性教育せいきょういくを「ジェンダー平等びょうどう教育きょういく法ほう」に記しるした台湾たいわん　保護ほご者しゃの理解りかい促うながし現場げんばの教員きょういんを支ささえる

指導しどうの根拠こんきょはジェンダー平等びょうどう教育きょういく法ほう

3月がつ下旬げじゅん。台湾たいわん北部ほくぶにある新北しんきた市しの板橋いたばし区く大観たいかん国民こくみん小学校しょうがっこう4年生ねんせいの教室きょうしつで、教師きょうしの紀きの孟はじめ均ひとし（チー・モンチュン）さんが「デジタル性せい暴力ぼうりょく」をテーマに授業じゅぎょうをしていた。子こどもたちが理解りかいしやすいよう、キャラクターを使つかいながら、「親したしい人ひとの写真しゃしんを、その人ひとの同意どういなく、第三者だいさんしゃに送おくっていいか」を児童じどう同士どうしで話はなし合あい、「同意どうい」について考かんがえた。

台湾たいわんでは、日本にっぽんの学習がくしゅう指導しどう要領ようりょうに似にた、「課程かてい綱要こうよう」と呼よばれる指針ししん（カリキュラム・ガイドライン）がある。学習がくしゅう段階だんかいごとに学まなぶべき内容ないようや目標もくひょうが示しめされ、それらをもとに教科書きょうかしょも検定けんていされる。しかし、この日ひの授業じゅぎょうは、その課程かてい綱要こうように基もとづく内容ないようではない。2004年ねんに制定せいていされたジェンダー平等びょうどう教育きょういく法ほうが根拠こんきょとなっている。

この法律ほうりつは、1990年代ねんだいの女性じょせい運動うんどうの盛もり上あがりや、2000年ねんに学校がっこうでいじめを受うけていた性的せいてき少数しょうすう者しゃの中学生ちゅうがくせいが亡なくなった事件じけんなどを背景はいけいに制定せいていされた。法ほうでは、小中学校しょうちゅうがっこうでは毎まい学期がっき4時間じかん以上いじょう、性教育せいきょういくを含ふくむジェンダー平等びょうどうに関かんする教育きょういくを行おこなうことが求もとめられている。紀きのさんの授業じゅぎょうも、その一環いっかんだ。

台湾たいわんでは、日本にっぽんの保健ほけん体育たいいくに相当そうとうする「健康けんこうと体育たいいく」で、体からだの構造こうぞうや生理せいり現象げんしょうなどを学まなぶ。しかし、紀きのさんたちはそこでは伝つたえきれない部分ぶぶんを、こうした授業じゅぎょうで伝つたえている。

法律ほうりつの意義いぎは何なにか。

紀きのさんは「もし保護ほご者しゃから反対はんたいの声こえがあっても、なぜこうした性教育せいきょういくが必要ひつようなのか、根拠こんきょをもって説明せつめいできる」と語かたる。「他たのアジアの国くにと同様どうよう、台湾たいわんの保護ほご者しゃも性せいのことはあまり子こどもと話はなしたがらない。保護ほご者しゃ世代せだいは性教育せいきょういくを受うけた経験けいけんが乏とぼしく、性教育せいきょういくとは何なにかわかっていない人ひとが多おおい」

台湾たいわんでも性教育せいきょういくへの反発はんぱつは少すくなくない。2017年ねんには、児童じどうからの質問しつもんに答こたえる形かたちで小学しょうがく3年生ねんせいの授業じゅぎょうでコンドームについて教おしえた教師きょうしが「わいせつ行為こういだ」などと訴うったえられた。この教師きょうしは、そのクラスの保護ほご者しゃの同意どういを得えて実施じっししていたが、この授業じゅぎょうがメディアに取とり上あげられたことで、それを見みた人ひとが検察けんさつに告発こくはつ。しかし、学校がっこうや地元じもとの教育きょういく局きょくは教師きょうしを支持しじし検察けんさつも教師きょうしを不ふ起訴きそにした。

現場げんばの自主じしゅ性せい尊重そんちょう、教おしえる内容ないようや質しつにばらつきも　

学校がっこう教員きょういんらによる「台湾たいわんジェンダー平等びょうどう教育きょういく協会きょうかい（TGEEA）」の教育きょういく推進すいしんマネジャー、姚惠耀（ヤオ・ホイヤオ）さんは「保護ほご者しゃの性教育せいきょういくへの反対はんたいの声こえは決けっして大おおきくない。だが、一人ひとりでも反対はんたいすると、その声こえが大おおきく聞きこえる」と指摘してきする。だからこそ、「法律ほうりつがあると、もし保護ほご者しゃから反対はんたいの声こえがあっても、教師きょうしは『文句もんくがあるなら政府せいふに言いって』と言いうことができる」と語かたる。

