宅たく見み勝かち射殺しゃさつ事件じけん、五ご代目だいめ山口組やまぐちぐみ・渡邉わたなべ芳則よしのり組長くみちょうの指示しじだった！21年ねん目めの真相しんそう告白こくはく

作家さっかの宮崎みやざき学まなぶ氏し（撮影さつえい＝佐々木ささき和隆かずたか）

　1997年ねん8月がつに発生はっせいした五ご代目だいめ山口組やまぐちぐみの宅たく見み勝かち若わか頭あたまの射殺しゃさつ事件じけん【※1】から20年ねんあまり。平成へいせい最後さいごの年としを目前もくぜんにした昨年さくねん12月がつ、事件じけんのキーマンとされていた元もと五ご代目だいめ山口組やまぐちぐみ若わか頭あたま補佐ほさの中野なかの太郎たろう氏しが著書ちょしょ『悲憤ひふん』（講談社こうだんしゃ／中野なかの太郎たろう著ちょ、宮崎みやざき学がく監修かんしゅう）で事件じけんの真相しんそうを明あかしたことが注目ちゅうもくされている。

　いまだ謎なぞが多おおい事件じけんの知しられざる裏側うらがわとは何なにか。療養りょうよう中ちゅうの中野なかの氏しに代かわって、本書ほんしょの監修かんしゅうを務つとめた作家さっかの宮崎みやざき学まなぶ氏しに話はなしを聞きいた。

なぜ今いま、最大さいだいのタブーが明あかされたのか？

――本書ほんしょで、中野なかの氏しが自みずから宅たく見事みごと件けんについて「五ご代目だいめ山口組やまぐちぐみの渡邉わたなべ芳則よしのり組長くみちょうの指示しじだった」と明あかしたことは、大おおきな波紋はもんを広ひろげています。

宮崎みやざき学まなぶ氏し（以下いか、宮崎みやざき）　そうですね。「噂うわさ」としてはあった話はなしなのですが、本人ほんにんが自みずから述のべたことには意義いぎがあると思おもいます。ヒットマンは中野なかの会かい傘下さんかの組員くみいんではありましたが、中野なかのさんは最初さいしょから「ウチ（中野なかの会かい）ではない」とい切いきるので、なんだか触ふれてはいけないタブーになってしまっていました。

『悲憤ひふん』（講談社こうだんしゃ／中野なかの太郎たろう著ちょ、宮崎みやざき学がく監修かんしゅう）

――そのタブーがなぜ今いま、明あかされたのでしょうか。

宮崎みやざき　中野なかのさん自身じしんが80歳さいを超こえられて、墓場はかばまで持もっていきたくないものもあったのだろうと考かんがえています。

――インターネットなどでは、中野なかの氏しは2003年ねんに脳のう梗塞こうそくで倒たおれて以来いらい、療養りょうよう中ちゅうといわれ、「出版しゅっぱんが難むずかしかったのでは？」という指摘してきもあります。

宮崎みやざき　私わたしの末期まっきがん説せつも出でていますしね（笑）。「本ほんなんか出だせる状況じょうきょうじゃないだろう」と。確たしかに中野なかのさんは絶好調ぜっこうちょうではないけれど、重おも篤とくというほどでもないです。私わたしはがんではなく腰痛ようつうがひどいのでヨボヨボしていますが、仕事しごとは続つづけています。がんなら、とっくに死しんでいますよ。

　ただ、中野なかのさんも私わたしもお互たがいに体調たいちょうが万全ばんぜんではないのは事実じじつなので、出版しゅっぱんまでに時間じかんはかかってしまいました。でも、おかげでかえって丁寧ていねいに取材しゅざいを進すすめることができました。平成へいせいのうちに出だせてよかったと思おもっています。

　ちなみに、私わたしが勝手かってに「中野なかのさんの名前なまえで本ほんを出だした」という噂うわさもあるようですが、それはあり得えないです。私わたしは、中野なかのさんからご指名しめいをいただいています。なぜそんな噂うわさが出でるのかわかりませんが、とにかく話題わだいになっているので、いろいろなことを言いう人ひとがいるのは仕方しかたないでしょう。

