北海道大学ほっかいどうだいがくが見解けんかい、准じゅん教授きょうじゅ「追おい出だし部屋へや」問題もんだい…国立こくりつ大学だいがくで容赦ようしゃない人員じんいん削減さくげん

　北海道大学ほっかいどうだいがくが約やく3年ねんにわたり、50代だい男性だんせいの准じゅん教授きょうじゅに同僚どうりょうや学生がくせいをつけず、一人ひとりで約やく4平方へいほうメートルの「追おい出だし部屋へや」に入いれていると9日にち付づけ「毎日新聞まいにちしんぶん」が報ほうじている。背景はいけいには何なにがあるのか、また大学だいがくは一部いちぶの教員きょういんに対たいし、なぜこのような扱あつかいをしているのか。専門せんもん家かの見解けんかいを交まじえて追おってみたい。

　明治めいじ9年ねん（1876年ねん）に札幌さっぽろ農のう学校がっこうとして開校かいこうし、全国ぜんこくに7校こうある旧きゅう帝国ていこく大学だいがくと呼よばれる難関なんかん国立こくりつ大学だいがくの一ひとつ、北海道大学ほっかいどうだいがく。法学部ほうがくぶ、経済学部けいざいがくぶ、理学部りがくぶ、工学部こうがくぶなどに加くわえ、医学部いがくぶ、農学部のうがくぶ、獣しし医学部いがくぶ、水産すいさん学部がくぶなども要ようする総合大学そうごうだいがくで、札幌さっぽろ駅えきから徒歩とほ15～20分ふんほどという好こうアクセスの場所ばしょに1周しゅう約やく7キロメートル、敷地しきち面積めんせき約やく1.8平方へいほうキロメートルという広大こうだいな札幌さっぽろキャンパスを保有ほゆう。同どうキャンパス以外いがいにも各地かくちに研究けんきゅう林りん、農場のうじょう、牧場ぼくじょうなどを保有ほゆうし、その総そう敷地しきち面積めんせきは東京とうきょう23区くよりも広ひろい約やく660平方へいほうキロメートルにおよぶ。就職しゅうしょく先さきには総合そうごう商社しょうしゃや大手おおて金融きんゆう機関きかん、大手おおて自動車じどうしゃ・電機でんき・食品しょくひんメーカー、中央ちゅうおう省庁しょうちょうなどが並ならぶ。

　そんな名門めいもん大学だいがくで、教員きょういんの処遇しょぐうをめぐり不当ふとうな行為こういが行おこなわれている疑うたがいが浮上ふじょう。前出ぜんしゅつ・毎日新聞まいにちしんぶん記事きじによれば、理学りがく研究けんきゅう院いんの化学かがく部門ぶもんの准じゅん教授きょうじゅ（任期にんきなし雇用こよう）が所属しょぞくしていた研究けんきゅう室しつの教授きょうじゅが2019年ねん3月がつに定年ていねん退職たいしょくし、新任しんにん教授きょうじゅの下したで学生がくせいの指導しどうにもあたっていたが、20年ねんに大学だいがく側がわから突如とつじょ、もう研究けんきゅう室しつには在籍ざいせきできないと伝達でんたつ。今後こんごは学生がくせいの指導しどうもさせないと告つげられ、21年ねん4月がつからは約やく4平方へいほうメートルのスペースに移うつされ1人にんきりでの研究けんきゅうを強しいられている。男性だんせいと同おなじ境遇きょうぐうに置おかれた教員きょういんは、ほかにもいるという。

人件じんけん費ひ抑制よくせいと講座こうざ制せい

　大おおきな背景はいけいとしては、財政難ざいせいなんという大学だいがく業界ぎょうかい全体ぜんたいを取とり巻まく環境かんきょう変化へんかがあげられる。04年度ねんどから国立こくりつ大学だいがくが法人ほうじん化かされ、文科ぶんか省しょうは各かく大学だいがくへ交付こうふする大学だいがく運営うんえい全般ぜんぱんの費用ひようという意味合いみあいを持もつ国立こくりつ大学だいがく法人ほうじん運営うんえい費ひ交付こうふ金きん等とうを削減さくげんする一方いっぽう、研究けんきゅう者しゃからの応募おうぼ内容ないようを審査しんさして支給しきゅうする競争きょうそう的てき資金しきんである科か研けん費ひ（科学かがく研究けんきゅう費ひ助成じょせい事業じぎょう）や補助ほじょ金きんを増ふやすことで大学だいがくの自助じじょ努力どりょくを促うながす方針ほうしんを示しめしている。

『ルポ　大学だいがく崩壊ほうかい』（ちくま新書しんしょ）の著者ちょしゃでジャーナリストの田中たなか圭太郎けいたろう氏しはいう。

「大学だいがく関係かんけい者しゃは口くちをそろえて『法人ほうじん化かでここまで大おおきく運営うんえい費ひ交付こうふ金きんを削けずられるとは思おもっていなかった』と言いいます。東京大学とうきょうだいがくなど豊富ほうふな研究けんきゅう実績じっせきがある一部いちぶの大学だいがくに科か研けん費ひや補助ほじょ金きんが集中しゅうちゅうするようになり、それ以外いがいの多おおくの大学だいがくの研究けんきゅう現場げんばはお金かねがない状況じょうきょうに陥おちいっています。

