業界ぎょうかいの圧力あつりょく、国交こっこう省しょうとの闘たたかい…なぜ“日本一にっぽんいち小ちいさな整備せいび工場こうじょう”が車検しゃけん業界ぎょうかいを変かえたのか

※画像がぞう:『日本一にっぽんいち小ちいさな整備せいび工場こうじょうが業界ぎょうかいを動うごかしたとき』著ちょ：松川まつかわ陽よう／ダイヤモンド社だいやもんどしゃ

　業界ぎょうかいにはそれぞれの慣習かんしゅうがある。それは、独自どくじのルールや暗黙あんもくの了解りょうかいともいうべきもので、それを変革へんかくしようとすれば、仲間なかまの企業きぎょうから踈まれ、業界ぎょうかい団体だんたいから圧力あつりょくを受うける可能かのう性せいも否定ひていできない。

　変革へんかくが成功せいこうすれば先駆せんく者しゃとして賞賛しょうさんを浴あびて支持しじ者しゃも現あらわれるが、成功せいこうに至いたるまでには多おおくの場合ばあい、苦難くなんの道みちが待まっている。

　『日本一にっぽんいち小ちいさな整備せいび工場こうじょうが業界ぎょうかいを動うごかしたとき』（ダイヤモンド社だいやもんどしゃ／刊かん）の著者ちょしゃである株式会社かぶしきがいしゃホリデーの代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう・松川まつかわ陽よう氏しが敵てきに回まわしたのは、自動車じどうしゃ整備せいび業界ぎょうかいだった。

　20年ねん前まえに松川まつかわ氏しが起おこしたこの整備せいび業界ぎょうかいの変革へんかくによって、低てい価格かかく短時間たんじかんで車検しゃけん（自動車じどうしゃ検査けんさ登録とうろく制度せいど）ができる立合たちあい型がた車検しゃけんが広ひろく普及ふきゅうし、整備せいび業界ぎょうかいは大おおきく変かわった。

　車検しゃけんの相場そうばは10万まん円えんほどだが、そのとき松川まつかわ氏しが提示ていじしたのは1万まん9800円えん。なぜそんなことができたのか？　そしてどのように壁かべを乗のり越こえていったのだろうか？　本書ほんしょでは余あますことなくその舞台裏ぶたいうらが描えがかれている。

■車検しゃけんをいかに効率こうりつ化かするか？

　車検しゃけんとは一定いってい期間きかんごとに自動車じどうしゃを検査けんさすることで、道路どうろ運送うんそう車両しゃりょう法ほうで義務ぎむづけられたものだ。

　いまや車検しゃけんは安価あんかで短時間たんじかんに済すますことができるのが常識じょうしきだが、それは松川まつかわ氏しが業界ぎょうかいに先駆さきがけて「立合たちあい型がた短時間たんじかん車検しゃけん」に取とり組くんだからに他たならない。

　そのきっかけとなった出来事できごとがあった。

　ちょうど1990年ねん頃ごろのことだ。整備せいび工場こうじょうを営いとなむ松川まつかわ氏しの目めに「ユーザー車検しゃけん代行だいこう1万まん9800円えん」というポスターが飛とび込こんできた。相場そうばよりもずいぶん安やすいその価格かかく設定せっていの理由りゆうを聞きくべく、松川まつかわ氏しはすぐにそのポスターを出だしていた会社かいしゃに赴おもむき、社長しゃちょうに話はなしを聞きいた。「君きみたちは車くるまばかり見みている。商売しょうばいは客きゃくを見みなければいけない」。旅行りょこう業ぎょうの傍かたわらユーザー車検しゃけんを請うけ負おっていたその社長しゃちょうの言葉ことばに、はっとするものがあった。

　確たしかに、これまで車検しゃけんは“急いそぎ必要ひつようのないこと”まで行おこなわれてきた側面そくめんがあった。例たとえば車内しゃない清掃せいそうや特別とくべつ交換こうかん部品ぶひんの交換こうかんである。それらは車検しゃけんだからといって必かならずしも行おこなわなければならないものではない。これは整備せいび工場こうじょう側がわの「やらなきゃいけない」という“思おもい込こみ”によって行おこなわれていたものだった。さらに、そうした“思おもい込こみ”で行程こうていに入はいっている作業さぎょうはたくさんあった。松川まつかわ氏しはそうした作業さぎょうを省はぶき、必要ひつようなときに必要ひつような作業さぎょうだけを行おこなうという手法しゅほうに変かえていった。

　こうした方向ほうこう転換てんかんができた背景はいけいには、1995年ねん7月がつ、道路どうろ運送うんそう車両しゃりょう法ほうの改正かいせいがあった。新しん車両しゃりょう法ほうの施行しこうにより、使用しよう者しゃ責任せきにんが明確めいかく化かされ、「前ぜん整備せいび・後こう検査けんさ」のほかに「前ぜん検査けんさ・後こう整備せいび」の車検しゃけんが可能かのうになった。このことで、車両しゃりょう整備せいびが最小限さいしょうげんに抑おさえられ、作業さぎょう時間じかんを大幅おおはばに短縮たんしゅく・効率こうりつ化かすることができたのである。

■業界ぎょうかい団体だんたいからの除名じょめい、行政ぎょうせいとの闘たたかいの果はてに……

　本書ほんしょで描えがかれている業界ぎょうかい団体だんたいとの闘たたかいはとてもスリリングだ。