6月がつも下旬げじゅんに差さし掛かかり、気温きおんが高たかくなる日ひが増ふえてきました。本格ほんかく的てきな夏なつを迎むかえる前まえに熱中ねっちゅう症しょう予防よぼうについて再さい確認かくにんしておきましょう。今回こんかいは、U-23日本にっぽん代表だいひょうのチームドクターも務つとめる福島ふくしま理り文ぶん先生せんせい（日本にっぽんサッカー協会きょうかい［JFA］医学いがく委員いいん会かいスポーツ救命きゅうめい部ぶ会員かいいん／順天堂大学じゅんてんどうだいがく医学部いがくぶ循環じゅんかん器き内ない科学かがく講座こうざ）に熱中ねっちゅう症しょうの危険きけん性せいと予防よぼう・対策たいさくについて聞ききました。

重要じゅうようなのは予防よぼう！熱中ねっちゅう症しょうにならないために正ただしい知識ちしきと対策たいさくを

湿度しつどにも注意ちゅうい、気温きおんが高たかくなくても熱中ねっちゅう症しょうの危険きけん性せい

Q：熱中ねっちゅう症しょうにはどのような症状しょうじょうが見みられますか？

福島ふくしま：熱中ねっちゅう症しょうは「熱ねつ失神しっしん」「熱ねつけいれん」「熱ねつ疲労ひろう」「熱射病ねっしゃびょう」に分類ぶんるいされますが、別々べつべつの病気びょうきではなく、連続れんぞくしたひとつの病気びょうきです。それぞれ段階だんかいに応おうじて重症じゅうしょう度どが分わけられています。軽症けいしょう（Ⅰ度ど）、中等ちゅうとう症しょう（Ⅱ度ど）、重症じゅうしょう（Ⅲ度ど）に分類ぶんるいするのが一般いっぱん的てきです。症状しょうじょうが軽かるいからといって放置ほうちすると悪化あっかする危険きけん性せいがあります。体調たいちょうの異変いへんに気付きづいたら、少すこしでも早はやく水分すいぶんを補給ほきゅうし、涼すずしい場所ばしょに移動いどうして休息きゅうそくを取とるなど適切てきせつな処置しょちをとらなければなりません。熱中ねっちゅう症しょうの応急おうきゅう処置しょちについても確認かくにんし、熱中ねっちゅう症しょうの疑うたがいがあるときにはすぐ対応たいおうできるよう準備じゅんびしておきましょう。

Q：どうして熱中ねっちゅう症しょうになってしまうのでしょうか？

福島ふくしま：通常つうじょう、暑熱しょねつ環境かんきょう下かや運動うんどうによって体温たいおんが上あがると、私わたしたちの体からだは熱ねつを放出ほうしゅつして体温たいおんを下さげようと働はたらきます。この体温たいおん調整ちょうせい機能きのうの代表だいひょう的てきなものが「発汗はっかん」です。皮膚ひふ表面ひょうめんの汗あせが蒸発じょうはつするときに気化きか熱ねつとして体からだの熱ねつが奪うばわれ、体温たいおんを下さげることができます。ところが、汗あせが蒸発じょうはつしにくい環境かんきょう、つまり湿度しつどが高たかい、風ふうが弱よわいといった状況じょうきょう下かではこの調整ちょうせい機能きのうがうまく働はたらかず、体内たいないに熱ねつがこもってしまいます。それによって熱中ねっちゅう症しょうにかかりやすくなります。

Q：熱中ねっちゅう症しょうの環境かんきょう要因よういんを測はかるものに「WBGT（湿しめ球たま黒くろ球だま温度おんど）」があり、『JFA熱中ねっちゅう症しょう対策たいさくガイドライン』でも指標しひょうとなっています。WBGTについて教おしえてください。

福島ふくしま：WBGTは、一般いっぱん的てきに「暑あつさ指数しすう」と呼よばれ、熱中ねっちゅう症しょう予防よぼうの目安めやすとなります。「人体じんたいの熱ねつ収支しゅうし＝私わたしたちの体からだと外気がいきとの熱ねつのやりとり」に大おおきな影響えいきょうを及およぼす「湿度しつど」「日射にっしゃ・輻射ふくしゃなど周辺しゅうへんの熱ねつ環境かんきょう」「気温きおん」を総合そうごう的てきに取とり入いれた値ねで、これが“汗あせの蒸発じょうはつしやすさ”の指標しひょうとなります。

