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安藤優子さんが抱いたモヤモヤ 女性議員なぜ少ない?自民党政策調べ「目からウロコ」:朝日新聞GLOBE+
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安藤あんどう優子ゆうこさんがいたモヤモヤ 女性じょせい議員ぎいんなぜすくない?自民党じみんとう政策せいさく調しらべ「からウロコ」

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安藤優子さん=2023年3月13日、東京都中央区、関根和弘撮影
安藤あんどう優子ゆうこさん=2023ねん3がつ13にち東京とうきょう中央ちゅうおう関根せきね和弘かずひろ撮影さつえい

インタビューにこたえる安藤あんどう優子ゆうこさん

――2019としまで12としかけて大学院だいがくいんかよい、博士はかせごう取得しゅとくされました。

安藤あんどう 「まななおし」っていまひとつのトレンドになっていますけど、わたし場合ばあいは、自分じぶんをもう一度いちど信頼しんらいするための作業さぎょうだったんです。

わたしたちはニュースを取材しゅざいしておつたえするときたりいたりしたことを、ある意味いみ反射はんしゃてき言葉ことばにするんですけど、その言葉ことば自体じたい自信じしんてなくなるときってくるんですね。この仕事しごとをしはじめてしばらくつと、わたし本当ほんとうかってってるんだろうかとか、この物事ものごとをどこまで理解りかいしてるんだろうかとか、自分じぶんのアウトプットする言葉ことばたいしての信頼しんらいかんらいでくるっていうんでしょうか。

キャリアをんで、みなさんから信頼しんらいしていただく存在そんざいになったなとすこしはおもえるようになったときに、自分じぶん言葉ことば信頼しんらいるものなんだろうかという疑問ぎもん日々ひびふくらんできました。それにたいするひとつのこたえが、わたし場合ばあいはもう一度いちどまなぶことだったんです。

もうひとつは、メディアでニュースをやるということは、おおげさないいかたをすると、歴史れきし目撃もくげきしゃになるわけです。わたし場合ばあい本当ほんとうめぐまれていて、から歴史れきし転換てんかんてんになるような出来事できごと現場げんばわせてもらいました。でも、実況じっきょう中継ちゅうけいすることはできても、その事象じしょう前後ぜんごなにがあって、将来しょうらいどうなるかと俯瞰ふかん(ふかん)してとらえる知識ちしき圧倒的あっとうてき不足ふそくしているんじゃないか、そのことが強迫きょうはく観念かんねんのようになっていました。

大学院だいがくいんには普通ふつう試験しけんけて小論文しょうろんぶんいて面接めんせつけてはいりました。時間じかんりないし、現役げんえきときより読解どっかいりょくもすごくちているので、結構けっこうきつかったですね。

安藤優子さん=2023年3月13日、東京都中央区、関根和弘撮影
安藤あんどう優子ゆうこさん=2023ねん3がつ13にち東京とうきょう中央ちゅうおう関根せきね和弘かずひろ撮影さつえい

女性じょせい議員ぎいん登用とうようさまたげているものの正体しょうたい

――大学院だいがくいんでの研究けんきゅう内容ないようについておしえてください。

安藤あんどう 政治せいじにすごく興味きょうみがあったので、修士しゅうし政治せいじおも研究けんきゅうテーマにしましたが、修士しゅうしごうはグローバル社会しゃかいがくです。

このまえ修士しゅうし論文ろんぶんてきたんですよ。小泉こいずみ政権せいけんの「疑似ぎじ大統領だいとうりょうせい」についていていて、「革新かくしんか、逆進ぎゃくしんか」ってすごいタイトルがついていて、おもわずかえしてみたら、自画じが自賛じさんですけど、結構けっこう面白おもしろいんですよ。

それまで歴代れきだい首相しゅしょうがやってきた「とう高官こうかんひく」のちから関係かんけい小泉こいずみさんが逆転ぎゃくてんさせて、官邸かんてい主導しゅどうした。大統領だいとうりょうせいかたちで、擬似ぎじてきにですけれど官邸かんてい権力けんりょく掌握しょうあくするみたいなことをおやりになったので、それについて研究けんきゅうしたんです。

