総そう選挙せんきょで経費けいひの支払しはらい偽装ぎそうも　自民党じみんとう関係かんけい者しゃが明あかす「裏金うらがね」の実態じったいと繰くり返かえされる不正ふせい

自民党じみんとう派閥はばつの政治せいじ資金しきんパーティーの裏金うらがね事件じけんを機きに政治せいじ資金しきんの新あらたな規制きせい強化きょうかが検討けんとうされている。だが、私わたしが約やく30年ねん取材しゅざいしてきた「政治せいじとカネ」をめぐる様々さまざまな疑惑ぎわくや事件じけんのたびに繰くり返かえされた法ほう改正かいせいでは、選挙せんきょなどに多額たがくの資金しきんを要ようする政治せいじ家か、資金しきん提供ていきょうで関係かんけいを深ふかめたい企業きぎょうの双方そうほうが「抜ぬけ道みち」を見みつけてきた構図こうずは変かわらなかった。不正ふせいが後こうを絶たたない非課税ひかぜいの聖域せいいき「政治せいじ資金しきん」。長年ながねんの闇やみを払拭ふっしょくすることはできるのだろうか。

「選挙せんきょはカネがかかることを実感じっかんした」。2012年ねんに自民党じみんとうが大勝たいしょうし、政権せいけんに返かえり咲ざいた総そう選挙せんきょ。この時とき、関東かんとう地方ちほうのある選挙せんきょ区くで出馬しゅつばし、初はつ当選とうせんした自民党じみんとう新人しんじん候補こうほの選挙せんきょを取とり仕切しきった当時とうじの事務じむ局長きょくちょう（80）はこう振ふり返かえった。

候補こうほの自己じこ資金しきんがほぼない状態じょうたいだったため、事務じむ局長きょくちょうは候補こうほの親族しんぞくに3000万まん円えんを用意よういしてもらった。多色たしょく刷ずりのパンフレットなどは計けい3万まん部ぶ用意よういし、1000万まん円えん近ちかくかかった。選挙せんきょ区内くないの拠点きょてんに家賃やちんが月つき60万まん円えんの事務所じむしょを借かり、数カ所すうかしょの連絡れんらく所しょも借かりた。

秘書ひしょ4人にんに加くわえ、ピークでアルバイト35人にんと、人件じんけん費ひだけで約やく1600万まん円えんに上のぼった。中古ちゅうこ車しゃリース代だい、電話でんわ設置せっち代だい、弁当べんとう代だい、捨すて看板かんばんの設置せっち・撤去てっきょ代だい……様々さまざまな経費けいひが百ひゃく万まん円えん単位たんいでかかる。資金繰しきんぐりに困こまった事務じむ局長きょくちょうは党とう本部ほんぶ幹部かんぶに800万まん円えん出だしてもらった。

公職こうしょく選挙せんきょ法ほうが定さだめる法定ほうてい選挙せんきょ運動うんどう費用ひようの上限じょうげん額がくはこの選挙せんきょ区くで約やく2400万まん円えん。だが、事務じむ局長きょくちょうは「選挙せんきょ期間きかん中ちゅうだけで三さん千せん数すう百ひゃく万まん円えんになった」と明あかす。上限じょうげん額がくとの差額さがくは公選法こうせんほう違反いはんになるため、期間きかん中ちゅうの印刷物いんさつぶつ約やく1000万まん円えん分ぶんの発注はっちゅう、支払しはらいを1カ月かげつ前まえだったように偽装ぎそうし、選挙せんきょ運動うんどう費用ひよう収支しゅうし報告ほうこく書しょに記載きさいしなかった。

事務じむ局長きょくちょうは選挙せんきょ中ちゅう、応援おうえん演説えんぜつに来きた自民党じみんとうの派閥はばつ幹部かんぶ2人にんから「現金げんきん100万まん円えんと120万まん円えんの陣中じんちゅう見舞みまいを受うけ取とった」。派閥はばつ幹部かんぶになると、他た候補こうほのカネも融通ゆうずうするため、さらにカネがかかる。

