ゴーン会見かいけん、日本にっぽんの“人質ひとじち司法しほう・不当ふとう勾留こうりゅう”が世界せかいを驚おどろかす…海外かいがい逃亡とうぼうに理解りかい示しめす声こえも

　大おおみそかに発覚はっかくしたカルロス・ゴーン日産自動車にっさんじどうしゃ元もと会長かいちょうの電撃でんげき出国しゅっこくの波紋はもんが広ひろがり続つづけている。東京とうきょう都内とないの自宅じたくから新幹線しんかんせんで関西国際空港かんさいこくさいくうこうに向むかい、トルコ・イスタンブールを経へて生うまれ故郷こきょうであるレバノンにたどり着ついた逃避行とうひこうには、米べい軍ぐんの特殊とくしゅ部隊ぶたい「グリーンベレー」の関係かんけい者しゃの関与かんよも報ほうじられるなど、前代未聞ぜんだいみもんの展開てんかいとなっている。

　そんななか、1月がつ8日にちにはゴーン氏しによる記者きしゃ会見かいけんがレバノンで行おこなわれた。以下いか、独自どくじの視点してんで日本にっぽんの司法しほう制度せいどを批判ひはんしてきた作家さっかの宮崎みやざき学まなぶ氏しが論点ろんてんを分析ぶんせきする。

「日本にっぽんは人権じんけん後進こうしん国こく」のアピールに成功せいこう

　日本にっぽん時間じかんの1月がつ8日にち22時じ、レバノンでゴーン氏しの会見かいけんが行おこなわれ、レバノンとフランスを中心ちゅうしんに日本にっぽんを含ふくむ100人にんほどの記者きしゃが取材しゅざいしたことが報ほうじられた。日本にっぽんからは朝日新聞あさひしんぶん、テレビ東京てれびとうきょう、小学館しょうがくかんが会場かいじょうに入いれたようだ。会見かいけんの様子ようすはインターネットで全ぜん世界せかいに配信はいしんされ、テレ東ひがしも生なま中継ちゅうけいしていた。

　中継ちゅうけいを見みた印象いんしょうでは、ゴーン氏しは自己じこ弁護べんごに終始しゅうしした。事前じぜんに「クーデターの関係かんけい者しゃの実名じつめいと証拠しょうこを出だす」と言いっていたが、日本にっぽんの政府せいふ関係かんけい者しゃについては「レバノン政府せいふとの関係かんけいを考慮こうりょして明あかさない」とするなど、想定そうてい内ないではあるが新鮮味しんせんみのない会見かいけんであった。

　ただ、「（日本にっぽんで弁護べんご団だんに）『私わたしは公平こうへいな裁判さいばんを受うけられるか』と聞きいたら、『受うけられるよう努力どりょくする』と言いわれた。公平こうへいな裁判さいばんを受うけるために出国しゅっこくした」という言葉ことばには納得なっとくする。「裁判さいばんとは、裁判官さいばんかんが決きめるものだと思おもっていたが、実際じっさいには検察官けんさつかんが決きめていた」とも話はなし、これは世界せかいを驚おどろかせるに足たることだろう。

　日本にっぽんの取とり調しらべと裁判さいばん、勾留こうりゅうの制度せいどには多おおくの問題もんだいがある。これまで作家さっかの佐藤さとう優ゆう、鈴木すずき宗男むねお議員ぎいん、ジャーナリストの魚住うおずみ昭あきらなど多おおくの識者しきしゃが検察けんさつを批判ひはんしてきたが、一向いっこうに改善かいぜんされてこなかった。

　今回こんかいの会見かいけんで、「日本にっぽんは人権じんけんが守まもられていない後進こうしん国こく」という事実じじつを世界せかいにアピールすることには成功せいこうしたと思おもう。SNSでも、人質ひとじち司法しほうの実態じったいを知しる国内こくないの司法しほう関係かんけい者しゃらによる「逃亡とうぼうはダメだが、逃にげたい気持きもちはわかる」という主旨しゅしのコメントが目立めだった。

　今回こんかいの出国しゅっこくで、図はからずも日本にっぽんの司法しほうだけでなく政府せいふそのもののスタンスが問とわれることとなったのである。国内こくないでもさまざまな議論ぎろんが出でているが、興味深きょうみぶかかったのは日本にっぽん共産党きょうさんとうの志位しい和夫かずお委員いいん長ちょうの見解けんかいである。「（裁判所さいばんしょは）あれだけの重大じゅうだい犯罪はんざいの被告ひこくを保釈ほしゃくし、甘あまい対応たいおうをした」「（裁判所さいばんしょの）判断はんだんの問題もんだいも問とわれてくる」などと述のべたと、産経新聞さんけいしんぶんが報ほうじた。長ながい弾圧だんあつの歴史れきしを持もつ党とうのトップがこうした見方みかたをするとは、戦前せんぜんと体質たいしつが変かわっていないことがよくわかる。

　許永中きょえいちゅう氏しのイトマン事件じけんなど、過去かこにも被告人ひこくにんが保釈ほしゃく中ちゅうに逃走とうそうする例れいはあったが、ゴーン氏しの出国しゅっこくは元もとグリーンベレーの関与かんよまで取とり沙汰ざたされている、例外れいがい中ちゅうの例外れいがいである。

