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トリスタン - Wikipedia

トリスタン

『アーサーおう物語ものがたり』などに登場とうじょうする伝説でんせつ人物じんぶつ

トリスタンえい: Tristan)またはトリストラムえい: Tristram)は、『トリスタンとイゾルデ』や『アーサーおう物語ものがたり』などに登場とうじょうする伝説でんせつ人物じんぶつ。アーサーおう伝説でんせつにおいては「円卓えんたく騎士きし」の一人ひとりとなっている。

「トリスタン」という名前なまえピクトけいであり、またトリスタンの父親ちちおや名前なまえもピクトけいであることからトリスタンの起源きげんピクトじん伝承でんしょうにあるのではないかとおもわれている。そして、この物語ものがたりコーンウォールて、ブルターニュへ、そして西洋せいよう各地かくちうつったとられる。

フィリップ・ヴァルテール『アーサーおう神話しんわだい事典じてん』(渡邉わたなべ浩司こうじ渡邉わたなべ裕美子ゆみこやく)は、トリスタンぞうを、<ドラゴンごろし><狩人かりゅうど><狡知こうちにたけたもの><メランコリー><楽師がくし>というキーワードをもちいてあらわし、その多面ためんせい指摘してきしている(関連かんれん書籍しょせき 268-270ぺーじ)。

中世ちゅうせいヨーロッパの散文さんぶんトリスタンとイゾルデ』、または『トリスタン物語ものがたり』の主要しゅよう人物じんぶつである。もともと『アーサーおう伝説でんせつ』とはべつ伝説でんせつであったが、『散文さんぶんのトリスタン以後いごアーサーおう物語ものがたりにもまれた。マロリーばんでは中盤ちゅうばんにおいてランスロットきょうとともに実質じっしつてき主人公しゅじんこうとして活躍かつやくする。一方いっぽう、フランスの『散文さんぶんランスロ』を下敷したじきにしたきたイタリアのトリスタン物語ものがたり傑作けっさく円卓えんたく物語ものがたり』においては、トリスタン(トリスターノ)がランスロット(ランチャロット)を「騎士きしどうにおいても恋愛れんあいにおいても凌駕りょうがしている」[1]。また、ウェールズばん『トリスタン』の「テーマはトリスタンとイズーのもりへの逃亡とうぼうとマルクによる恋人こいびとたちの追跡ついせきであり、マルクはアーサーを同行どうこうさせる。トリスタンには魔術まじゅつてきちからがあり、かれ怪我けがわせるものは、かれ怪我けがわせるあらゆるてきおなじくいのちとす」とされる[2]

フランス語ふらんすごでの名称めいしょうはトリスタン[3]、ドイツではトリスタン[4]ないしトリストラント[5]、イタリアでトリスターノ[6]とされる[7]

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トリスタンの伝説でんせつ各地かくちつたえられているため、はんによって一致いっちしないことがおおい。おおくのはん共通きょうつうするのは、トリスタンはリオネスの王子おうじというてんと、トリスタンの出生しゅっしょうまえ父親ちちおやうしなった(ゴットフリートばんなど)、あるいは父親ちちおや母親ははおや以外いがい女性じょせい関係かんけいち、家庭かていかえってこなくなった(マロリーばん)というかなしみから母親ははおやに「トリスタン(かなしみの)」とづけられたてんである。

以下いかにおいて粗筋あらすじ紹介しょうかいするが、これはおおくのはん共通きょうつうするところを紹介しょうかいするものであり、細部さいぶことなるバージョンは無数むすう存在そんざいする。

ゴットフリートばんでは、両親りょうしん名前なまえは、リオネス(ライオネス)のおうメリオダス王妃おうひブランシュフルール。これが、マロリーはんでははは名前なまえがエリザベスとなっていたりする。また、マークおうにしても、マロリーばんやゴットフリートばんでは母方ははかた叔父おじであるが、父方ちちかた叔父おじとなっているはんもある。