ただ、法ほうで定さだめるものの、ジェンダー平等びょうどう教育きょういくは決きまったカリキュラムはない。どのような内容ないようにするかは、学校がっこうや教員きょういんに任まかされている。姚は、教員きょういんによって内容ないようや質しつにばらつきが生しょうじる面めんも否定ひていしない。しかし、「法ほうに基もとづく教育きょういくの内容ないようを一律いちりつに決きめるよりも、課程かてい綱要こうように包括ほうかつ的てき性せい教育きょういくの内容ないようを反映はんえいし、充実じゅうじつさせていくことが大事だいじだ」と指摘してきする。

協会きょうかいが重視じゅうしするのは、ユネスコ（国連こくれん教育きょういく科学かがく文化ぶんか機関きかん）などが作成さくせいした「国際こくさいセクシュアリティ教育きょういくガイダンス」だ。包括ほうかつ的てき性せい教育きょういくという考かんがえを前面ぜんめんに打うち出だし、項目こうもくごとに各かく年齢ねんれいで学まなぶべき目標もくひょうなどを系統けいとう立たてて示しめしている。

協会きょうかいは昨年さくねん、台湾たいわんの小学校しょうがっこうの実態じったいを調査ちょうさし、教科書きょうかしょの内容ないようとユネスコなどのガイダンス内容ないようを比較ひかく。その結果けっか、ガイダンスが重要じゅうような要素ようそとして掲かかげる8項目こうもくのうち、「人間にんげん関係かんけい」や「健康けんこうとウェルビーイングのためのスキル」「ジェンダーの理解りかい」などは教科書きょうかしょに高こう頻度ひんどで掲載けいさいされていたが、「セクシュアリティーと性的せいてき行動こうどう」や「性せいと生殖せいしょくに関かんする健康けんこう」に関かんする内容ないようはほとんど触ふれられておらず、「性せいを語かたることを避さけた性教育せいきょういく」と指摘してきした。

また、ガイダンスが「若者わかものの批判ひはん的てき思考しこうや市民しみん意識いしきの育成いくせい」を奨励しょうれいしているのに対たいし、現在げんざいの台湾たいわんの性教育せいきょういくは、「家庭かていや社会しゃかいの調和ちょうわに結むすびつけることが目標もくひょうになっている」とみる。

昨年さくねん10月がつに協会きょうかいが主催しゅさいした性教育せいきょういくに関かんするフォーラムに出席しゅっせきした潘はん文忠ふみただ（パン・ウェンチョン）教育きょういく相しょうは、ユネスコなどが示しめす包括ほうかつ的てき性せい教育きょういくについて「国際こくさい的てきなコンセンサスを得えている」との認識にんしきを示しめし、それに基もとづき、課程かてい綱要こうようを改訂かいていしていく方針ほうしんを示しめした。

一方いっぽう、課程かてい綱要こうようの策定さくていに携たずさわった、性教育せいきょういく学会がっかいの晏涵文ぶん（イエン・ハンウェン）名誉めいよ理事りじ長ちょうはガイダンスの中なかで示しめされた内容ないようをその年齢ねんれいで教おしえることには懐疑かいぎ的てきだ。

例たとえば、ガイダンスでは、5～8歳さいで「妊娠にんしんは、自然しぜんな生物せいぶつ学がく的てきプロセスで、計画けいかく可能かのうなものである」ということを、9～12歳さいでコンドームの正ただしい使つかい方かたなどを教おしえるとしている。

しかし、晏さんによると、これらの項目こうもくは台湾たいわんでは中学ちゅうがく段階だんかいで教おしえていると言いい、「この年齢ねんれいでこうした内容ないようを教おしえることが良よいと考かんがえている保護ほご者しゃは台湾たいわんでは多おおくない。ユネスコもガイダンスの中なかで、その国くにの状況じょうきょうに沿そった内容ないようで教育きょういくすることを否定ひていしていない」と主張しゅちょうする。晏さんは現在げんざい、保護ほご者しゃがどの年齢ねんれいでどういった内容ないようを教おしえるのが良よいと考かんがえているかを調査ちょうさしているという。

