地方ちほうの高学歴こうがくれき者しゃより東京とうきょうの低てい学歴がくれき者しゃのほうが高こう年収ねんしゅうの理由りゆう…住すむ場所ばしょが左右さゆう

　年収ねんしゅうを決きめる要因よういんとして学歴がくれきは大おおきなウェイトを占しめるが、それ以上いじょうに「住すむ場所ばしょ」が重要じゅうようになると主張しゅちょうする学者がくしゃがいる。米べいカリフォルニア大学だいがくバークレー校こう教授きょうじゅで経済けいざい学者がくしゃのエンリコ・モレッティ氏しは、著作ちょさく『年収ねんしゅうは住すむところで決きまる』において、全体ぜんたい的てきに給料きゅうりょうの低ひくい都市としの高学歴こうがくれき者しゃより、給料きゅうりょうの高たかい都市としの低てい学歴がくれき者しゃのほうが収入しゅうにゅうが高たかくなりやすいと述のべている。つまり、高卒こうそつ者しゃや大卒だいそつ者しゃなどの学歴がくれきは問とわず、単純たんじゅんに経済けいざいが活発かっぱつな大都市だいとしに住すむだけで高たかい報酬ほうしゅうを享受きょうじゅできるというのだ。

　モレッティ氏しによると、経済けいざいが活発かっぱつ的てきな大都市だいとしはそもそも高学歴こうがくれき者しゃの割合わりあいが高たかく、その都市としで就つける仕事しごとの種類しゅるいも豊富ほうふであり、結果けっかとして稼かせぎが増ふえ、お金かねが地域ちいきに循環じゅんかんすることで都市とし全体ぜんたいの給料きゅうりょうが上あがるという。また高学歴こうがくれき者しゃが集あつまる企業きぎょうでは、低てい技能ぎのう労働ろうどう者しゃの人々ひとびとの生産せいさん性せいも高たかまったり、企業きぎょうが新あたらしいテクノロジーを導入どうにゅうしやすくなるというメリットもあり、高こう技能ぎのう労働ろうどう者しゃと低てい技能ぎのう労働ろうどう者しゃは補完ほかん的てきな関係かんけいに至いたり、結果けっかとして低てい技能ぎのう労働ろうどう者しゃの賃金ちんぎんも上あがる。これにより、都市とし間あいだの収入しゅうにゅうの比較ひかくにおいても、低てい学歴がくれき＞高学歴こうがくれきという逆転ぎゃくてん現象げんしょうが起おこるとのことである。この研究けんきゅう内容ないようは、三菱みつびしUFJ銀行ぎんこうの情報じょうほうサイト「Money Canvas」のコラムでも紹介しょうかいされており、ネット上じょうで話題わだいになっていた。

　たしかに日本にっぽんの都道府県とどうふけん別べつの年収ねんしゅうランキングを見みてみると、モレッティ氏しの提唱ていしょうする説せつは、日本にっぽんにも当あてはまる可能かのう性せいがありそうだ。転職てんしょくサービス「doda」を運営うんえいするパーソルキャリアが昨年さくねん12月がつに発表はっぴょうした「平均へいきん年収ねんしゅうランキング」によれば、1位いの東京とうきょう都とが455万まん円えん、2位いの神奈川かながわ県けんが435万まん円えん、3位いの千葉ちば県けんが422万まん円えん、4位いの埼玉さいたま県けんが415万まん円えん、5位いの茨城いばらき県けんが412万まん円えんという結果けっかに。トップ5を関東かんとうエリアが独占どくせんしており、東京とうきょうを中心ちゅうしんとした首都しゅと圏けんの経済けいざい力りょくの高たかさが浮うき彫ぼりとなっている。

　とはいえ、モレッティ氏しの研究けんきゅうは対象たいしょう国こくがアメリカのため、日本にっぽんとは取とり巻まく環境かんきょうに差異さいがあるだろう。そこで昭和女子大学しょうわじょしだいがく客員きゃくいん教授きょうじゅ・ジャーナリストの白河しらかわ桃子ももこ氏しに話はなしを聞きいた。

