晴海はるみ・選手せんしゅ村むら跡地あとちの一大いちだいマンション群ぐんは買かってはいけない？東京とうきょう都内とないに住宅じゅうたく大量たいりょう供給きょうきゅうの兆候ちょうこう

東京とうきょう都と江東こうとう区くと中央ちゅうおう区くの間あいだに架かかる晴海はるみ大橋おおはし（「Wikipedia」より／Ryoma35988）

　令れい和わ元年がんねんになった。この新しん元号げんごう元年がんねんのマンションマーケットを占うらなうのが、東京とうきょう五輪ごりんの選手せんしゅ村むら13万まん平方へいほうメートルの跡地あとち開発かいはつで建設けんせつ、分譲ぶんじょうが予定よていされるマンション群ぐん、通称つうしょう「HARUMI FLAG」だ。

　この開発かいはつは2020年ねんの五輪ごりん終了しゅうりょう後ご、選手せんしゅ村むらとして活用かつようされていた建物たてものを改装かいそう、さらに新あらたにタワーマンションを含ふくむ新築しんちくマンションを加くわえた総そう戸数こすう5632戸こ、計画けいかく人口じんこう1万まん2000人にんの一大いちだい住宅じゅうたく街がいを開発かいはつしようというものだ。

　このうち賃貸ちんたい住宅じゅうたく1487戸こを除のぞく4145戸こが分譲ぶんじょう対象たいしょうとなる。首都しゅと圏けんで年間ねんかん供給きょうきゅうされる分譲ぶんじょうマンション戸数こすうは3万まん8000戸こ程度ていど。年間ねんかん供給きょうきゅう戸数こすうの1割わり強きょうに及およぶ巨大きょだいプロジェクトである。開発かいはつ分譲ぶんじょうにあたるのは三井不動産みついふどうさんレジデンシャルを幹事かんじとして三菱地所みつびしじしょレジデンスや住友不動産すみともふどうさん、野村不動産のむらふどうさんといったいわゆるメジャー7を含ふくむ11社しゃにも及およぶ。

　発表はっぴょうされた計画けいかく内容ないようによれば、分譲ぶんじょうが行おこなわれるのは4街まち区くに5棟むね、5、6街まち区くにそれぞれ7棟むね、計けい19棟むね、そのうちの2棟むねが地上ちじょう50階かい建だてとなるタワーマンションだ。14階かい建だてから18階かい建だてで構成こうせいされる低層ていそう棟とうが2690戸こ、タワーマンションが1455戸こという内訳うちわけになる。住戸じゅうこタイプは床ゆか面積めんせき85平方へいほうメートル程度ていどの3LDKのファミリータイプが中心ちゅうしんとなる。

　この分譲ぶんじょうが早はやくも開始かいしされる。最初さいしょに開発かいはつされるのが選手せんしゅ村むら宿舎しゅくしゃを改装かいそうして「新築しんちく」として売うり出だすもので、入居にゅうきょ予定よていは23年ねん3月がつを予定よていしている。タワーマンションは24年ねん以降いこうの引ひき渡わたしとなり、プロジェクト全体ぜんたいが完了かんりょうするのは24年度ねんど中ちゅうになる。最初さいしょに引渡ひきわたしする低層ていそう棟とうでも4年ねんも先さきの話はなし。ずいぶん気きの長ながいことだが、分譲ぶんじょうを担当たんとうするデベロッパーサイドからみれば、この史上しじょう最大さいだいのプロジェクトをさばくには、かなりの長期ちょうき戦せんでの販売はんばいを覚悟かくごせざるを得えないというのが本音ほんねのようだ。

