おかっぱ

おかっぱ（御河童おかっぱ または犬いぬ耳みみ）は、主おもに女性じょせいの髪形かみがたの種類しゅるいのひとつ｡前髪まえがみを額がくに垂たらし切きり下さげ、後髪うしろがみを襟足えりあし辺あたりで真まっ直すぐに切きりそろえた髪型かみがたのこと。呼称こしょうは他たにおかっぱあたま、かっぱなど。かつての欧米おうべいでは少年しょうねんや少女しょうじょがよくしていた髪型かみがたで､日本にっぽんでも少女しょうじょの髪型かみがたとして主流しゅりゅうだった。現在げんざいでは、大人おとなの女性じょせいの髪型かみがたのボブカットとしても人気にんきがある。

美智子みちこ女王じょおう（昭和しょうわ初期しょき）

光子こうし女王じょおう（1930年代ねんだい）

歴史れきし

名前なまえは、文字通もじどおり河童かっぱに似にているということに由来ゆらいする。日本にっぽんでは、古ふるくは頭頂とうちょうを剃すり上あげたうえで周まわりの長髪ちょうはつを残のこして垂たれ流ながし、河童かっぱのようにした男性だんせいの髪型かみがたを「断髪だんぱつ」または「御河童おかっぱ頭あたま」と呼よんでいた。江戸えど時代じだいになると、こうした断髪だんぱつ頭あたまは刑罰けいばつを負おった者ものや世俗せぞくを離はなれて出家しゅっけした者ものの髪型かみがたとなり、「おかっぱあたま」といえば少女しょうじょの髪型かみがたを指さすようになった（少年しょうねんの場合ばあいは「稚児ちご頭あたま」〈ちごあたま〉と言いった）。

成人せいじん女性じょせいのショートヘアが一般いっぱんに広ひろまったのは、西欧せいおうでも第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん以後いごのことである。

1910年ねんのポレール

アリス・リデル（7歳さい）

1920年ねんの新聞しんぶん記事きじは「ボブヘアは我々われわれのものだ!」と宣言せんげんしている

歴史れきし的てきに、西洋せいようの女性じょせいは通常つうじょう髪かみを長ながくしていた。若わかい女子じょし、女優じょゆう、そして数すう人にんの「上流じょうりゅう」もしくはファッショナブルな女性じょせいは、第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせん前まえから短みじかい髪かみにしていたが—たとえば、1910年ねんにフランスの女優じょゆうポレールの「短みじかくて黒くろい髪かみのショック」 1890年代ねんだい初頭しょとうに彼女かのじょが採用さいようしたカット—等とう、戦争せんそうの仕事しごとに従事じゅうじする女子じょしが長ながい髪かみの不便ふべんさに気きづくまで、この髪形かみがたは一般いっぱん的てきに素敵すてきだとは見みなされなかったのである 。1909年ねん、世界せかい初はつの有名人ゆうめいじん美容びよう師しとなったポーランドの美容びよう師しでアントワン・デ・パリと呼よばれたアントニ・シエルプリコフスキーは、ジャンヌ・ダルクに触発しょくはつされたショートボブカットのファッションを採用さいよう。1920年代ねんだいに彼かれは大胆だいたんな若わかい女性じょせいに人気にんきのあるシングルカット、ブルームズベリーセットとフラッパーを発表はっぴょうした。彼かれのクライアントの中なかには、ココ・シャネル、ルーマニアのマリー王妃おうひ、サラ・ベルナール、グレタ・ガルボ、米国べいこくのファーストレディのエレノア・ルーズベルト、ブリジット・バルドーなどの世界せかい的てきに有名ゆうめいで個性こせい的てきな女性じょせいたちがいた。子供こどもの頃ころに髪かみをボブにしていた 英国えいこく社会しゃかいの美女びじょダイアナ・クーパーは、10代の間あいだこの髪形かみがたを維持いじし、1914年ねんまで続つづけていた。有名ゆうめいダンサーであり往時おうじのファッションのトレンドセッターであるアイリーン・キャッスルは、1915年ねんに彼女かのじょのスタイル「キャッスル・ボブ」を受容じゅよう的てきなアメリカの聴衆ちょうしゅうに紹介しょうかいし、1920年ねんまでにそのスタイルは急速きゅうそくにファッショナブルだと認識にんしきされ 1920年代ねんだい初頭しょとうに映画えいがスターのメアリー・サーマン によって、1920年代ねんだい半なかばから後半こうはんにかけてはコリーン・ムーアによって普及ふきゅう。アメリカでは、「フラッパー」と呼よばれた若わかい女性じょせいたちの間あいだで、この髪型かみがたが流行りゅうこうした。折おりしも直線ちょくせん的てきなスタイルのシャネルスーツと相あいまって、1920年代ねんだいを特徴とくちょうづけるアール・デコファッションのスタンダードとなったのである。また、同年代どうねんだい後半こうはんには女優じょゆうルイーズ・ブルックスが映画えいが『パンドラの箱はこ』でこの髪型かみがたの持もち味あじを活いかし、男おとこを破滅はめつさせる魔性ましょうの女おんなルルを演えんじたことでよく知しられている。日本にっぽんでも洋装ようそうの普及ふきゅうに伴ともない、昭和しょうわ初期しょきにモガのヘアスタイルとして、東京とうきょうその他たの大都市だいとしを中心ちゅうしんにおかっぱが流行りゅうこうした。

