「随筆ずいひつ随想ずいそう（２）なぜ？という問とい 番組ばんぐみが与あたえる影響えいきょう懸念けねん」
『中外ちゅうがい日報にっぽう』２０２１年ねん１０月がつ８日にち、第だい４面めん。

■記事きじ本文ほんぶん

人生じんせいのどこかで、予想よそうだにしなかった理不尽りふじんに直面ちょくめんすることがある。突然とつぜんの病やまいに襲おそわれることもあれば、事件じけんや事故じこに巻まき込こまれることもある。その瞬間しゅんかんから「なぜ私わたしが？」「なぜ私わたしに？」という問といと向むき合あわねばならない。

２０１９年ねん６月がつ２日にち、ＮＨＫスペシャル『彼女かのじょは安楽あんらく死しを選えらんだ』が放映ほうえいされた。タイトルから内容ないようの予想よそうはついたが、神経しんけい難病なんびょうの小島こじまミナさんのスイスでの医師いし幇助ほうじょ自殺じさつを、実名じつめいの二人ふたりの姉あねともども、およそここまで描えがくとは思おもわなかった。迷惑めいわくをかけたっていいと説得せっとくし続つづけた妹いもうとのその後ごも気きになった。

バランスを考かんがえたのだろう。呼吸こきゅう器きをつけて生いきることを選えらんだ同おなじ神経しんけい難病なんびょうの女性じょせいとその家族かぞくも登場とうじょうするが、まるで当あて馬うまのような描写びょうしゃだった。番組ばんぐみのつくりが与あたえる影響えいきょうを、即座そくざに懸念けねんした。

これを視みた京都きょうと在住ざいじゅうのＡＬＳ患者かんじゃ、林はやし優里ゆりさんがＳＮＳ上じょうで知しり合あった医師いしに嘱託しょくたく殺人さつじんを依頼いらいして亡なくなったのは、その年としの11月30日にち「人生じんせい会議かいぎ」の日ひ。厚労省こうろうしょうの啓蒙けいもうポスターがＳＮＳで炎上えんじょうしていた。

Ｎスペ放映ほうえい後ご、負まけに引ひきずり込こまれるような感情かんじょうを立たて直なおすために、いくつかの番組ばんぐみを繰くり返かえし視みた。ひとつは６日にち後ごに放映ほうえいされたＥテレ「こころの時代じだい――宗教しゅうきょう・人生じんせい」の『隣人りんじんといのちの電話でんわ』だ。和歌山わかやま県けん三段壁さんだんへき白浜しらはまで長年ながねん自殺じさつ予防よぼうに取とり組くんできた、藤ふじ藪やぶ庸一よういち牧師ぼくしへのインタビュー番組ばんぐみである。

もうひとつは「事件じけんの涙なみだ」『そこに寄より添そう人ひとがいれば〜清輝きよてる君くんいじめ自殺じさつと家族かぞく』。１９９４年ねんにいじめ自殺じさつした大河内おおこうち清輝きよてる君くんの家族かぞくのその後ごを描えがいたものだ。父ちち祥晴よしはるさんがいじめ自殺じさつ撲滅ぼくめつの活動かつどうを続つづける一方いっぽうで、兄あに伸しん昌あきらさんは自責じせきの念ねんから双極そうきょく性せい障害しょうがいを発症はっしょうし、事件じけんの13年ねん後ご、自みずからいのちを絶たつ。弟おとうとの洋よう典のりさんは「壊こわれてしまった家族かぞくから距離きょりを置おいて人生じんせいをリセットした」という。大河内おおこうち家かの誰だれもが「なぜ」という問といとともに「どうすればよかったのか」と自みずからに問とい続つづける25年ねんである。

強つよい意思いしで医師いし幇助ほうじょ自殺じさつを遂行すいこうした小島こじまミナさんと、執拗しつようないじめや自責じせきの念ねんから自殺じさつに追おい込こまれた大河内おおこうち清輝きよてる君くんと伸しん昌あきらさんでは、「選択せんたく」の有無うむで異ことなると了解りょうかいできるだろうか。「なぜ？」という問といに、メディアやＳＮＳは、教育きょういくは、どんな「答こたえ」を用意よういしてしまうのだろうか。

■PDFファイル

■関連かんれんページ