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陰陽師を主人公にした、美しくて怖い6篇。その読みどころを解説します! 『妖異幻怪 陰陽師・安倍晴明トリビュート』(夢枕 獏/蝉谷 めぐ実/谷津 矢車/上田 早夕里/武川 佑) | 書評 - 本の話

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陰陽師を主人公にした、美しくて怖い6篇。その読みどころを解説します!

陰陽いんよう主人公しゅじんこうにした、うつくしくてこわい6へん。そのみどころを解説かいせつします!

ぶん細谷ほそや ただしたかし 文芸ぶんげい評論ひょうろん

妖異ようい幻怪げんかい 陰陽いんよう安倍晴明あべのせいめいトリビュート』(夢枕ゆめまくら ばくせみたに めぐじつ谷津たにつ 矢車やぐるま上田うえだ 早夕里さゆり武川たけかわ たすく

出典しゅってん : #文春ぶんしゅん文庫ぶんこ
ジャンル : #歴史れきし時代じだい小説しょうせつ

妖異ようい幻怪げんかい 陰陽いんよう安倍晴明あべのせいめいトリビュート』(夢枕ゆめまくら ばくせみたに めぐじつ谷津たにつ 矢車やぐるま上田うえだ 早夕里さゆり武川たけかわ たすく

 本書ほんしょ妖異ようい幻怪げんかい 陰陽いんよう安倍晴明あべのせいめいトリビュート』は、陰陽いんよう題材だいざいにした時代じだい小説しょうせつのアンソロジーだ。ベースになっているのは、「オール讀物よみものねんはちがつごう特集とくしゅう企画きかく“「陰陽いんよう」の世界せかい”である。これは、夢枕ゆめまくらばくの「陰陽いんよう」シリーズの短篇たんぺん殺生せっしょうせき」にくわえ、ろくにん作家さっかがシリーズのトリビュート作品さくひん寄稿きこう。さらに、「陰陽いんよう」とえんのある野村のむらまんとき羽生はぶゆいつる使つかった「晴明せいめいグラビア」や、夢枕ゆめまくらばく講談こうだん神田かんだはくやま対談たいだんきだから挑戦ちょうせんつづける」を掲載けいさいした、豪華ごうか特集とくしゅうであった。多彩たさい角度かくどかららしされた「陰陽いんよう」の世界せかいに、シリーズのファンや時代じだい小説しょうせつファンはだいよろこびしたものだ。

 ただし本書ほんしょは、特集とくしゅうのためにかれた作品さくひんを、そのままいちさつにしたわけではない。夢枕ゆめまくらばく作品さくひんは「殺生せっしょうせき」ではなく、『陰陽いんよう りゅうぶえまき』に収録しゅうろくされている「むしめづるひめ」と、「オール讀物よみものねんきゅうじゅうがつ合併がっぺいごう掲載けいさいされた「太子たいし」をっている。上田うえだ早夕里さゆりは、「オール讀物よみもの掲載けいさいの「ばし法師ほうし」ではなく、「井戸いどと、ひと」を収録しゅうろく。どちらも「播磨はりまこく妖綺たん」シリーズのいちへんだ。「井戸いどと、ひと」がシリーズだいいちなので、読者どくしゃかりやすさを優先ゆうせんしたセレクトなのだろう。

 せみたにめぐの「みみあなむし」、谷津たにつ矢車やぐるまの「博雅はくがとりかなでること」、武川たけかわたすくの「とお輪廻りんね」は、特集とくしゅうから本書ほんしょへそのままスライド。やはり特集とくしゅう掲載けいさいされた、青柳あおやぎあおいじんの「アイリよじゅうをとれ」と、さん津田つだ信三しんぞうの「ただのろうもの」は、現代げんだい舞台ぶたいにした作品さくひんなので、今回こんかい収録しゅうろく見送みおくられたようだ。どちらも面白おもしろ作品さくひんなので、それぞれの作者さくしゃほん収録しゅうろくされるたのしみにしている。

 さて、本書ほんしょちはこれくらいにして、かくはなしについてれていこう。冒頭ぼうとう夢枕ゆめまくらばくの「むしめづるひめ」だ。もちろん「陰陽いんよう」シリーズのいちへんである。たちばなみのるこれむすめ露子つゆこひめは、万物ばんぶつ現象げんしょう探究たんきゅうすることをたのしみ、みちすすんでいる。なかでも興味きょうみ対象たいしょうになっているのががらす毛虫けむし毛虫けむし)だ。むすめおこないにさじげているだが、はじめた黒丸くろまるという毛虫けむしが、しんじられないほど巨大きょだいになっていることを心配しんぱい陰陽いんよう安倍晴明あべのせいめいたすけをもとめる。つづけて来訪らいほう。そしてはれあきら親友しんゆうみなもと博雅ひろまさともに、たちばなていおもむくのだった。

 稀代きたい陰陽いんようである安倍晴明あべのせいめいと、ふえ名手めいしゅみなもと博雅ひろまさのコンビが、さまざまな怪異かいい解決かいけつしたり見守みまもったりする「陰陽いんよう」シリーズについては、くわしい説明せつめい不要ふようであろう。かつて「陰陽いんよう」ブームをこし、いまなおがれている名作めいさくだ。ほんさくは『つつみ中納言ちゅうなごん物語ものがたり』に収録しゅうろくされている「むしめづる姫君ひめぎみ」を意識いしきしながら、という愉快ゆかいあいらしいキャラクターを創造そうぞうし、幽玄ゆうげんともいうべき世界せかい読者どくしゃみちびく。アンソロジーの幕開まくあけに相応ふさわしいこうへんである。

 つづく、せみたにめぐの「みみあなむし」は、老齢ろうれい女房にょうぼうしょういねが、わかつかえたじゅうよんさい姫君ひめぎみ信子のぶこ見舞みまった怪異かいいかたる。この怪異かいいがグロテスクなのだが、独創どくそうてき面白おもしろい。さらにかたしょういねが、うまれてすぐに尺取虫しゃくとりむしのような妖がみみはいみ、それからおとがよくこえるようになったという設定せっていが、効果こうかてき使つかわれている。自分じぶんがどうおもわれているかづいたしょういねが、信子のぶこやさしさのうらにある驕慢きょうまんづく場面ばめんなど、じつ素晴すばらしかった。

 さらに晴明せいめい博雅はくがたいする感情かんじょうを、しょういねおとつうじて表現ひょうげんする。怪異かいいかたに、作者さくしゃのデビューさくしゃ心中しんちゅうの』を想起そうきさせるところがあり、興味きょうみきない。原典げんてんいちひねりした会話かいわなどで「陰陽いんよう」ファンをよろこばせながら、せみたに作品さくひんらしさの横溢おういつした逸品いっぴんなのである。

 谷津たにつ矢車やぐるまの「博雅はくがとりかなでること」は、本書ほんしょなかもっとも「陰陽いんよう」シリーズのテイストに忠実ちゅうじつ作品さくひんだ。はかあらしのけん調しらべにとりおもむいた検非違使けびいしいちたいが、少年しょうねんられて総崩そうくずれとなった。唯一ゆいいつのこりによると、少年しょうねんった検非違使けびいしたちの左腕さわん調しらべ、「やはり、みなもと博雅ひろまさ左腕さわんでなければいかぬか」といったそうだ。このことを博雅はくがかららされたはれあきらは、事態じたい解決かいけつのためにうごす。

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定価ていか792えん税込ぜいこみ発売はつばい:2023ねん03がつ08にち

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