その延長えんちょうに、必然ひつぜんてきに、なぜ日本にっぽん国会こっかい議員ぎいん女性じょせいすくないのかというテーマがてくるわけです。最初さいしょ政治せいじがくのアプローチをって研究けんきゅうしたんですが、そうすると政党せいとうシステムや選挙せんきょ制度せいどなど、どうしても制度せいどろんてきなアプローチになります。それもとても有効ゆうこうですし、あまたの先行せんこう研究けんきゅうがあるんです。

でも、研究けんきゅうすすめていくうちに、どうやらそのアプローチではわたしいだ疑念ぎねん解決かいけつできないとづきました。

じゃあわたしっている、このモヤモヤかんってなになんだろうと。だって、女性じょせい国会こっかい議員ぎいんがなぜすくないのとわれて、もうどれだけちますか? 女性じょせい参政さんせいけん行使こうし70としえて、制度せいどがこれだけ整備せいびされて、なんでこんなひく水準すいじゅんをまだウロウロしてるんだろうって。制度せいど整備せいびされても、システムが公平こうへい公正こうせいになっても、それを運用うんようしたり、活用かつようしたりするがわ意識いしき改革かいかくされないかぎりはえがいたもちだと痛感つうかんしたんです。

そこで、女性じょせいそそがれている日本にっぽんの、ひいては世界せかいってもいいとおもうんですけれど、女性じょせいたいする社会しゃかい目線めせんが、じつ女性じょせい議員ぎいん登用とうようのチャンスを減退げんたいさせる根本こんぽんにあるんじゃないかという「仮定かてい」にたどりきました。

安藤優子さん=2023年3月13日、東京都中央区、関根和弘撮影
安藤あんどう優子ゆうこさん=2023ねん3がつ13にち東京とうきょう中央ちゅうおう関根せきね和弘かずひろ撮影さつえい

それを理論りろんとして構築こうちくするためには社会しゃかいがくのアプローチをりました。意識いしきとか、女性じょせいたいする目線めせんとか、役割やくわり分業ぶんぎょうろんというのは、制度せいどとしていてあるわけじゃないんですよ。言葉ことばにはなっていないけれど、いつのにか慣習かんしゅうされて、このなかひろふかまれている可視かしされない「インフォーマルなルール」なんです。

「ちゃんと子供こどもんでいち人前にんまえ」とか、ね。そういう「べきろん」があまりにも社会しゃかいふかまれて、なおかつそれがたりまえ感覚かんかくとして女性じょせいへの視線しせん規定きていしていること、わたしはこれがひいては女性じょせい国会こっかい議員ぎいんすくないことにつうじるんじゃないかと仮説かせつててアプローチをなおしました。

すごくむずかしかったのは「女性じょせいはこうあるべきだ」と文言もんごんにされていない、つまり可視かしされてないものの証左しょうさることでした。だから、もうなんか必死ひっしというか、脇目わきめらず手当てあてたり次第しだい、いろんな先行せんこう研究けんきゅうんだりしました。

一番いちばんおおきかったのは、自民党じみんとう政治せいじ指向しこうです。自民党じみんとう1970年代ねんだい政党せいとう戦略せんりゃくとして女性じょせいを「家庭かていちょう」と位置いちづけました。女性じょせい家庭かていちょうとして、おっと元気げんき会社かいしゃおくして、子供こどもをすくすくそだて、おじいちゃん、おばあちゃんの介護かいご文句もんくわずにやって、すべ円満えんまん家庭かていりすることによって「家庭かていない安全あんぜん保障ほしょう」が成立せいりつすれば、ひいては福祉ふくし国家こっか予算よさんけずられることになる。つまり、経済けいざい政策せいさくとして女性じょせい利用りようしたわけです。

安藤優子さん=2023年3月13日、東京都中央区、関根和弘撮影
安藤あんどう優子ゆうこさん=2023ねん3がつ13にち東京とうきょう中央ちゅうおう関根せきね和弘かずひろ撮影さつえい

