しょうこうぐん原因げんいんとなることがわかって いる。議論ぎろんは、ハイリスクの血縁けつえんしゃたいする発症はっしょうぜん検査けんさ是非ぜひ集中しゅうちゅうした。

 どうワークショップでは、以下いかのようないつつの分科ぶんかかいがそれぞれのテーマについて ディスカッションした。

1) リフラウメニ症候群しょうこうぐんとp53遺伝子いでんし突然変異とつぜんへんいとの関係かんけい(Li-Fraumeni Syndrome and Germ Line p53 Mutation)
2) リフラウメニ症候群しょうこうぐん家族かぞくたいして発症はっしょうぜん検査けんさおこなうにあたっての倫理りんりてき問題もんだい (Ehtical issues in Predictive Testing in Li-Fraumeni Families)
3) 患者かんじゃ選出せんしゅつ検査けんさ技術ぎじゅつについて(Patient Selection and Laboratory Techniques)
4) 試験しけんてき検査けんさプログラムの構造こうぞうとその内容ないよう(Structure and Components of Pilot Testing Programs)
5) 介入かいにゅうとその評価ひょうか(Interventions and Evaluation)

 本稿ほんこうは、分科ぶんかかいでの議論ぎろん前提ぜんてい事項じこう(background)と、議論ぎろんもちいられた「たたき だい(recommendations)」とをまとめたものである。ただし、このたたきだいは、参加さんか しゃ有志ゆうし議論ぎろんのためにあらかじめ用意よういしたもので、分科ぶんかかいごとの結論けつろんではない。

中略ちゅうりゃく

      [資料集しりょうしゅうp.54]

だい分科ぶんかかい「リフラウメニ症候群しょうこうぐん家族かぞくたいして発症はっしょうぜん検査けんさおこなうにあたってのりん てき問題もんだい

前提ぜんてい(background)

 p53突然変異とつぜんへんい遺伝子いでんし発症はっしょうまえ検査けんさするにあたって、自律じりつせい(autonomy)、善行ぜんこう (beneficience)、守秘しゅひ(confidentiality)、そして正義まさよし(justice)のよっつの倫理りんり原則げんそく遵守じゅんしゅしなければならない。
 自律じりつせい原則げんそくとは、から強制きょうせいされることなく、自分じぶん行動こうどうがもたらす意味いみじゅう ふん理解りかいし、自分じぶん人生じんせいふか影響えいきょうおよぼすような決断けつだん本人ほんにんめるという個人こじん権利けんり尊重そんちょうすることである。
 善行ぜんこう原則げんそくとは、「まずひときずつけてはならない」という言葉ことば凝縮ぎょうしゅくされている ように、医療いりょう根本こんぽんてき原則げんそくとなるものである。発症はっしょうぜん検査けんさ結果けっかれるしん かまえができていない患者かんじゃきずつけてはならないという、検査けんさしゃとカウンセラーのせめ にん土台どだいをなすものでもある。
 守秘しゅひ原則げんそくは、注意ちゅういによって第三者だいさんしゃ秘密ひみつれることのないよう注意ちゅういはらう ことを要請ようせいする。
 そして最後さいごに、正義せいぎ原則げんそくは、だれもがヘルスケアをけることができ、発症はっしょうぜんけん 査の結果けっかによって差別さべつけることのないという、公正こうせいさを意味いみしている。
 リフラウメニ症候群しょうこうぐん家族かぞくたいするp53遺伝子いでんし検査けんさをするさいにも、これらの倫理りんり 原則げんそく適用てきようしなければならない。

勧告かんこく(recommendations)

 1)家族かぞくれきから検査けんさ対象たいしょうえらばれたすべての患者かんじゃたいして、検査けんさかんする最新さいしん情報じょうほうつたえ、それをってもらったうえで、自発じはつてき決断けつだんをしてもらわなければなら ない。患者かんじゃたいして、もっとしつたか情報じょうほうとカウンセリングを提供ていきょうしなければならな い。

