大阪屋ショップと楽天ポイント

楽天らくてん（現げん楽天らくてんグループ）が展開てんかいする楽天らくてんポイントは、日本にっぽん初はつの共通きょうつうポイントであるTポイントが採用さいようした「1業種ぎょうしゅ1社しゃ」とは正せい反対はんたいの「オープン連合れんごう」を、その加盟かめい店てん戦略せんりゃくの柱はしらに据すえた。超ちょう大手おおてだけを「囲かこい込こむ」Tポイントに対たいし、業種ぎょうしゅや地域ちいきにとらわれない幅広はばひろい「包つつみ込こみ」で対抗たいこうするアプローチである。そんな楽天らくてんの加盟かめい店てん網もうの特徴とくちょうの一ひとつが、地域ちいきのスーパーマーケットだ。現在げんざいは、全国ぜんこくの約やく30のスーパーが加盟かめいする。長期ちょうき連載れんさい『共通きょうつうポイント20年ねん戦争せんそう』の＃29では、加盟かめい店てん網もうを広ひろげる”触媒しょくばい”となっている、北陸ほくりくのあるスーパーの参画さんかくの経緯けいいを明あきらかにする。（ダイヤモンド編集へんしゅう部ぶ副ふく編集へんしゅう長ちょう　名古屋なごや和希かずき）

楽天らくてんとTポイントがスーパー争奪そうだつ戦せん
ライバルがPontaを電撃でんげき導入どうにゅうで号砲ごうほう

　2017年ねん1月がつ17日にち、楽天らくてん（現げん楽天らくてんグループ）が展開てんかいする楽天らくてんポイントの総そう責任せきにん者しゃである笠原かさはら和彦かずひこは富山とやま市しを訪おとずれた。目的もくてきは、富山とやま県けんや石川いしかわ県けんを地盤じばんとするスーパー、大阪おおさか屋やショップの訪問ほうもんである。同社どうしゃには15年ねんごろから笠原かさはらの部下ぶかが足あしを運はこんでいたが、Tポイント陣営じんえいの営業えいぎょう攻勢こうせいの前まえに苦戦くせんしていた。笠原かさはらは部下ぶかからの応援おうえん要請ようせいで、直接ちょくせつ交渉こうしょうに臨のぞむことになったのだ。

　大阪おおさか屋やショップの名前なまえは、創業そうぎょう者しゃの平ひら邑文男おとこが丁稚でっち（でっち）奉公ほうこうしていた大阪おおさかが由来ゆらいだ。「大阪おおさか商人しょうにん」の商売しょうばい気質きしつに感銘かんめいを受うけた平ひら邑が、1973年ねんに創業そうぎょうする際さいに、屋号やごうに大阪おおさかという文字もじを取とり入いれたのだ。当時とうじは富山とやま県けんや石川いしかわ県けんに約やく40店舗てんぽを展開てんかいし、売上うりあげ高だかは700億おく円えんほどだった。

　笠原かさはらの部下ぶかが通かよっていた当初とうしょは、大阪おおさか屋やショップは共通きょうつうポイントにはほとんど関心かんしんがなかった。だが、突然とつぜん、方針ほうしんを転換てんかんする。きっかけは、同おなじく富山とやま県けんを地盤じばんとするスーパー、アルビスの動うごきである。16年ねん11月、三菱商事みつびししょうじがアルビスと資本しほん・業務ぎょうむ提携ていけいの協議きょうぎを開始かいしすると発表はっぴょうしたのだ。合意ごうい事項じこうには、三菱商事みつびししょうじグループの共通きょうつうポイント、Ponta（ポンタ）の活用かつようが盛もり込こまれていた。三菱商事みつびししょうじは17年ねん以降いこう、アルビスに段階だんかい的てきに出資しゅっしし、今いまでも筆頭ひっとう株主かぶぬしの地位ちいにある。