日本にっぽんスポーツ協会きょうかい（JSPO）は、「熱中ねっちゅう症しょう予防よぼう運動うんどう指針ししん」において、WBGTが28℃以上いじょうのときは激はげしい運動うんどうを避さける、31℃以上いじょうになった場合ばあいには運動うんどうを原則げんそく中止ちゅうしするよう求もとめています。JFA の熱中ねっちゅう症しょう対策たいさくガイドラインもこれに則のっとって策定さくていされたものです。今年ことし5月がつにガイドラインを改正かいせいしましたので『熱中ねっちゅう症しょう対策たいさくガイドライン改正かいせいについて』も確認かくにんしておきましょう。

暑あつさ指標しひょうを測はかるWBGT計けい。特とくに31℃以上いじょうでは、皮膚ひふより外気がいきの温度おんどの
方かたが高たかくなることで体からだから熱ねつを逃にがすことができない危険きけんな状況じょうきょうとなる

気温きおんが30℃以下いかでも、湿度しつどが60％を超こえると熱中ねっちゅう症しょうで亡なくなる人ひとが増ふえるというデータが出でています。WBGTが31℃以上いじょうでもやむを得えず試合しあいを行おこなわなくてはならない場合ばあいは、熱中ねっちゅう症しょう対策たいさくガイドラインに則のっとってサッカー活動かつどうを行おこなうようにしてください。

こまめな水分すいぶん補給ほきゅうとクーリングで効果こうか的てきに予防よぼうを

Q：水分すいぶん補給ほきゅうで心掛こころがけることはありますか。

福島ふくしま：水分すいぶん補給ほきゅうは、熱中ねっちゅう症しょう予防よぼうにおいてとても重要じゅうようです。暑熱しょねつ環境かんきょうで激はげしい運動うんどうをすると、大量たいりょうの発汗はっかんによって、水分すいぶんのほかにナトリウムやカリウム、マグネシウムといったミネラルも失うしなわれます。ミネラルが失うしなわれた状態じょうたいで水みずだけを摂取せっしゅすると体内たいないの塩分えんぶん濃度のうどが低下ていかし、低ていナトリウム血ち症しょうに陥おちいる危険きけんがあります。また、ナトリウム不足ふそくは意識いしき障害しょうがいを、筋肉きんにくの収縮しゅうしゅくに関与かんよしているカリウムやマグネシウムが不足ふそくすると筋すじけいれんなどを起おこします。運動うんどう時じはエネルギーも消費しょうひしていますので、ミネラルや糖分とうぶんを含ふくむスポーツドリンクや経口けいこう補ほ水すい液えきで水分すいぶん補給ほきゅうを行おこなうことが必要ひつようです。

喉のどが渇かわいたと感かんじたときには、すでに体からだが水分すいぶん不足ふそくに陥おちいっている可能かのう性せいがあります。夏場なつばは運動うんどう時じにかかわらず、常つねに水分すいぶん補給ほきゅうできるようにしておきましょう。

Q：運動うんどう前まえに体からだを冷ひやす「プレクーリング」も効果こうか的てきでしょうか。

福島ふくしま：プレクーリングは、運動うんどう中ちゅうの過度かどの体温たいおん上昇じょうしょうを抑おさえるために行おこないます。暑熱しょねつによるパフォーマンス低下ていかを抑おさえる効果こうかもあるといわれています。プレクーリングの方法ほうほうはさまざまありますが、これら全すべてを同時どうじに取とり入いれることは難むずかしいと思おもいますので、冷却れいきゃく効果こうかが高たかいと考かんがえられる送風そうふうや冷房れいぼう、アイスタオル、手て掌てのひら冷却れいきゃくなどを組くみ合あわせて、短みじかい時間じかんで効果こうかを上あげられるように工夫くふうしてください。アイスタオルやスポンジで頭あたまや首くびなどを冷ひやすと頭あたまもスッキリしますので、集中しゅうちゅう力りょくの向上こうじょうにもつながると考かんがえられます。積極せっきょく的てきに取とり入いれることで、熱中ねっちゅう症しょう予防よぼうの効果こうかを高たかめることができます。

＜プレクーリング方法ほうほう（例れい）＞
●外部がいぶ冷却れいきゃく：アイスバス（冷水れいすい浴よく）、クーリングベスト・アイスベストの着用ちゃくよう、アイスパック、アイスタオル、ミストファン、送風そうふう、冷水れいすいシャワー、頭部とうぶ・頸部の冷却れいきゃく、手て掌てのひら冷却れいきゃくなど
●内部ないぶ冷却れいきゃく：水分すいぶん補給ほきゅう、アイススラリー（シャーベッド状じょうの氷こおり）など

暑熱しょねつ環境かんきょうで運動うんどうする際さいは、いつでも水分すいぶん補給ほきゅうできるように
しておくほか、体からだを冷ひやす環境かんきょうを整ととのえておくことも重要じゅうよう

