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インドの家事労働者を救え トイレ使えず、賃金未払い…女性労組の挑戦:朝日新聞GLOBE+
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インドの家事かじ労働ろうどうしゃすくえ トイレ使つかえず、賃金ちんぎん未払みはらい…女性じょせい労組ろうそ挑戦ちょうせん

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ニューデリーであった全国労組の集会に参加したSEWA(自営する女性たちの協会)のメンバーら
ニューデリーであった全国ぜんこく労組ろうそ集会しゅうかい参加さんかしたSEWA(自営じえいする女性じょせいたちの協会きょうかい)のメンバーら=2023ねん11月26にち小暮こぐれ哲夫てつお撮影さつえい

新興しんこう経済けいざい大国たいこくとして存在そんざいかんたかめるインドでは、労働ろうどうしゃ大半たいはん組織そしきぞくさずにはたらいています。そして、待遇たいぐうめん底辺ていへんにいるのが、個人こじん家庭かていはたら家事かじ労働ろうどうしゃ女性じょせいたち。女性じょせいたちをささえる労働ろうどう組合くみあいうごきが近年きんねん活発かっぱつになっています。個人こじん家庭かていというじられた空間くうかんはたらき、「姿すがたえない労働ろうどうしゃ」とわれる彼女かのじょたちにちからあたえています。

昨年さくねん11がつ下旬げじゅん、ニューデリー北部ほくぶくるまさんりんタクシーが騒々そうぞうしくとおりのまえで、人々ひとびとはたかかげてあつまっていた。全国ぜんこく組織そしき労組ろうそ10団体だんたい企画きかくしたデモだ。

労組ろうそ代表だいひょうたちが次々つぎつぎとスピーチにち、賃金ちんぎんアップなど待遇たいぐう改善かいぜん政府せいふうったえていく。演説えんぜつ呼応こおうしてこえげる人々ひとびとなかに、民族みんぞく衣装いしょうのサリーを女性じょせいたちの姿すがたがあった。

約束やくそくどおりに賃金ちんぎんはらって」組合くみあい雇用こようぬし交渉こうしょう

わたしたちはひとつだ」とこぶしげる女性じょせいたちは、SEWA(自営じえい女性じょせいたちの協会きょうかい)のメンバー。「家事かじ労働ろうどうしゃ最低さいてい賃金ちんぎん保障ほしょうを」などとかれたプラカードをかかげている。

1972ねん設立せつりつのSEWAは、家事かじ労働ろうどうしゃのほか、行商ぎょうしょう建設けんせつなど組織そしき現場げんばはたら女性じょせいたちをささえる。各地かくちにある家事かじ労働ろうどうしゃ支援しえんする労組ろうそで、唯一ゆいいつ全国ぜんこく組織そしきだ。

3日間にちかんつづいたデモの参加さんかしゃ一人ひとりが、ニューデリー東部とうぶ家事かじ労働ろうどうしゃとしてはたらくプラティマ・ダスさん(31)。「SEWAはわたし人生じんせいを、そして、おおくの家事かじ労働ろうどうしゃたちの人生じんせいえてくれました」

SEWA(自営する女性たちの協会)デリー支部の組合員で家事労働者のプラティマ・ダスさん。「SEWAが私の人生を変えてくれた」とピースサインを見せた
SEWA(自営じえいする女性じょせいたちの協会きょうかい)デリー支部しぶ組合くみあいいん家事かじ労働ろうどうしゃのプラティマ・ダスさん。「SEWAがわたし人生じんせいえてくれた」とピースサインをせた=2023ねん11月28にち、ニューデリー東部とうぶ小暮こぐれ哲夫てつお撮影さつえい

ダスさんは6さいのとき、インド東部とうぶからはは一緒いっしょはたらこうさがしてニューデリーにた。それ以来いらい家事かじ労働ろうどうしゃとしてはたらいている。学校がっこうったことはない。

つとさき家庭かていでは、ひどいあつかいをけてきた。約束やくそくどおりに賃金ちんぎんはらってくれないことはしょっちゅう。指摘してきすれば、「それならはたらかなくていい」とわれた。

いえのトイレも使つかわせてもらえず、「そとさがせ」とめいじられた。インドじん休憩きゅうけい時間じかんにつきもののおちゃを、雇用こようぬし家族かぞくおな食器しょっきむこともゆるされない。

