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ゲシュタルト心理学 - Wikipedia

ゲシュタルト心理しんりがく(ゲシュタルトしんりがく、Gestalt Psychology)とは、心理しんりがくいち学派がくは形態けいたい心理しんりがくともいう[1]ひとつの図形ずけいのように個々ここ要素ようそ総和そうわ以上いじょうのまとまりのある形態けいたいをゲシュタルトという[1]精神せいしん意識いしきをゲシュタルトとしてみる立場たちばから考察こうさつする心理しんりがく[1]人間にんげん精神せいしんを、部分ぶぶん要素ようそ集合しゅうごうではなく、全体ぜんたいせい構造こうぞう重点じゅうてんいてとらえる。この全体ぜんたいせいったまとまりのある構造こうぞうドイツゲシュタルト(Gestalt形態けいたい)とぶ。

ゲシュタルト心理しんりがくは、ヴント中心ちゅうしんとした要素ようそ主義しゅぎ構成こうせい主義しゅぎ心理しんりがくたいする反論はんろんとして、20世紀せいき初頭しょとうドイツにて提起ていきされた経緯けいいつ。精神せいしん分析ぶんせきがく行動こうどう主義しゅぎ心理しんりがくくらべると、元々もともと心理しんりがくちかいとえる。とくユダヤけい学者がくしゃおおかったことなどもあって、ナチス台頭たいとうしてきた時代じだいに、どう学派がくは主要しゅよう心理しんり学者がくしゃだい部分ぶぶんアメリカ亡命ぼうめいした(例外れいがいてきヴォルフガング・ケーラーのみはバルト・ドイツじん出身しゅっしん)。そのどう学派がくはかんがかた知覚ちかく心理しんりがく社会しゃかい心理しんりがく認知にんち心理しんりがくなどにがれた。自然しぜん科学かがくてき実験じっけん主義しゅぎてきアプローチや、全体ぜんたいせい考察こうさつ力学りきがく概念がいねんれたことなど、現代げんだい心理しんりがくあたえた影響えいきょうおおきい。

日本にっぽん研究けんきゅうしゃでは、ケーラーのもとでまなんだ佐久間さくまかなえなどがいる。言語げんご学者がくしゃでもあった佐久間さくま発音はつおんにもこだわり、より原語げんご発音はつおんちかい「ゲシタルト」としょうした。現在げんざいでも、「ゲシュタルト心理しんりがく」ではなく「ゲシタルト心理しんりがく」というかたりもちいる研究けんきゅうしゃもいる。

概要がいよう

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構成こうせい主義しゅぎ要素ようそ主義しゅぎ立場たちばでは、人間にんげん心理しんり現象げんしょう要素ようそ総和そうわによるものであり、視覚しかく聴覚ちょうかくなどの刺激しげきには、個々ここにその感覚かんかく認識にんしきなどが対応たいおうしているとかんがえられている。たとえば既知きちメロディ認識にんしきする過程かていでは、ひとひとつのおとたいして記憶きおく対照たいしょうした認知にんちがあり、その総和そうわがメロディーの認識にんしき構成こうせいするとかんがえる。

これにたいする反論はんろんとしては、移調いちょうした既知きち旋律せんりつであっても、おな旋律せんりつであると認識にんしき出来できこと説明せつめいにならないというものがある。ひとひとつのおと既知きち旋律せんりつとはちがっていても、移調いちょうしただけであれば、実際じっさいおなじものであるとひと認識にんしきできる、というものである。

このこと説明せつめいするために提唱ていしょうされたのが、ゲシュタルト性質せいしつという概念がいねんである。

ゲシュタルト心理しんりがくもっと基本きほんてきかんがかたは、知覚ちかくたん対象たいしょうとなる物事ものごと由来ゆらいする個別こべつてき感覚かんかく刺激しげきによって形成けいせいされるのではなく、それら個別こべつてき刺激しげきには還元かんげん出来できない全体ぜんたいてき枠組わくぐみによっておおきく規定きていされる、というものである。ここで、全体ぜんたいてき枠組わくぐみにあたるものはゲシュタルト(形態けいたい)とばれる。

たとえば果物くだものかれたて、それがせんてん集合しゅうごうではなく「りんご」であるようにえることや、映画えいが複数ふくすうのコマが映写えいしゃされているのではなくうごいているようにえることは、ゲシュタルトのはたらきの重要じゅうようせいかんがえさせられるれいである。