　志位しい委員いいん長ちょうの周辺しゅうへんには、まだスターリンやレーニンの亡霊ぼうれいがうろちょろしているのだろうか。ちなみに、共産党きょうさんとうの機関きかん紙し「赤旗あかはた」にも同どう趣旨しゅしの記事きじがあったが、該当がいとう箇所かしょはひそかに削除さくじょされていた。そういうところも「そういう党とうなのだ」という感想かんそうしかない。

ゴーン出国しゅっこくの裏うらにレバノンの“掟おきて”

　さて、今後こんごはどう展開てんかいしていくのだろうか。これまで4度どにわたって逮捕たいほされているゴーン氏しに対たいして、海外かいがいのメディアはおおむね同情どうじょう的てきであったが、今回こんかいの会見かいけんによって、日本にっぽんの人質ひとじち司法しほうへの批判ひはんはともかく、ゴーン氏しの疑惑ぎわくは深ふかまったかもしれない。

　理由りゆうはどうあれ、ゴーン氏しが米べい軍ぐん関係かんけい者しゃなどの協力きょうりょくを得えて日本にっぽんを出国しゅっこくしたことと起訴きそは別べつの話はなしであり、「コストカッター」としてリストラを断行だんこうし、日産にっさんを再建さいけんした手腕しゅわんもまた、別べつの話はなしである。日本にっぽん国内こくないでゴーン氏しの手腕しゅわんをもてはやしていた人々ひとびとがどうしているかわからないが、現げん段階だんかいではゴーン氏しが日本にっぽんで裁判さいばんを受うける可能かのう性せいは低ひくいと思おもう。

　会見かいけんに先さきがけて、レバノンの大統領だいとうりょうが「日本にっぽん側がわの要請ようせいに全面ぜんめん的てきに協力きょうりょくしていくことを約束やくそくする」と大使たいしに伝つたえたというが、レバノンには外国がいこくへの身柄みがらの引ひき渡わたしに応おうじない国内こくない法ほうもあり、スムーズではないだろう。

　首都しゅとベイルートで子こども時代じだいを過すごしたゴーン氏しは、レバノンでは経済けいざい的てきな成功せいこう者しゃであり英雄えいゆうだと聞きいている。砂漠さばくに囲かこまれ、政情せいじょう不安ふあんが収おさまらないレバノンは、「法ほう」よりもファミリーの結むすびつきによる「掟おきて」が民衆みんしゅうを強つよく支配しはいしていると思おもう。今回こんかいの逃避行とうひこうも、多額たがくのカネは介在かいざいしているが、掟おきてが優先ゆうせんされた結果けっかではないのか。

　そして、私わたしの世代せだいがベイルートと聞きいて思おもい出だすのは、日本にっぽん赤軍せきぐんの岡本おかもと公こう三さんだ。私わたしより2歳さい下かで1947年ねん生うまれの岡本おかもとは、学生がくせい運動うんどうに身みを投とうじて日本にっぽん赤軍せきぐんに入はいり、パレスチナの解放かいほう闘争とうそうに参加さんかしている。次兄じけいは「よど号ごう」ハイジャック犯はんのメンバーであるが、当時とうじはきょうだいで学生がくせい運動うんどうに参加さんかする者ものも珍めずらしくなかった。

　岡本おかもとを有名ゆうめいにしたのは、72年ねんのイスラエルのテルアビブ・ロッド空港くうこうでの無む差別さべつ乱射らんしゃ事件じけんである。同志どうしらとともに自動じどう小銃しょうじゅうと手て投なげ弾だんで約やく 300人にんの利用りよう客きゃくを襲撃しゅうげきして、24人にんを殺害さつがいしたのだ。

　同志どうしらは死亡しぼうし、逮捕たいほされた岡本おかもとはイスラエル軍事ぐんじ法廷ほうていで終身しゅうしん刑けいの判決はんけつを受うけたが、85年ねんにアラブ・イスラエル捕虜ほりょ交換こうかんにより釈放しゃくほうされ、その後ごにレバノンに政治せいじ亡命ぼうめいした。現在げんざいも、ベイルートでパレスチナ解放人民戦線ぱれすちなかいほうじんみんせんせん（PFLP）らの保護ほごを受うけているとされる。岡本おかもとは、のちに「乱射らんしゃ事件じけんはテロではなくPFLPと共同きょうどうの武装ぶそう闘争とうそうだった」とメディアに明あかしている。

　イスラエルと対立たいりつするレバノン政府せいふは革命かくめい家かとしての岡本おかもとの亡命ぼうめいを受うけ入いれたが、日本にっぽんの警察庁けいさつちょうは今いまも岡本おかもとら日本にっぽん赤軍せきぐん関係かんけい者しゃの国際こくさい指名しめい手配てはいを解といていない。ゴーン氏しと比較ひかくする話はなしではないが、レバノンと日本にっぽんの政府せいふのスタンスがうかがえる。

　いずれにせよ、日本にっぽん政府せいふと検察庁けんさつちょうが国内外こくないがいにゴーン氏しの逮捕たいほと勾留こうりゅうの正当せいとう性せいを発信はっしんし、日本にっぽんでの再さい収監しゅうかんを目指めざしても、ゴーン氏しを日本にっぽんの法廷ほうていで裁さばくのは簡単かんたんではない。

（構成こうせい＝編集へんしゅう部ぶ）