U-23日本にっぽん代表だいひょうのAFC U23アジアカップでの取とり組くみ

Q：4～5月がつには高温こうおんのカタールでAFC U23アジアカップが開催かいさいされました。大会たいかい前まえの暑熱しょねつ順化じゅんかや選手せんしゅへの意識いしき付づけで取とり組くまれたことを教おしえてください。

福島ふくしま：カタールは暑あついので事前じぜんの暑熱しょねつ対策たいさくを行おこないました。大会たいかいの2週間しゅうかんほど前まえからなるべく発汗はっかんする程度ていどの入浴にゅうよくを行おこない、可能かのうであればサウナも入はいってもらうようにしました。その際さい、脱水だっすいにならないよう水分すいぶん摂取せっしゅを徐々じょじょに多おおくしてもらうことも必要ひつようでしたので、それにも心掛こころがけていただきました。

屋内おくないのジムなどでバイクやランニングを行おこなう際さいは少すこし通どおり気性きしょうの悪わるい服ふく（ピステ、重かさね着ぎなど）を着用ちゃくようし、30分ふん程度ていど、水分すいぶん摂取せっしゅをしながらトレーニングを行おこなってもらうようにしました。リーグのシーズン中ちゅうでしたので、あくまでもコンディションを落おとさないように注意ちゅういしてできる範囲はんいで行おこなってもらうようにしました。

Q：大会たいかいに入はいってからどのような暑熱しょねつ対策たいさく（体調たいちょう管理かんりやクーリングなど）を行おこなわれたのでしょうか。

福島ふくしま：日々ひびの体調たいちょう管理かんりがとても大切たいせつであることは言いうまでもありません。疲労ひろうや睡眠すいみん、体重たいじゅうなどのコンディションチェックを行おこない、選手せんしゅの状態じょうたいを確認かくにんするようにしました。そして練習れんしゅう、試合しあいの際さいは、必かならずWGBT値ちを測定そくていして暑熱しょねつ対策たいさくを行おこないました。暑熱しょねつ順化じゅんかのため、カタール到着とうちゃく後ごの数日すうじつは日にち中ちゅうの暑あつい環境かんきょうで練習れんしゅうを行おこなうことでしっかりと汗あせをかくようにしました。

水分すいぶん補給ほきゅうに関かんしては、ミネラルウォーターのみならずスポーツドリンクや経口けいこう補ほ水すい液えきも準備じゅんびし、小こまめに摂取せっしゅできるようにし、クーリングはアイスバス（冷水れいすい浴よく）、クーリングベスト・アイスベストの着用ちゃくよう、アイスパック、アイスタオル、ミストファン、送風そうふう、冷水れいすいシャワー、頭部とうぶ・頸部の冷却れいきゃく、手て掌てのひら冷却れいきゃくなどを取とり入いれました。

練習れんしゅう・試合しあい前後ぜんこうには体重たいじゅう測定そくていを行おこない、運動うんどう中ちゅうに減へった体重たいじゅう分ぶんの水分すいぶんを運動うんどう後ご2時間じかん以内いないに補給ほきゅうするよう促うながしました。また、脱水だっすいにならないようにすることとパフォーマンス低下ていかを来きたさないためにも、適切てきせつな水分すいぶんの補給ほきゅう量りょうは、体重たいじゅう減少げんしょうが体重たいじゅうの2％以内いないに収おさまることを目安めやすとしました。そのほか、起床きしょう時じの尿にょう比重ひじゅうを定期ていき的てきに測定そくていして脱水だっすいの評価ひょうかをし、練習れんしゅうまでの水分すいぶん摂取せっしゅを促うながすなど日々ひびのコンディション調整ちょうせいを行おこないました。

Q：そのほか熱中ねっちゅう症しょう予防よぼうで重要じゅうようなことは何なにですか。

福島ふくしま：体調たいちょうが悪わるかったり、日常にちじょう生活せいかつが乱みだれたりすると体温たいおん調整ちょうせい能力のうりょくは低下ていかし、熱中ねっちゅう症しょうのリスクも高たかまります。熱中ねっちゅう症しょう予防よぼうには、食事しょくじ、睡眠すいみん、水分すいぶん補給ほきゅうなど普段ふだんからのコンディション管理かんりがとても大切たいせつです。規則正きそくただしい生活せいかつを心掛こころがけ、夏場なつばでも楽たのしく健康けんこうにサッカー活動かつどうができるよう、サッカーファミリーみんなで予防よぼうに取とり組くんでいきましょう。

プレクーリングとしても効果こうか的てきな手て掌てのひら冷却れいきゃく

SPECIAL

「SPECIAL」とは：
サッカーに、代表だいひょうに、JFAに、もっと興味きょうみを持もってもらいたい。JFA.jpがお届とどけするスペシャルコンテンツ。

過去かこの編集へんしゅう部ぶイチオシコンテンツはこちら