ベルリン学派がくはぞくする M. ヴェルトハイマーW. ケーラーK. コフカK. レヴィンらが中心ちゅうしんてき存在そんざいである。

プレグナンツの法則ほうそく

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ヴェルトハイマーは、人間にんげんがゲシュタルトを知覚ちかくするときの法則ほうそくについて考察こうさつし、以下いかげるような法則ほうそく(プレグナンツの法則ほうそくlaw of prägnanz、プレグナンツとは「簡潔かんけつさ」の)をしめした。これらは知覚ちかくによるものだが、研究けんきゅう記憶きおく学習がくしゅう思考しこうなどにもてはめられること判明はんめいしている。

近接きんせつ要因よういん

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近接きんせつしているもの同士どうしはひとまとまりになりやすい。たとえば以下いかでは、近接きんせつしている2つのたてせんがグループとして知覚ちかくされる。はなれたたてせん同士どうしはグループにはりにくい。空間くうかんてきなものだけでなく、時間じかんてきにもちかいものは、まとまって認識にんしきされやすい。

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類同るいどう要因よういん

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いくつかの刺激しげきがあるとき同種どうしゅのもの同士どうしがひとまとまりになりやすい。以下いかでは、くろ四角しかくしろ四角よつかどのグループが交互こうごならんでいるように知覚ちかくされる。白黒しろくろ黒白くろしろのグループが交互こうごならんでいるようには知覚ちかくされにくい。

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閉合の要因よういん

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たがいにじあっているもの同士どうしじた領域りょういき)はひとまとまりになりやすい。たとえば以下いかでは、じた括弧かっこ同士どうしがグループをすように認識にんしきされる。〕と〔 同士どうしでは、グループとして認識にんしきされにくい。

〕〔   〕〔   〕〔   〕〔

よい連続れんぞく要因よういん

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いくつかの曲線きょくせんになり刺激しげきがあるとき、よい曲線きょくせん(なめらかな曲線きょくせん)として連続れんぞくしているものは1つとしてられる。たとえば、「ベン図べんず」(2つのえん一部分いちぶぶんかさなった数学すうがく教科書きょうかしょなどで、集合しゅうごう解説かいせつによくもちいられる)では、「えんが2つある」と認識にんしきされ、「けたえんが2つと、ラグビーボールのようなかたちが1つある」とは認識にんしきされにくい。 なお、「よい連続れんぞく要因よういん」と法則ほうそくとして「よいかたち要因よういん」(よいかたちとは規則きそくてきかたちあらわす)もある。

歴史れきしてき経緯けいい主要しゅよう人物じんぶつ

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ドイツの心理しんりがくには、ベルリン学派がくはあるいはフランクフルト/ベルリン学派がくはばれる学派がくは存在そんざいしていた。これは主要しゅよう心理しんり学者がくしゃたかっていたふたつの大学だいがく名前なまえしている[2]マックス・ヴェルトハイマーはプラハ大学だいがく法学ほうがくまな卒業そつぎょうしたのち、ベルリン大学だいがくおよびヴェルツブルク大学だいがく心理しんりがく研究けんきゅうするようになった[2]。プラハ大学だいがくでエーレンフェルスの講義こうぎ、ベルリン大学だいがくでシュトゥンプの講義こうぎいた[2]。 ヴェルトハイマーは1912ねん運動うんどう知覚ちかくかんする画期的かっきてき論文ろんぶん運動うんどう実験じっけんてき研究けんきゅう』を発表はっぴょうした[2]。(これはワトソンの行動こうどう主義しゅぎ宣言せんげん前年ぜんねん発表はっぴょうしたことになる。)

ヴェルトハイマーによる実験じっけんでは、当時とうじフランクフルト大学だいがく助手じょしゅをしていたケーラーとコフカおよびコフカ夫人ふじんの3にん被験者ひけんしゃとなった。ほそせんふとせん使つかうとせん拡張かくちょうするようにえたり、水平すいへいせん[ - ]と45せん [ / ]を連続れんぞくして提示ていじするとせんかく運動うんどうしているようにえたりした。どちらも実際じっさいには物理ぶつりてきには存在そんざいしないうごきがえるので、これをかりげん運動うんどうとかファイ現象げんしょうんだ。(φふぁいは「現象げんしょう」を意味いみするドイツPhänomenの頭文字かしらもじ[3]