女性じょせいを「」としてみとめない自民党じみんとう政党せいとう戦略せんりゃく

安藤あんどう 当時とうじ歴史れきしてき背景はいけいればとてもよくかるんですが、田中たなか角栄かくえいさんが総理そうり大臣だいじんになるぜんあたりから地方自治体ちほうじちたい革新かくしん知事ちじがどんどんまれました。背景はいけいには、環境かんきょう問題もんだい公害こうがい問題もんだいで、けどんどんだった経済けいざい成長せいちょうおおきなかげはじめたことがありました。ひとしんからだいためられました。自民党じみんとう保守ほしゅてき政策せいさくでやっているんですが、革新かくしん知事ちじまれたことによって、ものすごく危機きき意識いしきったんです。

その危機ききかん背景はいけい総理そうり大臣だいじんになった田中たなか角栄かくえいさんは、「福祉ふくし元年がんねん」をたからかに宣言せんげんするわけです。そこから国民こくみんみな保険ほけんなどがまれるわけですが、宣言せんげんしたとたんにオイルショックがきて、いままで右肩みぎかたがりだった経済けいざいが、だだがっていく膠着こうちゃく状態じょうたい見舞みまわれるわけです。当然とうぜん財政ざいせいわるくなって、ちょうどそこに「日本にっぽんがた福祉ふくし社会しゃかいろん」が台頭たいとうしてきて、経済けいざい政策せいさくとして女性じょせいがちゃんといえりすれば福祉ふくし予算よさんらせると、自民党じみんとう研修けんしゅう叢書そうしょ(そうしょ)にまれました。

安藤優子さん=2023年3月13日、東京都中央区、関根和弘撮影
安藤あんどう優子ゆうこさん=2023ねん3がつ13にち東京とうきょう中央ちゅうおう関根せきね和弘かずひろ撮影さつえい

それをときに、自分じぶんなか氷解ひょうかいするというか、なぞけたがしたんです。そうか、女性じょせいたいする「こうあるべきろん」というのは、突然とつぜんってわいてたねがまかれたんじゃなくて、政党せいとう戦略せんりゃくというのもとに、一定いってい意図いとってさい生産せいさんされてきたんだって。あくまでも経済けいざい政策せいさくとして。

すくなくとも戦後せんごの、あたらしい時代じだいむかえたはずのわたしたちの世代せだいふくめて、「こうあるべきろん」で規定きていされつづけてきたことの根本こんぽんにあったのは政党せいとう戦略せんりゃくだったんだ、という事実じじつづいたときに、いい意味いみでもわる意味いみでもからウロコでしたね。「これ、わたしたちがっておかないとダメなんじゃないか」とおもいました。それが、ほん(「自民党じみんとう女性じょせい認識にんしき」)の前身ぜんしんになる博士はかせ論文ろんぶん趣旨しゅしです。

女性じょせいを「イエ(いえ)」に従属じゅうぞくする構成こうせいいんとしてしかみとめない。そこでしか女性じょせい個人こじん認識にんしきしないとなると、つねに「イエ」が前面ぜんめんるわけです。それをわたしは「イエ中心ちゅうしん主義しゅぎ」と定義ていぎしたんですが、そうすると、政治せいじをやってみようというこころざし女性じょせいがいても、「イエ」の名前なまえ家名かめいがない。それから自分じぶん親族しんぞく政治せいじがいない、環境かんきょうてき世襲せしゅう立場たちばにない。もっとえば、直系ちょっけい世襲せしゅうまれていないとか、「イエ」を背負せおっていない普通ふつう女性じょせいは「看板かんばん知名度ちめいど)」もない、なおかつ「カバン(資金しきんりょく)」がないとすると、もう候補者こうほしゃになりようがない。

そこで「イエ」を背負せおっている候補者こうほしゃ限定げんていてきあつめてくれば、おのずとパイはひろがらないですよね。だから候補者こうほしゃ限定げんていする根本こんぽんにあるのが「イエ中心ちゅうしん主義しゅぎ」という政治せいじ指向しこうであり、女性じょせいを「」としてみとめない価値かちかんです。わたし女性じょせい国会こっかい議員ぎいんえないひとつの理由りゆうはそこにあるとおもいます。

