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土居喜久子
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土居どい 喜久子きくこ

どい・きくこ


・大分おおいた県けん
・日本にっぽんＡＬＳ協会きょうかい大分おおいた県けん支部しぶ・副ふく支部しぶ長ちょう

◆土居どい 巍たかし・土居どい 喜久子きくこ　19980410　『まぶたでつづるＡＬＳの日々ひび』，白水しろみず社しゃ，230p.　ISBN-10: 456004953X　ISBN-13: 978-4560049532　\1890　［amazon］／[kinokuniya]　※　als　c07　n02

◆1995/11/26　日本にっぽんＡＬＳ協会きょうかい大分おおいた県けん支部しぶ発足ほっそく　結成けっせい大会たいかい
　於：大分おおいた県立けんりつ病院びょういん講堂こうどう
◆1996/04/14　ズームアップ九州きゅうしゅう「まぶたで綴つづる手紙てがみ――難病なんびょうＡＬＳと闘たたかい生いきる」 　ＮＨＫ大分放送局おおいたほうそうきょく　放映ほうえい
◆1996/07/07　ＮＨＫにっぽん点描てんびょう「ただ二に人にん――まばたきで綴つづる手記しゅき」

　

◆土居どい 巍たかし・土居どい 喜久子きくこ　19980410　『まぶたでつづるＡＬＳの日々ひび』
　白水しろみず社しゃ，230p.，1800　※

命いのちを大切たいせつに生いきたい
一いち　一いち日にちに一本いっぽんずつ、指ゆびの力ちからが抜ぬけていく　発病はつびょう
二に　生いきるんだ、生いきなくてはだめだ　入院にゅういん
三さん　もっとことばを　目めで打うつワープロの導入どうにゅう
四よん　毎日まいにちが死しと隣となり合あわせ　病院びょういん生活せいかつ
五ご　やっぱり家いえはいい　帰宅きたくと外出がいしゅつの日々ひび
六ろく　みなさん、がんばりましょう　日本にっぽんＡＬＳ協会きょうかい大分おおいた県けん支部しぶの結成けっせい
七なな　お元気げんきですか　ワープロでの交流こうりゅう
八はち　踊おどりを生いきがいとして　日舞にちぶと私わたし
九きゅう　今年ことしもツバメがやってきた　ＮＨＫ取材しゅざいと放映ほうえい
十じゅう　ゆきちゃん、おはよう　姪めいが来きてくれた
あとがき
神経しんけい難病なんびょう、ＡＬＳについて　永松ながまつ啓あきら爾なんじ
主治医しゅじいのみた土居どい喜久子きくこさん　山本やまもと真しん　219-230

◇1991/01/28

　「大分おおいたで一番いちばん権威けんいある神経しんけい内科ないかの先生せんせいを紹介しょうかいされて、診察しんさつを受うけたのが平成へいせい二に年ねん五ご月がつ十じゅう四よん日にちでした。
　一人ひとりで行おこなったので詳くわしくは話はなされませんでしたが、「お気きの毒どくですが、宝たからくじに当あたったと思おもってがんばるように」と言いわれ、何なにが何なんだ分わからないまま、ただ事ごとではないと直観ちょっかんしました。
　後日ごじつ、主人しゅじんが呼よび出だされてお話はなしありました。」（土居どい・土居どい［1998:112］）

