Google調査ちょうさで判明はんめい…高たかい生産せいさん性せいの要因よういんはリーダー力りょくやメンバー間あいだの親したしさではなかった

　人材じんざいが流出りゅうしゅつせずに定着ていちゃくする組織そしきづくり。パフォーマンスが上あがるチームづくり。こんな文脈ぶんみゃくから「心理しんり的てき安全あんぜん性せい」に注目ちゅうもくが集あつまって久ひさしい。心理しんり的てき安全あんぜん性せいが高たかい職場しょくばとは、「みんなが気兼きがねなく意見いけんが言いえて、自分じぶんらしくいることができる職場しょくば」である。これは「働はたらきやすさ」や「働はたらき甲斐がい」に直結ちょっけつする。では、心理しんり的てき安全あんぜん性せいが低ひくい組織そしき・職場しょくばでは何なにが起おきるのか？

フォルクスワーゲンで不正ふせいが起おきた土壌どじょう

　心理しんり的てき安全あんぜん性せいが低ひくい職場しょくばでは「無知むちだと思おもわれたくない」「無能むのうだと思おもわれたくない」「邪魔じゃまだと思おもわれたくない」といった人間にんげんだれしもが持もっている感情かんじょうが増幅ぞうふくされる。その結果けっか、わからないことを質問しつもんできなかったり、ミスを隠かくしたり、議論ぎろんを避さけたりといったことが横行おうこうする。

　これでは従業じゅうぎょう員いんの居心地いごこちも悪わるく、パフォーマンスも上あがらない。それどころか組織そしきを根底こんていから揺ゆさぶるような問題もんだいに発展はってんすることもある。2015年ねんに発覚はっかくしたフォルクスワーゲンによる排はいガス不正ふせいの背景はいけいには、当時とうじのフォルクスワーゲンの心理しんり的てき安全あんぜん性せいの低ひくさがあった。

　当時とうじのCEOマルティン・ヴィンターコルンは横柄おうへいで完璧かんぺき主義しゅぎな人物じんぶつとして知しられていた。部下ぶかたちは、良よくない報告ほうこくをしようものなら大声おおごえで罵倒ばとうされ、常つねに不快ふかいで屈辱くつじょく的てきな思おもいを味あじわっていた。ヴィンターコルンは部下ぶかを恐おそれさせることによってマネジメントをしていたわけだが、それによって部下ぶかたちは自社じしゃのクリーン・ディーゼル車しゃがアメリカの環境かんきょう規制きせいをクリアできないことを知しっていながらも上層じょうそう部ぶに報告ほうこくできず、環境かんきょう規制きせいを不正ふせいな方法ほうほうでクリアする愚行ぐこうに走はしったのである。

Googleの研究けんきゅうで明あきらかになった「生産せいさん性せいが高たかいチーム」の条件じょうけん

　『心理しんり的てき安全あんぜん性せいがつくりだす組織そしきの未来みらい: アメリカ発はつの心理しんり的てき安全あんぜん性せいを日本にっぽん流りゅうに転換てんかんせよ』（仁科にしな雅まさ朋とも著ちょ、産業さんぎょう能率のうりつ大学だいがく出版しゅっぱん部ぶ刊かん）は、組織そしきにおける心理しんり的てき安全あんぜん性せいの重要じゅうようさとその高たかめ方かた、また心理しんり的てき安全あんぜん性せいが組織そしきにどのような影響えいきょうを及およぼすか、について解説かいせつしていく。

　まず、心理しんり的てき安全あんぜん性せいは組織そしきの生産せいさん性せいにかかわってくる。かつてGoogle（グーグル）が行おこなった「プロジェクト・アリストテレス」という、高たかい生産せいさん性せいを生うむチームの要因よういんについての研究けんきゅうが興味深きょうみぶかい。この研究けんきゅうでは、リーダーのカリスマ性せいやメンバー同士どうしの共通きょうつう点てんや親したしさなど、これまでチームをまとめるために「善ぜん」とされてきた要素ようそは、生産せいさん性せいの高たかさの決定けってい要因よういんだとは認みとめられなかった。その代かわりにチームの生産せいさん性せいを高たかめるためには「集合しゅうごう的てき知性ちせいがいかに生うまれるか」という視点してんが重要じゅうようだと結論けつろんづけられたのである。

　本書ほんしょによると「集合しゅうごう的てき知性ちせい」を生うむには以下いかの２ふたつがカギとなる。

・「均等きんとうな発言はつげん機会きかい」の創出そうしゅつ…メンバー全員ぜんいんが均等きんとうに発言はつげんできる環境かんきょうの構築こうちく
・「社会しゃかい的てき感受性かんじゅせい」の高たかさ…他者たしゃの感情かんじょうを顔色かおいろから読よみ取とる能力のうりょくの高たかさ

　このどちらも、土台どだいとなる要素ようそは「心理しんり的てき安全あんぜん性せい」だ。どんな背景はいけいや性格せいかくを持もっているメンバーであっても、立場たちばを超こえて自分じぶんの考かんがえを発表はっぴょうでき、相手あいてはその発表はっぴょうを理解りかいしようと努つとめることで集合しゅうごう的てき知性ちせいは生うまれていく。

　いうまでもなく、組織そしきには世代せだいも性別せいべつも背景はいけいもさまざまな人々ひとびとが所属しょぞくしており、たとえば1995年ねんから2010年ねん頃ごろに生うまれた“Z世代せだい”の考かんがえていることは、年長ねんちょうの社員しゃいんには理解りかいしがたいことがあるかもしれない。

　ただ、彼かれらを長ながく組織そしきにいる自分じぶんたちの色いろに染そめようとしても、そっぽを向むかれるだけになってしまう。彼かれらが彼かれらのままいられる環境かんきょうを作つくり、その考かんがえ方かたややり方かたを生いかしていくことが「集合しゅうごう的てき知性ちせい」の醸成じょうせいにつながるのである。

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　本書ほんしょでは心理しんり的てき安全あんぜん性せいを高たかめることで、組織そしきとしての問題もんだい解決かいけつや成果せいかにつながった事例じれいなど、実例じつれいを交まじえながら心理しんり的てき安全あんぜん性せいが高たかい状態じょうたいとはどのような状態じょうたいを指さすのか、そしてそれをどう実現じつげんするかに迫せまる。

　今いまや一人ひとりの天才てんさいや、一人ひとりのリーダーが引ひっぱっている組織そしきが伸のびていく時代じだいではなく、多様たようなメンバーが伸のび伸のびと働はたらける環境かんきょうづくりが組織そしきの推進すいしん力りょくにつながることは、多おおくの経営けいえい者しゃやマネジメント層そうが頭あたまでは理解りかいしている一方いっぽうで、その実現じつげんに苦くるしんでいる。本書ほんしょはそんな人ひとにとって光ひかりを与あたえる一いち冊さつとなるはずだ。（新刊しんかんJP編集へんしゅう部ぶ）
※本ほん記事きじは、「新刊しんかんJP」より提供ていきょうされたものです。