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柚木麻子「あいにくあんたのためじゃない」 軽やかな復讐で取り戻す尊厳|好書好日
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柚木ゆずき麻子あさこ「あいにくあんたのためじゃない」 かろやかな復讐ふくしゅうもど尊厳そんげん

 きていると理不尽りふじんうことがある。やりきれない。でも、本書ほんしょんだのちは、理不尽りふじんにじっとえるのではなく、なにかあたらしい方法ほうほうためしてみたくなるかもしれない。

 収録しゅうろくされているのは、2019ねんから23ねんにかけて発表はっぴょうされたぜん。「めんや 評論ひょうろんおことわり」では、「ラーメン武士ぶし」の評論ひょうろん活動かつどうをしているおとこのせいで炎上えんじょう経験けいけんし、人生じんせいえられてしまった被害ひがいしゃ連帯れんたいし、かなりった復讐ふくしゅう(ふくしゅう)をこころみる。「なんでそこまでやるかって? あなたに勝手かって名付なづけられた自分じぶんもどすためですよ。自分じぶんたちので」……ラーメン武士ぶしは、Xジェンダーの店員てんいんおとこおんなかわからないとい、子連こづれで来店らいてんした母親ははおや授乳じゅにゅうネタでからかい、客席きゃくせきのゲイカップルをぬすめうつした。被害ひがいしゃたちは、おとこあやまちを本人ほんにんまさしく理解りかいさせるべく、綿密めんみつ計画けいかくてる。

 また「パティオ8」では、とあるマンションの住人じゅうにんたちが、自分じぶん都合つごうだけで中庭なかにわ使用しようきんじようとする101ごうしつおとこ対抗たいこうしようと、チームをみ、おとこ商売敵しょうばいがたきになることで、仕事しごとうばおうとする。「ぼく仕事しごと育児いくじ片手間かたてまにできるようなものとはちがうんですよ」とかたおとこたいし、家事かじ育児いくじをこなしながら、すごいミッションを遂行すいこうしてのけるのだ。

 でも、多分たぶんほんさく読者どくしゃをスカッとさせるためのものではない。復讐ふくしゅうには時間じかんがかかる。仲間なかまもいたほうがいい。ヒーローにたすけてもらえばよいというものでもない。たとえ時間じかんがかかっても、自分じぶん尊厳そんげん自分じぶんもど根気こんきがなくてはいけない。それってすごく大変たいへんだ。しかし作者さくしゃはそのことをスポてきにはえがかず、ちょっとワクワクするような物語ものがたり仕立したてる。そのかろやかさが読者どくしゃをエンパワーメントするのだ。=朝日新聞あさひしんぶん2024ねん6がつ15にち掲載けいさい

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 新潮社しんちょうしゃ・1760えん。3がつかん。4さつまんせんだい171かい直木賞なおきしょう候補こうほさく。「他人たにんのラベリングから解放かいほうされる登場とうじょう人物じんぶつ勇気ゆうきをもらったというこえおおい。短編たんぺんだからこその仕掛しかけもあり、けた爽快そうかいかん読者どくしゃひびいている」と担当たんとう編集へんしゅうしゃ

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