　「平成へいせい三さん年ねん一いち月がつ二に十じゅう八はち日にち、ついに精せいも根ねも尽つき果はてて入院にゅういんの決意けついをしました。
　朝あさから呼吸こきゅうの苦くるしさが波打なみうつように繰くり返かえし、死しぬに死しねない苦くるしみでした。
　その三さん日にち前まえ、山本やまもと先生せんせいと看護かんご婦ふさんが往診おうしんに見みえました。少すこし風邪かぜ気味ぎみだから病院びょういんで検査けんさしましょうと言いわれましたが、私わたしはいやだという合図あいずを送おくりました。
　先生せんせいは、「生いきるんだ、生いきなくてはだめだ」と厳きびしい声こえで言いうやいなや私わたしを抱いだきかかえ、私わたしは車くるまに乗のせられてしまったのです。あらん限かぎりの力ちからを振ふりしぼって抵抗ていこうしましたが、あっと（p.35）いう間あいだの出来事できごとでした。
　私わたしが生せいを受うけてはじめての入院にゅういんの夜よるは、不安ふあんと体からだの痛いたさとで絶望ぜつぼうのどん底ぞこでした。」（土居どい・土居どい［1998:35-36］）

　「平成へいせい三さん年ねん一いち月がつ二に十じゅう八はち日にち夕刻ゆうこく、呼吸こきゅう困難こんなんに陥おちいり急遽きゅうきょ入院にゅういんしたのですが、その前々まえまえ日びにこちら大分おおいた協和きょうわ病院びょういんの山本やまもと先生せんせいが往診おうしんにいらして、「少すこし風邪かぜ気味ぎみだから検査けんさしに病院びょういんに行いこう」と言いわれましたので、私わたしは、いやだと全身ぜんしんの力ちからをふりしぼり、抵抗ていこうしましたが、先生せんせいは「生いきるんだ、生いきなくてはだめだ」とすさまじい声こえで言いわれるやいなやさっと私わたしを抱かかえて車くるまに乗のせ、アッという間あいだの出来事できごとでしたが、今いまも「生いきるんだ、生いきなくてはだめだ」というこの一言ひとことが強烈きょうれつに耳みみに残のこり、生いきる支ささえになっています。」（土居どい・土居どい［1998:164］）

◇1991/05/15

　「五ご月がつ十じゅう五ご日にち、私わたしは妻つまの呼吸こきゅう停止ていしに気きづかず、一大事いちだいじを迎むかえることになりました。［…］ただちに口くちに酸素さんそ吸入きゅうにゅう器きが入いれられ、集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつ（ＩＣＵ）に移うつされました。…ほっとしたのもつかの間ま、酸素さんそ吸入きゅうにゅうの器具きぐをいつまでも口くちに加くわえているわけにはいきません。妻つまも苦くるしそうで、四よん六ろく時じ中口なかぐちを開あけていますので唾液だえきは流ながれっぱなしになり、顎あごもはずれそうでした。妻つまは、
　「もう限界げんかいだから、死しんでもいいからはずしてほしい」
　と必死ひっしで訴うったえてきます。山本やまもと先生せんせいは気管きかん切開せっかいの説明せつめいをしてくださいました。
　気管きかん切開せっかいをすると、呼吸こきゅうははるかに楽らくになるが、口くちからは食たべられなくなり、声こえも出でなくなる。手術しゅじゅつはさほどむずかしものではなく、心配しんぱいはいらない。同時どうじに胃いろうの手術しゅじゅつもしたほうがいい。先生せんせいのお話はなしはおおよそそういうものでした。
　生いきるか死しぬかの境さかい目めにいる妻つまを前まえに、手術しゅじゅつをするかいなか、承諾しょうだくをえたのかどうかの記憶きおくははっきりしません。けれども、妻つまが少すこしでも生いきていく手立てだてを考かんがえたら、手術しゅじゅつをするしかしないと私わたしは思おもいました。あとは成功せいこうを心しんから祈いのるのみです。
　［…］
　しかし気管きかん切開せっかいのあと、眠ねむれない夜よるが続つづきました。
　肩かたが痛いたむ、足あしも痛いたむ。首くびの痛いたみは［…］
　「息いきが止とまったとき、そのまま行いきたかった。毎日まいにち早はやく行いきたいと思おもっている」
　妻つまは文字もじ盤ばんを通とおして、そう言いいました。」（p.41）