　出版しゅっぱんの経緯けいいについては、中野なかの会かいにも在籍ざいせきしていた竹垣たけがき悟さとる氏しとの対談たいだん本ほん『ヤクザと東京とうきょう五輪ごりん2020　巨大きょだい利権りけんと暴力ぼうりょくの抗こう争そう』（徳間書店とくましょてん）でも触ふれていますが、そもそもは中野なかのさんが「中野なかの会かいや事件じけんに関かんする報道ほうどうに反論はんろんしたい」というところから企画きかくがスタートしました。対談たいだんも読よんでみてください。

――関連かんれん書しょといえば、作家さっかの山平やまひら重樹しげきさんの評伝ひょうでん『最強さいきょう武闘ぶとう派はと呼よばれた極道ごくどう 元もと五ご代目だいめ山口組やまぐちぐみ若わか頭あたま補佐ほさ 中野なかの会かい会長かいちょう 中野なかの太郎たろう』（かや書房しょぼう）も、ほぼ同どう時期じきに発売はつばいされました。

宮崎みやざき　出版しゅっぱんのタイミングは本当ほんとうに偶然ぐうぜんだったのですが、相乗そうじょう効果こうかも出でてよかったのではないでしょうか。中野なかのさんが語かたり切きれなかった部分ぶぶんもあって、おもしろいですよ。

ヤクザが意外いがいに“スピリチュアル好すき”な理由りゆう

――『悲憤ひふん』には中野なかのさんの臨死りんし体験たいけんも書かかれていて、興味深きょうみぶかかったです。

宮崎みやざき　インパクトありますよね。ああいう世界せかいは本当ほんとうにあるんだなぁと私わたしも驚おどろきました。お話はなしを聞きいていて、「それ、まえがきに入いれましょう」となりました。大物おおものヤクザも三途さんずの川かわを渡わたりかけたのか、と。

　もっとも、斬きった張はったの世界せかいにいるせいか、けっこうスピリチュアルな話はなしが好すきなヤクザは多おおいです。人ひとを殺ころすことがどういうことなのかを、ちゃんとわかっているんですね。

　ヤクザは人ひとをバンバン殺ころすイメージが強つよいと思おもいますが、実際じっさいにはそうでもありません。きちんと後先あとさきを考かんがえているんです。自分じぶんだって長ながい懲役ちょうえきに行いかなくてはならないし、組織そしきにも迷惑めいわくがかかりますからね。

　そもそも殺人さつじん事件じけんは年々ねんねん減へっていますが、その半分はんぶん以上いじょうは親族しんぞくによる殺人さつじんです。老おいた連つれ合あいや障害しょうがいのある子こどもの将来しょうらいを悲観ひかんしてとか、親おやにうるさく言いわれた子こどもがブチ切きれて……とかね【※2】。

――確たしかにそうですね。『悲憤ひふん』でも、中野なかのさんは宅たく見みさんの銃撃じゅうげきについて毎日まいにち悩なやんでいたことを明あかされています。

宮崎みやざき　はい。殺人さつじんはそれだけ重おもいことなんです。大おおきな数珠じゅずのブレスレットをつけているヤクザは多おおいですが、これは中野なかのさんが最初さいしょに始はじめたのだと、竹垣たけがきさんから聞ききました。

　迷信めいしんといえばそうかもしれませんけど、ヤクザは人知じんちを超こえたものをけっこうマジメに大切たいせつにしていますね。生首なまくびや幽霊ゆうれいなどの縁起えんぎの悪わるい絵えを刺青しせいの柄えに選えらぶのも、“厄落やくおとし”の意いだと聞きいています。

射殺しゃさつの数日すうじつ前まえに宅たく見み氏しと語かたった内容ないようとは

――殺害さつがいされた宅たく見み若わか頭あたまは「経済けいざいヤクザ」として知しられ、元もと弁護士べんごしの山之内やまのうち幸夫ゆきおさんや田中たなか森一もりいちさんなどカタギとも広ひろい交流こうりゅうがありました。宮崎みやざきさんも宅たく見みさんと交流こうりゅうがあったそうですね。

宮崎みやざき　はい。1992年ねんに施行しこうされた暴対法ぼうたいほう（暴力団ぼうりょくだん員いんによる不当ふとうな行為こういの防止ぼうし等とうに関かんする法律ほうりつ）について宅たく見みさんから意見いけんを求もとめられたことがあり、何なん度どかお話はなしする機会きかいがありました。宅たく見みさんに限かぎらず、大物おおものヤクザはカタギに対たいして偉えらそうにすることはないので、普通ふつうにお話はなしする間柄あいだがらでした。