「アダルトビデオを親子おやこで見みて間違まちがった表現ひょうげんを確認かくにん」

台湾たいわんの性教育せいきょういくを受うけてきた側がわは、どう感かんじているのか。

台湾たいわん大学だいがくの学生がくせいで、基もと隆たかし市し出身しゅっしんの葉は謹榕（イエ・チーロン）さん（22）は、小学校しょうがっこう6年ねんの時ときに保健ほけん室しつの女性じょせいの先生せんせいが行おこなった性教育せいきょういくの授業じゅぎょうが印象いんしょうに残のこっているという。

「先生せんせいは、自分じぶんの息子むすことのアダルトビデオを一緒いっしょに見みて、『その中なかには間違まちがった表現ひょうげんがあることを親子おやこで話はなした』と教おしえてくれました。当時とうじは驚おどろきましたが、『そうやって、性せいをオープンに話はなしていいんだ』と思おもえるようになりました」

その授業じゅぎょうが、ジェンダー平等びょうどう教育きょういく法ほうに基もとづく性教育せいきょういくだったかはわからない。ただ、当時とうじのクラスの担任たんにんの先生せんせいは男性だんせいで、自分じぶんでは性教育せいきょういくをうまくできないと思おもい、保健ほけん室しつの先生せんせいに頼たのんだのではないか、と葉はさんはみる。

一方いっぽう、同おなじく台湾たいわん大学だいがくの学生がくせいで、台北たいぺい市し出身しゅっしんの羅ら中なか聖きよし（ルオ・チョンション）さん（23）は小中学校しょうちゅうがっこう時代じだい、性教育せいきょういくにあたる内容ないようは「健康けんこう」に関かんする授業じゅぎょうで習ならったが、「正直しょうじき、あまり印象いんしょうに残のこっていません」と話はなす。

授業じゅぎょうでは男女だんじょの体からだの構造こうぞうの違ちがいや生理せいり現象げんしょう、それを踏ふまえた体からだのバウンダリーなどは学まなんだが、異性いせいとのつきあいやLGBTQのことについてのきちんとした説明せつめいはなかったという。

「いまはインターネットが普及ふきゅうし、ネットには性せいやLGBTQに関かんする正ただしくない情報じょうほうも多おおく出回でまわっている。小中学校しょうちゅうがっこう段階だんかいから、正ただしい知識ちしきを伝つたえるとともに、人ひとに対たいする基本きほん的てきな尊重そんちょうの姿勢しせいを学まなぶ必要ひつようがあると思おもいます」と語かたる。

2人ふたりとも、高校こうこうでは、健康けんこうに関かんする授業じゅぎょうで、コンドームの装着そうちゃくを実際じっさいに練習れんしゅうしたことがあるという。葉はさんは、「実際じっさいにやってみると、なかなか難むずかしい。練習れんしゅうをして良よかった」と振ふり返かえる。しかし、中学校ちゅうがっこう時代じだいには、すでに校内こうないで「生徒せいとが妊娠にんしんしたかもしれない」などの噂うわさもあったといい、「もっと早はやい段階だんかいでこうしたことを教おしえた方ほうがいい」。羅らさんも「早はやめに性せいの知識ちしきを知しった方ほうが予防よぼうできる」と話はなす。

学校がっこうや教員きょういんの姿勢しせいがもたらす影響えいきょうも少すくなくないという。葉はさんによると、「健康けんこう」の授業じゅぎょうは、数学すうがくなどの教科きょうかと違ちがって、「進学しんがくには無駄むだ」と思おもわれがちだといい、「学校がっこうによっては専せん門もんではない先生せんせいが担当たんとうする可能かのう性せいもある。どういう人ひとが性教育せいきょういくを指導しどうするかも、とても大事だいじな問題もんだいだ」と話はなす。

葉はさんや羅らさんは現在げんざい、ほかの台湾たいわん大だいの学生がくせいと共ともに、「Moonteacha（月つき月がつ老ろう酥）」という団体だんたいを結成けっせいし、生理せいりについて安心あんしんして討論とうろんする場所ばしょを作つくる活動かつどうを続つづけている。「月経げっけいについて、人前ひとまえで話はなしにくい」とメンバーたち自身じしんが感かんじていたことがきっかけとなった。

団体だんたいでは、交換こうかん日記にっきやボードゲームなどを使つかって、生理せいりについての経験けいけんや疑問ぎもんをシェアする。生理せいりについて人ひとと話はなすことで、生理せいりをポジティブに捉とらえるようになったり、人ひとに聞きけなかった疑問ぎもんを解消かいしょうしたりするなど、様々さまざまな手応てごたえを感かんじているという。