箱根はこね駅伝えきでんに番狂ばんくるわせか…東大とうだいや山梨学院大やまなしがくいんだいを擁ようする学生がくせい連合れんごうチームの“雑草ざっそう魂たましい”に要よう注目ちゅうもく

　日本にっぽんの正月しょうがつの風物詩ふうぶつし、箱根はこね駅伝えきでん（正式せいしき名称めいしょうは「東京とうきょう箱根はこね間あいだ往復おうふく大学だいがく駅伝えきでん競争きょうそう」／主催しゅさいは関東かんとう学生がくせい陸上りくじょう競技きょうぎ連盟れんめいで、2020年ねんで第だい96回かい）で、“ジャイアントキリング”が起おきるかもしれない。ジャイアントキリングとはもともとはサッカーで用もちいられた言葉ことばで、弱よわいチームが格かく上じょうの相手あいてから勝利しょうりをもぎ取とること。いわゆる「大だい番狂ばんくるわせ」だ。そんな劇的げきてきなドラマが、2020年ねん1月がつ2日にちにスタートする箱根はこね駅伝えきでんでも見みられそうなのだ。しかも、その可能かのう性せいが伝つたえられているのは、非常ひじょうに意外いがいなチーム。すなわち、「関東かんとう学生がくせい連合れんごうチーム」なのである。

「前年ぜんねん覇者はしゃの東海大学とうかいだいがくが、ベストメンバーを揃そろえられなかったんです。12月10日にちの出場しゅつじょう校こう21チームの監督かんとく会見かいけんが開ひらかれましたが、その際さい、各かくチームの登録とうろくメンバー16人にんも発表はっぴょうされました。ところが東海大とうかいだいは、エースで4年生ねんせいの関せき颯人選手せんしゅ、3年ねん連続れんぞくで6区くを走はしった中島なかじま怜れい利とぎ選手せんしゅ（4年生ねんせい）がエントリーされなかった。他た大だいでも、関東かんとうインカレで5000メートルと1万まんメートルの日本人にっぽんじんトップ記録きろくを持もつ佐藤さとう敏也としや（法政大ほうせいだい）、2年ねん連続れんぞく5区くを走はしった竹石たけいし尚人なおと（青学大あおがくだい）などもいません。各校かくこうの主力しゅりょくランナーの調子ちょうしが上あがってこなかったみたいで」（体育たいいく協会きょうかい詰づめ記者きしゃ）

　学生がくせい3大だい駅伝えきでんのひとつ、出雲いずも駅伝えきでんを制せいした國學院大学こくがくいんだいがくも、なぜか目標もくひょうを「総合そうごう3位い」と低ひくく設定せっていしてきた。理由りゆうは不明ふめいだが、優勝ゆうしょう候補こうほの一角いっかくと目めされる駒澤大学こまざわだいがくからも、力強ちからづよいコメントは聞きかれなかったという。

「優勝ゆうしょう候補こうほは東海大とうかいだい、青学大あおがくだい、駒澤大こまざわだい、東洋大とうようだい、國學院大こくがいくいんだいといったところ。10月に出雲いずも駅伝えきでんがあって、11月は全日本ぜんにほん大学だいがく駅伝えきでんと続つづき、そして2カ月かげつ弱じゃくで、最大さいだいのイベントである箱根はこね駅伝えきでんとなります。学生がくせいのコンディション作づくり、つまり好調こうちょうな状態じょうたいを持続じぞくさせることは非常ひじょうに難むずかしいので、どの学校がっこうも控ひかえめなコメントになったのでしょう。実際じっさい、東海大とうかいだいのようにエースを外はずしてきたところもありましたし」（前出ぜんしゅつ・体育たいいく協会きょうかい詰づめ記者きしゃ）

2008年ねんの“ジャイアントキリング”再ふたたび？

　冒頭ぼうとうで述のべた学生がくせい連合れんごうチームの上位じょうい入いりが予想よそうされるようになった理由りゆうは、強豪きょうごう校こうに不安ふあん要素ようそが出でてきたからではない。連合れんごうチームに選えらばれた16人にんの学生がくせいたちが、本気ほんきで勝かちを狙ねらいにきているというのだ。