　実じつは、事件じけんの数日すうじつ前まえに都内とないホテルの喫茶きっさ室しつでばったり会あって、コーヒーを飲のみながら暴対法ぼうたいほうについて少すこしお話はなししたんです。それが最後さいごになってしまいました。

　暴対法ぼうたいほうの施行しこうをめぐっては、山口組やまぐちぐみのほか会津小鉄あいづこてつや工藤くどう會かい（当時とうじは草野くさの一家かずや）も違憲いけん訴訟そしょうなどを起おこすなど、当時とうじは大おおきな問題もんだいとなっていました。ところが、1995年ねんに阪神はんしん・淡路あわじ大震災だいしんさいが発生はっせいし、山口組やまぐちぐみが拠点きょてんを置おく神戸こうべも被災ひさいしたことから、山口組やまぐちぐみは訴うったえを取とり下さげていました。

「せっかく相談そうだんに乗のってもらった宮崎みやざきさんにも迷惑めいわくをかけてしまって……」みたいに謝あやまられてね。宅たく見みさんが謝あやまることではないんですが、そういう人ひとでした。

――阪神はんしん・淡路あわじ大震災だいしんさいのときには、五ご代目だいめ山口組やまぐちぐみが水みずや毛布もうふなどの支援しえん物資ぶっしを配くばったり炊たき出だしをしたりして、話題わだいになりました。

宮崎みやざき　国内こくないの大手おおてメディアは取とり上あげませんでしたけど、海外かいがいメディアは「ギャングがボランティア」と大おおきく報道ほうどうしていました。あの頃ころの宅たく見みさんは渡邉わたなべ五ご代目だいめと仲なかよく支援しえん活動かつどうをしていたように見みえたのですが……。わからないものですね。

――この射殺しゃさつ事件じけんで、山口組やまぐちぐみの雰囲気ふんいきが変かわったといわれています。

宮崎みやざき　私わたしもそう思おもいます。タブーという点てんでは、1985年ねんの四よん代目だいめ射殺しゃさつ事件じけん【※3】のほうが重おもいかもしれませんが、これは犯人はんにんも動機どうきも明確めいかくでした。でも、宅たく見み事件じけんでは中野なかのさんが山口組やまぐちぐみ執行しっこう部ぶから「犯人はんにん」とされながらキッパリと否認ひにんし、逮捕たいほもされなかった。

　一方いっぽうで、宅たく見みさんは事件じけんの前まえから体調たいちょうを崩くずしていて、引退いんたいも考かんがえていたことは当時とうじの山口組やまぐちぐみの関係かんけい者しゃならみんな知しっていたことです。

宅たく見み氏しの渡わたり仏ふつは安倍あべ晋すすむ太郎たろうが手配てはいした？

――宅たく見みさんが持病じびょうの治療ちりょうのために1992年ねんに渡わたり仏ふつされたことは、大おおきく報道ほうどうされています。

宮崎みやざき　フランス政府せいふが「ヤクザはダメだ」と入国にゅうこくを拒否きょひしたので、トンボ返がえりでしたけどね。この顛末てんまつは『反転はんてん　闇やみ社会しゃかいの守護神しゅごじんと呼よばれて』（幻冬舎げんとうしゃ）に詳くわしいです。田中たなか森一もりいちさんのベストセラーです。これを読よむと、やはり宅たく見みさんは糖尿とうにょうで肝臓かんぞうも悪わるくされているのがわかります。

　それによると、宅たく見みさんの渡わたり仏ふつは田中たなかさんの頼たのみで官房かんぼう長官ちょうかんや外務がいむ大臣だいじんを歴任れきにんした安倍あべ晋すすむ太郎たろう事務所じむしょがサポートしたと書かかれています。晋すすむ太郎たろうは、宅たく見みさんがヤクザとわかっていながら、田中たなかさんの要請ようせいを受うけ入いれて手配てはいしたんですよ。

　そしてフランス政府せいふも、このときはマスコミが騒さわいだから拒否きょひしただけで、その後ごに宅たく見みさんはこっそり渡わたり仏ぼとけしています。帰国きこくした宅たく見みさんは田中たなかさんにおみやげを渡わたしていますが、フランスなのになぜかイタリアの高級こうきゅうブランド品ひんだったそうで、田中たなかさんと2人ふたりで笑わらったことがあります。

