警察けいさつが“見逃みのがしていた交通こうつう違反いはん”を急きゅうに取とり締しまる本当ほんとうの理由りゆう…元もと警察官けいさつかんが明あかす検挙けんきょの裏側うらがわ

「いきなり数すう名めいの警官けいかんに囲かこまれて切符きっぷを切きられた。まいったよ」

　親友しんゆうのタクシードライバーが嘆なげいていた。聞きけば、コロナ禍かの12月、東京とうきょう・銀座ぎんざの路上ろじょうで買かい物もの客きゃくを乗のせるべく付つけ待まちをしていた際さい、「交差点こうさてんから5m以内いない」の駐車ちゅうしゃ禁止きんしで違反いはん切符きっぷを切きられたという。

「交差点こうさてんから5m以内いないに停とめていたのは確たしかだし、駐車ちゅうしゃ禁止きんし区域くいきだけど多おおくのタクシーが付つけ待まちしている、いわば“暗黙あんもくの了解りょうかい場所ばしょ”だったんだ。無事故むじこ無む違反いはんを続つづけてきて、個人こじんタクシーを夢見ゆめみていたのに……ついてねぇや」

スルーしていた交通こうつう違反いはんを急きゅうに取とり締しまる理由りゆう

　これまでは看過かんかされてきた交通こうつう違反いはんを、警察けいさつが急きゅうに取とり締しまるようになったということなのだろうか。交通こうつう課かに勤務きんむ経験けいけんのある元もと警察官けいさつかんに聞きくと、次つぎのような答こたえが返かえってきた。

「おそらく、そこに駐ちゅう停車ていしゃする車両しゃりょうについて、市民しみんから『検挙けんきょしろ』なんてクレームが入はいったんじゃないかな。俺おれが勤務きんむしていた頃ころの話はなしだけど、スピード違反いはんを挙あげたところ、その違反いはん者しゃから『俺おれみたいなのを挙あげるより、○○交差点こうさてん付近ふきんの迷惑めいわく駐車ちゅうしゃをどうにかしろ！』と警察けいさつ署しょに電話でんわが入はいり、対応たいおうの意味いみで違反いはんを挙あげに行いったことがあったね。このように、何なにかしら迷惑めいわく行為こういやトラブルがあって、警察けいさつに連絡れんらくが入はいった可能かのう性せいは高たかいよ」

　近年きんねん、「信号しんごうのない横断おうだん歩道ほどうで歩行ほこう者しゃがいるのに停止ていししない車くるまの検挙けんきょ」が増ふえているのも、交通こうつう事故じこの要因よういんとなっているためだ。「その違反いはんにより事故じこが増ふえる」「その違反いはんを『なんで見逃みのがしている！』とクレームが入はいる」、この2点てんは検挙けんきょが増ふえる理由りゆうだという。

　また、元もと警察官けいさつかんはこう付つけ加くわえてくれた。

「最初さいしょの緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげんの際さい、交通こうつう量りょうは減へったけど、車くるまが減へったことで、いわゆる放置ほうち駐車ちゅうしゃが増ふえたよね。駐車ちゅうしゃ違反いはんの検挙けんきょ数すうは年間ねんかんでは数すうパーセント減へったけど、緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげん時じは増ふえたんだ。こうした社会しゃかい事情じじょうも違反いはん摘発てきはつの要因よういんになるから、頭あたまに入いれておいた方ほうがいいよ。

　もうひとつ、これは推測すいそくだけど、これまで見逃みのがしていた違反いはんを検挙けんきょするよう、警察けいさつのトップに通達つうたつがあったのかもしれないね。コロナ禍かの特別とくべつ給付きゅうふ金きんや持続じぞく化か給付きゅうふ金きんなどで国くにの財政ざいせいは悪化あっかしたでしょ。その補填ほてんという意味いみでの通達つうたつがあったのかもしれないよ」

　車くるまを運転うんてんする以上いじょう、無意識むいしきのうちに交通こうつう違反いはんをしてしまっていることも少すくなくない。混雑こんざつしている駅前えきまえで家族かぞくを待まつために10分ふん以上いじょうも駐車ちゅうしゃしたり、「交通こうつうの流ながれに乗のる」という意味いみで20キロほど速度そくど超過ちょうかしたり……。

「いずれも、警察官けいさつかんが“見逃みのがしている”というのが実情じつじょうだからね。交通こうつう違反いはんである以上いじょう、いつ挙あげられてもおかしくない、ということは理解りかいしていた方ほうがいいよ」という言葉ことばはもっともだ。

3万まん円えんで見逃みのがす白しろバイ、議員ぎいんに頼たのんでもみ消けし

　筆者ひっしゃが若わかかりし頃ころ、少々しょうしょうの違反いはんは見逃みのがしてもらえるケースもあった。ほろ酔よいで運転うんてん中ちゅう、白しろバイに捕つかまり「すいません、仕事しごとの付つき合あいで断ことわれず……家族かぞくが路頭ろとうに迷まよいます」と情じょうにすがり、見逃みのがしてもらったという話はなしや、「面倒めんどうを見みている市議会しぎかい議員ぎいんに頼たのんで、もみ消けしてもらった」なんて話はなしも聞きいたことがある。

　いずれも決けっしてほめられた行為こういではないが、近年きんねんはこうした“お目めこぼし”すらなくなってきているという。

「10年ねんくらい前まえ、俺おれの友人ゆうじんが白しろバイに捕つかまったんだが、3万まん円えんを渡わたして見逃みのがしてもらったことがあると言いってた。そのときは白しろバイが単独たんどく行動こうどうだったので通用つうようしたけど、2人ふたり以上いじょうだったらまず無理むりだよ。互たがいの目めを気きにするしね。昔むかしの見逃みのがしは単独たんどく検挙けんきょが条件じょうけんだよ。

　でもね、今いまは警察官けいさつかんがひとりでも通用つうようしないと思おもうよ。なぜなら、車載しゃさいカメラを意識いしきするからね。たとえカメラが映うつらない場所ばしょで泣なきついても、違反いはん者しゃがやり取とりを録音ろくおんしているかもしれないでしょ。お金かねで見逃みのがしたりしたら、後あとで脅おどされかねないからね」（前出ぜんしゅつの元もと警察官けいさつかん）

　良よくも悪わるくもおおらかだった時代じだいと異ことなり、今いまは相互そうご監視かんし社会しゃかいへと突つき進すすんでいる。昭和しょうわと令れい和わで、社会しゃかいの空気くうきは明あきらかに違ちがっているようだ。

（文ぶん＝井山いやま良介りょうすけ／経済けいざいライター）