「中学ちゅうがく受験じゅけんブームが過熱かねつ」の嘘うそ…根強ねづよい最さい難関なんかん校こう志向しこう＆合格ごうかく者しゃ水増みずましが横行おうこうする学習がくしゅう塾じゅくの実態じったい

　近年きんねん、メディアを中心ちゅうしんに“第だい3次じ中学ちゅうがく受験じゅけんブーム”が取とり沙汰ざたされている。首都しゅと圏けん模試もしセンターが発表はっぴょうしたデータ（「2021年ねん入試にゅうしまでの受験じゅけん者しゃ数すうの推移すいい＜私立しりつ・国立こくりつ中学校ちゅうがっこう＞」2021／2／9暫定ざんてい版ばん）によると、2021年ねん2月がつの私立しりつ・国立こくりつ中学校ちゅうがっこうの受験じゅけん者しゃ数すうは1都と3県けんで5万まん50人にんを記録きろくするなど、年々ねんねん増加ぞうか傾向けいこうにある。少子化しょうしかが進すすむ中なかで受験じゅけん者しゃが増ふえているため、現状げんじょうを中学ちゅうがく受験じゅけんブームと捉とらえる人ひとが多おおいが、専門せんもん家かの間あいだでは懐疑かいぎ的てきな声こえも上あがっているという。

　第だい3次じ中学ちゅうがく受験じゅけんブームの実情じつじょうについて、教育きょういくジャーナリストのおおたとしまさ氏しに話はなしを聞きいた。

二に極きょく化かが進すすむ近年きんねんの中学ちゅうがく受験生じゅけんせい

　メディアの情報じょうほうだけでは“中学ちゅうがく受験じゅけんブームが来きている”とは言いえない、とおおた氏しは指摘してきする。

「本来ほんらいならより長期間ちょうきかんのデータから分析ぶんせきすべきところですが、2010年ねん以降いこうのデータのみを掲載けいさいするメディアも散見さんけんされるなど、不誠実ふせいじつな報道ほうどう姿勢しせいが目立めだちます。過去かこ20年ねん前まえまで遡さかのぼれば、リーマン・ショックの影響えいきょうで落おち込こんでいた受験じゅけん者しゃ数すうが2007年ねんのレベルまで回復かいふくしただけ、ということがすぐにわかります。『中学ちゅうがく受験じゅけんが過熱かねつしている』というストーリーは捏造ねつぞうに近ちかい印象いんしょうです」（おおた氏し）

　2008年ねんのリーマン・ショックに伴ともなう世界せかい的てき不況ふきょうは、多おおくの家計かけいに大だい打撃だげきを与あたえた。子こどもを私立しりつ中学ちゅうがくに通かよわせる経済けいざい的てきな余裕よゆうがない家庭かていが増ふえれば、自おのずと受験生じゅけんせいも減へることになる。逆ぎゃくに、景気けいきが回復かいふくすれば受験じゅけん者しゃ数すうが増ふえるのは自然しぜんな流ながれだ。

「1990年代ねんだい前半ぜんはんにも、首都しゅと圏けんの中学ちゅうがく受験じゅけん者しゃ数すうは5万まん人にんを超こえています。しかも、当時とうじは募集ぼしゅう定員ていいんの数かずが今いまよりもずっと少すくなかったので、かなり過酷かこくな状況じょうきょうでした。しかし、受験じゅけんブームがピークを迎むかえた頃ころにバブルが崩壊ほうかいし、受験じゅけん者しゃの数かずは減少げんしょうします。このように、中学ちゅうがく受験じゅけんの受験じゅけん者しゃ数すうは景気けいき動向どうこうと密接みっせつに関かかわっているんです」（同どう）

　一方いっぽうで、おおた氏しは、中学ちゅうがく受験じゅけんの過熱かねつを伝つたえる報道ほうどうが増ふえている背景はいけいについて「根強ねづよい最さい難関なんかん校こう志向しこうが影響えいきょうしている」と分析ぶんせきする。

