【石子いしこと羽はね男おとこ 第だい3話わ 感想かんそう】『許ゆるされざる罪つみ』を描えがいた第だい３話わ　残酷ざんこくな結末けつまつから見みえたもの

空そらを見上みあげる時間じかんすら曖昧あいまいで無駄むだなひとときと感かんじてしまうぐらい、誰だれもが生いき急いそぐ現代げんだい。

最近さいきんは、その作品さくひんの中身なかみではなく、表面ひょうめんが重視じゅうしされることが多おおくなってきたように思おもう。そして『ファスト映画えいが』もその一種いっしゅだ。

反省はんせいの色いろが見みえない依頼人いらいにん

パラリーガル・石子いしこ（有村ありむら架か純じゅん）と弁護士べんごし・羽はね男おとこ（中村なかむら倫りん也）のコンビに『国選こくせん弁護べんご』の依頼いらいが舞まい込こむ。

国選こくせん弁護べんごとは、資金しきん不足ふそくなどで弁護士べんごしを雇やとえない人ひとに対たいして、国くにが代かわりに指定していするという制度せいどである。

羽はね男おとこは名なを売うるチャンスだと意気込いきごみ、早速さっそく接見せっけんに向むかうが依頼人いらいにんの口くちから飛とび出だしたのは衝撃しょうげきの言葉ことばだった。

今回こんかいの依頼いらいは、映画えいがを１０分ふんに短みじかく編集へんしゅうした『ファスト映画えいが』を動画どうがサイトに無断むだんアップロードし、著作ちょさく権けん法ほう違反いはんで映画えいが会社かいしゃから告訴こくそ、逮捕たいほされた、映画えいが監督かんとくを目指めざす大学生だいがくせい・山田やまだ遼りょう平ひらめ（井い之の脇わき海かい）の弁護べんご。

初はじめは周まわりに映画えいがを共有きょうゆうするために投稿とうこうしていたが、誤あやまって通常つうじょう公開こうかいすると再生さいせい回数かいすうがぐんぐん伸のびた。

その後ご、次々つぎつぎファスト映画えいがを投稿とうこうし、著作ちょさく権けん法ほう違反いはんの罪つみで逮捕たいほされたのだ。

しかし、後悔こうかいしていると思おもわれた遼りょう平たいらは、少すこしも反省はんせいしていなかった。

金儲かねもうけのためではないし、映画えいが離ばなれが進すすむ中なかで、見みた人ひとが「映画えいがを好すきになった」「時間じかんがないとき助たすかった」と感想かんそうが寄よせられると、自みずからの罪つみを正当せいとう化かする。

確たしかに今いまはコンテンツの大量たいりょう生産せいさん、大量たいりょう消費しょうひの時代じだいであるが、娯楽ごらくに割さける時間じかんはそう多おおくはない。それは大人おとなだけではなく、子こどもも同様どうようだ。

しかも話題わだいの移うつり変かわりは激はげしく、流行りゅうこうに置おいてかれまいと、物事ものごとのあらすじだけ理解りかいできればそれで満足まんぞくしてしまう人ひともいる。

度々たびたび話題わだいに上あがる作品さくひんの『倍速ばいそく視聴しちょう』もその例れいで、じっくり誠実せいじつに作品さくひんと向むき合あう時間じかんは重視じゅうしされない傾向けいこうにある。

しかし、ファスト映画えいがは断固だんことして許ゆるされるべきものではない。羽はね男おとこは少すこしも反省はんせいしない遼りょう平たいらのい訳いわけや法廷ほうていでの態度たいどに手ても足あしも出でなかった。

事件じけんが思おもわぬ場所ばしょに飛とび火ひ

そんな中なか、新あらたな事件じけんが巻まき起おこる。

名前なまえが似にているため、ファスト映画えいがを投稿とうこうしたと誤解ごかいされた山田やまだ恭兵きょうへい監督かんとく（でんでん）がSNSで炎上えんじょうしていた。丁度ちょうど、新作しんさく映画えいが公開こうかい前まえというタイミングだ。

そんな山田やまだ監督かんとくのファンである大庭おおば（赤あか楚すわえ衛まもる二に）は、石子いしこを誘さそって最さい新作しんさく『穢けがれし曳航えいこう』の舞台ぶたい挨拶あいさつを見みに行いく。しかし、炎上えんじょうの影響えいきょうを受うけたのか、客足きゃくあしは乏とぼしかった。

