なぜ、リメイク版ばん『ファミコン探偵たんてい倶楽部くらぶ』『サガ フロンティア』は成功せいこうしたのか？

　新規しんき感染かんせん者しゃ数すうが日々ひび増ふえていたこともあり、今年ことしの春はるはハンティング一色いっしょくに「なってしまった」筆者ひっしゃですが（取材しゅざい等とうもいくつかキャンセルになり、影響えいきょう大だいでした……）、皆みなさんはいかがお過すごしでしょうか。

『モンスターハンターライズ』のアップデートはまだまだ続つづきますが、そろそろ別べつのゲームにも触ふれたい方ほうも増ふえてくる頃合ころあいかもしれません。さりとて、まったく知しらない作品さくひんに触ふれる時間じかんや気持きもちの余裕よゆうはない……。そんなときに程ほどよく遊あそべるのが、過去かこ作品さくひんのリメイク版ばんやリマスター版ばんでしょう。

　個人こじん的てきには新規しんき作品さくひんがヒットするほうが健全けんぜんだとは思おもうのですが、実際じっさいに触ふれてみると昔むかし親したしんだゲームだけあって、遊あそんでよかったと感かんじさせるものも多々たたあります。とくにゲーム性せいやプレイの手触てざわり、テンポ感かんを保たもっているものは、初はじめて遊あそんだ頃ころの思おもい出でが蘇よみがえってくるというか……まあそこは、筆者ひっしゃがそんな歳としになっただけかもしれませんが。

　今回こんかいとりあげるのは、そんなリメイク・リマスター作品さくひんの中なかでも出色しゅっしょくのデキだと感かんじた作品さくひんたちです。

　まずはNintendo Switch用ようのアドベンチャー『ファミコン探偵たんてい倶楽部くらぶ 消きえた後継こうけい者しゃ・うしろに立たつ少女しょうじょ』について。リメイク・リマスターは数かずあれど、ここまで原作げんさくが昔むかしのものは珍めずらしく、オリジナル版ばんは1988年ねんと1989年ねんの作品さくひんです。いや、本当ほんとうに懐なつかしい！　プレイヤーは探偵たんてい助手じょしゅの少年しょうねんとなり、『消きえた後継こうけい者しゃ』では横溝よこみぞ正史せいしミステリー的てきな古ふるい因習いんしゅうの残のこる村むらでの事件じけんを、『うしろに立たつ少女しょうじょ』では学校がっこうのウワサに関係かんけいする殺人さつじん事件じけんについて調査ちょうさすることになります。

　両りょう作さくともシステムは往年おうねんのコマンド選択せんたく式しきアドベンチャーのまま。「聞きく」→「アリバイ」「移動いどうする」→「海上かいじょうの崖がけ」という具合ぐあいに、コマンドを選えらんで事件じけんを調しらべていくあのスタイルです。

　今回こんかいのリメイク版ばんはビジュアルが一新いっしんされ、実力じつりょくも知名度ちめいども申もうし分ぶんない声優せいゆう陣じんによってフルボイス化かされています。なので、テキストやゲーム部分ぶぶんも少すくなからずアレンジされるものと想定そうてい、いや覚悟かくごしていましたが（笑）、テキストはおろか解とき方かたまでが、ほぼ当時とうじのままなのには驚おどろかされました。

　もちろん現在げんざいは問題もんだいのある表現ひょうげんは変かえられており、小説しょうせつの地ちの文章ぶんしょうのような部分ぶぶんが主人公しゅじんこうの独白どくはくになってはいるのですが、オリジナルに思おもい入いれがある者ものにとって、ほぼベストに近ちかいリメイクです。

　ここで少すこし脱線だっせんして、オリジナル版ばんのプラットフォームであるディスクシステムと、『ファミコン探偵たんてい倶楽部くらぶ』を取とり巻まく状況じょうきょうについてお伝つたえしましょう。ディスクシステムとは、ファミコンブームがピークを迎むかえつつあった1986年ねんに発売はつばいされたファミコン用ようの周辺しゅうへん機器きき。記憶きおく媒体ばいたいに当時とうじのROMカセットを上回うわまわる片面かためん64キロバイト、両面りょうめんで128キロバイトの容量ようりょうを持もつクイックディスクを採用さいようし、ゲームデータのセーブ、店頭てんとうでのゲーム書かき換かえ販売はんばいなどをセールスポイントに、累計るいけいで400万まん台だい以上いじょうを販売はんばいしました。

　また『ゼルダの伝説でんせつ』『メトロイド』『悪魔あくま城じょうドラキュラ』『探偵たんてい神宮寺じんぐうじ三さん郎ろう』といった、誰だれもが知しるシリーズもディスクシステム用ようのソフトとしてスタートしています。