無作為むさくい作為さくい」で連綿れんめんがれてきた女性じょせい認識にんしき

安藤あんどう よく「これは自民党じみんとう批判ひはんですか」とわれるんですけど、わたし全然ぜんぜんそんなつもりはなくて、むしろ、わたしたちにそそがれている視線しせん正体しょうたいあばきたかったんです。正体しょうたいあばくにあたって、これって成長せいちょう戦略せんりゃくだったねということに一番いちばんづいてほしいのは自民党じみんとうなんですよ。だから自民党じみんとう批判ひはんでもなんでもなくて、みんながづこうよ、と。「そんなに自民党じみんとうかしこくないよ」と反論はんろんされたことがあるんですけど、だったらそれは「無作為むさくい作為さくい」なんですよ。

そういう女性じょせい認識にんしきつねにバトンのように手渡てわたしてきた歴代れきだい政権せいけんというのは、ある意味いみ無作為むさくい作為さくい」だったとおもうんですよ。それを見直みなおすことはなかった。でもいま、ちょうどそういう機運きうんになっていて、もうずいぶん年月としつきってますけども、夫婦ふうふ別姓べっせい法案ほうあんもそうだし、これ以上いじょう長引ながびかせないで、ひとつの方向ほうこうせいをきちんとしていくべきときじゃないですか。それをってほしいというのがわたしほんめたねがいですし、わたし研究けんきゅう最大さいだいのテーマでもあります。

安藤優子さん=2023年3月13日、東京都中央区、関根和弘撮影
安藤あんどう優子ゆうこさん=2023ねん3がつ13にち東京とうきょう中央ちゅうおう関根せきね和弘かずひろ撮影さつえい

――自民党じみんとう議員ぎいん世代せだい交代こうたいしたり、留学りゅうがくして最新さいしんのジェンダーの知見ちけんにつけたりしているひともいるなかで、なぜ意識いしき改革かいかくされずにきたのでしょうか。

安藤あんどう たぶん、経済けいざい政策せいさく一番いちばん重要じゅうようされてきて、経済けいざい政策せいさく女性じょせい政策せいさくとを混同こんどうしてきたからなんだとおもうんです。だから女性じょせい政策せいさくわれるものに「女性じょせいかがや社会しゃかい」ってスローガンがいてありますけど、あれは99パーセント経済けいざい政策せいさくですよね。保育ほいくしょ整備せいびも、それがわるいってっているんじゃないですが、経済けいざい政策せいさく視点してんから女性じょせい労働ろうどう市場いちばもどすための政策せいさくじゃないですか。「労働ろうどう補助ほじょ政策せいさく」というか。「女性じょせいかがや社会しゃかい」を正確せいかくうと、「女性じょせい普通ふつうはたらける社会しゃかい」ということですね。

でも、それは女性じょせいとして人権じんけん尊重そんちょうするジェンダーの政策せいさくではないんですよ。それを「女性じょせいかがや社会しゃかい」っていう、なんだかもんわりしたスローガンで一緒いっしょくたにまとめてしまったから、女性じょせいのために「やってるかん」がちゃっている。だから本当ほんとうのところの尊重そんちょういてきぼりになってることにたいして、本当ほんとうに「無作為むさくい作為さくい」なんですよ。

でもそのかげで、夫婦ふうふ別姓べっせいはなし個人こじん人権じんけん問題もんだいですよね。人権じんけん問題もんだいとしてとらえていないことが根本こんぽんてき問題もんだいだとおもいます。経済けいざい政策せいさく女性じょせい人権じんけん問題もんだい混同こんどうしてきたから、「女性じょせいのためになにかやってる」みたいなところで「やってるかん」をしてきちゃったとわたし理解りかいをしています。

安藤優子さん=2023年3月13日、東京都中央区、関根和弘撮影
安藤あんどう優子ゆうこさん=2023ねん3がつ13にち東京とうきょう中央ちゅうおう関根せきね和弘かずひろ撮影さつえい

森元もりもと首相しゅしょうの「わきまえ発言はつげん」にわらった女性じょせいたちの気持きもちがかる

――女性じょせいたちも、それをれてきた部分ぶぶんがあったのでしょうか。

安藤あんどう わたしは、女性じょせいたちがれてきたんじゃないとおもいます。たたかってきたんだけど、そのたたかえかた一見いっけん、ことなかれ主義しゅぎのようにえてきたのかもしれません。男性だんせいたちがつくった暗黙あんもくの、インフォーマルなルールが大手おおてって闊歩かっぽ(かっぽ)しているわけだから、ルールにそぐわない発言はつげんをしたり、ちょっとややこしいことになったりすると「だからおんな面倒めんどうくさいんだ」とわれたりしました。いまほど簡単かんたんこえげられる時代じだいでもなかったとおもいます。

