谷口たにぐち真由美まゆみさんが「ボウフラとカジノ」で悟さとった自分じぶん事ごと化かの難むずかしさ　未来みらいを決きめる「今いま」

2024年ねん7月がつに行おこなわれる東京とうきょう都知事とちじ選挙せんきょについての報道ほうどうが、にぎやかになってきた。日本にっぽんの首都しゅとであり、経済けいざいをはじめとしたさまざまなものの中心ちゅうしん地ちであり、人口じんこうがもっとも多おおい地域ちいきであることに加くわえ、立候補りっこうほが取とりざたされている人ひとたちも個性こせい的てきであることから、にぎやかになるのは当然とうぜんといえば当然とうぜんである。

2023年ねん4月がつ、私事しじで恐縮きょうしゅくではあるが、さまざまな葛藤かっとうがありつつも生うまれて初はじめて「被選挙権ひせんきょけん」を行使こうししたのが大阪おおさか府知事ふちじ選挙せんきょだった。

改あらためて考かんがえてみると、参政さんせい権けんという日本国にっぽんこく憲法けんぽうで認みとめられた人権じんけんを行使こうしするのに、なぜこんなにハードルが高たかいのかと、いまさらながら驚おどろく。

日本国にっぽんこく憲法けんぽうの人権じんけんのなかでも、もっとも行使こうしする人ひとの少すくない、行使こうししたら色眼鏡いろめがね（偏見へんけんまみれ）でみられる、なんともヘンテコな人権じんけんなのだと実感じっかんした。

メディアに出でてコメンテーターとして政治せいじについて発言はつげんをしたり、選挙せんきょのたびにメディアから取材しゅざいされたりしてきたので、一般いっぱん的てきには政治せいじや政界せいかいに知識ちしきはあるほうだったとは思おもうが、選挙せんきょにでてはじめて、インサイドに入はいったからみえたことがあるのも事実じじつである。

落選らくせんしたら選挙せんきょにはもう出でないことを決きめていたので、人生じんせいでたった一いち度どのチャレンジとなったが、そんな私わたしが選挙せんきょを通とおして感かんじたことや、芽生めばえた問題もんだい意識いしきなどについて、硬軟こうなんを交まじえながら記しるしていければと思おもっている。

おっちゃんが気きづかせてくれた

さて、連載れんさいタイトルの「ボウフラとカジノ」の説明せつめいを。

大阪おおさか府知事ふちじ選せんのさなか、選挙せんきょカーに乗のって手てを振ふっていたときのこと。ある地域ちいきで、側溝そっこうからボウフラが大量たいりょうにわいていた。赤信号あかしんごうで止とまっていたら、側溝そっこうの向むこうにいた住民じゅうみんのおっちゃんが声こえをかけてきた。

「このボウフラ、酷こく（ひど）いやろ？勢いきおいも人気にんきもあるかもしれんけど、維新いしん（大阪おおさか維新いしんの会かい）の議員ぎいんになってから、ここ一体いったいはボウフラだらけになったんや。次つぎの選挙せんきょでは、このあたりの人間にんげんは誰だれも維新いしんにいれへんで。がんばりや！」

と、応援おうえんしてくれた。車くるまが動うごき出だそうとしたときに、もう一度いちど大おおきな声こえでこんなことを言いってくれた。

「せやけどな、カジノとかは、ようわからん。むつかしいわ」

ボウフラだらけになったことと、維新いしんの議員ぎいん就任しゅうにんとの因果いんが関係かんけいはわからないが、「アップデートおおさか」という政治せいじ団体だんたいの推薦すいせんを受うけていた私わたしと、大阪おおさか市長しちょう選せんに臨のぞんだ北野きたの妙子たえこさんは、大阪おおさか維新いしんの会かい出身しゅっしんの大阪おおさか府知事ふちじと大阪おおさか市長しちょうが進すすめてきたさまざまな政策せいさくについて、真正面ましょうめんから疑問ぎもんを突つきつけていった。

そのなかでも大おおきな対立たいりつ軸じくとして出だしていたのは大阪おおさかのIR（いわゆるカジノ）施策しさくについて、ともかく一旦いったんたちどまって住民じゅうみん投票とうひょうをやろうというものであった。

ようやく最近さいきんになって、大阪おおさか万博ばんぱくが開催かいさいされる予定よていの人工じんこう島とう「夢ゆめ洲しゅう（ゆめしま）」が、地盤じばん沈下ちんかの問題もんだいや液状えきじょう化かが起おきる可能かのう性せいをはらんでいることが取とりざたされてきたが、夢ゆめ洲しゅうはIR事業じぎょう予定よてい地ちにもなっているので、夢ゆめ洲しゅうの諸しょ問題もんだいはそのままIRに引ひき継つがれる。

