「週休しゅうきゅう3日にち制せい」の甘あまい罠わな…給料きゅうりょう減げんで老後ろうごの年金ねんきんも減額げんがく？厳きびしい“自己じこ負担ふたん社会しゃかい”が加速かそくする

　4月がつ、5月がつと続つづき、6月の電気でんき代だいも値上ねあげの見通みとおしであると、大手おおて電力でんりょく会社かいしゃが発表はっぴょうしたそうだ。折おりしも、大都市だいとし圏けんをはじめとする自治体じちたいに「まん延えん防止ぼうし等とう重点じゅうてん措置そち」が出だされ、続つづいて緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげんの発令はつれいへと動うごき出だした矢先やさきのニュース。国くにや自治体じちたいは、これまで以上いじょうにテレワークやオンライン授業じゅぎょうを呼よびかけており、電気でんきの使用しよう量りょうは在宅ざいたく率りつと比例ひれいして増ふえるだろう。それに値上ねあげとは、家計かけいにとってはダブルで痛いたい。

　値上ねあげの原因げんいんは、火力かりょく発電はつでんの燃料ねんりょうに使つかうLNGや石炭せきたんなどの平均へいきん輸入ゆにゅう価格かかくが上あがったためで、ガス代だいもそれに追随ついずいしそうだ。光熱こうねつ費ひを節約せつやくする最もっとも有効ゆうこうな手段しゅだんは、なるべく自宅じたくで過すごさないことだが、それも封ふうじられてしまったとなれば、対策たいさくはなるべく早寝はやね・早起はやおきに励はげんで不要ふような電気でんき・ガスを使つかわず、食事しょくじ時間じかんも家族かぞく一緒いっしょに済すませることくらいだろう。我わが家やでは洗あらい物ものを減へらすために朝あさ・昼ひるは食事しょくじに紙かみ皿さらを使用しようしてみたが、これが果はたして節約せつやくおよび環境かんきょうによいかは結論けつろんが出でない。

　しかし、問題もんだいは光熱こうねつ費ひ云々うんぬんではない。これからの日本にっぽんは「自己じこ負担ふたん社会しゃかい」に向むかうのでは、という危惧きぐだ。

　たとえば、テレワークへの移行いこうを進すすめた企業きぎょうが、コロナが落おち着ついたのちに元もとに戻もどるかといえば難むずかしいだろう。企業きぎょうによっては、重おもい固定こてい費ひとなる都心としんオフィスを縮小しゅくしょうしたり、東京とうきょうを離はなれる動うごきもある。稼働かどう時間じかんが短みじかくなるとオフィスの光熱こうねつ費ひは減へるし、交通こうつう費ひも削減さくげんできる。実際じっさいに定期ていき代だいの支給しきゅうはやめ、実費じっぴ精算せいさんの企業きぎょうが増ふえているという。テレワークの方ほうが会社かいしゃ負担ふたんを削減さくげんできるとなれば、コロナ収束しゅうそく後ごも元もとに戻もどす方向ほうこうには向むかわないだろう。

　では、削減さくげんできた分ぶんと同おなじ金額きんがくを使つかって従業じゅうぎょう員いんにテレワーク手当てあて等とうを出だしているかというと、そうでもない。仕事しごと面めんで欠かかせない通信つうしん環境かんきょうも個こ人任ひとまかせで、安やすく済すませている社員しゃいんと諸しょ事情じじょうでそうもいかない社員しゃいんとでは、負担ふたん額がくも異ことなるはずだ。毎月まいつきの通信つうしんコストだけでも、リモート手当てあてでは足あしが出でるという声こえも聞きく。

　現在げんざいは外食がいしょくやレジャー費ひが抑おさえられているので、家計かけい収支しゅうし的てきにはバランスできているかもしれないが、いざコロナ禍かが収束しゅうそくして移動いどうの制限せいげんが解とかれ、旅行りょこうにもレジャーにも行いけるようになったとすると、一気いっきに支出ししゅつが赤字あかじに傾かたむく可能かのう性せいがある。