もり喜朗よしろうさんが、日本にっぽんオリンピック委員いいんかい(JOC)の臨時りんじ評議ひょうぎいんかい「わきまえ発言はつげん」をしたときに、そこに女性じょせい参加さんかしゃたちはわらってませましたが、わたし、その気持きもちはかるんですよ。

余計よけいややこしいことになることがえているから、そのをやりごすことも知恵ちえ、というのはわたし自身じしんはたらいてきた過程かていですごくいたんですね。あるしゅ諦観ていかん(ていかん)というか、しんなかではすごくつらかったりくやしかったりするけれど、やりごすことによって結果けっかしちゃえばいいでしょと、自分じぶんたちを納得なっとくさせてきたんです。

ロールモデルなく、男性だんせいに「同化どうか」したキャスター時代じだい

テレビキャスター時代の安藤優子さん=1995年10月31日、東京都新宿区河田町のフジテレビ本社ビル(当時)、朝日新聞社
テレビキャスター時代じだい安藤あんどう優子ゆうこさん=1995ねん10がつ31にち東京とうきょう新宿しんじゅく河田こうだまちのフジテレビ本社ほんしゃビル(当時とうじ)、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

――キャリアのめんでは、安藤あんどうさんは政界せいかいおなじくらい女性じょせいすくない報道ほうどう世界せかいあゆんできたられました。

安藤あんどう 最初さいしょ報道ほうどう世界せかいはいったときに、ロールモデルがいないわけです。ベテランの女性じょせいアナウンサーがいらっしゃっても、天気てんき予報よほうだったり、どものニュースだったり、やわらかいニュース、いわゆる「やわらネタ」を役割やくわりをもらっていて、わたし自身じしん最初さいしょ報道ほうどうはいったとき男性だんせいのメインの司会しかいしゃよこにいるアシスタントだったわけです。

業界ぎょうかいが、というよりも社会しゃかい全体ぜんたいが、女性じょせいたいする役割やくわり従属じゅうぞくてきなものをもとめていた時代じだいなので、そこから男性だんせい一緒いっしょ取材しゅざいをしたりすると、ハレーションのたねは、そこここにらばっていました。服装ふくそうひとつにしても「そんなチャラチャラした格好かっこう取材しゅざいるな」とかね。わたしとしては、ロールモデルがないんでよくからないわけですよ。

「ボーイズクラブ」ってうとちょっとかっこよすぎるので、あえて「オールドボーイズクラブ」といますが、だんだんそのルールがかってくるじゃないですか。そうすると、ハレーションをこさないために、自分じぶん同化どうかさせていくんですよ。自分じぶん自身じしんいやおもいをしないようにとか、おじさんたちにしかられないようにとか、とにかく一緒いっしょ仲間なかまれてもらいたいから同化どうかしてみせるわけです。必要ひつよう以上いじょうおんなっぽくふるまったりしないし、それまでけていた指輪ゆびわやイヤリングといった装飾そうしょくひん一切いっさいなくしたりもしました。

安藤優子さん=1988年、朝日新聞社
安藤あんどう優子ゆうこさん=1988ねん朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

ですから、1987としからフジテレビで逸見いつみ政孝まさたかさんと最初さいしょに「スーパータイム」というニュース番組ばんぐみをやったときに「逸見いつみアナウンサーと安藤あんどうさんはまったくフィフティー・フィフティーなので、きなようにやってください」とわれておどろきました。

最初さいしょ原稿げんこうに、括弧かっこきで「一言ひとこと」といてあって、「一言ひとことってなにですか?」っていたら「一言ひとこときなようにしゃべって」とわれて本当ほんとうにびっくりして、カルチャーショックでした。自分じぶんのキャリアのかたのフェーズがわる瞬間しゅんかんだったとおもいます。自分じぶん言葉ことばはなしてもいいんだ、という、わたしなかではちょっと人権じんけん回復かいふくしたみたいな(笑)。

