グリコ・システム障害しょうがい、なぜ出荷しゅっか再開さいかい「未定みてい」の異常いじょう事態じたいが発生はっせい？デロイトの責任せきにん

　ほぼすべてのチルド食品しょくひん（冷蔵れいぞう食品しょくひん）が、社内しゃないのシステム更新こうしん作業さぎょうに伴ともなう障害しょうがいにより出荷しゅっか停止ていしとなっている江崎えざきグリコ。5月中旬ちゅうじゅんに出荷しゅっかを再開さいかいすると発表はっぴょうしていたが、同月どうげつ1日にちに出荷しゅっか停止ていし期間きかんを延長えんちょうするを決きめ、6月がつ中ちゅうの出荷しゅっか再開さいかいを目指めざすとしながらも、その時期じきは未定みていだと発表はっぴょうした。約やく340億おく円えんもの費用ひようをかけてSAPのクラウド型がたERPソフトウェアを導入どうにゅうして基幹きかんシステムを刷新さっしんするという作業さぎょうだが、なぜシステム障害しょうがいで商品しょうひん出荷しゅっかが2カ月かげつ以上いじょうも停止ていしする事態じたいとなっているのか。また、4月がつ24日にち付づけ「ダイヤモンド・オンライン」記事きじによれば、刷新さっしんプロジェクトを任まかされた主幹しゅかんベンダは外資がいし系けいコンサルティング会社かいしゃのデロイト トーマツ コンサルティングとのことだが、外資がいし系けいコンサルにシステム開発かいはつ・更新こうしんを委託いたくするリスクはあるのか。専門せんもん家かの見解けんかいを交まじえて追おってみたい。

　江崎えざきグリコは売上うりあげ高だか3325億おく円えん、営業えいぎょう利益りえき186億おく円えん、当期とうき利益りえき141億おく円えん（2023年ねん12月がつ期き）という大手おおて総合そうごう食品しょくひんメーカー。創業そうぎょうは1922年ねん（大正たいしょう11年ねん）であり100年ねん以上いじょうの歴史れきしを持もつ老舗しにせ企業きぎょうでもある。「ポッキー」「プリッツ」「GABA」「プッチンプリン」などの菓子かし類るい、「パピコ」などの冷菓れいか、「BiFiX」などの乳製品にゅうせいひん、「カフェオーレ」「アーモンド効果こうか」などの飲料いんりょう、カレールー「PREMIUM　熟じゅく」「LEE」などの加工かこう食品しょくひん、「POWER PRODUCTION」などのサプリメント、美容びよう食品しょくひんなど幅広はばひろい食品しょくひんを手掛てがけている。

　同社どうしゃは業務ぎょうむシステムについて、独どくSAPのクラウド型がたERP「SAP　S／4HANA」を使つかって構築こうちくした新しんシステムへ切きり替かえるプロジェクトを推進すいしんしてきた。旧きゅうシステムからの切替きりかえを行おこなっていた今月こんげつ3日にち、障害しょうがいが発生はっせいし、一部いちぶ業務ぎょうむが停止ていし。その後ご、一部いちぶ商品しょうひんの出荷しゅっかが停止ていしとなり再開さいかいされたが、「プッチンプリン」「カフェオーレ」「アーモンド効果こうか」をはじめとする大半たいはんのチルド食品しょくひんは再ふたたび出荷しゅっか停止ていしに。さらにキリンビバレッジから販売はんばいを受託じゅたくしている果汁かじゅう飲料いんりょう「トロピカーナ」や野菜やさい飲料いんりょうの出荷しゅっかも停止ていしするなど、影響えいきょうは他社たしゃにも拡大かくだいしている。

　今回こんかいのシステム更新こうしん作業さぎょうは、どのような内容ないようなのか。神戸大学こうべだいがく大学院だいがくいん工学こうがく研究けんきゅう科か 特命とくめい教授きょうじゅの森井もりい昌克まさよし氏しはいう。

「これまで生産せいさん・営業えいぎょう・会計かいけいなど部門ぶもんごとで分わかれていた古ふるいシステムを統合とうごう型がたシステムに置おき換かえるというもので、大おおがかりかつ難易なんい度どが高たかい作業さぎょうであると考かんがえられます」

　当初とうしょ、出荷しゅっか再開さいかいについて5月がつ中旬ちゅうじゅんとしていたが、今月こんげつ1日にちには出荷しゅっか再開さいかい時期じきは未定みていだと発表はっぴょう。障害しょうがいの原因げんいん特定とくていは進すすんでいるが解消かいしょうに時間じかんがかかっているという。2日にち付づけ日本経済新聞にほんけいざいしんぶん記事きじによれば、常温じょうおん品ひんと冷凍れいとう品ひんは賞味しょうみ期限きげんが長ながいため在庫ざいこ数すうなどについて手作業てさぎょうで修正しゅうせいしつつ出荷しゅっかを継続けいぞくしているが、冷蔵れいぞう品ひんは入庫にゅうこから出荷しゅっかまでの時間じかん的てき猶予ゆうよが短みじかいため手作業てさぎょうでの修正しゅうせいができないという。