　「五ご月がつ十じゅう五ご日にち、午前ごぜん中ちゅうだったと思おもいますが、呼吸こきゅう困難こんなんに陥おちいり、意識いしき不明ふめいになったところを外来がいらい婦長ふちょうさんが用事ようじでお見みえになり、一命いちめいをとりとめ、助たすけていただきました。
　空白くうはくの時ときが過すぎ、気きが付つきました時ときはＩＣＵにおり、口中くちじゅうには何なにやら大おおきな器具きぐが入はいっていました。［…］
　呼吸こきゅうは楽らくになりましたが、多少たしょうでも発はっしていた声こえが出でなくなり、再ふたたびショックを受うけ、死しを思おもう日々ひびでした。」（p.42）

◇神経しんけい難病なんびょう、ＡＬＳについて　大分おおいた県立けんりつ病院びょういん院長いんちょう　永松ながまつ啓あきら爾なんじ　pp.207-218

▽「疑うたがいとした場合ばあい、これを確実かくじつにする検査けんさ法ほうなど存在そんざいしない現在げんざいでは、あとは経過けいかを観察かんさつする以外いがいに方法ほうほうはない。多おおくの医師いしはこの時期じき、自分じぶんの診断しんだんを信しんじつつも誤診ごしんである新あたらしい証拠しょうこになる現象げんしょうが出現しゅつげんすればどんなに患者かんじゃに喜よろこんでもらえることかと祈いのりつつ、複雑ふくざつ、不安ふあんな心境しんきょうにある。また自分じぶんより優すぐれた医師いしにより決断けつだんを得えたい心境しんきょうにもなる。患者かんじゃが藁わらをもつかむ心境しんきょうであちこちの病院びょういんを走はしりまわる気持きもちに、まったく同感どうかんできる。
　しかしＡＬＳの進行しんこうは確実かくじつで具体ぐたい的てきであって［…（p.214）…］こうして診断しんだんは確かく診みとなり、この間あいだに告知こくちの重荷おもにが患者かんじゃ、家族かぞくと医師いしの間あいだに重おもくのしかかる。」（永松ながまつ［1998:214-215］△

▽「生存せいぞん期間きかんは発症はっしょうから平均へいきん六ろく十じゅうか月げつを越こえないとされ、十じゅう年ねんを越こえる例れいは誤診ごしんである可能かのう性せいが考かんがえられるほどであったが、近年きんねんでは医療いりょうの進歩しんぽ、人工じんこう呼吸こきゅう器きの普及ふきゅうにより二に五ごパーセントは五ご年ねん以上いじょう、一いち〇パーセントは十じゅう年ねん以上いじょう生存せいぞん可能かのうとなりつつある。
　昭和しょうわ四よん十じゅう年代ねんだいまでは人工じんこう呼吸こきゅう器きも普及ふきゅうしておらず、また回復かいふくの可能かのう性せいのない疾患しっかんに人工じんこう呼吸こきゅう器きを装着そうちゃくすることは意味いみのないこととされていたが、医学いがく界かいの常識じょうしきは常識じょうしきではなく、生存せいぞん率りつの向上こうじょうは、患者かんじゃの生いきる意志いしが医療いりょうの常識じょうしきの牽引けんいん力りょくになったことを示しめしている。」（永松ながまつ［1998:215］）△

▽「原因げんいんの解明かいめいされていない現在げんざい、適てき確かくな治療ちりょう法ほうは存在そんざいしないし、今日きょうまであらゆる試行錯誤しこうさくごを重かさねた治療ちりょう法ほうにも確実かくじつに有効ゆうこうといえるものはなかった。従したがって藁わらをもつかみたい患者かんじゃや家族かぞくが、特異とくいな（p.215）宗教しゅうきょう、民間みんかん療法りょうほうに貴重きちょうな財産ざいさん、時間じかん、労力ろうりょくを費ついやすことに異義いぎをとなえる資格しかくは医師いしにはない。しかしある根拠こんきょに基もとづく仮説かせつを立たて、疾患しっかんの回復かいふく、進行しんこうの停止ていし、あるいは少すこしでも進行しんこうを遅おくらせる目的もくてきの研究けんきゅうと試行しこうは、世界せかい的てき規模きぼで日夜にちや続つづけられている。」（永松ながまつ［1998:215-216］）