だって、ぜいたくなはなしですが海外かいがい取材しゅざいをさせていただいていたし、それなりの現場げんばまかせてもらったんですけれど、スタッフからは、親愛しんあいじょうだとおもいますが「優子ゆうこちゃん」ってばれていたんです。最初さいしょ取材しゅざいったのが大学生だいがくせいだったこともありますが、「優子ゆうこちゃん」ってばれているかぎりはダメなんだろうなと、よくからない閉塞へいそくかんみたいなものをかんじましたね。だから1まいちがとびらひらいて「安藤あんどうさん」というフェーズにはいったとおもいます。

「ガラスの天井てんじょう」は男性だんせい一緒いっしょやぶるもの

――1987ねんというと男女だんじょ雇用こよう機会きかい均等きんとうほう施行しこう翌年よくねんですね。

安藤あんどう はい。「スーパータイム」では、本当ほんとう勝手かってに、年間ねんかん170にち以上いじょう海外かいがい取材しゅざいったりしましたし、相当そうとうハードな仕事しごとをさせていただきました。その「ニュースJAPAN」というよるのニュース番組ばんぐみくんですが、そのときは、両隣りょうどなり木村きむら太郎たろうさんと、おなじくNHK出身しゅっしん宮川みやがわ俊二しゅんじさんというだいベテランのアナウンサーがすわり、なか年齢ねんれい一番いちばんわかわたしがメインキャスターとしてすわったわけです。

そうやってかんがえると、男性だんせいのメインの司会しかいしゃよこものとして従属じゅうぞくしていた時代じだいと、「ニュースJAPAN」でなかすわってメインキャスターをやった時代じだいは、ものすごく隔世かくせいかんがありました。そのくらい時代じだいわったし、女性じょせいのキャスターにたいする見方みかたわりました。ふたをけて視聴しちょうしゃ反応はんのうたら、まった違和感いわかんなくれてくださっていた。たぶん木村きむら太郎たろうさんも宮川みやがわ俊二しゅんじさんも男性だんせいとして成熟せいじゅくされてるんですね。つまり、自分じぶんより年下としした女性じょせいがメインキャスターとしてすわったことにたいして、ものすごく気持きもく「みこし」をかついでくださる度量どりょうがおありになったんです。

メディア規制法案に反対を訴える民放各社のニュースキャスターたち(真山勇一 筑紫哲也 安藤優子 鳥越俊太郎 田原総一朗 蟹瀬誠一 斉藤一也)=2002年4月18日、東京・参院議員会館で、朝日新聞社
メディア規制きせい法案ほうあん反対はんたいうったえる民放みんぽう各社かくしゃのニュースキャスターたち(ひだりから真山まやま勇一ゆういち筑紫哲也ちくしてつや安藤あんどう優子ゆうこ鳥越とりこし俊太郎しゅんたろう田原たはら総一朗そういちろうかにせら誠一せいいち斉藤さいとう一也かずや各氏かくし)=2002ねん4がつ18にち東京とうきょう参院さんいん議員ぎいん会館かいかんで、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

わたし男女だんじょ共同きょうどう参画さんかくはなしをするときに、いつもそのことをおもすんですね。女性じょせいだけが「ガラスの天井てんじょう」をやぶろうとしても、そのうえすわっている男性だんせいがいたら無理むりなんですよ。だから、それを一緒いっしょにぶちやぶろうと協力きょうりょくしてくれる成熟せいじゅくした男性だんせいたちがいてこそ、風通かぜとおしのい、文字もじどおり「男女だんじょ共同きょうどう参画さんかく」ができるとおもっているので、共同きょうどう参画さんかく女性じょせい解決かいけつすべき問題もんだいみたいにわれるのは、とても不本意ふほんいなんですね。

男性だんせい意識いしきえてもらわないとこまるところもおおいですし、とも解決かいけつしようとしなければ、解決かいけつできないじゃないですか。だからわたし女性じょせい問題もんだいにすりえているような、にせ男女だんじょ共同きょうどう参画さんかくいやなんです。それよりも本来ほんらい男性だんせいがたくさん参画さんかくしての男女だんじょ共同きょうどう参画さんかくのはずなんですよね。