私わたしは以前いぜんから、万博ばんぱくそのものに懐疑かいぎ的てきであったこともあり（朝日新聞あさひしんぶんにインタビューで、万博ばんぱくはオッサンのノスタルジーとこたえたものがあります）、夢ゆめ洲しゅうという問題もんだいだらけの土地とちをメガイベントや人ひとがたくさん集あつまる場ばとして利用りようすることにも懐疑かいぎ的てきであった。

けれどこれも、万博ばんぱくの開催かいさいが近ちかづいてきたから、いろんな人ひとが問題もんだいを感かんじるようになってきたのではないかと考かんがえる。

早はやく問題もんだいを感かんじてた私わたしがエライとか、そんなことを言いいたいわけではない。人ひとというのは、誰だれしもよほど関心かんしんのあること以外いがいは、近ちかいこと、身近みぢかなことしかわからないものなのだと、つくづく思おもうのだ。時間じかんも、距離きょりも、近ちかいほど自分じぶん事ごとになるのは、当あたり前まえといえば当あたり前まえのことではある。

それを、とても理解りかいできたのが、このおっちゃんとのやり取とりだった。ボウフラの問題もんだいは身近みぢかだからこそ、おっちゃんも関心かんしんを示しめしたのだろうが、カジノも自分じぶんの家いえの隣となりにカジノができるとなったら、おっちゃんもおそらく難むずかしいとはならないだろう。自分じぶんの身内みうちに、ギャンブル依存いぞん症しょうの人ひとがいたら、難むずかしいなんて言いってられないだろう。自分じぶん事ごととはそういうことなのである。

だから、大阪おおさかでは沖縄おきなわの基地きち問題もんだいは選挙せんきょの争点そうてんにはならない。自分じぶんたちの土地とちに米べい軍ぐん基地きちがないからだ。都知事とちじ選挙せんきょで万博ばんぱくは争点そうてんにはならない。開催かいさい地ちではないからだ。

IRに関かんしては、まだ先さきということもある。万博ばんぱくが終おわった後のちのことだから、いまはその前まえのことが問題もんだいになる。当あたり前まえといえば当あたり前まえのことなのだ。

開票かいひょう日び、20時じになった瞬間しゅんかんに、圧倒的あっとうてきな差さをつけられて負まけが決きまった。直後ちょくごの記者きしゃ会見かいけんで、一番いちばんに手てを挙あげたあるメディアの記者きしゃがこんなことを私わたしに問とうた。

「IRカジノのことが、争点そうてん化かしきれなかったと思おもいますが、その点てんについてどう思おもわれますか？」

そのときの私わたしの返答へんとうはこうだ。

「私わたしたちは、ずっとIRカジノの問題もんだいについて訴うったえてきました。私わたしたちは争点そうてん化かしていました。維新いしんは一貫いっかんして争点そうてんにしてこなかったですよね。マスコミの皆みなさんは、それを争点そうてんだとして扱あつかっておられましたか？争点そうてん化かしきれなかった、とは、どういうことなのでしょうか？」

記者きしゃは、明あきらかに動揺どうようしていた。私わたしは、定型ていけい化かされたこの質問しつもんに、何なにを答こたえて良よいのかわからなかった。争点そうてん化かしきるとは、誰だれがどのようにするものなのだ？と。市民しみんの関心かんしんが、IRカジノになかったということの分析ぶんせきができるほどの時間じかんは、直後ちょくごの会見かいけんではないにもかかわらずだ。力不足ちからぶそくでした、不徳ふとくの致いたすところです、と言いえばよかったのだろうか？

テレビ討論とうろんでも、IRカジノの問題もんだいは争点そうてんにせずに……という番組ばんぐみもあった。有権者ゆうけんしゃの関心かんしんがないから、ということだった。日曜日にちようびの公園こうえんで、大阪おおさか府知事ふちじ選挙せんきょの争点そうてんはなんですか？というアンケートを取とったら「くらし」などが上位じょういを占しめたからだという。

さて、数すう年ねん後ごの大阪おおさか府知事ふちじ選挙せんきょでは、IRカジノは大おおきな争点そうてんになると思おもわれる。人々ひとびとの関心かんしんは、近ちかいものにしかない。ひとびとの「くらし」のなかに、IRカジノはまだなかった。けれど、数すう年ねん先さきのたくさんのことが、日々ひび決きまっていっている。現在げんざいの判断はんだんが、数すう年ねん後ごの大おおきなことを決きめている。

「知しらなかった」では済すまないのは、民主みんしゅ主義しゅぎでもいえること。近ちかいことの連続れんぞくが、遠とおいと思おもっていることや、未来みらいへ続つづいていることを、どうやったら伝つたえていけるのか。そんなことを考かんがえながら、「ボウフラとカジノ」をはじめることにした。