◇主治医しゅじいのみた土居どい喜久子きくこさん　大分おおいた協和きょうわ病院びょういん医長いちょう　山本やまもと真しん

　「この先さき、そう遠とおくない将来しょうらい、呼吸こきゅうがとまる可能かのう性せいがあります、と。巍たかしさんは何なにとか助たすけてやってほしいとおっしゃいました。」（p.225） 　（1991年ねん５月がつ15日にち　呼吸こきゅうが止とまる　人工じんこう呼吸こきゅう）「その場ばで、気管きかん内ない挿管を行おこない、集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつに運はこび込こみ、人工じんこう呼吸こきゅう器きに接続せつぞくしました。そのとき、私わたしにとって忘わすれられないメッセージを喜久子きくこさんから受うけ取とりました。目めを文字もじ盤ばんをなぞっての訴うったえは、 　「どうしてたすけた。しんだほうがよかった」」（p.225） 　ほどなくして気管きかん切開せっかい。 　「その喜久子きくこさんが変かわる日ひがやってきました。アイセンサーを使つかってワープロが使つかえるようになったのです。」（p.226）
　「初期しょきのころは、十分じゅうぶんも打うちますと目めは疲つかれ、腰こしは痛いたく、長続ながつづきするかしらと思おもいましたが、十じゅう五ご分ふん、二に十じゅう分ふんと時間じかんを延のばし、今いまでも急いそぐことがあれば、七なな時じ間あいだくらい通とおして打うてます。［…］
　ちなみに、紙かみ一いち枚まい、約やく四よん百ひゃく字じ打うちますのに二に時じ間あいだかかるというスローペースのワープロですが、少すこしでも私わたしの心しんの思おもいが通つうじ、理解りかいしてもらえたらと願ねがって打だ続つづけております。
　ワープロは、私わたしの命いのち。心しんのままに活躍かつやくしてくれるのが不思議ふしぎです。」（p.49）

　「文字もじ盤ばんでは表現ひょうげんしえないことばの数々かずかず、文字もじに表あらわして感謝かんしゃとお礼れいのことばを打うてた日ひの喜よろこびは、今いまも脳裏のうりから離はなれません。」（本田ほんだ昌義まさよしへの手紙てがみより　p.51）

　「平成へいせい七なな年ねん大晦日おおみそか［…］その夜更よふけ午前ごぜん一いち時じ前まえ、呼吸こきゅう器きのつなぎ目めがはずれ、アラーム鳴なり続つづけども、側がわに寝ねている主人しゅじんは深ふかい眠ねむりについてしまい、起おきてくれません。
　巡回じゅんかいには一時いちじ間あいだあまりあり、もうだめだと意識いしきの薄うすれゆく中なか、思おもい出だす方々かたがたにお礼れいを述のべ、どのくらいの時ときが過すぎたころか、うっすら目めを開あけると、看護かんご婦ふさんが「土居どいさん、大丈夫だいじょうぶ」と覗のぞきこむ姿すがたが見みえ、徐々じょじょに意識いしきが回復かいふくしてくると、当直とうちょくの先生せんせい、看護かんご婦ふさん二に人にんの姿すがたがあり助たすけられたことがわかりました［…］。」（p.57）この後のち、ナースセンターにつながるリモート・アラームをつける。

　199206日帰ひがえり帰宅きたく。「「お家いえに帰かえってみませんか」という先生せんせいのお言葉ことばに、私わたしは一瞬いっしゅんわが耳みみを疑うたがいました。なぜなら呼吸こきゅう器きにつながられた身みでは、外そとどころか、病室びょうしつからも出でられないと信しんじこんでいましたから。
　夢ゆめのようなお話はなしに心しんは舞上まいあがり［…］」（p.74）