　当時とうじ、筆者ひっしゃは小学生しょうがくせいでしたが、ディスクシステムのメディアでの扱あつかいや、実際じっさいに出でたゲームの内容ないようから「任天堂にんてんどうがファミコンの次つぎを担になうハードとして、大おおきな期待きたいを込こめて送おくり出だした」ことは感覚かんかく的てきに理解りかいできていたように思おもいます。

　ですが、『ファミコン探偵たんてい倶楽部くらぶ 消きえた後継こうけい者しゃ』が登場とうじょうした1988年ねんごろになると、クイックディスク以上いじょうの容量ようりょうを持もつROMカセットが増ふえ、またバッテリーバックアップ式しきのRAMを使つかったデータセーブも可能かのうとなったため、ディスクシステム用ようの新作しんさくはその数かずを減へらしていったのです。

　そんな時期じきに登場とうじょうした『消きえた後継こうけい者しゃ』でしたが、作品さくひんを前編ぜんぺん、後編こうへんの分ぶん作さくにすることで容量ようりょうの問題もんだいを解決かいけつ。豊富ほうふなビジュアルと、ディスクシステムの拡張かくちょうサウンド機能きのうを活いかした楽曲がっきょくで、質しつの高たかい物語ものがたりを盛もり上あげたのです。ちなみにリメイク版ばんはオリジナルのBGMも収録しゅうろくしているので、購入こうにゅうした方ほうはぜひ一いち度どは聴きいてみてください。

　当時とうじ、コマンド選択せんたく式しきのアドベンチャーは人気にんきジャンルのひとつでしたが、それらの作品さくひん群ぐんの中なかでも『消きえた後継こうけい者しゃ』『うしろに立たつ少女しょうじょ』は際立きわだった存在そんざいでした。物語ものがたりの構成こうせいやトリックだけでなく、その展開てんかいの仕方しかたや演出えんしゅつが素晴すばらしく、現代げんだいでも通用つうようする普遍ふへん的てきな「面白おもしろさの核かく」を備そなえています。

　リメイク版ばんは、ビジュアルの動うごきや演出えんしゅつが現在げんざいの基準きじゅんでも目めを引ひく豪華ごうかなものとなり、主人公しゅじんこうが見みたものをそのまま感かんじられるような、臨場りんじょう感かんのあるゲーム体験たいけんを楽たのしめます。

　ですがそのコンセプト自体じたいは、オリジナルであるディスクシステム版ばんからすでに感かんじられるもの。オリジナルでも登場とうじょう人物じんぶつは「まばたき」し、状況じょうきょうの変化へんかに合あわせて豊ゆたかな表情ひょうじょうやポーズを見みせていました。リメイク版ばんもそれをしっかりと継承けいしょうしたからこそ、こうしたビジュアルが生うまれたわけです。リメイクを担当たんとうしたのは『STEINS;GATE』シリーズや『メモリーズオフ』シリーズで知しられるMAGES.(メージス)。その丁寧ていねいな仕事しごとぶりからは、オリジナルへの確たしかな敬意けいいと愛あいを感かんじました。

　ディスクシステム版ばんやその後ごの移植いしょく版ばんを知しる人ひとはもちろん、ミステリー仕立したての映画えいがやドラマがお好すきな方ほうにも、ぜひ一いち度どは楽たのしんでほしい作品さくひんです。

既存きそんの枠わくに囚とらわれない『サガ』らしいリマスター

　一方いっぽう、『サガ フロンティア リマスター』（Switch/PS4/Steam/iOS/Android）は当時とうじのビジュアルやサウンドをほとんどそのままの形かたちで高こう解像度かいぞうど・高音こうおん質しつ化かした、いわゆるリマスター作品さくひんです。

　オリジナルは1997年ねんにプレイステーション用ようソフトとして発売はつばいされた作品さくひんで、ファンタジー、現代げんだい、東洋とうよう、SFなどのフレーバーを持もった領域りょういき（リージョン）が存在そんざいし、行いき来きもできるという、シリーズの原点げんてん『魔界まかい塔とう士しサ・ガ』を思おもわせるカオスな世界せかいが舞台ぶたい。

　選択せんたくできる主人公しゅじんこうは魔術まじゅつ師しのブルー、モデルとして活躍かつやくするエミリア、半はん人にん半妖はんようのアセルス、故郷こきょうのため指輪ゆびわを集あつめるモンスターのクーン、失うしなわれた自分じぶんのルーツを探さがすメカT260G、変身へんしんヒーローのレッド、そして親おやのすねをかじる青年せいねんリュートと、こちらもバリエーション豊ゆたかです。7人にんもいるので、1人ひとりくらいは遊あそんでみたくなるキャラクターがいるのではないでしょうか（笑）。