他社たしゃでも起おこり得える

　システム障害しょうがいで全ぜんチルド商品しょうひんが2カ月かげつ以上いじょうも出荷しゅっか停止ていしとなる見通みとおしとなり、いまだに再開さいかいのメドが立たたないという異例いれいの事態じたいが発生はっせいした原因げんいんは何なにであると考かんがえられるのか。　　

「新しんシステムへの移行いこうが1年ねん以上いじょう延期えんきされていたということなので、もともと作業さぎょうがうまくいっていないなか、そろそろ大丈夫だいじょうぶだろうということで4月がつに移行いこう作業さぎょうを行おこなったものの、想定そうてい外がいの事態じたいが起おきたということだろう。一般いっぱん的てきにシステム開発かいはつにおいては切きり替かえ・リリース前まえに何なん度どもテストを実施じっしして問題もんだいがないかを確認かくにんし、本番ほんばん作業さぎょうで発生はっせいしうるあらゆる問題もんだいを想定そうていして対応たいおうプランを策定さくていするが、本番ほんばん作業さぎょうがうまくいく前提ぜんていでテストや障害しょうがい時じの対応たいおうプラン策定さくていを適切てきせつに実施じっししていなかった可能かのう性せいも考かんがえられます。

『2025年ねんの崖がけ問題もんだい』もあり、今後こんご、基幹きかん系けいシステムの刷新さっしんなど大だい規模きぼなシステム開発かいはつに取とり組くむ企業きぎょうは増ふえてきますが、グリコと同様どうようのトラブルはどの企業きぎょうでも起おこり得えます。グリコには原因げんいんを調査ちょうさして結果けっかを公表こうひょうすることが求もとめられますが、他社たしゃもそれをしっかりと精査せいさして学まなぶ必要ひつようがあります」（森井もりい氏し）

　大手おおてSIerのSEはいう。

「システム障害しょうがいが原因げんいんで多おおくの商品しょうひんが2カ月かげつ以上いじょうも出荷しゅっかできないというケースは、あまり聞きいたことがなく、異常いじょうな事態じたいといっていい。通常つうじょう、あらゆる障害しょうがい発生はっせいを想定そうていしてコンティンジェンシープランを立たてておくものだが、いったん旧きゅうシステムに戻もどして業務ぎょうむは継続けいぞくするといったプランなどをきちんと準備じゅんびしていなかったのか。あくまで報道ほうどうを見みる限かぎりでの感想かんそうだが、部門ぶもんごとに乱立らんりつしていた何なん十じゅう年ねんも使つかわれてきたシステムをパッケージソフトを使つかって一気いっきに大だい規模きぼなERPに統合とうごうするという計画けいかく自体じたい、リスクが大おおきすぎて、ちょっと無理むりがあったのでは。1年ねんくらいの期間きかんを設もうけて段階だんかい的てきに新しんシステムへ移行いこうしていくという方法ほうほうを取とっていれば、今回こんかいのような障害しょうがいは避さけられた可能かのう性せいがある。

　また、グリコ側がわに大だい規模きぼなシステム開発かいはつのプロジェクトマネジメントに精通せいつうした人間にんげんがいたのかも気きになる。デロイトに丸まる投なげしてしまった結果けっか、自社じしゃ内ないでやるべきことをきちんとできていなかったというより、整理せいりすらできていなかったのでは。ERP導入どうにゅうは各かく部門ぶもんの業務ぎょうむ・フローそのものが大おおきく変かわるものなので、システム開発かいはつと業務ぎょうむ見直みなおしの両面りょうめんで社内しゃないを取とりまとめる人材じんざいと体制たいせいが必要ひつようになってくるが、この点てんがネックになってプロジェクトが難航なんこうするケースは少すくなくない」

外資がいし系けいコンサル・ベンダ特有とくゆうの傾向けいこう

　22日にち付づけ「日経にっけいクロステック」記事きじによれば、プロジェクトの当初とうしょの完了かんりょう予定よていは22年ねん12月がつであったが延期えんきされ1年ねん以上いじょうの遅おくれとなり、投資とうし額がくは当初とうしょの予定よてい金額きんがくの1.6倍ばいにも膨ふくれ上あがっているという。プロジェクトを任まかされた主幹しゅかんベンダが外資がいし系けいコンサルティング会社かいしゃのデロイトであることが影響えいきょうしているとの見方みかたもあるが、森井もりい氏しはいう。

「国内こくないベンダと異ことなり、一般いっぱん的てきに外資がいし系けいコンサルは自社じしゃのやり方かたでどんどんプロジェクトを進すすめて、顧客こきゃくと交かわした契約けいやくで定さだめた自社じしゃの担当たんとう範囲はんいだけに専念せんねんする傾向けいこうがあるため、システム構築こうちくの実じつ作業さぎょうを担になう開発かいはつ会社かいしゃを含ふくむプロジェクト全体ぜんたいの細こまかい部分ぶぶんまで、きちんと目配めくばせができていなかった可能かのう性せいも考かんがえられます」

