(Translated by https://www.hiragana.jp/)
日本経済が低迷した一因は、景気回復めざして長く続けた低金利?小林慶一郎教授が解説:朝日新聞GLOBE+
  1. HOME
  2. 特集とくしゅう
  3. 金利きんりのある世界せかい
  4. 日本にっぽん経済けいざい低迷ていめいした一因いちいんは、景気けいき回復かいふくめざしてながつづけたてい金利きんり小林こばやし慶一郎けいいちろう教授きょうじゅ解説かいせつ

日本にっぽん経済けいざい低迷ていめいした一因いちいんは、景気けいき回復かいふくめざしてながつづけたてい金利きんり小林こばやし慶一郎けいいちろう教授きょうじゅ解説かいせつ

World Now 更新こうしん 公開こうかい
インタビューに応じる小林慶一郎・慶応大教授
インタビューにおうじる小林こばやし慶一郎けいいちろう慶応大けいおうだい教授きょうじゅ=2024ねん5がつ東京とうきょう千代田ちよだ星野ほしのしん三雄みつお撮影さつえい

――日本にっぽん経済けいざいは1990年代ねんだいはじめのバブル崩壊ほうかい低空ていくう飛行ひこうつづいています。

日本にっぽん長期ちょうき低迷ていめい原因げんいんひとつは、バブル崩壊ほうかいへの対応たいおうおくれ、つまり不良ふりょう債権さいけん処理しょり長期ちょうきだといえます。

右肩みぎかたがりの「土地とち神話しんわ」がくずれ、不動産ふどうさん担保たんぽ融資ゆうしやしていた銀行ぎんこう巨額きょがく不良ふりょう債権さいけんかかみました。銀行ぎんこうがつぶれてパニックになることをおそれて、不良ふりょう債権さいけん処理しょりすこしずつゆっくりすすめることになりましたが、不良ふりょう債権さいけんがどこにどれだけあるのかはっきりしないため、「あの銀行ぎんこうやあの企業きぎょうはあぶないかもしれない」と人々ひとびと疑心暗鬼ぎしんあんきおちいりました。コロナ検査けんさ拡大かくだい慎重しんちょうにしすぎて国民こくみん不安ふあん増幅ぞうふくした政策せいさく当局とうきょく判断はんだんています。

スウェーデン国立銀行(中央銀行)
スウェーデン国立こくりつ銀行ぎんこう中央ちゅうおう銀行ぎんこう)=2019ねん9がつ、ストックホルム、星野ほしのしん三雄みつお撮影さつえい

日本にっぽんどう時期じきにバブルが崩壊ほうかいしたスウェーデンのように、不良ふりょう債権さいけん処理しょり迅速じんそくすすめていれば、1994~95ねんごろには終了しゅうりょうしていたでしょう。だが、不良ふりょう債権さいけん処理しょりに15ねんもの時間じかんをかけたことで、成長せいちょうにつながる前向まえむきな人材じんざいそだたないなど悪循環あくじゅんかん発生はっせいし、そのの15ねん後遺症こういしょうなやまされました。日本にっぽん長期ちょうき停滞ていたい素地そじをつくったのが不良ふりょう債権さいけんをめぐる政府せいふ対応たいおうだったといえます。

――景気けいき低迷ていめいからだっしようと日本にっぽん財政ざいせい出動しゅつどう金融きんゆう緩和かんわつづけました。

バブル崩壊ほうかいの1990年代ねんだい前半ぜんはん政府せいふ財政ざいせい出動しゅつどう減税げんぜいかえしたが、不良ふりょう債権さいけんという根本こんぽん問題もんだい対処たいしょしなかったため、成長せいちょう基調きちょうもどすことはできませんでした。日本銀行にっぽんぎんこう金利きんりげ、短期たんき金利きんりは1995ねんあき実質じっしつゼロとなりました。名目めいもく金利きんりはゼロよりしたにすることはできないので、さらに金融きんゆう緩和かんわをしようにも手立てだてがない。そこで日銀にちぎんは2001ねん3がつ金融きんゆう政策せいさく目標もくひょう金利きんりから貨幣かへいりょうりかえる「量的りょうてき緩和かんわ政策せいさく」を世界せかい先駆さきがけて導入どうにゅうしました。

2001年3月に導入した量的緩和政策の拡大を決めた後に記者会見する日本銀行の速水優総裁
2001ねん3がつ導入どうにゅうした量的りょうてき緩和かんわ政策せいさく拡大かくだいめたのち記者きしゃ会見かいけんする日本銀行にっぽんぎんこう速水はやみゆう総裁そうさい=2001ねん12月、東京とうきょう中央ちゅうおう

そのもほぼゼロ金利きんりつづき、2013ねん4がつから日銀にちぎんは「次元じげん緩和かんわ」をはじめ、2016ねんにはマイナス金利きんり政策せいさくを、同年どうねん9がつにはイールドカーブ・コントロールを導入どうにゅうしました。短期たんき金利きんりはゼロからマイナスに、長期ちょうき金利きんりも0%程度ていど誘導ゆうどうしたにもかかわらず、インフレりつは1%程度ていどていインフレ時代じだいつづきました。