そしてさらにひどい事態じたいへと発展はってんし、最新さいしん作さくのファスト映画えいががネットに出回でまわった。

「売名ばいめい行為こうい」「自作じさく自演じえん」、書かき込こみは根拠こんきょのない誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうで溢あふれた。ネットは話題わだい性せいがあり、一度いちど燃もえたものが何なによりの好物こうぶつだ。

事実じじつを知しらず、袋叩ふくろだたきにする者ものばかりだ。

この状況じょうきょうを知しった石子いしこは、「山田やまだ監督かんとくを手助てだすけすることで、監督かんとくのファンである遼りょう平たいらとの関係かんけいの潤滑じゅんかつ剤ざいになり得えるのではないか」という父ちち・綿めん郎ろう（さだまさし）の助言じょげんを受うけ、監督かんとくに弁護士べんごしを紹介しょうかいすることにした。

そして石子いしこはその夜よる、遼りょう平ひらにそのことを相談そうだんしてほしいと羽はね男おとこにお願ねがいするため、電話でんわをかける。

すると、いつもは他人たにんに一切いっさいの興味きょうみもなさそうな羽はね男おとこが突然とつぜん、石子いしこに弁護士べんごしを目指めざす理由りゆうを尋たずねてきた。

「父親ちちおやの影響えいきょう？」と聞きく訳わけには、羽はね男おとこが法曹ほうそう一家いっか生うまれであることが関係かんけいしているように思おもえる。

姉あね・優ゆう乃（MEGUMI）は検事けんじ、父ちちは名高なだかい裁判官さいばんかん。羽はね男おとこは記憶きおく力りょくの才能さいのうを買かわれ、昔むかしから「できる子こ」と言いわれ続つづけた。

父ちちの目めの輝かがやきはいつも才能さいのうへの期待きたいだけで溢あふれ、羽はね男おとこは弁護士べんごしにならざるを得えなかったのだ。

それとは反対はんたいに石子いしこは、自分じぶんから父ちちの姿すがたに興味きょうみを抱だいた。依頼いらい者しゃの心しんの棘とげを抜ぬき、再さい出発しゅっぱつのお手伝てつだいができる弁護士べんごしに憧あこがれたのだ。

それもあり、人ひとの些細ささいな変化へんかに気きづける石子いしこは、羽はね男おとこの普段ふだんとは違ちがう振ふる舞まいを心配しんぱいする。

二人ふたりは顔かおを見合みあわせればいいばかりする凸凹おうとつコンビだが、電話でんわ越ごしには和なごやかな雰囲気ふんいきだ。

「人ひとに物ものを頼たのむときはなんていうのかな？」という、いつも通とおりの上うえから目線めせんな感かんじと、優やさしく笑わらう羽はね男おとこのギャップも垣間見かいまみえた。

そして「おやすみなさい」という石子いしこの言葉ことばに少すこし驚おどろいた表情ひょうじょうをする羽はね男おとこ。

『才能さいのう』としてではなく、『一人ひとりの弁護士べんごし』として必要ひつようとされている実感じっかんが、羽はね男おとこの中なかで形かたちづき始はじめていた。

そして依頼いらいを諦あきらめかけていた羽はね男おとこだったが、フォトグラフィックメモリーの能力のうりょくで、ファスト映画えいが内ないで制作せいさく陣じんしか知しり得えない未み使用しようのカットが使つかわれていることに気きづく。

石子いしこはそれを山田やまだ監督かんとくに伝つたえに行いくと、監督かんとくは既すでに制作せいさくスタッフ・諸星もろぼし（今井いまい隆文たかふみ）であることに気きづいていた。炎上えんじょうした原因げんいんでもあるファスト映画えいがという罪つみに手てを出だしてしまったのだ。