「買かい」かどうかを検証けんしょう

　さて、このプロジェクト、今年ことしのマンションマーケットを占うらなう試金石しきんせきともいえるが、実際じっさい「買かい」といえるのかを検証けんしょうしてみよう。

　立地りっちは中央ちゅうおう区く晴海はるみ5丁目ちょうめ。マンション立地りっちとしては残念ざんねんながらハイクラスの立地りっちとはいいがたい。マンション購入こうにゅう者しゃがまず気きにするのが交通こうつう利便りべん性せいである。本件ほんけんは、最寄もより駅えきが都営とえい大江戸おおえど線せん「勝かちどき」駅えきとなるが、駅えきまではマンション敷地しきち入いり口くちからでも徒歩とほでゆうに20分ふんを超こえる。現実げんじつ問題もんだいとしてこの駅えきまで毎朝まいあさ毎夕まいゆう歩あるく人ひとはいないだろう。都心としんにつながる唯一ゆいいつの交通こうつうはバスだ。東京とうきょう都とではBRT（バス高速こうそく輸送ゆそうシステム）を用意よういする。このバスを使つかえば環状かんじょう2号線ごうせんで港みなと区くの新橋しんばし駅えきまで10分ふん程度ていどでつながるという触ふれ込こみだ。ただし、当初とうしょ期待きたいされたバス専用せんようのレーンが設もうけられることはなさそうだ。環状かんじょう2号線ごうせんは片側かたがわ2車線しゃせん道路どうろ。豊洲とよす市場いちば関係かんけい車両しゃりょうも集中しゅうちゅうする道路どうろで、そのうちの一本いっぽんをバス専用せんようとするわけにはいかないのだ。

　計画けいかくではラッシュ時じでも1時じ間あいだ6本ほん。連れん節ぶしバスを使つかうとのことだが収容しゅうよう人員じんいんは130名めい程度ていどにしかすぎない。通勤つうきん電車でんしゃの車両しゃりょう1台だい分ぶんにも満みたない輸送ゆそう力りょくだ。ましてや深夜しんやや早朝そうちょうなどラッシュ時じ以外いがいの利便りべん性せいを考かんがえると、交通こうつう利便りべん性せいは正直しょうじきあまり評価ひょうかできない。

　湾岸わんがんエリアであるので眺望ちょうぼうは良よさそうだ。棟むねによってはレインボーブリッジが正面しょうめんに見みえそうだ。だが、埋立うめたて地ちで海うみに近ちかいということは、塩害えんがいの影響えいきょうと、大だい地震じしんに際さいしての土地とちの液状えきじょう化かや津波つなみも心配しんぱいだ。

　開発かいはつ街がい区内くないには小中学校しょうちゅうがっこうが開設かいせつされる予定よていだが、都内とないの私立しりつの学校がっこうに通かようにはいずれもバスで新橋しんばし経由けいゆとなる。通学つうがくの便びんを考かんがえても選択せんたくは限かぎられてきそうだ。買かい物ものはスーパーがオープンするようだが、日常にちじょう品ひんに限かぎられる。飲食いんしょく施設しせつなどはいったいどこにできるのだろうか、はっきりした見込みこみはない。

　開発かいはつ街がい区内くないには清掃せいそう工場こうじょうがすでに存在そんざいしている。最近さいきんの清掃せいそう工場こうじょうは煤煙ばいえんも少すくないのだろうが、ゴミトラックの出入でいりは交通こうつう安全あんぜん上じょうも衛生えいせい上じょうも気きになる点てんだ。水素すいそステーションがあるというが、車くるまはどうやら電気でんき自動車じどうしゃが主流しゅりゅうになりそうななか、正直しょうじきどうでもよい施設しせつにも見みえる。

　あとはデベロッパー各社かくしゃが企画きかくする共用きょうよう施設しせつの充実じゅうじつに期待きたいするしかない。まだ具体ぐたい的てきな内容ないようはほとんど明あきらかにされていないが、おそらくてんこ盛もりの宣伝せんでん文句もんくが並ならぶことだろう。少すくなくとも街まち区内くないで生活せいかつするかぎり不便ふべんさを感かんじない設しつらえやサービスとなるのではないか。晴海はるみにどうしても「住すみたい」と考かんがえる人ひとや新橋しんばしやその近辺きんぺんに通勤つうきんする人ひとにとっては、おそらく設備せつび仕様しようとしては十分じゅうぶんなマンションが建設けんせつされるはずだ。

　では、投資とうしとしてはどうだろうか。販売はんばい価格かかくは坪つぼあたり300万まん円えん前後ぜんこうになるとのことだ。現状げんじょうの周辺しゅうへんマーケットは300万まん円えん台だい半なかばから後半こうはんが相場そうばといわれているから、相場そうばの1割わりから2割わり程度ていど安やすく分譲ぶんじょうされることになる。