　しかし、リモートワークが続つづけば残業ざんぎょう代だいは期待きたいできないままだ。厚生こうせい労働省ろうどうしょうの毎月まいつき勤労きんろう統計とうけい調査ちょうさによれば、残業ざんぎょう手当てあて等とうを示しめす所定しょてい外がい給与きゅうよは昨年さくねんの4月がつから8カ月かげつ連続れんぞくで前年ぜんねん比ひ2けた以上いじょうの減少げんしょう率りつとなり、最新さいしんとなる2021年ねん2月がつの速報そくほうでもマイナス9％。それを補おぎなえるほどベースの基本給きほんきゅうが伸のびればいいが、それこそ会社かいしゃの景気けいきはコロナ様さまに聞きいてくれという業種ぎょうしゅは多おおく、先さきは見みえないままだ。

「週休しゅうきゅう3日にち制せい」導入どうにゅうなら給料きゅうりょうはどうなる？

　減へったのは残業ざんぎょう代だいだけかと思おもったら、もっと雲行くもゆきが怪あやしくなってきた。政府せいふが、希望きぼうに応おうじて週休しゅうきゅう3日にちを選えらべる「選択せんたく的てき週休しゅうきゅう3日にち制せい」導入どうにゅうへの議論ぎろんを始はじめたというのだ。自民党じみんとう1億おく総そう活躍かつやく推進すいしん本部ほんぶがまとめた提言ていげん案あんによると、「育児いくじ・介護かいごとの両立りょうりつ」や「学まなびなおし」「地方ちほう・ふるさとでの副業ふくぎょうや兼業けんぎょう」といった、これまでもよく聞きかれたキーワードが並ならぶ。

　現状げんじょうはあくまで「選択せんたく的てき」がついており、働はたらき手てが希望きぼうすれば週休しゅうきゅう3日にちを選えらべるというニュアンスだが、先さきのテレワーク同様どうよう、「今いままでとは何なにも変かわりませんのでご安心あんしんを」というわけにはいかないのではないか。

　一番いちばん気きになるのが、給与きゅうよが変化へんかするかしないか、つまり週休しゅうきゅう2日にち制せいと比くらべて下さがりはしないか、という点てんだ。引ひっかかるのは「選択せんたく的てき」の文字もじ。つまり、3日にち休やすみますと選えらんだ人ひとと、2日にちしか休やすみませんという人ひとが同おなじ月給げっきゅうでは、後者こうしゃは納得なっとくしないだろう。当然とうぜん、そこには差さがつくことになろう。企業きぎょうの取とり決きめにもよるだろうが、休やすみが多おおくなれば給与きゅうよも下さがるのが道理どうりだ。

　毎月まいつきの給与きゅうよだけではない。週休しゅうきゅう3日にち制せいのメリットとして育児いくじや介護かいごとの両立りょうりつが挙あげられているようだが、現在げんざいでも社会しゃかい保障ほしょう制度せいどでの休暇きゅうかが認みとめられている。これら育児いくじ休業きゅうぎょうや介護かいご休暇きゅうかを取とると、要件ようけんを満みたせば所定しょていの給付きゅうふ金きんが出でる。

　たとえば、介護かいご休業きゅうぎょう給付きゅうふの1支給しきゅう単位たんい期間きかんごとの給付きゅうふ額がくは、「休業きゅうぎょう開始かいし時じ賃金ちんぎん日額にちがく×支給しきゅう日数にっすう×67％」により算出さんしゅつされ、介護かいご休業きゅうぎょう開始かいし前まえ6カ月かげつ間あいだの平均へいきん月給げっきゅうが30万まん円えん程度ていどの場合ばあい、支給しきゅう額がくは月額げつがく20万まん円えん程度ていどが目安めやすだという。このように、給付きゅうふ金きんは月額げつがくで受うけ取とっている賃金ちんぎんが計算けいさんの基準きじゅんになっている。つまり、給与きゅうよが減へれば、これらも連動れんどうして減へる可能かのう性せいがあるということだ。

　休日きゅうじつの増加ぞうかは人生じんせいのクオリティを上あげる一いち要素ようそだ。お金かねでは幸福こうふくは買かえないかもしれないが、やっぱりあった方ほうが助たすかる。現状げんじょうの制度せいどをわかった上うえで、総合そうごう的てきに判断はんだんすべきだろう。

