本日、昭和の日からゴールデン・ウィークが始まりました。とはいえ、NHKでは「ゴールデン・ウィーク」とは言わずに、「大型連休」と呼んでいるのはなぜでしょうか。
調べてみると、「ゴールデン・ウィーク」は映画の宣伝用語だからだそうです。戦後間もなく、春の連休に公開した映画が、正月映画や夏休みの映画よりも観客の入りがよかったことに気づいた大映の常務取締役・松山英夫によって、もっと盛り上げようとつくられた言葉が「ゴールデン・ウィーク」で、映画の大作をぶつけたといわれています。昭和27年頃からは一般的な言葉としても使われ始めて現在に至っていますが、元々が宣伝用語なだけに、NHKで禁止されている「業界の宣伝(放送法第83条「広告放送禁止規定」)」に抵触するため、「大型連休」とい換えているのです。
NHKでは、宣伝につながる言葉を放送することを禁じています。会社名や商品名はもちろんですが、昨年の『紅白歌合戦』で、瑛人さんのヒット曲『香水』のサビの部分で歌われるブランド名「ドルチェ&ガッバーナ」が使えるのか否かと話題になったことは記憶に新しいところです。以前にも、元アイドル歌手の松本伊代さんの歌う『センチメンタルジャーニー』の中の「伊代はまだ16だから」という歌詞が、自分自身を広告しているのではないかと問題となって、NHKでは「私はまだ16だから」と歌っていたそうです。実際のところ、歌詞の中に自分の名前を入れようと入れまいと、あまり関係がないとは思いますが、それほどNHKは”宣伝行為”にナーバスなのだといえます。
ただ、最近では民放でも「ゴールデン・ウィーク」という言葉が、あまり使われない傾向にあるようです。特に昨年、今年と、日本中が我慢を強いられているので、「ゴールデン・ウィーク=黄金週間」は少し不謹慎かもしれないとの考えからか、民放のみならず新聞社等でも「大型連休」と呼ぶようになっています。
実は、1970年代の石油ショックの際にも「ゴールデン・ウィーク」という言葉の危機があったそうですが、それよりも現在は土曜日も休日となっていることもあり、大型連休は1週間を超えるので、「黄金週間」では言葉的に正確ではないとの意図もあるようです。
音響も世界一、黄金のホール
ところで、新宿にある飲み屋街を「ゴールデン街」と名付けたり、古くは将軍・足利義満が「金閣寺=ゴールデン・テンプル」を建立するなど、日本人もゴールドが好きなことがよくわかります。海外でも、やはりゴールドが時代を超えて多くの人々を魅了してきたことは確かで、オーケストラの世界でも「ゴールドといえばここ」というようなコンサートホールがあるのです。
それは、世界的にも有名なウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地であるウィーン楽友協会大ホール、通称「金のホール」です。僕もウィーンに留学して初めてこの金のホールに足を踏み入れた時には大いに驚きました。正直、しばらく見ていたら目が疲れてしまうほど、壁から天井まで金色で覆われており、金色がない部分も絵画が描かれているという、豪華絢爛なコンサートホールです。この場所で元旦に行われるのが、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサート。日本でも生中継されるので、来年の元旦には是非観てみてください。
音響も世界で一番ともいわれている、1870年竣工の同ホールですが、当時はウィーンを首都としたハプスブルク家の皇帝フランツ・ヨーゼフ一世が君臨し、オーストリアは繁栄を続けていたので、こんな膨大な建築費がかかるホールをつくることができたのでしょう。日本でも、室町幕府が繁栄を極めていた時期に足利義満が金閣寺を建て、日本を統一して最高権力を握った豊臣秀吉が金の茶室をつくったのと同じく、世界中のどこの権力者も、金の建造物をつくりたがるのかもしれません。
そんななか、オーストリアの繁栄とともに当時の作曲家たちも、どんどん作品の規模が巨大化していきます。19世紀末のオーケストラは、とうとうベートーヴェン時代の2倍以上の数の楽器がステージ上に並ぶ状態になりました。オーケストラは楽器が増えれば増えるほど費用がかかるので、単純に考えてベートーヴェンの曲を演奏する2倍以上のお金が必要になりますが、国の繁栄がそれを支えていたのです。
なかでもマーラーのスケールの大きさは、2倍、3倍といった程度ではありません。初演はドイツでしたが、交響曲第8番はオーケストラだけでなく、ソリスト歌手や合唱団を含めると総計1030名がステージにひしめき合って、壮大な演奏をしたのです。今でも、オーケストラにとっては20年に一度演奏できるかどうかの莫大なお金がかかる交響曲ですが、1911年のマーラーの死後のウィーンでは、1年足らずの間に13回も演奏したそうで、当時の繁栄ぶりには驚くばかりです。
純金でつくられた楽器がある?
余談ですが、金(ゴールド)といえば、オーケストラの楽器のなかでトランペットやトロンボーンは金管楽器と呼ばれています。しかし、実際には金ではなく、銅と亜鉛の合金である黄銅(真鍮)によってできています。ですから「真鍮管楽器」といったほうが正確で、英語ではブラス(=真鍮)と呼ばれています。仮に、トランペット奏者がお金に困って、金の買い取り業者のところに行って楽器を売ろうとしても、体よく追い返されるだけでしょう。
ほとんどの楽器は、材料自体にはそれ程の価値はなく、たとえば、何億円もの値段がつくストラディヴァリウスのヴァイオリンであっても、世界的メーカーの高額なクラリネットやオーボエであっても、実際には単なる木材なので、材質だけでは一文にもなりません。
そんななかでひとつだけ、材質に価値がある楽器があります。それはフルートです。一般的には銀でできており、それだけでも価値は高いわけですが、音質の良さを追求していくうちに、金でつくったフルートまで出現しました。値段に合わせて、9金、14金、18金と純度が上がっていきますが、なんと24金、つまり100%純金のフルートもあります(実際には、チタン等を混ぜて補強しています)。元来は木製の楽器だったフルートですが、なかにはプラチナのフルートまであるのです。
金のフルートは、今や音楽大学でも持っている学生がいるくらいポピュラーになっています。ちなみに、高価な金のフルートを親にねだって買ってもらった、僕の音楽大学時代の友人などは、少しでも練習をさぼっていると親から「練習しないのだったら、そのフルートを輪切りにして、指輪にして売りさばくよ」と、よく叱られていたそうです。
さて、今年のゴールデン・ウィークは昨年に引き続き、家でゆっくりされる方が多いかと思います。そこで、みなさんクラシック音楽を聴くのはいかがでしょうか。YouTubeで「ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」と検索すると、金のホールでの演奏もたくさん出てきます。そのなかで僕のお薦めは、日本人だけでなくアジア人として唯一、2002年元旦のニューイヤーコンサートを指揮した小澤征爾先生の動画です(https://www.youtube.com/watch?v=UnqA9Wfap64)。この動画に映っている観客のように、無邪気に音楽を聴いていただける日が、早く訪れてほしいと思います。
(文=篠崎靖男/指揮者)