　ということはすごい「お買かい得どく」物件ぶっけんになり、人気にんき沸騰ふっとうということになるだろうか。昭和しょうわや平成へいせいバブルの頃ころであれば、不動産ふどうさんは常つねに右肩みぎかた上あがり。早はやく買かった人ひとが儲もうかる時代じだいだったから、これは間違まちがいなく「買かい」だ。だが、今いまは晴海はるみという街まちの成長せいちょう可能かのう性せいを見極みきわめて買かうことだ。東京とうきょうといえど、エリアや街まちによって今後こんごは不動産ふどうさん価格かかくに異ことなり格差かくさがついていく時代じだいだからだ。

「多た死し・大量たいりょう相続そうぞく」時代じだいのインパクト

　なぜ街まち間あいだ格差かくさが出始ではじめるのか理由りゆうを述のべよう。

　このマンションが引ひき渡わたしされる2023年ねんから25年ねんにかけて、東京とうきょうの不動産ふどうさんマーケットは大おおきな変革へんかくが起おこりそうなのである。ひとつが、「多た死し・大量たいりょう相続そうぞく」時代じだいの到来とうらいだ。1947年ねんから49年ねんに生うまれた世代せだいを団塊だんかい世代せだいという。この世代せだいは人口じんこうが非常ひじょうに多おおく、これまで日本にっぽんの産業さんぎょうの担にない手てとして貢献こうけんしてきた。この世代せだいのすべてが2025年ねんまでに75歳さい以上いじょうの後期こうき高齢こうれい者しゃになる。

　実じつは東京とうきょう都とは75歳さい以上いじょうの後期こうき高齢こうれい者しゃの人口じんこうが、65歳さいから74歳さいまでの前期ぜんき高齢こうれい者しゃの人口じんこうを上回うわまわっている。つまり団塊だんかい世代せだい以上いじょうの世代せだいが東京とうきょうには大勢おおぜい住すんでいるのだ。団塊だんかい世代せだいが後期こうき高齢こうれい者しゃの仲間入なかまいりをする頃ころ、この前まえの世代せだいを中心ちゅうしんに東京とうきょうは大量たいりょうの相続そうぞくが発生はっせいすることが予想よそうされる。この世代せだいはたとえば都内とないの大田おおた区くや世田谷せたがや区く、杉並すぎなみ区くなどに住宅じゅうたくを所有しょゆうしている。

　そして相続そうぞくした不動産ふどうさんのかなり多おおくが、子供こどもや孫まごが住すむことなく、賃貸ちんたいに供きょうされたり売却ばいきゃくされることになるだろう。少子しょうし高齢こうれい化かの影響えいきょうだ。さらに2025年ねんにかけてこれに団塊だんかい世代せだいの相続そうぞくが追随ついずいすることになる。東京とうきょうは相続そうぞく天国てんごくになるのだ。晴海はるみから見み晴はれるかす東京とうきょう都心としんの眺ながめは絶景ぜっけいだろうが、実じつは都心としん周辺しゅうへんの交通こうつう利便りべん性せいの良よい、ブランド立地りっちなどと呼よばれる高台たかだいの住宅じゅうたく地ちで今後こんご、大量たいりょうの相続そうぞく物件ぶっけんがマーケットに供給きょうきゅうされることが容易よういに予測よそくされるのだ。

　さらに2023年ねんには生産せいさん緑地りょくち制度せいどの期限切きげんぎれ問題もんだいが勃発ぼっぱつする。都市とし農地のうちを守まもるため固定こてい資産しさん税ぜいなどの優遇ゆうぐうを行おこなってきた制度せいどで、現在げんざい都内とないには3300haもの都市とし農地のうちが存在そんざいする。この特典とくてんを得えるには30年間ねんかん農業のうぎょうを続つづけなければならなかったが、この制度せいど改正かいせいが行おこなわれた1992年ねんから30年ねんの期限きげんを迎むかえる23年ねんは、大量たいりょうの都市とし農地のうちが宅地たくち化かを選択せんたくすることが懸念けねんされているのだ。国くには期限きげん延長えんちょうなどの緩和かんわ策さくをとっているが、農業のうぎょう従事じゅうじ者しゃも高齢こうれい化かしており一部いちぶは宅地たくち化かされる可能かのう性せいが取とりざたされている。