ずっと、それをれてきたが、8ねんまえ、SEWAに勧誘かんゆうされ、認識にんしきわった。賃金ちんぎん不満ふまんうったえると、SEWAは雇用こようぬし交渉こうしょうもしてくれたのだ。

SEWAのメンバーらによると、ダスさんのような家事かじ労働ろうどうしゃだれかを特定とくていするのが、労組ろうそ活動かつどう第一歩だいいっぽだ。

スラムなどをまわってひとづてにさがす。あさはやくバスにるのは彼女かのじょたちがおおいから、おなじバスにっていになる。こんなふうに地道じみちさがてると、問題もんだいをききだす。

ダスさんの経験けいけんは、おおくの女性じょせいたちに共通きょうつうする。

まったやすみがいちにちもないのはたりまえやすみたいときはそのつど、雇用こようぬしたのまないといけないが、そのぶん給料きゅうりょうからかれる。雇用こようぬし不機嫌ふきげんあついおちゃびせられる、いえものがなくなるとぬすんだうたがいをかけられる……。こんなれい枚挙まいきょにいとまがない。

性的せいてき虐待ぎゃくたいもたくさんあるとみられるが、女性じょせいたちがはなしたがらないので、実態じったいはわからないという。

とくにひどいケースは、SEWAのメンバーがが個別こべつ雇用こようぬしはなしをする。わない場合ばあい、15~20にん集団しゅうだんいえみ、雇用こようぬしおうじるまでかえ交渉こうしょうする。

打ち合わせをするSEWA(自営する女性たちの協会)デリー支部のメンバーたち
わせをするSEWA(自営じえいする女性じょせいたちの協会きょうかい)デリー支部しぶのメンバーたち=2023ねん11月28にち、ニューデリー東部とうぶ小暮こぐれ哲夫てつお撮影さつえい

女性じょせいたちを組織そしきすることが大切たいせつ個人こじんこえちいさくても、団結だんけつしてこえげれば、おおきなちからになる」。家事かじ労働ろうどうしゃ2まんにんささえるSEWAデリー支部しぶ幹部かんぶ、スマン・バルマさん(53)ははなす。

ダスさんは2ねんまえあたらしい職場しょくば家庭かていで、つきに4にちやすみをもらえるようになった。はじめてのことだった。

月給げっきゅう以前いぜんよりおおい1まん1000ルピー(やく1まん9000えん)で毎年まいとし、500ルピー賃上ちんあげする約束やくそくだ。ニューデリーの熟練じゅくれん労働ろうどうしゃ最低さいてい賃金ちんぎんより6000ルピーすくないが、みずか交渉こうしょうした結果けっかだ。

「SEWAで権利けんりというものをまなんだからできた。これからもおさな息子むすこ教育きょういくのために頑張がんばる」。そうって、ピースサインをせた。

家事かじ労働ろうどうしゃすうせんまんにん? 口約束くちやくそくふせぐ「ジョブカード」

インドの労働ろうどうしゃの9わり組織そしきぞくさず、建設けんせつ農業のうぎょう漁業ぎょぎょう行商ぎょうしょうなどの現場げんばはたらひとたちがめる。なかでも、家事かじ労働ろうどうしゃもっと待遇たいぐうわる職種しょくしゅのひとつ。そもそも法的ほうてき労働ろうどうしゃとしてみとめられていない。

国際こくさい労働ろうどう機関きかん(ILO)によると、インドの女性じょせい家事かじ労働ろうどうしゃすう公式こうしき統計とうけいじょうは300まんにんだが、実際じっさいにはすうせんまんにんいるとみられる。むかしから彼女かのじょたちをやとってきた上流じょうりゅう階級かいきゅうだけでなく、最近さいきん中流ちゅうりゅう家庭かていやといはじめた。経済けいざい成長せいちょう格差かくさひろげるなか、まずしい女性じょせいたちのかぎられた選択肢せんたくしのひとつが家事かじ労働ろうどうだ。彼女かのじょたちはカーストがひく場合ばあいおおい。

彼女かのじょたちをまも法律ほうりつはなく、わりにすべてのルールをめるのは雇用こようぬし。そんな環境かんきょう彼女かのじょたちは日々ひび屈辱くつじょくてきあつかいをけている」