政治せいじ資金しきん、規制きせいの「抜ぬけ道みち」

日本にっぽんでは1948年ねんに米国べいこくの法律ほうりつをモデルに政治せいじ資金しきんの透明とうめい化かを図はかった政治せいじ資金しきん規正きせい法ほうが制定せいていされた。だが、今いまも透明とうめい化かとは真ま逆ぎゃくの行為こういが後こうを絶たたない。

田中たなか角栄かくえい元もと首相しゅしょうの金脈きんみゃく問題もんだい（1974年ねん）、リクルート事件じけん（1988、1989年ねん）、金丸かねまる信しん・元もと自民党じみんとう副ふく総裁そうさいの巨額きょがく脱税だつぜい事件じけん（1993年ねん）など、政界せいかいを激震げきしんさせた不祥事ふしょうじが起おきるたび、企業きぎょう献金けんきんの量的りょうてき規制きせい、政治せいじ資金しきんパーティーの収支しゅうし報告ほうこくの義務ぎむづけや購入こうにゅう者しゃの公表こうひょう基準きじゅんの引ひき下さげなど、政治せいじ資金しきん規正きせい法ほうの改正かいせいが行おこなわれた。

1999年ねんには、政治せいじ家か個人こじんへの企業きぎょう・団体だんたい献金けんきんが禁止きんしされたが、議員ぎいんが代表だいひょうの政党せいとう支部しぶへの献金けんきんやパーティー券けん購入こうにゅうの抜ぬけ道みちは残のこされた。抜ぬけ道みちの利用りようは、政治せいじ家か側がわの事情じじょうだけではなく、国くにの施策しさくや公共こうきょう事業じぎょうなどで有利ゆうりな取とり扱あつかいを得えたい企業きぎょう側がわの意向いこうも働はたらいている。

原子力げんしりょく政策せいさくの推進すいしんで国くにとの関係かんけいが深ふかい電力でんりょく業界ぎょうかいでは、東京電力とうきょうでんりょくが2011年ねんに原発げんぱつ事故じこが起おきるまでの毎年まいとし、自民党じみんとう議員ぎいんなど50人にん以上いじょうから、計けい5000万まん円えん以上いじょうのパーティー券けんを購入こうにゅう。100社しゃ以上いじょうの関連かんれん会社かいしゃなどグループ全体ぜんたいでは約やく1億おく円えんに達たっした。

生命せいめい保険ほけん業界ぎょうかいの大手おおて4社しゃは連携れんけいしてパーティー券けんを購入こうにゅう、「業界ぎょうかいに理解りかい深ふかく助言じょげん等とうを期待きたいできる」とした親おや密度みつどなどに応おうじ、国会こっかい議員ぎいんを10段階だんかいにランク分わけし購入こうにゅう額がくの目安めやすにしていた。こうした水面すいめん下かの動うごきは「氷山ひょうざんの一角いっかく」とみられている。

つきまとう「私的してき流用りゅうよう」疑惑ぎわく

自民党じみんとう派閥はばつの裏金うらがね事件じけんで、多数たすうの議員ぎいんがパーティー券けん収入しゅうにゅうの還流かんりゅう分ぶんや中ちゅう抜ぬき分ぶんを収支しゅうし報告ほうこく書しょに記載きさいせず、その具体ぐたい的てきな使つかい道みちは明確めいかくになっていない。

過去かこには、有力ゆうりょく政治せいじ家かだった加藤かとう紘一こういち元もと自民党じみんとう幹事かんじ長ちょうが非課税ひかぜいの政治せいじ資金しきんの私的してき流用りゅうようを認みとめたことがあった。検察けんさつ、国税こくぜい両りょう当局とうきょくが2002年ねん、加藤かとう氏しの元もと事務所じむしょ代表だいひょうの脱税だつぜい事件じけんの摘発てきはつをきっかけに、資金しきん管理かんり団体だんたいから加藤かとう氏しの銀行ぎんこう口座こうざに振ふり込こまれた資金しきんが加藤かとう氏しや家族かぞくの衣食住いしょくじゅうの費用ひように充あてられたことを突つき止とめた。加藤かとう氏しは「非課税ひかぜいの政治せいじ活動かつどう費ひ」と主張しゅちょうしたが、国税こくぜい当局とうきょくの指摘してきを受うけ入いれ、資金しきんの大半たいはんの約やく8000万まん円えんを私的してきな支出ししゅつ、個人こじん所得しょとくと認みとめて修正しゅうせい申告しんこくした。

