体からだに悪わるいポテチやから揚あげの過剰かじょう摂取せっしゅ、死者ししゃ続出ぞくしゅつのオピオイド鎮痛ちんつう剤ざい乱用らんようと共通きょうつう点てん

「Gettyimages」より

　おなかがいっぱいでも、つい食たべすぎてしまう――。特別とくべつに好すきな食たべものは、誰だれにもあるでしょう。やみつき、やめられない、別べつ腹はらといった表現ひょうげんをされる食たべものです。特とくに、糖分とうぶんと油脂ゆし分ぶんには、意志いしでは制御せいぎょできない力ちからが働はたらくようです。食後しょくごのデザートやケーキバイキングなど甘あまいものは大人気だいにんきですし、から揚あげなどの揚あげ物ものはもはや国民こくみん食しょくといえます。ポテトチップスは食たべ始はじめると袋ふくろが空そらになるまでやめられないという人ひとも多おおいでしょう。昨年さくねん、原料げんりょうのジャガイモの不作ふさくによって複数ふくすうのメーカーが生産せいさん中止ちゅうしを発表はっぴょうした際さいには、買かい占しめ騒動そうどうが起おこったことも記憶きおくに新あたらしいところです。

　こうした、「満腹まんぷくなのに食たべすぎてしまう」行動こうどうの原因げんいんには、今こんアメリカで社会しゃかい問題もんだいになっている、オピオイド鎮痛ちんつう剤ざい乱用らんようによる死者ししゃ数すうの増加ぞうかと奇妙きみょうな一致いっちがあったのです。

　オピオイド鎮痛ちんつう剤ざいは、日本にっぽんではあまり馴染なじみがない薬剤やくざいですが、2016年ねんに急死きゅうししたアメリカのミュージシャン、プリンスの死因しいんは医療いりょう用よう麻酔ますい剤ざいでもあるオピオイド鎮痛ちんつう剤ざいの一種いっしゅ、フェンタニルの過剰かじょう摂取せっしゅだったことが捜査そうさ報告ほうこく書しょから明あきらかになったと今年ことし3月がつ26日にちに報ほうじられました。

・「故こプリンス、死亡しぼう時じに体内たいないから“極きわめて高たかい”濃度のうどのフェンタニルが検出けんしゅつ」（ビルボードニュース）

　また昨年さくねん、66歳さいで急死きゅうしした米べい人気にんきロックミュージシャン、トム・ペティの死因しいんも同おなじ薬剤やくざいの過剰かじょう摂取せっしゅでした。

・「死因しいんは薬物やくぶつ過剰かじょう摂取せっしゅ　ロックのトム・ペティさん　プリンスさんと同おなじ医療いりょう用よう麻薬まやく」（産経さんけいニュース）

「フェンタニル （Fentanyl）とは、主おもに麻酔ますいや鎮痛ちんつう、疼痛とうつう緩和かんわの目的もくてきで利用りようされる合成ごうせいオピオイドである。1996年ねんのWHO方式ほうしきがん疼痛とうつう治療ちりょう法ほうの3段階だんかい中ちゅうの3段階だんかい目めで用もちいられる強つよしオピオイドである」（Wikipediaより）

　オピオイドは、アヘンの原料げんりょうとなる天然てんねんのケシから生成せいせいするものもあれば、化学かがく合成ごうせいによってつくられるものもあり、その代表だいひょう的てきな薬剤やくざいがモルヒネで、末期まっきがんの痛いたみ止どめとして使つかわれることがあるのはよく知しられています。

　上記じょうき記事きじ中ちゅうにあったフェンタニルは、オピオイド鎮痛ちんつう剤ざいのなかで最もっとも強つよい鎮痛ちんつう効果こうかがあり、そのき目きめはモルヒネの100～200倍ばいといわれています。プリンスは腰痛ようつう、トム・ペティは股関節こかんせつ痛つうや膝ひざ痛つうなどの慢性まんせい疼痛とうつうの緩和かんわのために常用じょうようしていたのです。

　オピオイド鎮痛ちんつう剤ざいは医療いりょう用よう薬剤やくざいですので、正まさしく使つかえば疼痛とうつうの緩和かんわに劇的げきてきな効果こうかを発揮はっきしますが、過剰かじょう摂取せっしゅすると呼吸こきゅう困難こんなんなどの副作用ふくさようがあり、プリンスやトム・ペティのような悲劇ひげきの原因げんいんともなってしまうのです。

　2009年ねんに急死きゅうししたマイケル・ジャクソンも同種どうしゅの鎮痛ちんつう剤ざいデメロールを常用じょうようしており、やはり過剰かじょう摂取せっしゅが死因しいんとされています。

　アメリカでは、プリンスやトム・ペティなど高額こうがくな医療いりょう費ひを負担ふたんできる富裕ふゆう層そう以外いがいの貧困ひんこん層そうにも、オピオイドの過剰かじょう摂取せっしゅによる死者ししゃが増ふえており、死者ししゃ数すうは年間ねんかん6万まん人にんを超こえ、社会しゃかい問題もんだい化かしています。そのため、ドナルド・トランプ大統領だいとうりょうが非常ひじょう事態じたい宣言せんげんを発はっする事態じたいとなっています。