　そうしたなかで北大ほくだいも人件じんけん費ひの抑制よくせいを進すすめています。北大ほくだいでは人事じんじポイント制せいを敷しいており、教授きょうじゅ1人にん当あたり●ポイント、准じゅん教授きょうじゅは●ポイントと決きめられ、部局ぶきょくには『トータルで●ポイント内ないに収おさめてください』という指示しじが出でるようです。しかし、大学だいがく本部ほんぶは人件じんけん費ひ抑制よくせいのため、部局ぶきょくに割わり振ふるポイント数すうを基本きほん的てきに減へらす傾向けいこうにあり、これが教員きょういんなどの人員じんいん削減さくげんにつながっていると考かんがえられます」

　もう一ひとつの背景はいけいとして講座こうざ制せいの存在そんざいがある。大学だいがくではかつて、教授きょうじゅをトップとする研究けんきゅう室しつに准なぞらえ教授きょうじゅ、助じょ教きょう、学生がくせいが所属しょぞくする講座こうざ制せいが敷しかれていた。06年ねんの大学だいがく設置せっち基準きじゅん等とうの改正かいせいにより講座こうざ制せいは制度せいど上じょうは廃止はいしされたことになっているが、現在げんざいでも理系りけい学部がくぶ・研究けんきゅう科かなどでは続つづいているところも多おおい。

「なぜ講座こうざ制せいが導入どうにゅうされているのかといえば、研究けんきゅうテーマには長期ちょうきにわたるものが多おおいためです。教授きょうじゅが退官たいかんすると、その研究けんきゅうテーマを引ひき続つづくかたちで准じゅん教授きょうじゅが教授きょうじゅに、助じょ教きょうが准じゅん教授きょうじゅに昇格しょうかくするという慣例かんれいは必かならずしも悪わるいものではありません」（田中たなか氏し）

　毎日新聞まいにちしんぶんの報道ほうどうによれば、これまで北大ほくだいでは研究けんきゅう室しつの教授きょうじゅが退職たいしょくした後のちは新任しんにん教授きょうじゅがそれまでのスタッフを引ひき継つぐかたちだったが、20年ねんに化学かがく部門ぶもんの教授きょうじゅ会かいに当あたる講座こうざ委員いいん会かいは新あらたな内部ないぶ基準きじゅんを策定さくていし、新任しんにん教授きょうじゅは研究けんきゅう室しつで旧きゅうスタッフを引ひき受うけないことや、旧きゅうスタッフは教授きょうじゅの退職たいしょく後ごに居室きょしつを移動いどうすること、旧きゅうスタッフには研究けんきゅう室しつ業務ぎょうむを担当たんとうさせないことなどが定さだめられたという。

「化学かがく部門ぶもんは講座こうざ制せいの廃止はいしという名目めいもくを悪用あくようして、外部がいぶから教授きょうじゅを採用さいようして研究けんきゅう室しつを持もたせるのを契機けいきとして旧きゅうスタッフと呼よばれる准じゅん教授きょうじゅや助じょ教きょうのクビを切きろうとしているのだと思おもわれます。講座こうざ委員いいん会かいというのも北大ほくだい内ないの公式こうしきな組織そしきではない可能かのう性せいがあります。そうであれば、教授きょうじゅ会かいではなく一部いちぶの人ひとたちが都合つごうの良よいルールをつくって、あたかもそれを化学かがく部門ぶもん全体ぜんたいの取とり決きめのように持もち出だしているにすぎないのではないでしょうか。

　問題もんだいは、こうした不当ふとう労働ろうどう行為こういを大学だいがくが認識にんしきしつつ正ただしていないという点てんです。男性だんせい准じゅん教授きょうじゅは大学だいがくのハラスメント通報つうほう窓口まどぐちに通報つうほうしているようですので、大学だいがく本部ほんぶとして放置ほうちせずにしっかりと対応たいおうすべきです。

　一般いっぱん的てきに国立こくりつ大学だいがくでは教員きょういん同士どうしのハラスメント問題もんだいについては『当事とうじ者しゃ同士どうしで解決かいけつすべき』として放置ほうちされる傾向けいこうがあります。被害ひがい者しゃが訴うったえても、本部ほんぶが部局ぶきょくに差さし戻もどすというケースも少すくなくありません」（田中たなか氏し）

北大ほくだいの見解けんかい

　北大ほくだいに見解けんかいを聞きいた。

「報道ほうどうされた内容ないようにつきましては、現在げんざい事実じじつ関係かんけいを精査せいさしているところですが、該当がいとうする教員きょういんの意向いこうを踏ふまえ、継続けいぞく的てきに話はなし合あいをしているところであり、今後こんごも教員きょういんが安心あんしんして教育きょういく研究けんきゅうに専念せんねんできる環境かんきょうを提供ていきょうできるよう、適切てきせつな対応たいおうを講こうじてまいります。」

（文ぶん＝Business Journal編集へんしゅう部ぶ、協力きょうりょく＝田中たなか圭太郎けいたろう／ジャーナリスト）