さらに心配しんぱいな老後ろうごの年金ねんきんへの影響えいきょう

　もし週休しゅうきゅう3日にちを選択せんたくした結果けっか、以前いぜんより減収げんしゅうになったとしても、現役げんえき時代じだいは共働ともばたらきなどでカバーできるかもしれない。それより気きになるのは、将来しょうらいの年金ねんきんだ。厚生こうせい年金ねんきん保険ほけんの保険ほけん料りょうは、毎月まいつきの給与きゅうよ（標準ひょうじゅん報酬ほうしゅう月額げつがく）と賞与しょうよ（標準ひょうじゅん賞与しょうよ額がく）に保険ほけん料率りょうりつをかけて決きまる。標準ひょうじゅん報酬ほうしゅう月額げつがくは、基本給きほんきゅうのほか、残業ざんぎょう手当てあてや通勤つうきん手当てあてなどを含ふくめた税引ぜいびき前まえの給与きゅうよを1～32の等級とうきゅうに当あてはめて決きまる。すでに残業ざんぎょうや通勤つうきん手当てあてが減へっているのに加くわえ、もし基本給きほんきゅうが下さがるとすると、確実かくじつに等級とうきゅうにも変化へんかが及およぶだろう。

　現在げんざいの月給げっきゅうが34万まん円えんの人ひとが、仮かりに約やく1割わり減げんとなって30万まん円えんまで下さがれば、等級とうきゅうは2つ下さがることになる。納おさめる年金ねんきん保険ほけん料りょうも減へるが、それに連動れんどうして、将来しょうらい受うけ取とれる年金ねんきんも減へる可能かのう性せいがある。もし、その後ごも給与きゅうよが思おもうように増ふえなければ、現状げんじょうの給与きゅうよが続つづくと想定そうていしたときより受給じゅきゅうできる年金ねんきん額がくも少すくなくなってしまうのだ。

　年金ねんきんは、なんといっても老後ろうごの収入しゅうにゅうの柱はしらだ。今いまの働はたらき方かただけで選択せんたくしてしまうと、それが後々あとあと尾おを引ひくことにもなりかねない。「週休しゅうきゅう3日にちで働はたらけるなら、少すこしくらい給料きゅうりょうが減へってもいいか」と、あまり単純たんじゅんに喜よろこべる話はなしではないのだ。

　選択せんたく的てき週休しゅうきゅう3日にち制せい度どが職場しょくばに導入どうにゅうされる日ひが来きたら、目先めさきのメリットだけでなく、これら社会しゃかい保険ほけんの制度せいどをよく理解りかいし、会社かいしゃにも説明せつめいを受うけた上うえで選択せんたくをしてほしい。公的こうてき年金ねんきんが少々しょうしょう減へっても賄まかなえるように、老後ろうご資金しきんの確保かくほや副ふく収入しゅうにゅうを得える準備じゅんびを今いまから始はじめた方ほうがいいだろう。

　とはいえ、週休しゅうきゅう3日にちで仕事しごとから離はなれられることで、メンタルヘルスが健全けんぜんになるケースもあるかもしれない。強つよいストレスは心身しんしんにも深刻しんこくなトラブルを引ひき起おこす。定年ていねん後ごも働はたらき続つづけなくてはいけないならば、健康けんこうは最大さいだいの武器ぶきだ。

　コロナの影響えいきょうは簡単かんたんに収おさまりそうにない。最初さいしょに書かいたように、目前もくぜんでは光熱こうねつ費ひ・通信つうしん費ひ等とうの、本来ほんらいなら職場しょくばが負担ふたんしていたコストが自己じこ負担ふたんとしてのしかかる。そして、労働ろうどう時間じかんが減へって給料きゅうりょうも下さがれば、社会しゃかい保障ほしょうの給付きゅうふ額がくや将来しょうらいの年金ねんきんが減少げんしょうしかねない。その穴埋あなうめも自分じぶんで賄まかなうほかないのだ。

　淡々たんたんと仕事しごとを続つづけていけば、コストはすべて会社かいしゃ持もちで変かわらずに給料きゅうりょうがいただける時代じだいはコロナで一変いっぺんしてしまった。家計かけい全体ぜんたいをコストダウンして、減収げんしゅうに耐たえる生活せいかつサイズに収おさめるか。それとも、副業ふくぎょうできるスキルを磨みがいて、老後ろうご資金しきんも見据みすえて稼かせぐのか。

　どんな選択せんたくをするかを一人ひとりひとりに迫せまるのが「自己じこ負担ふたん社会しゃかい」の姿すがたでもある。なかなか厳きびしい時代じだいだが、サバイバルする術じゅつはきっとあると信しんじたい。

（文ぶん＝松崎まつざきのり子こ／消費しょうひ経済けいざいジャーナリスト）