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「カメは万年」長生きする動物に、アンチエイジングの秘密を学ぶ:朝日新聞GLOBE+
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「カメはまんねん長生ながいきする動物どうぶつに、アンチエイジングの秘密ひみつまな

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Thomas Morel of the Tropiquarium holds an albino baby Galapagos tortoise, born on May 1 and the first ever recorded albino birth, next to a female adult tortoise and another baby tortoise in Servion, Switzerland, June 3, 2022. REUTERS/Denis Balibouse
スイス・セルビオンのトロピカリウム動物どうぶつえん飼育しいくされているめすのガラパゴスゾウガメ。5月にめずらしいアルビノのガメが誕生たんじょうした=2022ねん6がつ3にち、ロイター

人間にんげんのような哺乳類ほにゅうるいにとって、老化ろうかけられない。どれだけビタミンを摂取せっしゅしようが、とき経過けいかとともに皮膚ひふはたるみ、ほねはもろくなり、関節かんせつはこわばる。ところが、ミズガメやリクガメはもっと優雅ゆうがける。ガラパゴスゾウガメのようなたねは、皮膚ひふにはしわ(しわ)が歯茎はぐきくても、よわいによる退化たいかとは無縁むえんにみえる。なかには、100さいえてもおとろえる気配けはいをほとんどみせないものもいる。

こうした不老ふろう長寿ちょうじゅにみえる不思議ふしぎなに後押あとおししているのかを見極みきわめるため、2くみ研究けんきゅうしゃグループがミズガメやリクガメなど変温動物へんおんどうぶつ仲間なかまについて研究けんきゅうし、学術がくじゅつ「Science(サイエンス)」に6がつ23にち論文ろんぶん発表はっぴょうした。これまでの老化ろうか研究けんきゅうは、おも哺乳類ほにゅうるい鳥類ちょうるいのような温血動物おんけつどうぶつ対象たいしょうにしてきた。だが、長寿ちょうじゅ記録きろく支配しはいしているのは魚類ぎょるい爬虫類はちゅうるい両生類りょうせいるいなどの変温動物へんおんどうぶつだ。たとえば、「olm(ホライモリ)」とよばれるサンショウウオは100ねんちかくのあいだ地下ちか洞窟どうくつをくねくねとはいまわっている。ゾウガメはその2ばいながきられる。今年ことしはじめ、ジョナサンというをつけられたアルダブラゾウガメは190さいいわった。

あたらしい研究けんきゅうひとつでは、研究けんきゅうしゃたちがコモドオオトカゲやガータースネーク(訳注やくちゅう=北米ほくべい大陸たいりく一般いっぱんてきにみられるヘビの一種いっしゅ)、アマガエルなどけい77種類しゅるい野生やせい爬虫類はちゅうるい両生類りょうせいるいかんする標本ひょうほんデータをまとめた。この研究けんきゅうチームは、なんじゅう年間ねんかんにもわたる観察かんさつデータを活用かつようして代謝たいしゃなどの特性とくせい分析ぶんせきし、老化ろうか寿命じゅみょうへの影響えいきょう調しらべた。

わたしたちは老化ろうかすす具合ぐあいという問題もんだいに、以前いぜんおこなわれてこなかったかたちむためのすぐれた標本ひょうほんデータをた」とベス・レインキはう。べいノースイースタン・イリノイ大学だいがく進化しんか生物せいぶつ学者がくしゃで、このあたらしい研究けんきゅう論文ろんぶん筆者ひっしゃ一人ひとりである。「老化ろうかがどのようにすすむかという問題もんだい核心かくしんせまるには、広範こうはん分類ぶんるいがくてきアプローチだけが有効ゆうこうだ」と指摘してきする。

People watch as a sea turtle is released back to the sea following its recovery from injuries at Israel's Nature and Parks Authority's National Sea Turtle Rescue Centre, in Beit Yanai, Israel July 8, 2022 REUTERS/Amir Cohen
イスラエル・ベイトヤナイで、けががなおうみもどされるウミガメ=2022ねん7がつ8にち、ロイター

長生ながいきをするには、ゆるやかな老化ろうか曲線きょくせんえが必要ひつようがある。ほとんどの動物どうぶつは、性的せいてき成熟せいじゅくたっしたのち老化ろうかする組織そしき修復しゅうふく犠牲ぎせいにして、そのエネルギーのおおくを生殖せいしょくそそぐ。この身体しんたいてき劣化れっか、つまり細胞さいぼう老化ろうかは、年老としおいた動物どうぶつ捕食ほしょく動物どうぶつ餌食えじきになったり病気びょうきにかかったりするように、いのちにかかわるリスクをたかめることがよくあるのだ。しかし、いくつかの変温動物へんおんどうぶつ年齢ねんれいかさねてもほとんど細胞さいぼう老化ろうかすすまない。