男女だんじょ共同きょうどう参画さんかくって、ともすると女性じょせい問題もんだい解決かいけつさくみたいにわれてませんか?それ、ちがいますよね。そうじゃない。男性だんせいがともに、この社会しゃかい一緒いっしょ気持きもちよくきていくための知恵ちえしぼりましょうよ、というはずなのに、なぜ女性じょせい女性じょせい問題もんだいとして解決かいけつ目指めざさなくちゃいけないのかというてんは、わたしはすごく不本意ふほんい部分ぶぶんです。

――報道ほうどうたずさわる女性じょせい立場たちばという観点かんてんでは、どうわったでしょうか。安藤あんどうさんがご自身じしんなにえたとおもうものはありますか。

安藤あんどう もうすごいですよ。やっぱりガッツがありますよね。わたし報道ほうどう世界せかいはいったときは、コピーをったりおちゃをくんだりするのが女性じょせい役割やくわり定番ていばんでしたが、いまはプロデューサーもいれば、ディレクターもいますし、本当ほんとう優秀ゆうしゅう記者きしゃがたくさんいます。そうやってかんがえると女性じょせい能力のうりょく遺憾いかんなく発揮はっきできるにはなっているとおもうんですよ。

ただ、女性じょせい記者きしゃだということで、いろんな弊害へいがいもあるわけじゃないですか。「夜討よう朝駆あさがけ」にっていやおもいするとか、取材しゅざいさき個人こじんてきされていやおもいをするとか、そういうことはまだまだ解決かいけつしなくちゃいけない問題もんだいだとおもうんですけれども、すくなくとも40としまえとはえる風景ふうけい一変いっぺんしていて、それはメディアにはいってくる女性じょせいたちの頑張がんばりもあるし、そこをがためた先人せんじんたちのおもいもあるとおもいます。これをさらに、普通ふつう風景ふうけいとしてつづけていけたら本当ほんとうにいいなとおもいますよね。

わたしがもしえたことがあるならば、女性じょせいはそんなきらびやかな格好かっこうをしなくたっていいんじゃない?というげかけはしてきたつもりなんですね。いいんですよ、きらびやかな格好かっこうしても。「女性じょせいキャスター」とわれたとき自分じぶんのファッションをげられるのは、視聴しちょうしゃにとってたのしみでもあるし、そのことはありがたいとおもうんですが、視聴しちょうしゃ意識いしきするあまりに、女性じょせいキャスターならではの華美かび服装ふくそうみたいなものって、かつてあったんですよ。原色げんしょくのスーツとかいっぱいかたパッドがはいってるとか。

ニュースキャスター時代の安藤優子さん=1994年6月1日、東京都新宿区河田町のフジテレビ本社(当時)、朝日新聞社
ニュースキャスター時代じだい安藤あんどう優子ゆうこさん=1994ねん6がつ1にち東京とうきょう新宿しんじゅく河田こうだまちのフジテレビ本社ほんしゃ当時とうじ)、朝日新聞社あさひしんぶんしゃ

でもわたしはそれをたぶんもっともはやくやめたとおもうんですね。その理由りゆうは、自分じぶんがおつたえしたいことよりもさきんでくるものが自分じぶんている衣装いしょうだということは、なんだかとても残念ざんねんがしたんですね。

だから今日きょうわたしなにてるかじゃなくて、今日きょうなにわたしがおつたえしたかを、ぜひ記憶きおくのこしていただきたいとおもったので、僭越せんえつ(せんえつ)だったんですが、わたしはネイビーとくろしろとベージュしかない。テーラードスーツしかない。しかもパンツスーツとめて、それ以外いがいませんでした。ダークスーツを仕事しごとするっていうことも、たぶん画面がめんじょう最初さいしょわたしだったとおもいます。それまではみなさん、本当ほんとう可愛かわいらしい格好かっこうしていて。でもわたし、そういうの似合にあわないんですよ。だから、もうひらなおったというか。

でもそれって女性じょせいはたらかた関係かんけいしてきますよね。「おんならない」とうと、「可愛かわいげがない」と同義語どうぎごになるじゃないですか。でも、どこかで必要ひつよう以上いじょうにヒラヒラしたものとかを拒絶きょぜつしていた時代じだいはあったかもしれないですね。いま全然ぜんぜんちがいますけどね。べつなにてもいいじゃないとおもっていますけど。だからきっとわたし、あのときはあのときなりに、かたちからはいったんですよ。てくれで判断はんだんしないでよ、と。時代じだいもあったのかもしれません。

