「出生しゅっしょう率りつ」の知しられざる現実げんじつ…東京とうきょう都との一部いちぶで出生しゅっしょう率りつ上昇じょうしょうという事実じじつから学まなぶべきこと

　厚生こうせい労働省ろうどうしょうが公表こうひょうした「人口じんこう動態どうたい統計とうけい」（2021年ねん2月がつ22日にち・速報そくほう値ち）によると、2020年ねんの出生しゅっしょう数すうは過去かこ最少さいしょうの87万まん人にん（対たい前年ぜんねん2.5万まん人にん減げん）となった。国立こくりつ社会しゃかい保障ほしょう・人口じんこう問題もんだい研究所けんきゅうじょの「日本にっぽんの将来しょうらい人口じんこう推計すいけい」（平成へいせい29年ねん推計すいけい）では出生しゅっしょう数すうが80万まん人にんを割わるのは2033年ねんという予測よそくであったが、出生しゅっしょう数すうが80万まん人にんを割わるのは残のこり数すう年ねんで、もはや時間じかんの問題もんだいだろう。

　このような状況じょうきょうのなか、先般せんぱん（2021年ねん4月がつ1日にち）、菅かん義よし偉えら首相しゅしょうは、子育こそだて政策せいさく等とうを省庁しょうちょう横断おうだん的てきに取とり組くむ「子こども庁ちょう」創設そうせつに関かんする検討けんとうの指示しじを出だした。政府せいふもついに強つよい決意けついで子育こそだて政策せいさくに本腰ほんごしを入いれる覚悟かくごを示しめすようだが、合計ごうけい特殊とくしゅ出生しゅっしょう率りつ（以下いか「出生しゅっしょう率りつ」という）の上昇じょうしょうに何なにが必要ひつようなのか、しっかり見定みさだめることも重要じゅうようだ。

　例たとえば、地方ちほう創そう生せいと出生しゅっしょう率りつの関係かんけいである。現在げんざい、人口じんこう減少げんしょうに歯止はどめをかけるため、地方ちほう創そう生せいでは東京とうきょう一いち極きょく集中しゅうちゅうの是正ぜせいが一ひとつの目標もくひょうになっているが、仮かりに東京とうきょうの人口じんこうをゼロにしても出生しゅっしょう率りつはほとんど上昇じょうしょうしない。

　まずは、この簡単かんたんな試算しさんを示しめすため、日本にっぽん全国ぜんこくを「東京とうきょう都と」と「東京とうきょう都と以外いがい」の2地域ちいきに区分くぶんしよう。

　出生しゅっしょう率りつはこの2地域ちいきの女性じょせいが生涯しょうがいに生うむ子こどもの数かずで決きまるが、「日本にっぽんの将来しょうらい推計すいけい人口じんこう（平成へいせい29年ねん推計すいけい）」や「平成へいせい27年ねん国勢調査こくせいちょうさ 東京とうきょう都区とく市町村しちょうそん町まち丁よろ別べつ報告ほうこく」によると、女性じょせい人口じんこう（20―44歳さい）は日本にっぽん全体ぜんたいで約やく1700万まん人にん、東京とうきょう都とは約やく235万まん人にんであるから、東京とうきょう以外いがいの女性じょせい人口じんこう（20－44歳さい）は約やく1465万まん人にんとなる。

　2019年ねんの東京とうきょう都との出生しゅっしょう率りつは1.15であり、東京とうきょう以外いがいの地域ちいきにおける出生しゅっしょう率りつの平均へいきんをZとすると、全国ぜんこく平均へいきんの出生しゅっしょう率りつは「1.15×235÷1700＋Z×1465÷1700」（※）と表現ひょうげんできる。2019年ねんにおける全国ぜんこく平均へいきんの出生しゅっしょう率りつは1.36のため、これが※と一致いっちする条件じょうけんはZ＝1.394となる。

　この数値すうちが意味いみすることは何なにか。それは出生しゅっしょう率りつが地域ちいきに依存いぞんして決きまる場合ばあい、東京とうきょうの人口じんこうをゼロにしても、日本にっぽん全体ぜんたいの出生しゅっしょう率りつは1.36から1.394までしか上昇じょうしょうしないという事実じじつである。すなわち、出生しゅっしょう率りつの増加ぞうかは0.034しかない。