それでもフラッパーなどは若わかい女性じょせいのやや衝撃しょうげき的てきな独立どくりつの声明せいめいとして見みられていた程度ていどで、年配ねんぱいの者ものは依然いぜん長ながいドレスと重おもいエドワード風ふうの髪型かみがたの女子じょしを見みるのに慣なれており、主おもにロングヘアのアレンジとカーリングのトレーニングを行おこなっていた美容びよう師しも女性じょせい向むけのショートスタイルが到着とうちゃくしたことに気付きづくのが遅おそかったため、都心としんの多おおくの理髪りはつ店てんで店みせの外そとで女性じょせいの列れつを成なし、刈かられた髪かみの毛けが成長せいちょうするのを何なん年ねんも待まっていたという。

成人せいじん女性じょせいがこの髪型かみがたにすると少年しょうねんのような雰囲気ふんいきが出でるため、従来じゅうらいはモード系けいの髪型かみがたと受うけ止とめられていた。しかし、1970年代ねんだい後半こうはんから1980年代ねんだいにかけてアメリカの成人せいじん男性だんせいの間あいだでも流行りゅうこうしたうえ、同年代どうねんだい終盤しゅうばんからアメリカ版ばん『ヴォーグ』の編集へんしゅう長ちょうアナ・ウィンターが「看板かんばん」にすると、一般いっぱん的てきな髪型かみがたの1つとして定着ていちゃくした。1990年代ねんだい初頭しょとうにシンディ・ローパーが髪かみを非常ひじょうに珍めずらしい髪かみ色しょくとボブのヘアカットにしていた他ほか、その後ごも1994年ねんにクエンティン・タランティーノの映画えいが「パルプ・フィクション」でユマ・サーマンが演えんじたミア・ウォレス、英えい仏ふつアクションスリラー映画えいが「レオン」で、ナタリー・ポートマンが演えんじたマチルダらのキャラクターをボブのヘアカットで印象いんしょう付つけた。特とくに1992年ねんのアメリカ大統領だいとうりょう選挙せんきょ運動うんどう中ちゅう、ビル・クリントン候補こうほの妻つまヒラリー・クリントンがアレンジ版ばん「ソフトボブ」でマスコミに登場とうじょうするようになると、20代だいから40代だいの女性じょせいを中心ちゅうしんに爆発ばくはつ的てきなボブブームが起おこり、現在げんざいではこれが50代だい以上いじょうの女性じょせいにも波及はきゅうしている。

1990年代ねんだい半なかばから後半こうはん、TLCのT-Bozまた前髪まえがみと非対称ひたいしょうという非常ひじょうに珍めずらしいボブのヘアカットが出現しゅつげん。また、スーパーマンの新あたらしい冒険ぼうけんでロイスとクラークの第だい3シーズンの最初さいしょの2シーズンと最初さいしょの2つのエピソード、ロイス・レーン（演えんじ：テリー・ハッチャー）のキャラクターがトレードマークのボブのヘアカットという設定せっていであった。また、バリー・ソネンフェルドの1997年ねんの映画えいが「メン・イン・ブラック」では、ローレル・ウィーバー博士はかせ（演えんじ：リンダ・フィオレンティーノ）のキャラクターもボブカットであった。

2005年ねん11月、カナダのアイスダンサーであるクリスティーナ・レンコはITV1の新しんシリーズ「ダンシング・オン・アイス」への参加さんかを依頼いらいされた際さいに彼女かのじょはトロントのスタイリストのところに行いき「好すきなようにしてください」と言いって、スタイリストはレンコのウエストの長ながさの髪かみをAラインボブと呼よばれる姿すがたにカット。これは髪かみの毛けは後うしろが短みじかく、前まえに向むかって徐々じょじょに長ながくなり、最もっとも長ながい部分ぶぶんが顔かおの前まえに向むかっている。その後ご、元もとスパイス・ガールズのビクトリア・ベッカムは自分じぶんの髪かみをそのスタイルにカットすることを決きめ、美容びよう師しに「ポブ」（ベッカムのニックネームであるポッシュスパイスを「ボブ」と混同こんどう）を求もとめる女おんなの子こたちとともに、世界中せかいじゅうで人気にんきを高たかめるのに貢献こうけん。2006年ねんにボブは歌手かしゅのマドンナも採用さいようし、自由じゆう奔放ほんぽうに生いきるシックからの脱却だっきゃくの象徴しょうちょうとして、女優じょゆうのシエナ・ミラーも採用さいようする。

バリエーション

「童女どうじょ像ぞう（麗子れいこ花はな持もてる）」（1921年ねん、岸田きしだ劉生りゅうせい画が）

岸田きしだ劉生りゅうせい:童女どうじょ図ず/麗子れいこ立像りつぞう(1923年ねん，神奈川かながわ県立けんりつ近代きんだい美術館びじゅつかん)