デリー国立こくりつ法科ほうかだい労働ろうどうほう研究けんきゅう擁護ようごセンターちょうのソフィー・K・ジョセフじゅん教授きょうじゅ(41)は指摘してきする。

デリー国立法科大労働法研究擁護センター長のソフィー・K・ジョセフ准教授
デリー国立こくりつ法科ほうかだい労働ろうどうほう研究けんきゅう擁護ようごセンターちょうのソフィー・K・ジョセフじゅん教授きょうじゅ=2023ねん11月24にち、ニューデリー、小暮こぐれ哲夫てつお撮影さつえい

ジョセフさんによると、おおきな課題かだい契約けいやく口約束くちやくそくであることだ。支払しはらいは、雇用こようぬしのさじ加減かげん次第しだいはたらいたぶん給料きゅうりょうはらわない、といったケースはこんな環境かんきょうまれる。

SEWAの南部なんぶケララしゅう支部しぶでは、この問題もんだいへの独自どくじ対策たいさくつづけている。

「これはわたしのジョブカードです」。アンビカ・デビスさん(57)が、州都しゅうとトリバンドラムにある事務所じむしょで、ピンク色ぴんくいろちいさなかみせた。雇用こようぬし毎日まいにち、デビスさんの出退勤しゅつたいきん時間じかん記入きにゅうして署名しょめいする。

わたしはたらいた証拠しょうこになるので、給料きゅうりょう支払しはらいで問題もんだいになったことはありません。雇用こようぬしわたしがSEWAの組合くみあいいんっている。SEWAが安全あんぜん環境かんきょう確保かくほしてくれている」

SEWA(自営する女性たちの協会)ケララ支部で出退勤時間を記録する「ジョブカード」とSEWA発行のIDカードを示すアンビカ・デビスさん
SEWA(自営じえいする女性じょせいたちの協会きょうかい)ケララ支部しぶ出退勤しゅつたいきん時間じかん記録きろくする「ジョブカード」とSEWA発行はっこうのIDカードをしめすアンビカ・デビスさん=2023ねん11月30にち、インド南部なんぶトリバンドラム、小暮こぐれ哲夫てつお撮影さつえい

ジョブカードを使つかえるのは、支部しぶ家事かじ労働ろうどうしゃ2まんにんの4ぶんの1をめる、SEWAによる10日間にちかん研修けんしゅうけた女性じょせいたち。研修けんしゅうでは労働ろうどうしゃ権利けんりまなび、清掃せいそう料理りょうりなどの家事かじのスキルを洗練せんれんさせるほか、高齢こうれいしゃ産後さんご女性じょせいどものケアといった内容ないようもある。

彼女かのじょたちに、自分じぶんは『お手伝てつだい』ではなく、労働ろうどうしゃだという自覚じかくあたえる」。SEWAケララ支部しぶ書記しょきで、SEWAの全国ぜんこく組織そしきのソニア・ジョージふく会長かいちょう(49)はう。

支部しぶでは、ジョブカードを組合くみあいいん給料きゅうりょう雇用こようぬしがSEWAの銀行ぎんこう口座こうざ方式ほうしき導入どうにゅう。そこから毎日まいにち、5ルピーずつのがくいてべつ口座こうざにプールし、病気びょうきなどで組合くみあいいんきゅう出費しゅっぴ必要ひつようなときに使つかえるようにしている。

インドでは、家事かじ労働ろうどうしゃ権利けんりをうたうILOの国際こくさい条約じょうやくが2011ねん採択さいたくされて以降いこう、SEWA以外いがい労組ろうそみもさかんになっている。

SEWA(自営する女性たちの協会)ケララ支部のソニア・ジョージ書記らメンバーたち
SEWA(自営じえいする女性じょせいたちの協会きょうかい)ケララ支部しぶのソニア・ジョージ書記しょきみぎから4にん)らメンバーたち=2023ねん11月30にち、インド南部なんぶトリバンドラム、小暮こぐれ哲夫てつお撮影さつえい

近年きんねん課題かだいは、個別こべつ支援しえんくわえて、家事かじ労働ろうどうしゃ法的ほうてきみとめるくに仕組しくみづくりだ。労組ろうそ同士どうし連携れんけいし、最低さいてい賃金ちんぎん医療いりょう保険ほけんなどのほう制度せいど家事かじ労働ろうどうしゃにも整備せいびするよう政府せいふもとつづけている。