東京とうきょうは大だい企業きぎょうの数かずが桁違けたちがいに多おおく、年収ねんしゅうが上あがりやすい傾向けいこう

　モレッティ氏しの研究けんきゅうを日本にっぽんのケースに当あてはめて考察こうさつするため、「Aさん＝高学歴こうがくれき／地方ちほう／男性だんせい／正社員せいしゃいん」と「Bさん＝低てい学歴がくれき／都市とし／男性だんせい／正社員せいしゃいん」を仮定かていする。モレッティ氏しの主張しゅちょうによれば、AさんよりもBさんのほうの年収ねんしゅうが高たかくなる傾向けいこうにあるわけだが、白河しらかわ氏しはいう。

「結論けつろんからいえば、モレッティ氏しの主張しゅちょうは日本にっぽんにも当あてはまるといえますし、むしろアメリカより日本にっぽんのほうがその傾向けいこうが顕著けんちょになると考かんがえられるでしょう。アメリカはシリコンバレーに代表だいひょうされるように、地域ちいきごとに発展はってんしている産業さんぎょうが異ことなるので、独立どくりつした経済けいざい都市としは点在てんざいしています。しかしながら日本にっぽんの場合ばあい、大だい企業きぎょうが東京とうきょうに一いち極きょく集中しゅうちゅうしており、実質じっしつ的てきには東京とうきょう一いち強きょうの状況じょうきょうになっています。したがって日本にっぽんでモレッティ氏しの研究けんきゅうを当あてはめる場合ばあい、『都市とし＝東京とうきょう』というスキームを理解りかいしておかなくてはいけません。

　大だい企業きぎょうと中小ちゅうしょう企業きぎょうとでは生涯しょうがい収入しゅうにゅうの差さが大おおきく、年収ねんしゅう格差かくさは広ひろがります。地方ちほうでは大だい企業きぎょうの数かずが少すくなく、企業きぎょうがテレワークでも採用さいようしていない限かぎりは、地方ちほう在住ざいじゅうのまま大だい企業きぎょうに就職しゅうしょくできるチャンスは低ひくい。「取引とりひき先さきが多おおい」などの理由りゆうで大だい企業きぎょうが東京とうきょうに集あつまった結果けっか、地方ちほうとの差さはさらに広ひろがったと考かんがえられますね。特とくに情報じょうほう通信つうしん系けいは7割わりが東京とうきょうです。

　ですから高学歴こうがくれきでも地方ちほう在住ざいじゅうのAさんは、中小ちゅうしょう企業きぎょうの社員しゃいんにならざるを得えないケースが少すくなくない。反対はんたいに、都市としだと大だい企業きぎょうの数かずが多おおいので低てい学歴がくれきのBさんでも大だい企業きぎょうやそのグループ企業きぎょうに入はいることができる可能かのう性せいはあり、年収ねんしゅうは高たかくなりやすいといえます」（白河しらかわ氏し）

　前出ぜんしゅつ「Money Canvas」の記事きじでも「東京とうきょうに頭脳ずのうとカネが集中しゅうちゅうするのは、必然ひつぜん」と指摘してきしている。東京とうきょうと地方ちほうの差さを考かんがえると「Bさんの年収ねんしゅう＞Aさんの年収ねんしゅう」という逆転ぎゃくてん現象げんしょうが発生はっせいしても不思議ふしぎではないようだ。