「近年きんねんの中学ちゅうがく受験生じゅけんせいの傾向けいこうは二に極きょく化かが進すすんでいます。ひとつは、何なにが何なんでも御三家ごさんけ（開成かいせい・麻布まふ・武蔵むさし）あるいは、早慶そうけい付属ふぞく校こうのような最さい難関なんかん校こう志向しこうの層そう。もうひとつは、無理むりをせずに受うかった学校がっこうに通かよえばいい、というおおらかな層そうです。前者ぜんしゃの“何なにが何なんでも最さい難関なんかん校こう”という考かんがえは根強ねづよく、狭せまき門もんの難関なんかん校こうに受験生じゅけんせいが殺到さっとうするクレイジーな状況じょうきょうが続つづいています。しかし、それはごく一部いちぶ。中学ちゅうがく受験じゅけんシーン全体ぜんたいで熾烈しれつな競争きょうそうが行おこなわれているわけではありません」（同どう）

　1990年代ねんだいに比くらべると中学ちゅうがく側がわの募集ぼしゅう定員ていいんが増ふえている現代げんだいは、多おおくの受験生じゅけんせいに門戸もんこが開ひらかれている。ブームのような一過いっか性せいのものではなく、“進路しんろの選択肢せんたくしのひとつ”として中学ちゅうがく受験じゅけんが定着ていちゃくした可能かのう性せいも考かんがえられる。その実情じつじょうを知しらない人々ひとびとが受験じゅけん者しゃ数すうだけを見みて、第だい3次じ中学ちゅうがく受験じゅけんブームをつくり上あげているのかもしれない。

　その一方いっぽうで、今いまや誰だれも無視むしできない“コロナ”の影響えいきょうが中学ちゅうがく受験じゅけんシーンにも表あらわれているという。

「念ねんのために付つけ加くわえておくと、2022年ねんの中学ちゅうがく受験じゅけんではさらに受験じゅけん者しゃが増ふえる見込みこみです。模試もしの受験じゅけん者しゃ数すうが増ふえているのです。長期ちょうき化かするコロナ禍かで、公立こうりつの学校がっこうはなかなかオンラインへの対応たいおうができないなどの理由りゆうから、公立こうりつの教育きょういく機関きかんへの不信ふしん感かんが高たかまっていると考かんがえられます。コロナ禍かが中学ちゅうがく受験じゅけん業界ぎょうかいへの追おい風かぜになるとは、私わたしも想像そうぞうしていませんでした。この状況じょうきょうが長引ながびけば、むしろこれから本当ほんとうに第だい3次じ中学ちゅうがく受験じゅけんブームが来くるかもしれません」（同どう）

合格者数ごうかくしゃすうが信用しんようできない悪質あくしつな学習がくしゅう塾じゅくの実態じったい

　虚像きょぞうともいえる第だい3次じ中学ちゅうがく受験じゅけんブームのなか、受験生じゅけんせいの真剣しんけんな思おもいを利用りようした、大手おおて学習がくしゅう塾じゅくの悪質あくしつな経営けいえい実態じったいが話題わだいを集あつめている。

　2020年ねん11月、神奈川かながわ県けんの教育きょういく情報じょうほうサイト「カナガク」が、大手おおて学習がくしゅう塾じゅく「臨海りんかいセミナー」の現役げんえき講師こうしによる告発こくはつ文ぶんを掲載けいさいした。そこには、合格ごうかく者しゃの巧妙こうみょうな水増みずましや、塾生じゅくせいに同級生どうきゅうせいを勧誘かんゆうさせる悪質あくしつな手法しゅほうなどの衝撃しょうげき的てきな内容ないようが記載きさいされていた。この告発こくはつ文ぶんを受うけて、ステップや早稲田わせだアカデミーなどの同業どうぎょう19社しゃが運営うんえい会社かいしゃの臨海りんかいに申入もうしいれ書しょを送付そうふ。その後ご、幹事かんじ社しゃであるステップと臨海りんかいは和解わかいしたが、全国ぜんこく的てきに知しられる騒動そうどうに発展はってんした。