　金融きんゆう機関きかんのシステム部門ぶもん管理かんり職しょくはいう。

「国内こくないベンダの場合ばあい、契約けいやくうんぬんに関係かんけいなく、顧客こきゃく側がわのタスクであっても気きになる点てんや懸念けねん点てんなどがあると『これって大丈夫だいじょうぶですかね』などと言いってくる。それがベンダと発注はっちゅう元もとの役割やくわり分担ぶんたんや責任せきにんの線引せんひきを曖昧あいまいにしてしまったり、ベンダが契約けいやくで定さだめた以上いじょうのボリュームの作業さぎょうをやらされてしまうというマイナス面めんを生うむことがある一方いっぽう、結果けっか的てきに“穴あなを埋うめて”トラブル回避かいひにつながるという面めんもある。一方いっぽう、外資がいし系けいベンダ・コンサルは『自分じぶんたちの担当たんとう範囲はんいはここまで』とドライに線引せんひきをしてくるし、顧客こきゃく側がわの事情じじょうで問題もんだいが生しょうじた場合ばあいは『ではプロジェクトを中止ちゅうしします』『追加ついか費用ひようがかかります』と言いってくるので、発注はっちゅうする側がわの企業きぎょうにもそれ相応そうおうの高たかいスキルが必要ひつようとなる。

　今回こんかいの件けんでいえば、あくまで推察すいさつだが、デロイト側がわは『この作業さぎょうはグリコ側がわ・開発かいはつ会社かいしゃ側がわの担当たんとう』と考かんがえ、グリコ側がわは『これはデロイト側がわがやってくれているはず』と考かんがえて“作業さぎょうの漏もれ”が数多かずおおく発生はっせいした結果けっか、プロジェクトがうまく回まわっていなかったのではないか」

　大手おおてSIerのSEはいう。

「デロイトがSAPを使つかったシステム開発かいはつで豊富ほうふな実績じっせきを持もっていることは事実じじつだが、業態ぎょうたいや個別こべつ企業きぎょうの業務ぎょうむ実態じったいによってはSAPが不向ふむきなケースもあるし、デロイトに食品しょくひんメーカーの業務ぎょうむ実務じつむに詳くわしいエンジニアがいたのかどうかという問題もんだいもある。また、ベンダに発注はっちゅうする企業きぎょう側がわにも、システム開発かいはつに詳くわしく社内しゃないで要件ようけんを整理せいりしたりプロジェクトをマネジメントしつつ、ベンダを管理かんりする能力のうりょくもある人間にんげんが必要ひつようだが、グリコ側がわにそうした人間にんげんがおらず、プロジェクト体制たいせいがしっかり構築こうちくされていなかったという可能かのう性せいも考かんがえられる。

　日本にっぽん企業きぎょうでは社内しゃないに大だい規模きぼなシステム開発かいはつのノウハウを持もっていないところも少すくなくなく、外部がいぶのベンダに頼たより切ぎりになってしまった結果けっか、開発かいはつが失敗しっぱいに終おわるケースも珍めずらしくない。特とくに統合とうごう基幹きかん業務ぎょうむシステムの開発かいはつ・刷新さっしんは社内しゃないの複数ふくすうの部署ぶしょにまたがり業務ぎょうむそのものを変かえていくため大だい規模きぼかつ難易なんい度どが高たかく、プロジェクトが頓挫とんざするケースもある。

　また、なんだかんだと無理むりも聞きいてくれる国内こくないベンダとは対照たいしょう的てきに、外資がいし系けいコンサルのベンダはドライなので、プロジェクトの途中とちゅうで突然とつぜん中止ちゅうしや『ゼロからやりなおし』を提案ていあんしてきたり、『これはできない』と言いってきたりと、簡単かんたんに梯子はしごを外はずしてくることもある。なので発注はっちゅうする側がわに企業きぎょう側がわにも高たかいスキルが求もとめられる。グリコに関かんしていえば、延期えんきもしてさんざん時間じかんもお金かねもかけてしまい、もう引ひっ込こみがつかなくなり強引ごういんにリリースまで持もってきたはいいものの、いろいろな部分ぶぶんで不備ふびが発覚はっかくして火ひが噴ふいているという印象いんしょう。正常せいじょう化かまではかなり時間じかんを要ようするのではないかと感かんじる」（4月がつ26日にち付づけ当とうサイト記事きじより）

（文ぶん＝Business Journal編集へんしゅう部ぶ、協力きょうりょく＝森井もりい昌克まさよし／神戸大学こうべだいがく大学院だいがくいん工学こうがく研究けんきゅう科か特命とくめい教授きょうじゅ）