　以上いじょうは女性じょせい人口じんこう（20－44歳さい）で試算しさんした。適切てきせつな計算けいさんではないと思おもわれるが、女性じょせい人口じんこうでなく、日本にっぽん全体ぜんたいの人口じんこう（約やく1.3億おく人にん）、東京とうきょう都との人口じんこう（約やく1400万まん人にん）、東京とうきょう都と以外いがいの人口じんこう（約やく1.16億おく人にん）で試算しさんしても、Zは1.385にしか上昇じょうしょうしない。

子育こそだてしやすい都市とし構造こうぞうという視点してんが重要じゅうよう

　あまり知しられていないが、むしろ子育こそだてしやすい都市とし構造こうぞうという視点してんが重要じゅうようであり、ここ数すう年ねん、東京とうきょう都との一部いちぶエリアで出生しゅっしょう率りつが上昇じょうしょうしている事実じじつのほうが重要じゅうようだろう。例たとえば、厚生こうせい労働省ろうどうしょう「人口じんこう動態どうたい保健所ほけんじょ・市区しく町村ちょうそん別べつ統計とうけい」において、平成へいせい20−24年ねんと比較ひかくし、平成へいせい25−27年ねんの合計ごうけい特殊とくしゅ出生しゅっしょう率りつが増加ぞうかした上位じょうい50の区く市町村しちょうそんのうち，東京とうきょう都内とないの区く市しが5つもランクインした。しかも、9位いが東京とうきょう都と中央ちゅうおう区く、19位いが東京とうきょう都と千代田ちよだ区くであり、各々おのおのの出生しゅっしょう率りつは1.39（0.29の上昇じょうしょう）、1.28（0.26の上昇じょうしょう）となっている。

　小泉こいずみ政権せいけん以降いこう、都市とし再生さいせい特区とっくの政策せいさくなどにより、都心としんの高層こうそうビルや湾岸わんがん部ぶのタワーマンションが次々つぎつぎに建設けんせつされ、ファミリー向むけのマンションも供給きょうきゅうが増加ぞうか。都心としん4区く（千代田ちよだ・中央ちゅうおう・港みなと・江東こうとう）の人口じんこうも増加ぞうかした。このため、数すう年ねん前まえ、これらエリアでの小学校しょうがっこうや保育ほいく所しょの不足ふそくが話題わだいになったが、これら政策せいさくが冒頭ぼうとうの中央ちゅうおう区くなどの出生しゅっしょう率りつ増ぞうに寄与きよした可能かのう性せいがある。この事実じじつは、地方ちほう創そう生せいで東京とうきょう一いち極きょく集中しゅうちゅうの是正ぜせいを行おこなえば、出生しゅっしょう率りつが上昇じょうしょうするという一種いっしゅの「神話しんわ」に関かんする再さい検証けんしょうが必要ひつようなことを意味いみする。

　また、育児いくじと仕事しごとの両立りょうりつを図はかるためには、保育ほいく所しょにおける待機たいき児童じどうの解消かいしょうを速すみやかに行おこなう必要ひつようがある。この視点してんでは、保育ほいく所しょ（厚労省こうろうしょう所管しょかん）のみでなく、幼稚園ようちえん（文科ぶんか省しょう所管しょかん）や認定にんていこども園えん（内閣ないかく府所ふどころ管かん）も一体いったい的てきに管理かんりし、子育こそだてしやすい都市とし構造こうぞうをどう我々われわれが創造そうぞうするかということのほうが重要じゅうようである。

　菅かん義よし偉えら首相しゅしょうが「子こども庁ちょう」創設そうせつの検討けんとう指示しじを出だした今いまこそ、出生しゅっしょう数すうの増加ぞうかに向むけた本当ほんとうの議論ぎろんが始はじまることを期待きたいしたい。

（文ぶん＝小黒おぐろ一正かずまさ／法政大学ほうせいだいがく教授きょうじゅ）