自民党じみんとう派閥はばつから裏金うらがねを得えた議員ぎいんらが税ぜい逃のがれをしているとの批判ひはんが高たかまっているが、加藤かとう氏しは異例いれいのケースで、ある国税こくぜい幹部かんぶは「個人こじん所得しょとくにあたるという明確めいかくな証拠しょうこがない限かぎり、課税かぜいは簡単かんたんではない」と話はなす。料亭りょうていの高額こうがくな飲食いんしょく費ひも政治せいじ活動かつどうの範囲はんいであれば認みとめられ、私的してきな支出ししゅつとの線引せんひきは難むずかしい。

政治せいじ資金しきん規正きせい法ほう違反いはんにあたる不正ふせい行為こういが繰くり返かえされるのは、政治せいじ家か側がわに「それほど悪わるいことをしているわけではない」という意識いしきがあるからだと思おもわれる。受うけ取とった資金しきんが賄賂わいろとされ収賄しゅうわい罪ざいが適用てきようされれば別べつだが、収支しゅうし報告ほうこく書しょの不ふ記載きさいや虚偽きょぎ記載きさいは、罰金ばっきんで済すむのが一般いっぱん的てきだ。

自民党じみんとう派閥はばつの裏金うらがね事件じけんの発覚はっかく後ご、政治せいじ団体だんたいの会計かいけい責任せきにん者しゃだけではなく議員ぎいんの責任せきにんを問とう仕組しくみなど規正きせい法ほうの罰則ばっそく強化きょうかが議論ぎろんされている。企業きぎょう・団体だんたい献金けんきんと政治せいじ資金しきんパーティーの全面ぜんめん禁止きんしも野党やとうから提案ていあんされている。これらがすべて実現じつげんすれば有効ゆうこうな改革かいかくになりうるが、過去かこに検討けんとうされ立たち消ぎえになった経緯けいいがあるため、実現じつげんへの道みちのりはいまだ遠とおい感かんがある。

政党せいとうから政治せいじ家かに支出ししゅつされる「政策せいさく活動かつどう費ひ」についても、使途しとが明あかされない「性善説せいぜんせつ」の運用うんようは限界げんかいだ。見みえないところで不正ふせいを働はたらく恐おそれがあるのは、「政治せいじとカネ」の歴史れきしが証明しょうめいしている。

スウェーデン、イタリアは政治せいじ資金しきんの透明とうめい化かと不正ふせい防止ぼうしに取とり組くんだが「抜ぬけ道みち」も生しょうじた。イタリアの政治せいじ家かが「自分じぶんたちに厳きびしい規制きせいをしなくなった」ことは日本にっぽんも同おなじだ。日米にちべいを含ふくむ先進せんしん国こくは世界せかいで汚職おしょくが少すくなめのグループだが、選挙せんきょにカネがかかる政治せいじ状況じょうきょうで不正ふせいの根絶こんぜつが困難こんなんなことが共通きょうつうする。だが、イタリアの若わかい世代せだいは「政治せいじにカネをかけない」試こころみを始はじめた。スウェーデンには政治せいじ活動かつどう費ひをチェックしやすいカード決済けっさいシステムがある。

日本にっぽんが学まなぶべき点てんは多おおい。ただ、規制きせい強化きょうか、システム整備せいびも国民こくみんの監視かんしの目めが伴ともなわないと実効じっこう性せいは低ひくい。不正ふせい行為こういが露見ろけんした議員ぎいんには投票とうひょうせずという厳きびしい態度たいども必要ひつようではないか。