あご丈たけボブの広瀬ひろせすず

ワカメちゃん頭あたま

• おかっぱは、一般いっぱん的てきに前髪まえがみや両側りょうがわを切きり揃そろえても、髪かみが襟首えりくびより長ながくなるとおかっぱとしては扱あつかわれなくなる場合ばあいが多おおい。また、後髪うしろがみが襟首えりくび辺あたりで切きられている場合ばあいでも、均等きんとうに切きり揃そろえられていなければ、おかっぱとは見みなされない場合ばあいもある。
• なお、サイドの前髪まえがみ部分ぶぶんの髪かみを両りょう頬ほおに当あたる位くらいに伸のばして切きり揃そろえただけで、後うしろ髪がみは長ながい場合ばあいの髪型かみがたは、一般いっぱんに「姫ひめカット」、または「プリンセスカット」と呼よばれている。
• 長ながい黒髪くろかみが女性じょせいの美徳びとくとされた平安へいあん時代じだいの宮廷きゅうてい女性じょせいは、出家しゅっけすると剃髪ていはつではなく、肩かたに僅わずかに掛かかる程度ていどに髪かみを切きり揃そろえていたが、このおかっぱのような髪型かみがたを尼あま削そぎという。
• 平安へいあん時代じだい以後いご、「尼あま削そぎ」は「禿かぶろ」（かむろ、かぶろ）等とうと呼よばれ大人おとなの尼あまの髪型かみがたと区分くぶんされるようになる。おかっぱは禿かぶろになる前まえの幼女ようじょの髪型かみがた、禿かぶろはおかっぱを過すぎた少女しょうじょの髪型かみがたとして認識にんしきされた。江戸えど時代じだい頃ごろになると「禿かぶろ」は単たんに少女しょうじょを指さす言葉ことばとしても使つかわれるようになり、遊女ゆうじょ見習みならいの少女しょうじょ（実際じっさいは禿かぶろだけではなく、弁髪べんぱつも多おおかった）の事ことも禿ちび（かむろ）と呼よぶようになった。
• ルイス・キャロルの『不思議ふしぎの国くにのアリス』『鏡かがみの国くにのアリス』の主人公しゅじんこうアリスのモデルとして知しられているアリス・プレザンス・リデルの幼少ようしょう時じの髪型かみがたもボブだった。
• サザエさんの妹いもうと磯野いそのワカメは後うしろを刈かり上あげたおかっぱ頭あたまで、連載れんさい当時とうじの少女しょうじょの定番ていばんの髪型かみがただったが、その髪型かみがたは「ワカメちゃんカット」と呼よばれ親したしまれた。
• 漫画まんが家かの永野ながののりこは、おかっぱ少女しょうじょをヒロインとした作品さくひんを多数たすう描えがいている。
• いわゆる「都市とし伝説でんせつ」や「学校がっこうの怪談かいだん」によく語かたられる『トイレの花子はなこさん』は、おかっぱが典型てんけい的てきなヘアスタイルとなっている。
• おかっぱは、古代こだいエジプトの女性じょせいの髪型かみがたとしても知しられる。ただし、実際じっさいには古代こだいエジプト人じんは男女だんじょ問とわず頭髪とうはつを剃そるか短みじかく刈かりこんでいる。古代こだいエジプト女性じょせいのおかっぱは、カツラによるものである。

タイプ

• 
  Aラインボブ
• 
  逆ぎゃくボブ
• 
  シングルボブ
• 
  あご丈たけボブのハニ

• Aラインボブ：典型てんけい的てきなボブカットで、顔かおを縁えん取とる前まえに少すこし長ながい髪かみがあり、通常つうじょうはあごの下したでカールさせる
• バズカットボブ：前まえは肩かたまでの長ながさで、後うしろは細こまかくトリミングされている
• あご丈たけボブ：前髪まえがみの有無うむにかかわらず、あごでまっすぐにカット
• 逆ぎゃくボブ：Aラインボブに似にているが、後うしろに積つみ重かさねられたレイヤーがあり、直線ちょくせんではなく湾曲わんきょくさせる。このカットは一般いっぱんに「段階だんかい的てきボブ」とも呼よばれる
• シャギーボブ：レザーを重かさねた乱雑らんざつなボブ
• シングルボブ：毛け先さきが非常ひじょうに短みじかく先細さきほそになっているカットで、首くびの生はえ際ぎわを露出ろしゅつさせる。側面そくめんの髪かみは各かく頬ほお単一たんいつカールまたはポイントを形成けいせい
• 肩かた丈たけボブ：肩かたに届とどくくらいの、レイヤーが非常ひじょうに少すくない鈍にぶいボブ
• 切きりっぱなしボブ：毛け先さきをぱつっとカットしたボブ。ブラントカットボブとも呼よばれる
• ミニボブ：顎あごライン付近ふきんでカットした短みじかめボブ

関連かんれん項目こうもく

• ぱっつん
• マッシュルームカット