　剣けんと魔法まほうとミリタリーとSFテクノロジーと格闘技かくとうぎ……その他たもろもろ入いり乱みだれるバトルの面白おもしろさはシリーズ中ちゅうでも屈指くっしで、戦闘せんとう中ちゅうに新あらたな技わざを習得しゅうとく、そのまま使用しよう可能かのうになる「ひらめき」システムを過去かこ作さくから継承けいしょう。さらに技わざ同士どうしが組くみ合あわさって威力いりょくがアップする「連係れんけい」システムが初はじめて登場とうじょうした作品さくひんでもあります。

　今回こんかいのリマスター版ばんでは7人にんの主人公しゅじんこうの物語ものがたりはそのままに、“8人にん目めの主人公しゅじんこうになりそこねた男おとこ”ヒューズのシナリオが追加ついかされています。しかもヒューズ編へんだけでシナリオ7本ほん分ぶんも。

　なぜヒューズ編へんだけ7本ほんも？　と思おもう方ほうも多おおいと思おもわれますが、ヒューズ編へんは他たの7人にんのシナリオの裏側うらがわや後日ごじつ譚たんを描えがいた内容ないようなのです。いやはや、これは実じつに心憎こころにくい趣向しゅこうです。ただでさえ遊あそび続つづけてしまいがちな作品さくひんなのに、こんなことをされてしまったら、ヒューズを含ふくめた全ぜんキャラクター分ぶん、エンディングまでプレイするハメになります（笑）。

　実際じっさい、追加ついか要素ようそのない移植いしょくやリマスター作品さくひんは、その面白おもしろさの真髄しんずいを満喫まんきつできた時点じてんで満足まんぞくし、遊あそぶのをやめてしまうことも多おおいもの。それはそれで悪わるいことではないのですが、本ほん作さくはその点てんを面白おもしろいアイディアで、強力きょうりょくにフォローしているわけです。

　また、RPGのリメイクではキャラクターのステータスやアイテムを引ひき継ついで2周しゅう目め以降いこうをプレイできることも一般いっぱん的てきですが、本ほん作さくには主人公しゅじんこうが7人にんもいるため、単たんにそれを踏襲とうしゅうしていたとすれば作業さぎょう感かんも強つよくなっていたはず。しかし、ヒューズ編へんでは各かく主人公しゅじんこうのボスの強化きょうか版ばんと戦たたかえるだけでなく、ラストに最強さいきょうの敵てきが控ひかえているので、迷まようことなくデータを引ひき継つげます。

　かつての本編ほんぺん部分ぶぶんに関かんしては確たしかにリマスター、しかしヒューズ編へんに関かんしては新作しんさく……というのはい過いすぎかもしれませんが、今風いまふうに言いえば「ダウンロードコンテンツで追加ついかされた新規しんきシナリオ」といった感かんじでしょうか。

　プレイ前まえは正直しょうじき、「リマスターで税込ぜいこみ4800円えんはけっこう強気つよきな価格かかく設定せっていだな……」と思おもったものの、ここまで楽たのしく遊あそばせてくれるなら納得なっとく、いや平伏へいふくするしかありません。

　と、今回こんかいはそんな好こう対照たいしょうなリメイク版ばん『ファミコン探偵たんてい俱楽部ぶ』と『サガ フロンティア リマスター』についてお伝つたえしました。どんな名作めいさくや人気にんき作さくであっても、リメイク版ばんやリマスター版ばんが面白おもしろくなるとは限かぎらないものです。ゲームの仕組しくみはどんどん進化しんかしているものなので、当時とうじのままでは古臭ふるくさく感かんじられることも多おおいし、下手へたに手てを入いれた場合ばあいは別物べつものになってしまいがちです。

『ファミコン探偵たんてい俱楽部ぶ』と『サガ フロンティア リマスター』がオリジナルに近ちかい形かたちでも楽たのしめた理由りゆうは、コマンド式しきアドベンチャーや、コマンド戦闘せんとうRPGというジャンルの絶頂ぜっちょう期きに現あらわれた、他たに類るいを見みない、そして挑戦ちょうせん的てきな作品さくひんだったからでしょう。

　またそんな作品さくひんだからこそ、多おおくの人ひとの心しんに残のこり、その結果けっかとして愛あいを持もってリメイクやリマスターに携たずさわるスタッフたちにも恵めぐまれたのかもしれません。

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