――ゼロ金利きんり・マイナス金利きんりといった金融きんゆう緩和かんわ政策せいさくによって、景気けいき刺激しげきし、物価ぶっかがるのではないでしょうか。

そもそも金融きんゆう緩和かんわは、需要じゅよう供給きょうきゅうよりすくない「需要じゅよう不足ふそく」がきているときに一時いちじてき需要じゅようやす効果こうかはあるが、長期ちょうき経済けいざい成長せいちょうりつえるちからはない、というのがいまのところの経済けいざいがくのコンセンサスです。

金融きんゆう緩和かんわ貨幣かへいりょうやせばインフレ期待きたいたかまって物価ぶっかがるという「リフレ」がちからったが、次元じげん緩和かんわをしても日本にっぽん物価ぶっかがらなかったのは、中央ちゅうおう銀行ぎんこう人々ひとびと将来しょうらいについての期待きたい操作そうさすることのむずかしさを物語ものがたっています。

就任後初の金融政策決定会合で「異次元緩和」を決め、記者会見で説明する日銀の黒田東彦総裁
就任しゅうにんはつ金融きんゆう政策せいさく決定けってい会合かいごうで「次元じげん緩和かんわ」をめ、記者きしゃ会見かいけん説明せつめいする日銀にちぎん黒田くろだひがし総裁そうさい=2013ねん4がつ東京とうきょう中央ちゅうおう

経済けいざいがくは、四半世紀しはんせいきにわたってゼロ金利きんり・マイナス金利きんりつづくことを想定そうていしていません。むしろ、最近さいきん研究けんきゅうでは、長期ちょうき停滞ていたいへの対応たいおうさくである金融きんゆう緩和かんわ財政ざいせい出動しゅつどうが、じつ経済けいざい停滞ていたいをさらに長引ながびかせている可能かのうせいがあるといわれています。

――経済けいざい成長せいちょうのためにかれとおもってつづけていた政策せいさくが、ぎゃくてい成長せいちょうこしているということですか。

政府せいふ債務さいむ増大ぞうだいで、国民こくみんは「財政ざいせい破綻はたんこるかもしれない」という財政ざいせいそのものにたいする懸念けねんより、「年金ねんきん医療いりょうなどの社会しゃかい保障ほしょう将来しょうらい大丈夫だいじょうぶだろうか」というかたち不安ふあんかかえています。将来しょうらい財政ざいせい危機きききれば、社会しゃかい保障ほしょう削減さくげんだい増税ぞうぜいがおこなわれると予想よそうし、現金げんきんをためんで生産せいさんてき投資とうしおこなわれなくなって成長せいちょうりつ低下ていかします。

経済けいざいがく教科書きょうかしょどおり、金利きんり低下ていかが「一時いちじてき」だった場合ばあい投資とうしえて生産せいさん拡大かくだいします。だが、2020年代ねんだいはいってからの研究けんきゅうでは、てい金利きんりが「恒久こうきゅうてき」だった場合ばあい成長せいちょうりつ低下ていかすることがわかってきました。金利きんりたかければ借金しゃっきん返済へんさいむずかしくなって倒産とうさんする可能かのうせいたかいのに、てい金利きんりだからのこる「ゾンビ企業きぎょう」がおおくなる。金利きんりひくいと地価ちかがるので、起業きぎょうあらたなビジネスをはじめにくくなる。現在げんざいのトップ企業きぎょうてい金利きんりでおかねりて技術ぎじゅつ開発かいはつ投資とうしやす一方いっぽう、2番手ばんて3番手ばんて企業きぎょう投資とうしひかえるようになって市場いちば独占どくせんすすむ。そうした理由りゆうかんがえられます。

インタビューに応じる小林慶一郎・慶応大教授
インタビューにおうじる小林こばやし慶一郎けいいちろう慶応大けいおうだい教授きょうじゅ=2024ねん5がつ東京とうきょう千代田ちよだ藤崎ふじさき麻里まり撮影さつえい

物価ぶっかめんでも、短期たんきてきてい金利きんり景気けいき刺激しげきしてインフレをたかめる効果こうかがあるが、長期ちょうきてき関係かんけいると金利きんりひくいときにはインフレりつひくい。こうした見方みかたただしければ、てい金利きんり長期ちょうきてきつづけても、インフレりつたかまって経済けいざい成長せいちょうりつたかまるという状況じょうきょうはいつまでたってもやってこないかもしれません。

最近さいきんえんやす輸入ゆにゅうひん値上ねあがりなどによってインフレりつがり、金利きんり上昇じょうしょう傾向けいこうとなっています。日本にっぽん政府せいふ巨額きょがく債務さいむかかえているが、成長せいちょうりつ国債こくさい金利きんりよりたかければ、税収ぜいしゅうえて債務さいむる。だが、過去かこのデータをても、標準ひょうじゅんてき経済けいざい理論りろんても、国債こくさい金利きんり成長せいちょうりつよりたかくなるのが正常せいじょうです。そうなれば債務さいむゆきだるましきえることになるため、財政ざいせい持続じぞくせいたも検討けんとうすすめなければなりません。