　アメリカでオピオイド系けい鎮痛ちんつう剤ざいが蔓延まんえんした背景はいけいとして、治療ちりょう費ひが高額こうがくな医療いりょう制度せいどが挙あげられています。貧困ひんこん層そうが痛いたみを伴ともなう病気びょうきになった場合ばあい、痛いたみの原因げんいんを取とり除のぞく根本こんぽん治療ちりょうにかかる高額こうがくな医療いりょう費ひが負担ふたんできないため、対処たいしょ療法りょうほうとして強つよい鎮痛ちんつう効果こうかのあるオピオイド系けい鎮痛ちんつう剤ざいが安易あんいに処方しょほうされてしまうのです。全米ぜんべいで5人にんに2人ふたりの割合わりあいで処方しょほうされていると報ほうじられています。こうした事情じじょうがオピオイド危機ききを深ふかめる原因げんいんとなっています。また、最近さいきんでは、中国ちゅうごくで密造みつぞうされた合成ごうせいオピオイドも蔓延まんえんし始はじめ、事態じたいは深刻しんこくさが増ましているようです。

　ちなみに、日本にっぽんでは、オピオイド鎮痛ちんつう剤ざいは医療いりょう用よう麻薬まやくに指定していされ、「麻薬まやく処方箋しょほうせん」という特別とくべつな処方箋しょほうせんが必要ひつようとなり、取とり扱あつかう医師いし、薬剤師やくざいし、製薬せいやく会社かいしゃも特別とくべつな免許めんきょを要ようします。使用しようも保管ほかんも厳格げんかくに管理かんりされているので、今いまのところ乱用らんようはないようですが、中国ちゅうごく産さんの合成ごうせいオピオイドが入いり込こまないよう、厳重げんじゅうな対策たいさくが必要ひつようでしょう。

オピオイドのもうひとつの作用さよう

　オピオイドは、天然てんねんのケシが原料げんりょうとなることからわかるように、ヘロインなど麻薬まやくの一種いっしゅでもあるため、強つよい鎮痛ちんつう効果こうかばかりでなく陶酔とうすい作用さようもあります。そのため、痛いたみ止とめを目的もくてきとして使つかい始はじめたとしても、陶酔とうすい作用さように依存いぞんしやすくなります。この中毒ちゅうどく性せい過剰かじょう摂取せっしゅが、死亡しぼう者しゃが増ふえている原因げんいんと指摘してきされています。

　そんなオピオイドですが、我々われわれの体からだの中なかで生産せいさんされる物質ぶっしつでもあるのです。強つよい痛いたみやストレスがかかったとき、それを弱よわめるための一種いっしゅの生体せいたい防御ぼうぎょとして脳のう内ない麻薬まやくのベータ・エンドルフィンが生成せいせいされますが、これがオピオイドの一種いっしゅなのです。ケガをして強つよい痛いたみを感かんじても、当初とうしょの痛いたみが弱よわくなるのはベータ・エンドルフィンの鎮痛ちんつう効果こうかです。また、マラソンランナーなどにみられる「ランナーズハイ」も、ランニングによる身体しんたい的てきストレスを緩和かんわさせるためにベータ・エンドルフィンが放出ほうしゅつされ、鎮痛ちんつう以外いがいのもうひとつの作用さようである陶酔とうすい作用さようが働はたらき、気持きもちよく感かんじるのです。

　我々われわれの体内たいないで生産せいさんされるオピオイドによる陶酔とうすい作用さようは、糖分とうぶんや油脂ゆし類るいの豊富ほうふな食たべものを食たべたときも働はたらきます。動物どうぶつの本能ほんのうとして、高こうカロリーの食事しょくじをしたときに、そのご褒美ほうびとして報酬ほうしゅう系けいの脳のう内ない麻薬まやくとしてオピオイドが放出ほうしゅつされ気持きもちよくなるのです。これは、ヒトでの実験じっけんでも証明しょうめいされているのですが、マウスによる実験じっけんでも糖とうより油あぶらのほうがより強つよく反応はんのうする結果けっかとなっています。私わたしたちは、甘あまくて脂肪しぼう分ぶんの富とんだ食物しょくもつを摂とると、オピオイドが働はたらき満足まんぞく感かんや喜よろこびを感かんじるようにプログラムされているのです。

　これが、“やみつき、やめられない、別べつ腹はら”の食たべものの正体しょうたいなのです。糖分とうぶんと油脂ゆし分ぶんが配合はいごうされた人気にんき食品しょくひんには、食たべると気持きもちよくなり何なん度どでも食たべたくなる脳のう内ない作用さようを引ひき起おこす力ちからが隠かくされているのです。

　売うれ筋すじ商品しょうひんを置おくコンビニエンスストアのレジ近ちかくには、から揚あげなど揚あげ物もののケースが置おかれ、ケーキバイキングに長蛇ちょうだの列れつができるのはオピオイドの陶酔とうすい作用さようの産物さんぶつです。

　しかし、糖分とうぶんも油脂ゆし分ぶんも、過剰かじょう摂取せっしゅすれば糖尿とうにょう病びょう、高こう脂あぶら血ち症しょう、高血圧こうけつあつ、動脈どうみゃく硬化こうかによる心筋梗塞しんきんこうそくや脳のう梗塞こうそくなど、多おおくの病気びょうきの原因げんいんとなります。鎮痛ちんつうと陶酔とうすい、まさに毒どくにも薬くすりにもなるオピオイドは、正ただしい知識ちしきを持もって適切てきせつにコントロールしないと健康けんこうを損そこなうばかりか不幸ふこうな結果けっかを招まねいてしまうことになってしまうのです。
（文ぶん＝林はやし裕之ひろゆき／植物しょくぶつ油ゆ研究けんきゅう家か、林はやし葉子ようこ／知ち食しょく料理りょうり研究けんきゅう家か）

*参考さんこう文献ぶんけん：ヒトはなぜ甘あまいものや脂肪しぼう分ぶんに富とむ食物しょくもつを好このむのか