それ以前いぜん、ヘルムホルツやヴントなどはかりげん運動うんどう原因げんいんとして眼球がんきゅう運動うんどうとの連合れんごうかんがえたが、それにたいしヴェルトハイマーは、なか刺激しげき左右さゆう同時どうじかれる刺激しげき図形ずけい実験じっけんもちいて、眼球がんきゅう運動うんどうかりげん運動うんどう必要ひつよう条件じょうけんではないことを実証じっしょうした。また、グラーツ学派がくはは「さき感覚かんかくがあってゲシュタルトしつがその感覚かんかくデータに付与ふよされる」とかんがえていたが、ヴェルトハイマーはそうではなく、最初さいしょから感覚かんかくのなかにゲシュタルトがまれているとろんじた[4]。コフカはの1935ねんゲシュタルトと体制たいせいはほぼおな意味いみであるとろんずるようになった[4]人間にんげん刺激しげき単純たんじゅん明快めいかい方向ほうこうへと知覚ちかくしようとする傾向けいこうがあり、これをヴェルトハイマーはプレグナンツの法則ほうそくんだ。

ヴォルフガング・ケーラーは、だいいち大戦たいせんちゅう、アフリカ北西ほくせいカナリア諸島かなりあしょとうのテネリフェとうにある類人猿るいじんえん研究所けんきゅうじょでチンパンジーをもちいた実験じっけんおこなっていた。チンパンジーがあたらしい方法ほうほう天井てんじょうからがったバナナをることを観察かんさつし、試行錯誤しこうさくご学習がくしゅう対比たいひして、これを洞察どうさつ学習がくしゅうび、研究けんきゅう成果せいかを『類人猿るいじんえん知恵ちえ試験しけん』というほんにまとめた(1917、1921)[5]。ケーラーはプレグナンツの法則ほうそく成立せいりつする背景はいけいには、それと類似るいじしたのう中枢ちゅうすう過程かていがあるとかんがえた。いちれいげると、ある空間くうかんてき構造こうぞうがそのように体験たいけんされ知覚ちかくされるのはのうない基盤きばんとなる過程かてい機能きのうてき対応たいおうしているからだ、としている[5]。このようなかんがかた心理しんり物理ぶつり同型どうけいせつ(psychophysical isomorphism)とばれている。

クルト・レヴィンは1930年代ねんだいにヴェルトハイマーら3にん一緒いっしょ研究けんきゅうしたことや、ベルリン大学だいがく学位がくいをとった関係かんけいでゲシュタルト心理しんり学者がくしゃのひとりとされている[6]。レヴィンは体験たいけんつうじて構造こうぞうされる空間くうかん興味きょうみしめし、それをやがて生活せいかつ空間くうかんぶようになった。ケーラーが心理しんり物理ぶつりてき理論りろんかんがえていたのとは対照たいしょうてきに、レヴィンは純粋じゅんすい心理しんりてき理論りろんかんがえた[6]。これはトポロギー心理しんりがく(トポロジー心理しんりがくTopologie psychology)との名称めいしょうられるようになった。Topologieとは位相いそう幾何きかがくという意味いみである。

レヴィンはゲシュタルト心理しんりがく人間にんげん個人こじんだけでなく集団しゅうだん行動こうどうにも応用おうようした。集団しゅうだんないにおける個人こじん行動こうどうは、集団しゅうだんのエネルギーじょう、すなわち集団しゅうだんがもつ性質せいしつやどんな成員せいいんがいるのかといったことなどによって影響えいきょうけるとかんがえ、これによりグループ・ダイナミックス集団しゅうだん力学りきがく)をした[6]。このグループ・ダイナミックスはやがて感受性かんじゅせい訓練くんれんなどにも応用おうようされ、臨床りんしょうてき分野ぶんやへとひろがっていった。また、レヴィンは、米国べいこくわたってから政治せいじてき社会しゃかいてき問題もんだいにも関心かんしんしめし、実践じっせんてき方法ほうほうとしてアクション・リサーチ提唱ていしょうし、社会しゃかい心理しんりがくなどにも影響えいきょうあたえた[6]