政党せいとう有権者ゆうけんしゃりょうサイドから意識いしき改革かいかく

――今年ことし統一とういつ地方ちほうせんがあります。女性じょせい議員ぎいんがなかなかえない現状げんじょうで、どうすれば意識いしきえられるのか。わたしたちにできることはなにでしょうか。

安藤あんどう すごく壮大そうだいいですが、まず身近みぢかはなしでは、候補者こうほしゃ公募こうぼ女性じょせい登用とうようする、と自民党じみんとうっているので、本当ほんとう平場ひらばから候補者こうほしゃ門戸もんこひらきますよということで、わたし期待きたいをしているところです。

これまでの公募こうぼ制度せいどは、あえてうとばかりで、どこか(団体だんたい)の推薦すいせんだったり、財界ざいかい重鎮じゅうちん推薦すいせんだったり、縁故えんこほうすくなからずいたわけですよね。そうすると、公募こうぼ制度せいど透明とうめいせい担保たんぽされてなかったわけで、まず公募こうぼというなら、絶対ぜったいてき透明とうめいせいわたし確保かくほしてほしいとおもいます。

統一とういつ地方ちほう選挙せんきょは、平場ひらばの、こころざし一本いっぽん政治せいじ世界せかい参画さんかくしたいひとたちをあますところなくひろげるひとつのふだになるとおもいます。それから、そうした選挙せんきょ資金しきんもない、知名度ちめいどもない、縁故えんこ関係かんけいもない、なにもないけどこころざしはあって地方ちほう議会ぎかい参画さんかくしたいというひとたちをれる、政党せいとうによるアシストが必要ひつようだとおもいます。

ひるがえって、有権者ゆうけんしゃがわ意識いしき改革かいかく必要ひつようです。地方ちほう議員ぎいんもとめられるものは、自治体じちたいおおきさによってもわってきますが、だいたいが地域ちいきとのきわめて密接みっせつかかわりだったりするんですね。でも、それぞれがいち生活せいかつしゃとしてらしがあって、もしかしたら子育こそだてや介護かいごがあり、普通ふつう家庭かてい生活せいかつがあるひとたちが「24時間じかん政治せいじにコミットできますか?」とったら、それはありえないわけです。だから有権者ゆうけんしゃがわ政治せいじもとめるものの意識いしきすこしずつ変化へんかさせていかなきゃいけないとおもうんですね。

とく密接みっせつかかわりのある地方ちほう議員ぎいん場合ばあいは、あっちの会合かいごうたのに、こっちの会合かいごうてくれなかったというのが致命ちめいてきしゅうひょうになってしまったりするんですね。むずかしいところですが、会合かいごうかおすのと政策せいさく認知にんちしてもらうことは、本来ほんらいべつであるべきなんですけど、かおって名前なまえって握手あくしゅをすること、イコールひょうになっている。「あなた議員ぎいんになったらなにをやりたいの」ってくぐらいの、有権者ゆうけんしゃがわ意識いしきえることが必要ひつようです。

今回こんかい統一とういつ地方ちほうせんはまだまだ端緒たんしょだとおもうんですよ。だから、政党せいとう有権者ゆうけんしゃりょうサイドからの意識いしき改革かいかくですよね。統一とういつ地方ちほうって改革かいかくの、あるしゅきっかけになるはずなんですけどね。

――女性じょせい議員ぎいんやすために、「クオータせい」も支持しじしていますね。

安藤あんどう いちかい、やってみようよ、とおもうんです。わたしは、女性じょせいへの)議席ぎせきすうてではなくて、候補者こうほしゃすうてを支持しじしているんですが、議席ぎせきすうてなんて程遠ほどとお世界せかいじゃないですか。だからいちかい時限じげん立法りっぽうでもいいからやってみて、どういうことになるのかてみようよ、というのがわたし提案ていあんです。そこから知見ちけんって絶対ぜったいあるはずなんですよ。そこから逆進ぎゃくしんするかもしれないし、微々びびたるものかもしれないけど前進ぜんしんする可能かのうせいもあるので、わたし候補者こうほしゃ制度せいど一度いちどやる価値かちがあるとおもっています。