「通常つうじょう、連合れんごうチームに選えらばれた16人にんは、11月下旬げじゅんか12月上旬じょうじゅんに内輪うちわでの記録きろく会かいみたいなものをやり、そこで本番ほんばんを走はしることとなる上位じょうい10人にんを決きめていく、という流ながれが普通ふつう。ところが今回こんかいは、その10人にんを決きめる内輪うちわの記録きろく会かいはナシ、箱根はこね本番ほんばんに合あわせて調整ちょうせいすることが決きまったんです」（テレビ局てれびきょくスポーツ部員ぶいん）

　ここでいう「箱根はこねに合あわせて」というのは、非常ひじょうに意味いみが深ふかいといえよう。

　そもそも「学生がくせい連合れんごうチーム」とは、箱根はこね駅伝えきでんの予選よせん会かいで敗退はいたいした大学だいがくのなかから、「箱根はこね本番ほんばんの未み経験けいけん者しゃ、各校かくこう1名めい、留学生りゅうがくせいをのぞく」などのルールのもとに選考せんこうされた混合こんごう集団しゅうだんであり、2003年ねんの第だい79回かい大会たいかいから「関東かんとう学がく連れん選抜せんばつ」の名称めいしょうで設もうけられたもの。所属しょぞくする大学だいがくのチームとしては予選よせん突破とっぱはかなわなかったものの、好成績こうせいせきを残のこした選手せんしゅが選えらばれてきた。2014年ねんにいったん消滅しょうめつしたが、2015年ねんに復活ふっかつ。箱根はこね本番ほんばんでの記録きろくも「参考さんこう」とされてはしまうが、厳密げんみつにいえば2007年ねんからの7年間ねんかんだけは公式こうしき記録きろくとして扱あつかわれており、2008年ねんには、なんと総合そうごう4位いに食くい込こむという“ジャイアントキリング”が演えんじられたこともある。

「内輪うちわの記録きろく会かいをやらないという作戦さくせんが用もちいられたのも、まさにこの2008年ねんでした。当時とうじ、この連合れんごうチームを指揮しきすることになった青山学院大あおやまがくいんだいの原はら晋すすむ監督かんとくが、11月下旬げじゅんに記録きろく会かいなどをやってしまうと、箱根はこね本番ほんばんまでに体力たいりょくが回復かいふくすることが難むずかしくなる……とし、学生がくせいたちを説得せっとくしたんです」（前出ぜんしゅつ・テレビ局てれびきょくスポーツ部員ぶいん）

　エントリーされた16人にんから上位じょうい10人にんを決きめる記録きろく会かいをやれば、選手せんしゅたちは箱根はこね駅伝えきでんに出でたいという一心いっしんで、そこにピークを合あわせてしまう。このリスクを回避かいひする作戦さくせんが見事みごとに的中てきちゅうしたのが2008年ねんというわけ。しかしそうなると、成績せいせきがトップ10に入はいっていても走はしれない選手せんしゅが出でてくる可能かのう性せいも生しょうじてしまう。つまり、「なぜオレが選えらばれなかったのか!?」といった不満ふまんが出でてしまうかもしれないわけだ。

「2008年ねん大会たいかいでは、原はら監督かんとくが選手せんしゅの好こう不調ふちょうを見極みきわめ、調子ちょうしの良よい選手せんしゅ、上のぼり、下くだりの走路そうろに適てきした選手せんしゅをきちんと見極みきわめたんです。そして今回こんかい、連合れんごうチームに選えらばれた16人にんは、互たがいに連絡れんらくを取とり合あってミーティングも開ひらき、『勝かちたい』の気持きもちを確たしかめ合あったといいます。勝かつためには、やはり内輪うちわの記録きろく会かいなどで機械きかい的てきに選抜せんばつ者しゃを決きめるのではなく、箱根はこね本番ほんばんに合あわせて調整ちょうせいすべきなのでしょう。だからこそ今回こんかいの選手せんしゅ選考せんこうは、連合れんごうチームを指揮しきする麗沢大れいたくだい・山川やまかわ達也たつや監督かんとくに一任いちにんすると決きまったのです」（前出ぜんしゅつ・体協たいきょう詰づめ記者きしゃ）

東大とうだいの阿部あべは“まだまだ伸のびる”