ベルリン学派がくは主要しゅような4にん全員ぜんいん米国べいこくわたり、そのくなっている。1933ねんにドイツでナチスが政権せいけんにぎるとユダヤじん学者がくしゃ教壇きょうだんから追放ついほうされた。当時とうじ15にんいたドイツの心理しんりがく教授きょうじゅのうち5にん失職しっしょくした。コフカは米国べいこくスミス大学だいがく教授きょうじゅとして、晩年ばんねんまでゲシュタルト心理しんりがく普及ふきゅうつとめた。なかでも1935ねん英語えいご発表はっぴょうされた『ゲシュタルト心理しんりがく原理げんり』は網羅もうらてきなものであり、ゲシュタルト心理しんりがく知覚ちかく理論りろんにとどまらないことを人々ひとびとひろらしめた。ケーラーはユダヤじんではなかったが、職場しょくばのベルリン大学だいがくへの政府せいふ介入かいにゅうきらい1935ねん米国べいこく亡命ぼうめいした。レヴィンは1933ねん海外かいがい講義こうぎおこなうために旅行りょこうており、日本にっぽんからロシアへのたび途中とちゅうでナチス政権せいけんについてき、ドイツにもどらず米国べいこく亡命ぼうめいした[6]

ゲシュタルト心理しんりがくはドイツや日本にっぽんおおきな潮流ちょうりゅうとなった[7]

米国べいこくではドイツや日本にっぽんほどではなかった。というのは主要しゅよう用語ようご概念がいねん英語えいごという外国がいこくではうまく表現ひょうげんできず、曖昧あいまいなものとかんがえられたことなどがげられる[7]結局けっきょくゲシュタルトやプレグナンツという用語ようご英語えいごではなくドイツのまま使用しようされた[7]。だが、自身じしんをゲシュタルト心理しんり学者がくしゃものすくないものの、ゲシュタルト心理しんりがく接近せっきんしたエドワード・トールマンがのちの認知にんち心理しんりがく成立せいりつあたえた影響えいきょうや、グループ・ダイナミックスが社会しゃかい心理しんりがく行動こうどう科学かがく発展はってんたした役割やくわり考慮こうりょすると、むしろゲシュタルト心理しんりがくがアメリカの主流しゅりゅう心理しんりがくながれをえたのだとってもよさそうである[7]

ゲシュタルト心理しんりがく展開てんかい

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ゲシュタルトの基本きほんてき概念がいねんとして、対象たいしょう全体ぜんたいとしてとらえるということえる。

たとえば音楽おんがくは、個々ここおといたときよりもおおきな効果こうかあたえる。図形ずけいもまた、中途半端ちゅうとはんぱせんてんであっても、まる三角さんかくなどそれを人間にんげんがパターンをおぎなって理解りかいする(ぎゃく錯覚さっかく誤解ごかいこす原因げんいんともえる)。

ゲシュタルト心理しんりがく被験者ひけんしゃ人間にんげんかんじることを整理せいり分類ぶんるいして、人間にんげん感覚かんかく構造こうぞう研究けんきゅうした。そのため、図形ずけいによる印象いんしょうなどの研究けんきゅう中心ちゅうしんであった。

コンピュータ科学かがくへの応用おうよう

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近接きんせつ類同るいどう原理げんりが、ラジオボタンの配置はいちとう、コンピュータのユーザインタフェース設計せっけい応用おうようされる。またコンピュータによる画像がぞう解析かいせきコンピュータビジョン)にも応用おうようされている。

出典しゅってん

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  1. ^ a b c 室内しつないがく入門にゅうもん建築資料研究社けんちくしりょうけんきゅうしゃ、1995ねん、106ぺーじ 
  2. ^ a b c d ながれを心理しんりがく』、52ぺーじ
  3. ^ ながれを心理しんりがく』、53ぺーじ
  4. ^ a b ながれを心理しんりがく』、54ぺーじ
  5. ^ a b ながれを心理しんりがく』、55ぺーじ
  6. ^ a b c d e ながれを心理しんりがく』、56ぺーじ
  7. ^ a b c d ながれを心理しんりがく』、57ぺーじ

文献ぶんけん

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  • サトウタツヤ・高砂たかさご美樹みきながれを心理しんりがく-世界せかい日本にっぽん心理しんりがく有斐閣ゆうひかく有斐閣ゆうひかくアルマ〉、2003ねんISBN 9784641121959 

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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