建物たてもの竣工しゅんこう時じの「値上ねあがり」に期待きたいするのは危険きけん

　こうした土地とちの供給きょうきゅう圧力あつりょくが強つよまる時代じだいに引ひき渡わたしを受うける晴海はるみのマンションが、その時とき果はたして「本当ほんとうにお買かい得どく」なのかどうかは正直しょうじき怪あやしいと考かんがえざるを得えない。現在げんざいの坪つぼ300万まん円えん代だい半なかばから後半こうはんという相場そうば観かんも、すでに価格かかく的てきにはピークアウトしているという説せつが強つよいのだ。現時点げんじてんでの相場そうばでの単純たんじゅんな比較ひかくは危険きけんかもしれない。

　引ひき渡わたしが4年ねん以上いじょう先さきの物件ぶっけんをローンで買かうことには、大おおきなリスクを伴ともなう。住宅じゅうたくローンを組くむ際さいは、物件ぶっけん引ひき渡わたし時じの金利きんりが適用てきようされるのが一般いっぱん的てきだ。さて、この低てい金利きんり時代じだいが4年ねん後ごも続つづいているかの確信かくしんはない。たとえば35年ねん返済へんさい5000万まん円えんのローンを組くんだ場合ばあい、金利きんりが1.5％であれば毎月まいつきの返済へんさい額がくは15万まん3092円えんだが、3％に上あがっていれば19万まん2425円えんに跳はね上あがる。35年間ねんかんの総そう返済へんさい額がくでは1600万まん円えん以上いじょうの差さになってしまう。

　金利きんりが上あがるということは不動産ふどうさん価格かかくも上あがるから大丈夫だいじょうぶと考かんがえたいところだが、上記じょうきの理由りゆうを考かんがえるとあまり楽観らっかんはできない。東京とうきょうの不動産ふどうさんマーケットで晴海はるみが置おいてきぼりになる可能かのう性せいを否定ひていできないのだ。

　タワマンも分譲ぶんじょうされるので国内外こくないがいの投資とうしマネーにも期待きたいしたいところだ。だが、引ひき渡わたしまで4年ねんもかかる物件ぶっけんを買かう投資とうし家かはほとんどいないのではないか。中古ちゅうこのマンションであれば、これを賃貸ちんたいに回まわせるので3年ねんから5年ねん程度ていどのタームで投資とうしして、値上ねあがりを見込みこんで出口でぐちで売うるというシナリオを描えがきやすいが、建設けんせつ中ちゅうの物件ぶっけんではそうはいかない。東南とうなんアジアならば、開発かいはつ中ちゅうに買かった権利けんりを建物たてもの竣工しゅんこう前まえに売却ばいきゃくできるので、マネーゲームを行おこないやすいが日本にっぽんでは無理むりな相談そうだんだ。

　実需じつじゅとしてみても、4年ねん後ごの家族かぞく像ぞうを正確せいかくに予測よそくできる人ひとは少数しょうすうだろう。子供こどもの成績せいせきや学校がっこう、夫婦ふうふの勤務きんむ地ち、収入しゅうにゅう、健康けんこう。今いまの世よの中なかは不ふ確定かくてい要素ようそが多おおすぎる。こうした変動へんどう要素ようそに目めをつむって建物たてもの竣工しゅんこう時じの「値上ねあがり」に期待きたいするのは、投資とうしスタンスとしてはあまりに天てんに運うんを任まかせているとしか思おもえない。

　このように考かんがえてくると、「あえて」今いま、飛とびついて買かうような物件ぶっけんには思おもえない。令れい和わ時代じだいのマンション購入こうにゅうは、昭和しょうわ、平成へいせい時代じだいの発想はっそうとは決別けつべつしたほうがよさそうだ。
（文ぶん＝牧野まきの知弘ともひろ／オラガ総研そうけん代表だいひょう取締役とりしまりやく）