　だって、外相がいしょうもやった晋すすむ太郎たろうが段取だんどりしているんですから、行いけないわけはないでしょう（笑）。その息子むすこである晋すすむ三さんは、そういう采配さいはいはまったくできないのはおもしろいですけどね。

　話はなしはそれましたが、病気びょうきで引退いんたいまで考かんがえているナンバー2をなぜ殺ころしたのか。臆測おくそくがいろいろと流ながれたことで、組織そしきの中なかに疑心暗鬼ぎしんあんきの空気くうきが生うまれてしまったようです。

　これに加くわえて、バブル崩壊ほうかいによる景気けいきの低迷ていめいや暴対法ぼうたいほうの影響えいきょうでシノギが厳きびしくなったことも、組織そしきの空気くうきが悪わるくなった原因げんいんだと思おもいます。カネが回まわっているうちは不満ふまんがあってもなんとかやっていけるものですが、そうもいかなくなってギクシャクしていったのでしょう。

　中野なかのさんが自みずから事件じけんを語かたることで、この疑心暗鬼ぎしんあんきが解とけるかどうかはわかりません。むしろ、新あらたな軋轢あつれきを生うむこともあるでしょう。ただ、本書ほんしょは中野なかのさんが「真実しんじつ」をつづった貴重きちょうな資料しりょうということだけはいえますね。ぜひ読よんでみてください。

――ありがとうございました。

　後編こうへんでは、警察けいさつの捜査そうさ動向どうこうや同様どうように謎なぞが多おおい八幡やはた事件じけんなどについて、引ひき続つづき宮崎みやざき氏しの話はなしをお伝つたえする。
（構成こうせい＝編集へんしゅう部ぶ）

【※1】
1997年ねん8月がつ、兵庫ひょうご県けん神戸こうべ市内しないのホテルのラウンジで五ご代目だいめ山口組やまぐちぐみ・宅たく見み勝かち若わか頭あたまが射殺しゃさつされ、居合いあわせた一般いっぱん客きゃくも流ながれ弾だまに当あたって死亡しぼうした事件じけん。国内こくない最大さいだい組織そしきのナンバー2の殺害さつがいと一般いっぱん客きゃくの犠牲ぎせいに「暴力団ぼうりょくだん」への批判ひはんが高たかまった。事件じけん当日とうじつから、山口組やまぐちぐみ執行しっこう部ぶは中野なかの太郎たろう会長かいちょう率ひきいる中野なかの会かいの犯行はんこうと断定だんていしたが、警察けいさつの捜査そうさはなぜか遅おそく、実行じっこう犯はんの指名しめい手配てはいと別件べっけん逮捕たいほは半年はんとし後ごになる。絶縁ぜつえん処分しょぶんを受うけた中野なかの会長かいちょうは、自みずから「うち（中野なかの会かい）はやっていない。いずれ（山口組やまぐちぐみに）復帰ふっきする」とだけ語かたり、あとは沈黙ちんもくを守まもった。

【※2】
「刑法けいほう犯はん 認知にんち件数けんすう・検挙けんきょ件数けんすう・検挙けんきょ率りつの推移すいい（罪名ざいめい別べつ）」

「刑法けいほう犯はん 被害ひがい者しゃと被疑ひぎ者しゃの関係かんけい別べつ検挙けんきょ件数けんすう構成こうせい比ひ（罪名ざいめい別べつ）」

【※3】
1985年ねんに発生はっせいした四よん代目だいめ山口組やまぐちぐみ・竹中たけなか正久まさひさ組長くみちょう銃撃じゅうげき事件じけん。前年ぜんねんに四よん代目だいめ襲名しゅうめいに不満ふまんがあって離脱りだつした一いち和わ会かい（山本やまもと広ひろ会長かいちょう）による犯行はんこうで、これをきっかけに「山一やまいち抗こう争そう」が激化げきかする。

●宮崎みやざき学がく（みやざき・まなぶ）
1945年ねん京都きょうと生うまれ　監修かんしゅうを務つとめたベストセラー『悲憤ひふん』（講談社こうだんしゃ）のほか著書ちょしょ・共著きょうちょ多数たすう。月刊げっかん『週刊しゅうかん実話じつわザ・タブー』で「宮崎みやざき学がくのブッタ斬ぎり時報じほう」を連載れんさい中ちゅう。