　ライバルがPonta陣営じんえいに加入かにゅうすることを知しった大阪おおさか屋やショップは、共通きょうつうポイント導入どうにゅうの検討けんとうに乗のり出だしたのだ。提携ていけい候補こうほに挙あげられたのがTポイントと楽天らくてんポイントだった。

　笠原かさはらが面会めんかいしたのは、当時とうじ専務せんむだった尾崎おざき弘明ひろあきである。尾崎おざきはのちに創業そうぎょう家か出身しゅっしんの平ひら邑秀樹じゅから社長しゃちょうのバトンを受うけ継つぐことになる。その尾崎おざきは、笠原かさはらに対たいしてこう漏もらした。「お年寄としよりがカードを使つかえるかどうか心配しんぱいだ」。地方ちほうスーパーの多分たぶんに漏もれず、主要しゅような顧客こきゃく層そうは高齢こうれい者しゃだった。尾崎おざきの不安ふあんももっともだった。一方いっぽうで、尾崎おざきは共通きょうつうポイントを使つかった販促はんそく策さくは今後こんごの成長せいちょうに不可欠ふかけつであるとも感かんじていた。

　尾崎おざきは楽天らくてんポイントを取とり入いれる“条件じょうけん”といえる要望ようぼうを笠原かさはらにぶつけた。代表だいひょう例れいが、POS（販売はんばい時点じてん情報じょうほう管理かんり）システムの改修かいしゅう費ひの一部いちぶを楽天らくてんの負担ふたんにできないかというものだった。電子でんしマネーのEdyを載のせたポイントカードを多おおく発行はっこうしたいというものもあった。プラスチックカードに比くらべて、Edy付つきカードの発行はっこうにはよりコストがかかる。発行はっこう費用ひようは楽天らくてん持もちである。

　笠原かさはらは面食めんくらった。尾崎おざきの要求ようきゅうを全すべてのめば、楽天らくてん側がわの採算さいさんは合あわなくなってしまう。ただ、尾崎おざきは研究けんきゅう熱心ねっしんだった。「こんな販促はんそくに使つかえるんじゃないですか」。笠原かさはらとの面会めんかい後ごも、楽天らくてん側がわの担当たんとう者しゃにいくつも販促はんそく策さくを提案ていあんした。次第しだいに笠原かさはらも尾崎おざきの熱ねつにほだされていく。「楽天らくてんポイントを使つかい倒たおしてもらえれば、いろいろなノウハウが生うまれるかもしれない」。何なにとしてでも口説くどき落おとすべき相手あいてだと考かんがえを改あらためる。

　一方いっぽう、楽天らくてんと同おなじくTポイント側がわも攻勢こうせいをかけていた。担当たんとうしていたのは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ（CCC）傘下さんかのTポイント運営うんえい会社かいしゃの営業えいぎょう部長ぶちょうだった滝口たきぐち彰あきらである。滝口たきぐちはCCCでは笠原かさはらの部下ぶかだった。笠原かさはらが88年ねんにTポイントの運営うんえい子会社こがいしゃの前身ぜんしんとなるアダムスという顧客こきゃくデータ管理かんりサービスの子会社こがいしゃを立たち上あげた際さいに、滝口たきぐちは4番目ばんめに入社にゅうしゃした社員しゃいんだったのだ。笠原かさはらをはじめ、2番目ばんめと3番目ばんめだった社員しゃいんは楽天らくてんに移籍いせきし、唯一ゆいいつ滝口たきぐちだけがCCCに残のこっていた。

　その滝口たきぐちは粘ねばり強づよく営業えいぎょうをかけていた。楽天らくてんの担当たんとう者しゃが大阪おおさか屋やショップの本社ほんしゃで滝口たきぐちとばったり出でくわしたことが何なん度どもあった。当時とうじ、共通きょうつうポイントとしての知名度ちめいどは圧倒的あっとうてきにTポイントが上うえである。だが、楽天らくてんにとって、北陸ほくりくの橋頭堡きょうとうほを落おとすわけにはいかなかった。笠原かさはらは劣勢れっせいを跳はね返かえす“秘策ひさく”を講こうじた。