雇用こよう形態けいたい、性別せいべつの関係かんけいで一概いちがいに東京とうきょうが一番いちばんとは断定だんていできない

　ではAさん、Bさんの例れいを踏ふまえると、やはり地方ちほうから都市とし、とりわけ東京とうきょうに引ひっ越こしたほうが賃金ちんぎんは上あがりやすいといえるのか。

「たしかに東京とうきょうに引ひっ越こして生涯しょうがい収入しゅうにゅうの高たかい企業きぎょうに就職しゅうしょくしたほうが、地方ちほう在住ざいじゅう時じよりも賃金ちんぎんが上あがる可能かのう性せいは高たかいかもしれません。ですが、AさんとBさんはどちらも雇用こよう形態けいたいは『正社員せいしゃいん』、性別せいべつは『男性だんせい』という共通きょうつう点てんがあるのを忘わすれてはいけません。これが『非ひ正規せいき雇用こよう』『女性じょせい』と条件じょうけんが変かわるだけで多おおくの人ひとは、収入しゅうにゅうが大おおきく変化へんかしてしまいます。

　日本にっぽんの正社員せいしゃいんは『メンバーシップ型がた雇用こよう』という終身しゅうしん雇用こよう、年功序列ねんこうじょれつ型がたの雇用こよう形態けいたいが主流しゅりゅうであり、年齢ねんれいや勤続きんぞく年数ねんすうを重かさねるごとに賃金ちんぎんも上あがっていく仕組しくみがいまだに根強ねづよい。ところが非ひ正規せいき雇用こようですと、正社員せいしゃいん並なみの賃金ちんぎん上昇じょうしょうは見込みこめず、生涯しょうがい収入しゅうにゅうでは正社員せいしゃいんに必かならず負まけてしまう。たとえば、Bさんを非ひ正規せいき雇用こようと想定そうていした場合ばあい、一定いっていの年齢ねんれいまでは地方ちほうにいるAさんより年収ねんしゅうが高たかいかもしれない。それはあくまで一時いちじ的てきなもの。年齢ねんれいを重かさねるにつれてAさんに抜ぬかれてしまう可能かのう性せいが高たかいですし、おのずとBさんよりAさんの生涯しょうがい収入しゅうにゅうのほうが高たかくなるでしょう。

　加くわえて、日本にっぽんは先進せんしん国こくのなかでも稀まれに見みるレベルで男女だんじょ格差かくさが大おおきい国くにです。労働ろうどう政策せいさく研究けんきゅう・研修けんしゅう機構きこうが公表こうひょうしている『ユースフル労働ろうどう統計とうけい2023』の、学校がっこう卒業そつぎょう後ごフルタイムの正社員せいしゃいんを続つづけた場合ばあいの60歳さいまでの生涯しょうがい賃金ちんぎんに関かんするデータでは、高卒こうそつ、大学だいがく卒そつの男性だんせい・女性じょせい間あいだで、それぞれ5000万まん円えんも生涯しょうがいでもらえる収入しゅうにゅうに差さがあるという結果けっかになっています。

　さらに女性じょせいは男性だんせいに比くらべて管理かんり職しょくに就つきにくい『垂直すいちょく分離ぶんり』、保育ほいく士し、介護かいご士しなど給与きゅうよが低ひくい仕事しごとに就つきやすい『水平すいへい分離ぶんり』という現象げんしょうにも悩なやまされています。そして地方ちほうでは、いまだにジェンダーギャップが根強ねづよい地域ちいきもあり、賃金ちんぎんの高たかい女性じょせいの働はたらき口こう自体じたいが少すくないという問題もんだいもあります。ですから仮かりにBさんが女性じょせいだったとしたら、生涯しょうがい収入しゅうにゅうで地方ちほう在住ざいじゅうで男性だんせいのAさんに負まけてしまうのです」（同どう）

　いずれにしても、モレッティ氏しが唱となえる「学歴がくれきは問とわず、経済けいざいが活発かっぱつな都市としに住すむほうが高たかい報酬ほうしゅうを得えられる」という説せつは、日本にっぽんでも的まとを射いているケースが多おおいようだ。

（取材しゅざい・文ぶん＝逢ヶ瀬せ十じゅう吾われ・文月ふづき／A4studio、協力きょうりょく＝白河しらかわ桃子ももこ／昭和女子大学しょうわじょしだいがく客員きゃくいん教授きょうじゅ・ジャーナリスト）