 2)検査けんさけるけないをめる権利けんりは、その本人ほんにんだけにある。よってカウン セラーはいかなる場合ばあいにおいても、検査けんさける本人ほんにん承諾しょうだくなしには、あるいはほん じん未成年みせいねんだったり知的ちてき障害しょうがい成人せいじんであれば両親りょうしん保護ほごしゃ承認しょうにんなしには、けん 査にかんする情報じょうほう結果けっかについての情報じょうほう第三者だいさんしゃにもらしてはならない。

3)リフラウメニ症候群しょうこうぐん家族かぞくどもはがんの発症はっしょうりつたかく、がんの発症はっしょうりつとそ れによる致死ちしりつらすために、どものうちに(できれば青年せいねんまえまでに)けん 査をけさせることがのぞましい。また、たんおや許可きょかもとめるだけでなく、検査けんさたいするども本人ほんにん賛成さんせい反対はんたい意向いこうも、本人ほんにん成長せいちょう度合どあいにわせて考慮こうりょしてい くのが適当てきとうであろう。おや検査けんさしゃは、どもに検査けんさ結果けっかつたえるタイミングや、だれつたえるのかについても計画けいかくてておく必要ひつようがある。

4)ハンチントン舞踏ぶとうびょうのような治療ちりょう見込みこみのない疾患しっかんは、早期そうき発見はっけんしたとこ ろで余命よめいばす

      [資料集しりょうしゅうp.55]

ことにはつながらないが、がんの早期そうき発見はっけん治癒ちゆかくりつがかなりたかい。医療いりょうしゃけん 査の結果けっからせる(あるいはらせない)べきかを、検査けんさ前後ぜんご本人ほんにんとじっく りはなうべきである。

5)検査けんさ参加さんかする対象たいしょうしゃは、本人ほんにん経済けいざいてき理由りゆうによって、検査けんささまたげられてはな らない。

6)検査けんさ参加さんかした対象たいしょうしゃは、検査けんさ結果けっかまえであっても、いつ参加さんかりやめ てもかまわない。しかしりやめたのちも、検査けんさ観察かんさつ対象たいしょうとなってもらうべきで ある。それは、本人ほんにん支援しえんサービスをけられるという理由りゆうと、検査けんさ影響えいきょう評価ひょうか するためである。

7)p53突然変異とつぜんへんい遺伝子いでんし発症はっしょうぜん検査けんさは、カウンセリングと支援しえんサービスの制度せいどととのってからでなければ、はじめてはならない。また、検査けんさ対象たいしょう候補者こうほしゃに、おも精神せいしん 疾患しっかん症状しょうじょうがみられるときには、検査けんさへの参加さんか見送みおくったほうがよいだろう。

8)遺伝子いでんし検査けんさ倫理りんり原則げんそく明確めいかくしたがうことが、心理しんりじょう問題もんだいや、社会しゃかいてき問題もんだいけい ずみてき問題もんだいといった、p53突然変異とつぜんへんい遺伝子いでんし発症はっしょうぜん診断しんだんがもたらすであろうがいを、さい しょうげんおさえることにつながるのである。

中略ちゅうりゃく

だい分科ぶんかかい介入かいにゅうとその評価ひょうか」(Interventions and Evaluation)

勧告かんこく(recommendations)