　
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■立岩たていわ『ＡＬＳ――不動ふどうの身体しんたいと息いきする機械きかい』における引用いんよう・言及げんきゅう

　［115］土居どい喜久子きくこが症状しょうじょうを自覚じかくしたのは一いち九きゅう九きゅう〇年ねん二に月がつ。五月ごがつ十じゅう四よん日にち大分おおいた県立けんりつ病院びょういん神経しんけい内科ないかで十じゅう万まん人にんに一人ひとりのたいへん難むずかしい病気びょうきですという診断しんだんを受うけ、夫おっとの巍たかしには筋すじ萎縮いしゅく性せい側がわ索さく硬化こうか症しょうという病名びょうめいが告つげられた（土居どい・土居どい［1998:220-221］）「大分おおいたで一番いちばん権威けんいある神経しんけい内科ないかの先生せんせいを紹介しょうかいされて、診察しんさつを受うけたのが平成へいせい二に年ねん五ご月がつ十じゅう四よん日にちでした。／一人ひとりで行おこなったので詳くわしくは話はなされませんでしたが、「お気きの毒どくですが、宝たからくじに当あたったと思おもってがんばるように」と言いわれ、何なにが何なんだ分わからないまま、ただ事ごとではないと直観ちょっかんしました。／後日ごじつ、主人しゅじんが呼よび出だされてお話はなしありました。」（土居どい・土居どい［1998:112］）
　［175］土居どい巍たかしは一いち九きゅう九きゅう一いち年ねん、妻つまの土居どい喜久子きくこのことについて主治医しゅじいから話はなしを聞きいている。五月ごがつ十じゅう五ご日にち「の何なん日にちか前まえ、巍たかしさんとお話はなししています。この先さき、そう遠とおくない将来しょうらい、呼吸こきゅうがとまる可能かのう性せいがあります、と。巍たかしさんは何なにとか助たすけてやってほしいとおっしゃいました。」（山本やまもと［1998:225］、当時とうじ大分おおいた協和きょうわ病院びょういん医長いちょう）
　［176］一いち九きゅう九きゅう一いち年ねん「五ご月がつ十じゅう五ご日にち、私わたしは妻つまの呼吸こきゅう停止ていしに気きづかず、一大事いちだいじを迎むかえることになりました。［…］ただちに口くちに酸素さんそ吸入きゅうにゅう器きが入いれられ、集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつ（ＩＣＵ）に移うつされました。…ほっとしたのもつかの間ま、…酸素さんそ吸入きゅうにゅうの器具きぐをいつまでも口くちにくわえているわけにはいきません。妻つまも苦くるしそうで、四よん六ろく時じ口こうを開あけていますので唾液だえきは流ながれっぱなしになり、顎あごもはずれそうでした。妻つまは、／「もう限界げんかいだから、死しんでもいいからはずしてほしい」／と必死ひっしで訴うったえてきます。山本やまもと先生せんせいは気管きかん切開せっかいの説明せつめいをしてくださいました。／気管きかん切開せっかいをすると、呼吸こきゅうははるかに楽らくになるが、口くちからは食たべられなくなり、声こえも出でなくなる。手術しゅじゅつはさほどむずかしいものではなく、心配しんぱいは要いらない。同時どうじに胃いろうの手術しゅじゅつもしたほうがいい。先生せんせいのお話はなしはおよそそういうものでした。／生いきるか死しぬかの境さかい目めにいる妻つまを前まえに、手術しゅじゅつをするかいなか、承諾しょうだくをえたのかどうかの記憶きおくははっきりしません。けれども、妻つまが少すこしでも生いきていく手立てだてを考かんがえたら、手術しゅじゅつをするしかないと私わたしは思おもいました。あとは成功せいこうを心しんから祈いのるのみです。」（土居どい・土居どい［1998:40］）