　連合れんごうチーム入いりした選手せんしゅたちが予選よせん会かいで残のこしたハーフマラソンの成績せいせきを見みると、やはり突出とっしゅつして速はやい選手せんしゅはいない。しかし、1時じ間あいだ3分ふん台だいの山口やまぐち武たけし（東京とうきょう農大のうだい）を筆頭ひっとうに、上位じょうい10人にんは全員ぜんいん、同どう5分ふん台だいに収おさまっている。箱根はこね本番ほんばんで上位じょういに食くい込こむだけの力ちからは十分じゅうぶんすぎるほど持もっているのだ。

　また、今回こんかいの連合れんごうチームには個性こせい的てきな選手せんしゅが少すくなくない。主将しゅしょうを務つとめる阿部あべ飛ひ雄ゆう馬ば（4年ねん）は東京大学とうきょうだいがくのランナーで、卒業そつぎょう後ごは大学院だいがくいんに進学しんがくすることが決きまっている。私立しりつ大学だいがくのような練習れんしゅう環境かんきょうには恵めぐまれなかった分ぶん、「効率こうりつ良よく練習れんしゅうすること」や、徹底てっていした自己じこ管理かんりで晴はれ舞台ぶたいを勝かち取とった逸材いつざいだ。

「東大とうだいの阿部あべには『まだ伸のびしろがある』という声こえが、強豪きょうごう校こうの監督かんとくたちからも聞きかれました。予選よせん会かいハーフマラソンの個人こじん成績せいせきなんですが、前回ぜんかいの224位いから64位いに上あげてきたんです。予選よせん会かいは異常いじょうな暑あつさを記録きろくし、全ぜん選手せんしゅが成績せいせきを伸のばせませんでした。そのなかでこれだけ伸のびたわけですから、箱根はこね本番ほんばんではもっと成績せいせきを上あげてくるかも……と警戒けいかいする監督かんとくもいましたね」（前出ぜんしゅつ・体協たいきょう詰づめ記者きしゃ）

　現在げんざいはあいおいニッセイ同和どうわ損害そんがい保険ほけん所属しょぞくのプロランナーで、かつては“埼玉さいたま県庁けんちょう所属しょぞく”という異色いしょくのプロフィールで話題わだいを呼よんだ川内かわうち優輝ゆきも、学習院大学がくしゅういんだいがく時代じだいには連合れんごうチーム入いりし、2007年ねんと2009年ねんの二に度ど、箱根はこね駅伝えきでんを走はしっている。卒業そつぎょう後ごに世界せかいレベルに成長せいちょうした経歴けいれきを考かんがえると、連合れんごうチームの存在そんざい意義いぎはやはり大おおきいといえよう。

山梨学院大やまなしがくいんだいの本気ほんきのサポート

　今回こんかいの2020年ねん大会たいかいに向むけては、箱根はこねの常連じょうれん校こうでもあった山梨学院大学やまなしがくいんだいがくが予選よせん会かいで散ちっている。しかし、同どう大学だいがくの日本人にっぽんじんトップの渡辺わたなべ晶紀あき（2年ねん）が、やはり連合れんごうチームに選えらばれており、こちらは「連続れんぞく出場しゅつじょうが33回かいで途切とぎれた悔くやしさ」をぶつけてくるだろう。山梨学院大やまなしがくいんだいといえば箱根はこねを知しり尽つくした大学だいがくでもあり、当然とうぜん、学校がっこう全体ぜんたいとして渡辺わたなべには区間くかんごとの「風ふうの特徴とくちょう」や「走路そうろの起伏きふく」などの極意ごくいを伝つたえ、サポートしてくるものと思おもわれる。

　波乱はらんを起おこしてやるという意気込いきごみが、「10人にん選出せんしゅつの内輪うちわの記録きろく会かいナシ」につながったのかもしれない。たとえ参考さんこう記録きろく扱あつかいでも、箱根はこね駅伝えきでんでは本気ほんきで勝かちを取とりにいく。1月2日にち・3日にちの2日間にちかん、連合れんごうチームの雑草ざっそう魂たましいをバネにした力走りきそうが、日本にっぽん中ちゅうを興奮こうふんさせるかもしれない。

（文ぶん＝美山みやま和也かずや）