テスラ「モデルS」、世界一せかいいち激はげしい加速かそく力りょく…“内燃ないねん機関きかんを墓場はかばに叩たたき込こむ”という狂気きょうきの表あらわれか

「内燃ないねん機関きかんを墓場はかばに叩たたき込こむ」

　EV（電気でんき自動車じどうしゃ）専用せんようモデル「テスラ・モデルS」からは、そんな“狂気きょうき”が発散はっさんされているように思おもう。スタイルは均整きんせいが取とれており、全長ぜんちょう4970mm、全幅ぜんはば1964mm、全高ぜんこう1445mmという堂々どうどうとした体躯たいくを誇ほこる。穏おだやかなミドルサイズの4ドアセダンが驚愕きょうがくの動力どうりょく性能せいのうを披露ひろうするなど、微塵みじんも感かんじさせない。それなのに殺気さっきを感かんじさせるのは、この穏おだやかなセダンが世界せかいでもっとも激はげしい加速かそく力りょくを誇ほこるからなのだ。

　停止ていし状態じょうたいからアクセルペダルを床ゆかまで踏ふめば、世界せかいでも、ある1台だいのスーパースポーツカーを除のぞいて、すべてのマシンより速はやく加速かそくしてしまう。そんなことなどあるものか、もしくはあってたまるかと意固地いこじになっても、公式こうしきカタログには0-100km/hが「2.5秒びょう」と記しるされているから認みとめるしかない。

　このモデルSに対抗たいこうできるその1台だいとは、ブガッティ「シロン」である。そう、8リッターものW型がた16気筒きとうに4基きものターボチャージャーを組くみ込こんだ1500馬力ばりきのモンスターでなければ、モデルSには対抗たいこうできないのだ。だが、それでさえ0-100km/hはモデルSと同おなじ2.5秒びょうだ。

　となると、モデルSをスタートダッシュで抑おさえることが可能かのうな乗のり物ものは地上ちじょうに存在そんざいしないことになる。シロンを加くわえても、地球ちきゅう上じょうで負まけることがないのである。おそらく、地上ちじょう最速さいそくを誇ほこるF1よりも、加速かそくは上回うわまわっているに違ちがいない。戦闘せんとう機きを空母くうぼのカタパルトから発はつ艦かんでもさせないと太刀打たちうちできない。それでもモデルSの鼻先はなさきを抑おさえることができるかの確証かくしょうはない。

　なぜそんなに速はやいのか。

　モデルSに積つみ込こまれている電気でんきモーターが、驚おどろくほどのトルクを発揮はっきするからだ。エンジン回転かいてんが上昇じょうしょうするに比例ひれいして出力しゅつりょくを積つみ重かさねていく内燃ないねん機関きかんとは異ことなり、電気でんきモーターは回転かいてんを開始かいしした瞬間しゅんかんから最大さいだいパワーを発揮はっきするのが特徴とくちょうだ。これが加速かそくを有利ゆうりにする。

　前後ぜんごに2基きの電気でんきモーターを搭載とうさいした4WDであることも理由りゆうである。最大さいだいパワーを叩たたきつけても、緻密ちみつなトラクションコントロール制御せいぎょによって、パワーを余あますことなく路面ろめんに伝つたえることが可能かのうなのだ。

　つまり、モデルSが「0-100km/h＝2.5秒びょう」という地上ちじょう最速さいそく記録きろくを誇ほこるのは、とりもなおさず発進はっしんの瞬間しゅんかんの鋭するどさなのである。それが証拠しょうこに、最高さいこう速度そくどは261km/hにとどまる。それ以上いじょうの速度そくどは必要ひつようないとばかりに制限せいげんをかけている可能かのう性せいも否定ひていできないが、まさに電気でんきモーターの特性とくせいを表現ひょうげんしている。無む回転かいてんからのダッシュは強烈きょうれつなのに、その加速かそくの持続じぞく力りょくは内燃ないねん機関きかんに劣おとる。ちなみに、シロンの最さい高速度こうそくどは400km/hオーバーである。

　実際じっさいにモデルSを穏おだやかな気持きもちでドライブすると、ごく大人おとなしい乗のり味あじに驚おどろかされる。だが、ひとたびアクセルペダルを床ゆかまで踏ふみ込こむと、その加速かそくに吐はき気けがする。決けっして大袈裟おおげさではなく、体からだの血液けつえきが偏かたよるのが実感じっかんできる。

　果はたして、それほどまでの加速かそくが必要ひつようなのか。その質問しつもんをテスラ創始そうし者しゃのイーロン・マスク氏しに問といかけてみたい。だが、それは愚問ぐもんだろう。冒頭ぼうとうの“内燃ないねん機関きかんを墓場はかばに叩たたき込こむ”ための狼煙のろしに違ちがいないからだ。おそらく、こうい返いかえされるのがオチだろう。

「だったら、400km/hを超こえる速度そくどが必要ひつようか？」

（文ぶん＝木下きのした隆之たかゆき／レーシングドライバー）