　［200］「その場ばで、気管きかん内ない挿管を行おこない、集中しゅうちゅう治療ちりょう室しつに運はこび込こみ、人工じんこう呼吸こきゅう器きに接続せつぞくしました。そのとき、私わたしにとって忘わすれられないメッセージを喜久子きくこさんから受うけ取とりました。目めを文字もじ盤ばんをなぞっての訴うったえは、／「どうしてたすけた。しんだほうがよかった」」（土居どい・土居どい［1998:225］）
　［265］土居どい喜久子きくこ［115］。大分おおいた協和きょうわ病院びょういん。「平成へいせい七なな年ねん大晦日おおみそか［…］その夜更よふけ午前ごぜん一いち時じ前まえ、呼吸こきゅう器きのつなぎ目めがはずれ、アラーム鳴なり続つづけども、側がわに寝ねている主人しゅじんは深ふかい眠ねむりについてしまい、起おきてくれません。／巡回じゅんかいには一時いちじ間あいだあまりあり、もうだめだと意識いしきの薄うすれゆく中なか、思おもい出だす方々かたがたにお礼れいを述のべ、どのくらいの時ときが過すぎたころか、うっすら目めを開あけると、看護かんご婦ふさんが「土居どいさん、大丈夫だいじょうぶ」と覗のぞきこむ姿すがたが見みえ、徐々じょじょに意識いしきが回復かいふくしてくると、当直とうちょくの先生せんせい、看護かんご婦ふさん二に人にんの姿すがたがあり助たすけられたことがわかりました［…］。」（土居どい・土居どい［1998:57］）この後のち、病院びょういんではナースセンターにつながるリモート・アラームをつけることになる。
　［288］土居どい喜久子きくこは呼吸こきゅう器きをつけられたとき、文字もじ盤ばんで「どうしてたすけた」と伝つたえた人ひとだが［200］、大分おおいた協和きょうわ病院びょういんに入院にゅういんして一いち年ねんがたった一いち九きゅう九きゅう二に年ねん六ろく月がつに日帰ひがえりで帰宅きたくする。「「お家いえに帰かえってみませんか」という先生せんせいのお言葉ことばに、私わたしは一瞬いっしゅんわが耳みみを疑うたがいました。なぜなら呼吸こきゅう器きにつながられた身みでは、外そとどころか、病室びょうしつからも出でられないと信しんじこんでいましたから。／夢ゆめのようなお話はなしに心しんは舞上まいあがり［…］」（土居どい・土居どい［1998:74］） 　［306］土居どい喜久子きくこ［288］。文字もじ盤ばんを使つかっていたが、瞬まばたきで入力にゅうりょくするワープロを使つかうようになる。「初期しょきのころは、十分じゅうぶんも打うちますと目めは疲つかれ、腰こしは痛いたく、長続ながつづきするかしらと思おもいましたが、十じゅう五ご分ふん、二に十じゅう分ふんと時間じかんを延のばし、今いまでも急いそぐことがあれば、七なな時じ間あいだくらい通とおして打うてます。［…］／ちなみに、紙かみ一いち枚まい、約やく四よん百ひゃく字じ打うちますのに二に時じ間あいだかかるというスローペースのワープロですが、少すこしでも私わたしの心しんの思おもいが通つうじ、理解りかいしてもらえたらと願ねがって打だ続つづけております。／ワープロは、私わたしの命いのち。心しんのままに活躍かつやくしてくれるのが不思議ふしぎです。」（土居どい・土居どい［1998:49］）「文字もじ盤ばんでは表現ひょうげんしえないことばの数々かずかず、文字もじに表あらわして感謝かんしゃとお礼れいのことばを打うてた日ひの喜よろこびは、今いまも脳裏のうりから離はなれません。」（本田ほんだ昌義まさよしへの手紙てがみより、土居どい・土居どい［1998:51］）


※おことわり
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・作成さくせい：立岩たていわ 真しん也
・更新こうしん：20011128,20021011,15,20030107,0409,12,14
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