ひとつの理論りろんは、温血動物おんけつどうぶつ代謝たいしゃでエネルギーを消耗しょうもうするが、変温動物へんおんどうぶつ体温たいおん調整ちょうせい生息せいそく環境かんきょうゆだねているため、老化ろうかによる消耗しょうもう対処たいしょしやすいというもの。だが、レインキと彼女かのじょ同僚どうりょうたちがめたことはもっと複雑ふくざつだった。変温動物へんおんどうぶつなかには、たようなおおきさのうちゆたか動物どうぶつくらべてはるかにはやけるものもいるが、老化ろうかがもっとおそいものもいる。トカゲやヘビの老化ろうか速度そくどはまちまちだが、あるしゅのワニやサンショウウオ、不可解ふかかいなムカシトカゲの老化ろうか速度そくど非常ひじょうおそかった。ところが、ほとんど老化ろうかしない唯一ゆいいつのグループはミズガメとリクガメだった。

べつあらたな研究けんきゅうは、とき超越ちょうえつしたカメの老化ろうか問題もんだいふかげた。研究けんきゅうしゃたちは動物どうぶつえん水族館すいぞくかんわれている52種類しゅるいのミズガメとリクガメのよわいともなおとろえについて調しらべた。その結果けっか、アルダブラゾウガメとパンケーキガメなど研究けんきゅう対象たいしょうしゅの75%は細胞さいぼう老化ろうか速度そくどがゆっくりであるか、とるにらないことが判明はんめいした。ギリシャリクガメやホオジロクロガメなどいくつかのたねは、マイナスの細胞さいぼう老化ろうか速度そくどしめした。つまり、よわいとともに死亡しぼうリスクが低下ていかするということだ。研究けんきゅう対象たいしょうしゅやく80%は、老化ろうか速度そくど現代げんだいじんよりもおそかった。

カメをアンチエイジング(こう老化ろうか)の基準きじゅんにするのは、代謝たいしゃ緩慢かんまんさをかんがわせるとにかなっている。研究けんきゅうしゃたちはまた、カメの頑丈がんじょう甲羅こうら長寿ちょうじゅむすけた。草食そうしょくせいのミズガメやリクガメは野菜やさいるいをむしゃむしゃべてきながらえており、身体しんたいにぴったりした甲羅こうら風変ふうがわりな存在そんざい防具ぼうぐになっている。

このようにゆっくりした老化ろうか速度そくどは、飼育しいくにあるカメのたされた生活せいかつ考慮こうりょすればおどろくべきことではない。だが、ちょう低温ていおん保存ほぞん夢物語ゆめものがたりはともかく、老化ろうかする人間にんげんとはちがって、飼育しいくのカメは動物どうぶつえんという理想りそうてき環境かんきょう老化ろうかおくらせることができるという証拠しょうこしめした。そこでは、爬虫類はちゅうるい理想りそうてき気温きおんのもとでぶらぶらごし、果物くだもの野菜やさいのバランスがいいエサをべるからである。

動物どうぶつえん個体こたいぐん野生やせい個体こたいぐんとを比較ひかくした結果けっか保護ほごされた条件下じょうけんか個体こたいぐん細胞さいぼう老化ろうかめられることをめた」とリタ・ダシルバはう。みなみデンマーク大学だいがく個体こたいぐん生物せいぶつ学者がくしゃで、リクガメ研究けんきゅう論文ろんぶん筆者ひっしゃ一人ひとりだ。「人間にんげんにとっての環境かんきょうはどんどんくなってはいるものの、依然いぜんとして老化ろうかめることはできていない」

人間にんげん老化ろうか研究けんきゅうしているみなみカリフォルニア大学だいがく老年ろうねん学者がくしゃケレイブ・フィンチによれば、長寿ちょうじゅのミズガメやリクガメの死亡しぼうリスクは過去かこなんじゅう年間ねんかんにもわたってわっていないが、永遠えいえんわかさを獲得かくとくしたわけではない。カメも、人間にんげん高齢こうれいしゃ同様どうよう究極きゅうきょくてきには視力しりょく心臓しんぞうよわまっていく。

一部いちぶ白内障はくないしょうになるし、ひとからでエサをあたえてもらわなくてはならないほどおとろえる」とフィンチはう。今回こんかいしん研究けんきゅうにはかかわっていないフィンチだが、「カメたちも現実げんじつ世界せかいではのこれないのだから、老化ろうかするのは間違まちがいない」とくわえた。

こうした鈍重どんじゅう爬虫類はちゅうるいまぬかれることはできないけれど、寿命じゅみょうばし、よわいともな退化たいからす見識けんしきわたしたちに提示ていじしてくれるかもしれない。

「カメの老化ろうか進化しんかについて研究けんきゅうつづければ、ある時点じてんで、カメと人間にんげんとの健康けんこう老化ろうかかんする明確めいかく関連かんれんせいつかるだろう」。そうダシルバはっている。(しょうやく)

(Jack Tamisiea)©2022 The New York Times

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