ヴィレッジヴァンガードが大量たいりょう閉店へいてんしていた…なぜ斬新ざんしん性せい失うしなわれ「中途半端ちゅうとはんぱな店みせ」化か？

　ユニークな本ほんや雑貨ざっかなどを独特どくとくの陳列ちんれつ方法ほうほうで販売はんばいする「ヴィレッジヴァンガード」を運営うんえいするヴィレッジヴァンガードコーポレーションで、閉店へいてんの嵐あらしが吹ふき荒あれている。

　2014年ねん5月がつ末まつには403店てんを展開てんかいしていたが、不ふ採算さいさん店てんの閉鎖へいさを進すすめた結果けっか、19年ねん5月がつ末まつには346店てんまで減へった。この5年ねんで57店てん減へったかたちだ。ヴィレヴァンにいったい何なにが起おきているのか。

　ヴィレヴァンは「遊あそべる本屋ほんや」をキーワードに、マニアックな漫画まんがなど一般いっぱん的てきな書店しょてんが扱あつかわない本ほんを販売はんばい。雑貨ざっかや衣料いりょう品ひん、食品しょくひんも扱あつかい、品しなぞろえは豊富ほうふだ。「サブカルの聖地せいち」とも言いわれ、熱狂ねっきょう的てきなファンが多おおいことで知しられている。

　陳列ちんれつはアイテム別べつに整然せいぜんと並ならべるのではなく、異ことなるアイテムを組くみ合あわせて雑多ざったに並ならべるのが特徴とくちょうだ。地面じめん近ちかくから天井てんじょう近ちかくまで所ところ狭せましと陳列ちんれつする。POPは個性こせい的てきで、特製とくせいの黄色きいろい紙かみに「さわるな！　欲ほしくなるぞ。」といったユーモアあふれる文言もんごんが書かき込こまれている。品しなぞろえが店舗てんぽによって大おおきく異ことなるのも、ヴィレヴァンならではだろう。

　ヴィレヴァンを知しらない人ひとのために、筆者ひっしゃが先日せんじつ訪おとずれた下北沢しもきたざわ店てん（東京とうきょう都と世田谷せたがや区く）の様子ようすを紹介しょうかいしたい。同店どうてんは個性こせい的てきな店みせが軒のきを連つらねる下北沢しもきたざわに立地りっちしている。数かずあるヴィレヴァンのなかでも広ひろい売うり場ばを有ゆうしており、品しなぞろえは豊富ほうふだ。ヴィレヴァンを代表だいひょうする店舗てんぽといえるだろう。

　同店どうてんでは本ほんはテーマに沿そって陳列ちんれつする。「旅行りょこう」をテーマにしたコーナーでは、海外かいがい旅行りょこうガイドブック『地球ちきゅうの歩あるき方かた』（ダイヤモンド社だいやもんどしゃ）といった正統せいとう派はのものから、『「危あぶない」世界せかいの歩あるき方かた』（彩いろどり図ず社しゃ）や『ヒッピーの教科書きょうかしょ』（幻冬舎げんとうしゃ）といった、ややマニアックなものまで多種たしゅ多様たような旅行りょこう本ほんを並ならべていた。

　同店どうてんでは「ビール」をテーマにしたコーナーが設もうけられていた。ビールサーバーや缶かんビール冷却れいきゃく器き、タンブラーなどビールにまつわる商品しょうひんを陳列ちんれつ。ほかにも、ベーコンの缶詰かんづめといったおつまみや、ビールに合あうおつまみのレシピ本ほんなども並ならべていた。

　韓国かんこくグルメのコーナーでは韓国かんこく産さんの食品しょくひんや調味ちょうみ料りょうを陳列ちんれつ。映画えいがコーナーでは映画えいがキャラクターのプリントTてぃーシャツやポスター、おもちゃが並ならべてあった。衣料いりょう品ひんコーナーにはファッション誌しも置おいてある。同店どうてんでは、このように異ことなるアイテムを組くみ合あわせたコーナーを随所ずいしょに設もうけていた。

