サッカーという競技きょうぎで最もっともリスペクトされていないもの、それは「10ヤード・ルール」ではないでしょうか。メめートル法とるほうにすると「9・15メートル・ルール」。そうです。フリーキック（FK）のときに相手あいて側がわのプレーヤーが守まもらなければならない距離きょりです。

『サッカー競技きょうぎ規則きそく』の第だい13条じょう（フリーキック）第だい2項こう（進すすめ方かた）に、以下いかのような記述きじゅつがあります。

「ボールがインプレーになるまで、すべての相手あいて競技きょうぎ者しゃは、（中略ちゅうりゃく）少すくなくとも9・15m（10ヤード）ボールから離はなれなければならない」

小学生しょうがくせい年代ねんだいで行おこなわれている「8人にん制せいサッカー」では「7メートル」ですが、11人にん制せいでは例外れいがいなく「9・15メートル」が適用てきようされます。サッカー選手せんしゅなら、「手てでボールを扱あつかってはいけない」というルールとともに、誰だれでも知しっている距離きょりではないでしょうか。

ところが ――。誰だれもが知しっているのに、誰だれも守まもろうとしないのが、この距離きょりなのです。

反則はんそくがあってレフェリーが笛ふえを吹ふき、FKを与あたえます。すると守備しゅび側がわの選手せんしゅはまずそのボールの前まえに立たち、攻撃こうげき側がわがすばやくFKをするのを妨害ぼうがいします。攻撃こうげき側がわの選手せんしゅは「どけよ！」とばかりに手てを伸のばし相手あいてを押おします。非常ひじょうに醜みにくいシーンです。主審しゅしんが寄よってきて攻撃こうげき側がわの選手せんしゅに「離はなれて！」と注意ちゅういするとようやく離はなれていきます。

ゴール近ちかくで直接ちょくせつ得点とくてんを狙ねらう位置いちでのFKになると、この「クイックスタート防止ぼうし作戦さくせん」との組くみ合あわせで、「6～7メートルの壁かべ作戦さくせん」が展開てんかいされます。壁かべがボールに近ちかすぎるのは誰だれの目めにも明あきらかなのですが、レフェリーが下さげるまで時間じかんかせぎをするのです。

これに対たいし、現在げんざいのＪじぇいリーグでは、「バニシングスプレー」という新兵しんぺい器きが使つかわれています。1分間ふんかんで消きえて見みえなくなるというスプレーを使つかって、レフェリーがボールの位置いちをマークし、ボールから9・15メートルの距離きょりのところに線せんを引ひくのです。

この道具どうぐそのものが、ルールがいかに守まもられていないか、そしてまたプレーヤーたちがレフェリーをいかにリスペクトしていないかの証拠しょうこです。スプレーが使つかわれる以前いぜんには、レフェリーが守備しゅび側がわの選手せんしゅを9・15メートルまで下さげても、キックの前まえにじわじわと前進ぜんしんしてしまうという行為こういが横行おうこうしていました。そして攻撃こうげき側がわも、レフェリーが背せを向むけている間あいだにボールの位置いちをずらせるなど、少すこしでも有利ゆうりにしようとします。こうした姑息こそくな手段しゅだんを防止ぼうしするために、スプレーが必要ひつようになったのです。

この世よの中なかには、数すう百ひゃくとも数すう千せんともいわれるたくさんの種類しゅるいのスポーツ競技きょうぎがあります（8000という説せつもあります）。その中なかで現在げんざい、サッカーが最もっとも人気にんきのある競技きょうぎであるのは多おおくの人ひとが認みとめています。

しかしその一方いっぽうで、「サッカーは平気へいきで卑劣ひれつなことをするから嫌きらい」という人ひともたくさんいます。競技きょうぎそれぞれに独特どくとくの文化ぶんかや様式ようしきがあって当然とうぜんなのですが、サッカーでごく当然とうぜんのように行おこなわれていること、スローインのときにどんどん前まえに進すすんでしまう、FKのときに意図いと的てきに近ちかくに立たって妨害ぼうがいしたりキックを遅おくらせようとするなどの行為こういは、中なかでも多おおくの人ひとに嫌きらわれています。そうした見方みかたを、「それがサッカーの常識じょうしき」のひと言ことで無視むししていいのでしょうか。

FKの妨害ぼうがいや近ちかすぎる壁かべ、すなわち競技きょうぎ規則きそく第だい13条じょう第だい2項こうの明確めいかくな違反いはんに対たいして、レフェリーが断固だんこたる態度たいどで処罰しょばつできるよう、ルールの改正かいせいが不可欠ふかけつです。

しかしそれ以前いぜんに、プロ、アマチュアを問とわず、サッカーを愛あいし、サッカーをプレーしている人々ひとびとが、こうした行為こういが姑息こそくで卑劣ひれつで醜みにくいだけでなく、サッカーという競技きょうぎの魅力みりょくを大おおきく損そこなわせているという事実じじつをしっかりと認識にんしきしなければならないと、私わたしは考かんがえています。バニシングスプレーなどという情なさけないものに頼たよらなくても、自分じぶんたちでしっかり距離きょりを保たもつサッカーになっていかなければなりません。

「10ヤード・ルールへのリスペクト」は、これからもサッカーが人類じんるいに愛あいされ続つづけるための大おおきなカギになるのではないでしょうか。

寄稿きこう：大住おおすみ良之よしゆき（サッカージャーナリスト）

※このコラムは、公益こうえき財団ざいだん法人ほうじん日本にっぽんサッカー協会きょうかい機関きかん誌し『JFAnews』2024年ねん7月がつ号ごうより転載てんさいしています。

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