　おおた氏しは、この騒動そうどうに限かぎらず、近年きんねんの学習がくしゅう塾じゅくの経営けいえい方針ほうしんに強つよい危機きき感かんを抱だいている、と話はなす。

「特とくにひどいのが、塾じゅく側がわが発表はっぴょうしている合格者数ごうかくしゃすうです。昔むかしは実名じつめいで合格ごうかく者しゃを発表はっぴょうする塾じゅくがたくさんありましたが、現在げんざいは個人こじん情報じょうほう保護ほごの観点かんてんから行おこなわれていません。もちろん個人こじんの名前なまえは伏ふせるべきですが、逆ぎゃくに実名じつめいだからこそ“合格ごうかく者しゃのごまかし”はできませんでした。しかし、今いまは個人こじん情報じょうほう保護ほご法ほうを盾たてにして、どうやら好すき勝手かってな数字すうじを発表はっぴょうしている塾じゅくもあるようです」（同どう）

　合格ごうかく者しゃの数かずは、塾じゅくを選えらぶ際さいに参考さんこうになる重要じゅうような数字すうじだ。にもかかわらず、塾じゅくの入いり口くちにでかでかと貼はられた学校がっこう名めいと合格者数ごうかくしゃすうは欺瞞ぎまんに満みちているという。

「中学ちゅうがく受験じゅけん塾じゅくはまだいいほうで、大学だいがく受験じゅけんのAO対策たいさく塾じゅくや医学部いがくぶ対策たいさく塾じゅくのなかには、さすがにやりすぎといえる事例じれいもあります。これは、子こどもの教育きょういくにいくらでもお金かねをかける家庭かていをターゲットにした、金儲かねもうけ重視じゅうしの塾じゅくが増ふえていることを意味いみしています。彼かれらは教育きょういくそのものに関心かんしんがなく、教育きょういく分野ぶんやを格好かっこうの草刈くさかり場じょうとしてしか見みていない不届ふとどき者しゃです。私わたし自身じしんもこの問題もんだいを重おもく受うけ止とめ、悪質あくしつな経営けいえいをする学習がくしゅう塾じゅくと組織そしき的てきに戦たたかう準備じゅんびを進すすめています」（同どう）

危あぶない学習がくしゅう塾じゅくの見分みわけ方かた

　合格者数ごうかくしゃすうが参考さんこうにならないのであれば、いったい何なにを基準きじゅんに塾じゅくを選えらべばいいのだろうか。

「まず、現状げんじょうでは“新規しんき参入さんにゅうで急きゅう成長せいちょう”をうたう塾じゅくの合格ごうかく実績じっせきは、何なん重じゅうにも眉まゆにつばをつけて見みるべきでしょう。そして、お子こさんの学力がくりょくレベルに合あった塾じゅくに通かようのがベストです。本人ほんにんの学力がくりょくを考慮こうりょせず、難易なんい度どが高たかいことをやらされる塾じゅくに無理むりにしがみついても、学力がくりょくが伸のびるわけではありません」（同どう）

　おおた氏しは「受験じゅけんの結果けっかを勝かち負まけで捉とらえるのではなく、本人ほんにんや家族かぞくが『やってよかった』と思おもえる中学ちゅうがく受験じゅけんにすることが大切たいせつ」と語かたる。「中学ちゅうがく受験じゅけんブーム」という言葉ことばに惑まどわされず、親おやたちは学校がっこうや塾じゅくを選えらぶときも“子こどもが笑顔えがおになれる教育きょういく”を最さい優先ゆうせんに考かんがえる必要ひつようがありそうだ。

（文ぶん＝真島まじま加代かよ／清談せいだん社しゃ）

●おおたとしまさ氏し
教育きょういくジャーナリスト。麻布まふ中学ちゅうがく・高校こうこう卒そつ。東京外国語大学とうきょうがいこくごだいがく外国がいこく語ご学部がくぶ英えい米べい語ご学科がっか中退ちゅうたい。上智大学じょうちだいがく外国がいこく語ご学部がくぶ英語えいご学科がっか卒そつ。リクルートから独立どくりつ後ご、数々かずかずの育児いくじ・教育きょういく誌しのデスクや監修かんしゅうを歴任れきにん。教育きょういく関連かんれんの執筆しっぴつの傍かたわら、メディアでも活動かつどう中ちゅう。『ルポ塾じゅく歴れき社会しゃかい』（幻冬舎げんとうしゃ）、『中学ちゅうがく受験じゅけん「必笑法ほう」』（中央公論ちゅうおうこうろん新しん社しゃ）など著書ちょしょ多数たすう。