POS導入どうにゅうで好転こうてん

　このように異ことなるアイテムを組くみ合あわせて陳列ちんれつする手法しゅほうを「クロス・マーチャンダイジング」と呼よぶ。消費しょうひ者しゃに新あたらしい気きづきを与あたえて買かい物ものを楽たのしんでもらったり、ついで買かいを促うながすことができる手法しゅほうとして知しられている。ヴィレヴァンはクロス・マーチャンダイジングを武器ぶきに、消費しょうひ者しゃからの支持しじを獲得かくとくし、成長せいちょうを果はたしてきた。

　ヴィレヴァンは現げん会長かいちょうの菊地きくち敬一けいいち氏しが、1986年ねんに名古屋なごやで書籍しょせきや雑貨ざっかを販売はんばいする店舗てんぽを開ひらいたのが始はじまりだ。郊外こうがいロードサイドを中心ちゅうしんに出店しゅってんを重かさねたが、00年ねんごろから商業しょうぎょう施設しせつ内ないへの出店しゅってんを加速かそく。それまでのメインターゲットは20代だいを中心ちゅうしんとした若者わかものだったが、商業しょうぎょう施設しせつ内ないの店舗てんぽが増ふえたことでファミリー層そうへマーケットが拡大かくだいした。

　商業しょうぎょう施設しせつ内ないへの出店しゅってんが功こうを奏そうし、00年代ねんだいは08年ねん9月がつのリーマン・ショックまでは既存きそん店てん売上うりあげ高だかが好調こうちょうに推移すいい。01年ねん3月がつから08年ねん8月がつまで90カ月かげつ連続れんぞくで前年ぜんねんを上回うわまわったほどだ。だが、それ以降いこうは苦戦くせんするようになる。既存きそん店てん売上うりあげ高だかはマイナス傾向けいこうに転てんじてしまったのだ。

　そこでヴィレヴァンはさまざまな対策たいさくを試こころみ、事態じたいの打開だかいを図はかった。なかでもPOS（販売はんばい時点じてん情報じょうほう管理かんり）を取とり入いれた販売はんばい戦略せんりゃくへの転換てんかんが功こうを奏そうした。

　従来じゅうらいは品しなぞろえなどの権限けんげんを店長てんちょうに大幅おおはば委譲いじょうし、店長てんちょうの個性こせいや判断はんだんを売うり場ばに大おおきく反映はんえいさせる販売はんばい戦略せんりゃくをとっていた。それにより独創どくそう的てきな売うり場ばを構築こうちくすることに成功せいこうした。ただ、店長てんちょうの勘かんや経験けいけんに頼たよった販売はんばいには弊害へいがいもあった。

　大おおきな弊害へいがいとなったのが「過剰かじょう在庫ざいこ」だ。落おち込こんだ売うり上あげを回復かいふくさせようと在庫ざいこを極端きょくたんに増ふやしてしまい、過剰かじょう在庫ざいこが生しょうじるようになった。これにより、どの店舗てんぽも品しなぞろえが似通にかよってしまい、店みせの個性こせいが薄うすれてしまったのだ。

　そこでヴィレヴァンはPOSを導入どうにゅう。データに基もとづいた発注はっちゅうや品しなぞろえを実現じつげんし、改善かいぜんを試こころみた。これが功こうを奏そうし、適正てきせいな在庫ざいこ量りょうで魅力みりょく的てきな売うり場ばを構築こうちくできるようになり、15年ねん5月がつ期きは既存きそん店てん売上うりあげ高だかが好調こうちょうに推移すいいした。

　ヴィレヴァンはこれを機きに反転はんてん攻勢こうせいに打うって出でたいところだった。しかし、これだけでは厳きびしい状況じょうきょうから脱だっすることはできなかった。