 1)リフラウメニ症候群しょうこうぐん(Li-Fraumeni syndrome)の家系かけいにおける生殖せいしょく系列けいれつ変異へんい (germline mutation)についての最近さいきん報告ほうこくによれば、現在げんざい健康けんこうではあるが、家系かけい からるとハイリスクである、というひとたいしても遺伝子いでんし検査けんさおこなうということが こりうる。このような検査けんさ発症はっしょうまえおこなうと、検査けんさ適切てきせつ利用りよう遺伝いでん情報じょうほう まもる、そして、自律じりつせい・プライバシー・守秘しゅひ公正こうせいなどについての問題もんだいき、さら には、未成年みせいねんしゃたいする検査けんさ、それに付随ふずいする複雑ふくざつ家族かぞく問題もんだいなどもこしか ねない。
 2)p53のキャリアのひとが、がんの症状しょうじょう兆候ちょうこうたいして医学いがくてき見地けんちからの注意ちゅうい早期そうきからはらえるよう、カウンセリングがなされなければならない。そしてヘルス サービスの利用りよう仕方しかた変化へんかについての評価ひょうかもなされなければならない。
 3)発症はっしょうぜん検査けんさによってられる結果けっかがもたらす心理しんり社会しゃかいてき影響えいきょうについては、そ の有益ゆうえき部分ぶぶん有害ゆうがい側面そくめん双方そうほうから検討けんとうされなければならない。また、有害ゆうがい部分ぶぶん緩和かんわするための支援しえんサービスの効果こうかについても、モニターされる必要ひつようがある。
 4)p53のキャリアのひとたいしては、喫煙きつえん過度かど飲酒いんしゅ、そのはつがん物質ぶっしつに さらされることを

      [資料集しりょうしゅうp.56]

け、より健康けんこうてきなライフスタイルを実行じっこうするようすすめつつカウンセリングしなけ ればならない。また、患者かんじゃ忠告ちゅうこくをどれほどまもっているか(compliance)についても 評価ひょうかすべきである。
 5)p53キャリアのひとにゅうがんの発症はっしょう予防よぼうにタモキシフェン(tamoxifen)をためして みるといった、薬物やくぶつによる発症はっしょう予防よぼう調査ちょうさ研究けんきゅう考慮こうりょされなければならない。
 6)検査けんさ対象たいしょうとなった患者かんじゃ主治医しゅじいたいする教育きょういく必要ひつようで、p53のキャリアははつ がんのリスクがきわめてたかいこと、守秘しゅひ義務ぎむもとめられること、がんの症状しょうじょうおもわれ るようなうったえに細心さいしん注意ちゅういはらうことが大切たいせつであることなどをっておいてもらう 必要ひつようがある。
 7)キャリアのひと発症はっしょうりつ死亡しぼうりつ減少げんしょう評価ひょうかするためには非常ひじょうなが年月としつきようするので、検査けんさけたひとたちは長期ちょうきてきにフォローされなければならない。
 8)検査けんさ有益ゆうえきせい有害ゆうがいせい、いずれの評価ひょうかかんしても、かぎられたかず被験者ひけんしゃしか いないことは問題もんだいとなる。おおきな影響えいきょうは10にんから15にん程度ていど被験者ひけんしゃからられたデ ータからでも検証けんしょうできるが、あまり目立めだたない影響えいきょう検証けんしょうには、100にん以上いじょうけん しゃもとめられるだろう。したがって、いくつかの共通きょうつう項目こうもくはいったプロトコルを 複数ふくすう施設しせつもちいて、統計とうけいてき処理しょりるように、検査けんさ結果けっか蓄積ちくせきするべきであ る。
 9)リフラウメニ症候群しょうこうぐん家系かけいのデータをあつめたり、 p53を検査けんさすることでとくら れた知見ちけん世界せかいてき規模きぼ集約しゅうやくするための登録とうろく制度せいどつくられるべきである。
 10)こくレベルでの諮問しもん機関きかん(advisory group)を設立せつりつし、はつがんせい遺伝子いでんし部位ぶい突然変異とつぜんへんい発症はっしょうまえ検査けんさすること全般ぜんぱん関係かんけいしてくる問題もんだいたとえば専門せんもんおよび 一般いっぱんへの教育きょういくといったような問題もんだいについて提言ていげんしてくべきである。


訳者やくしゃちゅう

 これらの勧告かんこくは、L. B. Andrews eds. 1994 Assessing Genetic Risk : Implications for Health and Social Policy, National Academy Press, Washington DCのだいしょうGenetic Testing and Assessment(p.59から p.115)にも引 ようされている。

      [資料集しりょうしゅうp.57]



作成さくせい小川おがわ 浩史こうじ
REV: 20131126
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