監督かんとくは、諸星もろぼしの再さい出発しゅっぱつの芽めを摘つまないよう、訴うったえは起おこさないことを決きめた。

見物人けんぶつにんだった『私わたしたち』が『当事とうじ者しゃ』へと変かわる瞬間しゅんかん

そして残のこるは遼りょう平たいらだ。

何なにもき入きいれない遼りょう平たいらに、石子いしこは罪つみと向むき合あってもらうための秘策ひさくを思おもいつく。

それは、山田やまだ監督かんとくの最新さいしん作さくのファスト映画えいがを見みせることだった。

接見せっけんに訪おとずれた羽はね男おとこに、動画どうがを予告よこくなしに見みせられた遼りょう平たいらは、「こんな編集へんしゅうをされたら、よさが伝つたわらない」「本編ほんぺんを見みる楽たのしみを奪うばわれたも同然どうぜん」と激怒げきどする。

そんな遼りょう平たいらに、羽はね男おとこは一言ひとこと。

最新さいしん作さくは上映じょうえい打うち切きりとなったが、映画えいがを見みずに誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうする人ひと、ファスト映画えいがだけ見みて評価ひょうかする人ひとで溢あふれた。

たった１０分ぶんの動画どうがだけで映画えいがを『見みた気きになる』のだ。

これは中身なかみまでは知しろうとしないまま、記事きじの見出みだしだけで意見いけんし、判断はんだんすることと同どうじ、現代げんだいの悪わるき風潮ふうちょうだ。

罪つみとは知しらずに、これは誰だれかのためになっているという自己じこ中ちゅうな正義せいぎ感かん。

ゼロから長ながい時間じかんかけて創つくり上あげた作品さくひんを一瞬いっしゅんで潰つぶし、関かかわる全すべての人ひとを苦くるしめる行おこないに知しらぬ間あいだに加担かたんしているのだ。

いつもの石子いしこと羽はね男おとこの掛かけ合あいが、この台詞せりふで重かさなり合あう。その声こえは右みぎから、左ひだりから、視聴しちょう者しゃを包つつみ込こむ。

今いまこの一人ひとりの少年しょうねんの物語ものがたりに触ふれるただの『見物人けんぶつにん』だった私わたしたちが『当事とうじ者しゃ』だったみたいに…。

『石子いしこと羽はね男おとこ』第だい３話わが描えがいた『許ゆるされざる罪つみ』

裁判さいばんの結果けっか、執行しっこう猶予ゆうよがつき、出所しゅっしょした遼りょう平たいらは、その日ひ、山田やまだ監督かんとくに土下座どげざし、謝罪しゃざいする。

「また映画えいがに関かかわって生いきたい」と思おもう遼りょう平たいら。彼かれが映画えいがを愛あいする心しんに嘘うそはないだろうし、切きった豆まめ苗なえもまた伸のび始はじめるように、一いち度どゼロになったとしても、人ひとは何なん度どだってやり直なおせる。

今いま作さくは、そうしたやり直なおしたいと願ねがう人ひとの声こえにも寄より添そってきたのだ。

山田やまだ監督かんとくに肩かたをたたかれ、赦ゆるしの言葉ことばが返かえってくると期待きたいした表情ひょうじょうで顔かおを上あげた遼りょう平たいらに告つげられたのは、尊敬そんけいする監督かんとくからの、何なによりの制裁せいさいの言葉ことば。

一度いちど間違まちがえてしまったことを無むしにはできない。

今いまは法律ほうりつ以外いがいにも社会しゃかい的てき制裁せいさいを受うけ、そしてデジタルタトゥーとして一生いっしょう治なおらない傷きずを負おう。

だがその背景はいけいには、それ以上いじょうに傷きずついた者ものたちがいる。

大おおきな声こえを上あげる者ものたちに隠かくれた、声こえを上あげられない多おおくの者ものたち。

今いま作さくの『声こえをあげることが大切たいせつだ』というテーマの中なかで、今こん話はなしが描えがいたのは『許ゆるされざる罪つみ』。

一人ひとりの青年せいねんの悲かなしい結末けつまつは残酷ざんこくでもあった。だが、ファスト映画えいがが、縮ちぢめた時間じかんに詰つまった誰だれかの大切たいせつな時間じかんを奪うばう行為こういという揺ゆるがない姿勢しせいを貫つらぬいたことに大おおきな意味いみがある。

誰だれもが忙せわしなく生いきる時代じだい。無駄むだや曖昧あいまいな時間じかんが淘汰とうたされる時代じだい。

羽はね男おとこのひとことが、今いま、どう響ひびいて聴きこえるだろうか。

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[文ぶん・構成こうせい／grape編集へんしゅう部ぶ]