編者を
務めた
『哲学史入門』(NHK出版新書)が
話題のライターの
斎藤哲也さんに『
徹底討議 二〇
世紀の
思想・
文学・
芸術』(
松浦寿輝、
沼野充義、
田中純著)の
書評を
書いていただきました。
「
二〇
世紀の
思想・
文学・
芸術」を
知るためのブックガイドとしての
楽しみ
方とは――。
見事な鼎談構成
職業柄、活字化されたインタビューや対談、鼎談は、どうしてもライター目線で読んでしまうことがある。わざわざ説明するまでもないかもしれないが、話し言葉はそのまま活字になることはない。文字起こしがあり、それをもとに、ライターや場合によっては編集者が、規定の文字数に収まるように構成する。
ここがライターの腕の見せ所だ。読みやすい話し言葉の文章に整え、内容を取捨選択し、端折った説明は補足する。話が通りやすいように、議論の順番を入れ替えることも珍しくない。もちろん最後は、話者自身が加筆修正するけれど、対談原稿や鼎談原稿にライターの資するところは大きい。
書評なのに、こんな前置きから始めたのは、ほかでもない本書の鼎談構成があまりにも見事で舌を巻いたからだ。
本書は、文芸誌の「群像」で連載されていた「徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術」を一冊にまとめたものである。二〇一九年七月号から二〇二三年五月号にかけて行われた、合計一二回の鼎談が収められている。文芸誌だから比較的分量の制限は緩いとはいえ、ある程度の幅に収める必要はある。実際、本書に収められている一二回それぞれの頁数を見れば、多少の増減はあれど、おおむね一回五五頁前後で編まれている。
実際の鼎談がどのように進行したのか、読者には知る術がない。だが、松浦寿輝、沼野充義、田中純という現代日本の碩学三人が二〇世紀を論じ合うのだから、濃密な議論でないわけがない。本書のどの回を読んでもわかるように、三者それぞれが紹介する人物や作品だけでも相当な数にのぼる。それらを咀嚼したうえで、一定の分量に議論を整理していく。その途方もない仕事に感嘆したことを最初に記しておきたい。