　15年ねん5月がつ期きごろからは不ふ採算さいさん店てんの大量たいりょう閉鎖へいさも断行だんこうした。この期きを境さかいに店舗てんぽ数すうは減少げんしょう傾向けいこうに転てんじる。14年ねん5月がつ末まつの店舗てんぽ数すうは403店てんだったが、1年ねん後ごの15年ねん5月がつ末まつには388店てんにまで減へった。以降いこうも減少げんしょうが続つづく。

「コト消費しょうひ」で販売はんばい促進そくしんを図はかる

　ヴィレヴァンの業績ぎょうせきは厳きびしい状況じょうきょうが続つづいている。19年ねん5月がつ期き連結れんけつ決算けっさんは、売上うりあげ高だかが前期ぜんき比ひ0.9％減げんの338億おく円えん、純じゅん利益りえきは17.0％減げんの1億おく8800万まん円えんと減収げんしゅう減益げんえきだった。減収げんしゅうは3年ねん連続れんぞく。純じゅん損益そんえきはこの7年ねんで4回かいも赤字あかじに陥おちいっている。

　不振ふしんの大おおきな要因よういんは、時代じだいの進展しんてんでヴィレヴァンの斬新ざんしん性せいが薄うすれたことと、ターゲット層そうが限かぎられていたことだ。

　ヴィレヴァンの雑多ざったな陳列ちんれつや独特どくとくのPOPは、かつては斬新ざんしんだった。しかし、今いまとなっては珍めずらしいものではなくなっている。特とくにディスカウント店てん「ドン・キホーテ」の台頭たいとうが大おおきいだろう。品しなぞろえはヴィレヴァンのほうがややマニアックで本ほんの割合わりあいが大おおきいという違ちがいがあるが、それ以外いがいでは大おおきな違ちがいがない。一方いっぽうで商品しょうひんの陳列ちんれつ量りょうはドンキが圧倒あっとうしており、それを武器ぶきに店舗てんぽ数すうを増ふやしていった。こうしてドンキの存在そんざい感かんは増ましていった一方いっぽう、ヴィレヴァンの斬新ざんしん性せいや存在そんざい感かんは低下ていかしていった。

　ターゲット層そうが限かぎられていることも大おおきい。ヴィレヴァンはマニアックなだけにターゲットは限かぎられている。もちろん、マニアックなものを好このむ層そうは一定いってい程度ていど存在そんざいするが、本格ほんかく的てきなマニアは、アニメ専門せんもん店てん「アニメイト」などヴィレヴァンを上回うわまわるマニアックな店みせに行いく。そのため、ヴィレヴァンを好このむ層そうのボリュームはそう大おおきくはない。また、ヴィレヴァンは商業しょうぎょう施設しせつ内ないの店舗てんぽが増ふえ、ターゲットがファミリー層そうに拡大かくだいしたが、こうした層そうとマニアックな商品しょうひんの相性あいしょうは良よいとはいえない。売うり場ばを見みて回まわって楽たのしむ人ひとは多おおいだろうが、購買こうばいとなるとまた別べつだ。

　こうしたことから、ヴィレヴァンの店舗てんぽ数すうは飽和ほうわに達たっしたと判断はんだんすべきだろう。さらなる成長せいちょうを果はたすには、従来じゅうらいにはない斬新ざんしんな施策しさくが求もとめられる。そこで近年きんねん、力ちからを入いれているのが「コト消費しょうひ」だ。単たんにマニアックなものを売うるだけでは立たち行ゆかなくなっており、店内てんないライブやトークショーなどのイベントを開催かいさいしたり、期間きかん限定げんてい店てんを出店しゅってんするなどしてコト消費しょうひを喚起かんきし、販売はんばいを促進そくしんしている。

　今期こんき（20年ねん5月がつ期き）は約やく4000件けんのイベントを開催かいさいする。こうした施策しさくでかつての輝かがやきを取とり戻もどしたい考かんがえだ。
（文ぶん＝佐藤さとう昌司しょうじ／店舗てんぽ経営けいえいコンサルタント）