田中たなか東子とうこさん「オタク文化ぶんかとフェミニズム」インタビュー　「好すき」考かんがえるきっかけに

田中たなか東子とうこさん

　「ガンダム」やＳＦが大好だいすきだった少女しょうじょ時代じだい、学校がっこうではなかなか友達ともだちができず、雑誌ざっしの文通ぶんつう欄らんで気きの合あいそうな女おんなの子こを探さがした。そんな日々ひびは、進学しんがくした女子高じょしこうで一変いっぺんする。

　休やすみ時間じかんに、生徒せいとの間あいだを漫画まんがや小説しょうせつが飛とび交かう教室きょうしつ。そこは、宝塚歌劇団たからづかかげきだんから洋楽ようがくロックやアイドルまで、自分じぶんの好すきな対象たいしょうへの知識ちしきを深ふかめ、自由じゆうに論ろんじ合あう「オタク」たちが集つどう、楽園らくえんだった。

　「社会しゃかいが押おしつけてくる『女おんならしさ』や性せい役割やくわりになじめない人ひとにとっての居場所いばしょ。安心あんしんして、自分じぶんたちの好すきなものや欲望よくぼうについて語かたることのできるコミュニティー」

　自身じしんの経験けいけんを振ふり返かえり、女性じょせいにとっての「オタク文化ぶんか」を、そう位置いちづける。

　この本ほんにつづったのは、フェミニズムやメディア文化ぶんか論ろんの研究けんきゅう者しゃとなった自分じぶんが、「オタ活かつ」の現場げんばで見聞みききしてきた現象げんしょうの記録きろくと、個人こじん的てきな葛藤かっとうも交まじえた分析ぶんせきだ。タイトルには、オタク文化ぶんかが男性だんせい主体しゅたいで語かたられてきたことへの静しずかな抗議こうぎも込こめられている。

　浮うかび上あがってくるのは、「好すき」と思おもう気持きもちを取とり巻まく環境かんきょうの大おおきな変化へんか。

　例たとえば、メディアでも数すう年ねん前まえから盛さかんに取とり上あげられるようになった「推おし活かつ」。

　対象たいしょうを応援おうえんする自分じぶん自身じしんの活動かつどうに力点りきてんが置おかれ、お金かねや時間じかんを注つぎ込こむほど「いいオタク」という考かんがえ方かたをエンタメの供給きょうきゅう側がわも後押あとおしし、利用りようする。「ファンの愛情あいじょうそのものは変かわっていないのに、経済けいざい活動かつどうの一環いっかんとして語かたられるようになってしまった」

　一方いっぽうで、「『推おし活かつ』が社会しゃかい参加さんかという人ひとも多おおくいらっしゃる」とも。「その人ひとたちは全すべて犠牲ぎせい者しゃだというのも、乱暴らんぼうな議論ぎろんだと思おもいます」

　ジャニーズ問題もんだいで指摘してきされた、タレントへの人権じんけん侵害しんがいやメディアの責任せきにんなど、ファン文化ぶんかを巡めぐる様々さまざまな課題かだいに、ようやく社会しゃかいの目めが向むき始はじめた今いま。大切たいせつなのは「良よい部分ぶぶんも悪わるい部分ぶぶんも、丁寧ていねいに議論ぎろんすること」だと思おもう。

　「自分じぶんたちが好すきなことのために何なにをして、どんなことを考かんがえているのか。オタクの人ひとたちが集あつまり、そういうことを話はなすきっかけに、この本ほんがなるといいと思おもいます」（文ぶん・増田ますだ愛子あいこ　写真しゃしん・篠田しのだ英美ひでみ）＝朝日新聞あさひしんぶん2025年ねん3月がつ22日にち掲載けいさい