いずれにしろ、トリスタン伝説でんせつにおいて両親りょうしん物語ものがたりだしのみに登場とうじょうするだけであり、中盤ちゅうばん以降いこう登場とうじょうしなくなる。そのあとは、トリスタンは叔父おじであるコーンウォールのマルクおうしたせることになる。

イゾルデとの関係かんけい

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『トリスタンとイゾルデ』 (ジョン・ダンカン/、1912)

アイルランドの使者ししゃとして、モルオルトが、コーンウォールに貢物みつぎもの要求ようきゅうするが、マルクおうはこれを拒絶きょぜつ事態じたいがこじれたので、モルオルトとトリスタンが決闘けっとうすることになるが、トリスタンはモルオルトに勝利しょうりする。敗北はいぼく重傷じゅうしょうったモルオルトは、やっとのことでアイルランドに帰還きかんしたが、直後ちょくご死亡しぼうする。このモルオルトがアイルランドの王族おうぞくであったため、のち恋人こいびととなるアイルランドのイゾルデとのあいだ確執かくしつしょうじることになる。

一方いっぽう、モルオルトのけんにはどくられていたため、トリスタンも傷口きずぐち腐敗ふはいするという重傷じゅうしょうい、きず治療ちりょうできるのは、アイルランドのイゾルテのみであった(イゾルテの母親ははおやであるアイルランド王妃おうひとするはんもあり)。モルオルトをころしたトリスタンはアイルランドのかたきとなっているので、トリスタンは「タントリス」(英語えいごばんのように名前なまえがトリストラムとなっている場合ばあいは「トラムトリスト」)という本名ほんみょうをもじった偽名ぎめい名乗なのり、アイルランドにわたる。そこで身分みぶんかくして治療ちりょうけるかたわら、イゾルデひめしんかよわせあう。しかし、治療ちりょうわると、トリスタンはコーンウォールに帰国きこくする。

コーンウォール帰国きこく、たびたびトリスタンがイゾルデのうつくしさをくちにすると、いまだに独身どくしんであったマルクおう興味きょうみち、トリスタンにたいしイゾルデをつまとしたいかられてるように、との命令めいれいす。マルクおうがトリスタンにこのような命令めいれいをした理由りゆうとして、はんによってトリスタンの功績こうせきうらやんだ廷臣ていしんくちした、あるいはマルクおう自身じしんがトリスタンをきらっていたとの説明せつめいはいることが一般いっぱんてきである。

再度さいどのアイルランド入国にゅうこくたしたトリスタンは、りゅう退治たいじしたり、正体しょうたいあきらかになったことでモルオルトごろしの責任せきにん追及ついきゅうされたりもするが、アイルランドおうからゆるしをもらい、イゾルデをコーンウォールにかえる。このときかえりのふねで、トリスタンとイゾルデがよぎって媚薬びやくんだことから、おたがあいうようになり、これがこう不幸ふこう伏線ふくせんとなる。

マルクおうとの確執かくしつ

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無事ぶじにイゾルデとマルクおう結婚けっこんさせたが、これからトリスタンはマルクおうとの確執かくしつくるしむことになる。ばんによっては、この結婚けっこん以前いぜんにトリスタンがイゾルデの処女しょじょうばってしまっていたため、マルクおうとの初夜しょやにおいてイゾルデの代理だいりとして侍女じじょをよこすエピソードや、不倫ふりんをしているとのうたがいをらすために、策略さくりゃくもちいたりするエピソードが存在そんざいする。

マルクおう性格せいかくは、はんによって様々さまざま相違そういがあり、トリスタンをうらや廷臣ていしん讒言ざんげんされ、こころならずもイゾルデとのなかうたがうという、好意こういてき人物じんぶつえがかれることもあれば、トリスタンをきらいぬく悪人あくにんとされるはんもある。いずれにせよ、トリスタンは宮廷きゅうていない確執かくしつえられず、コーンウォールをることになる。

トリスタンの最期さいご

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コーンウォールをたトリスタンは、たび途中とちゅうはんによって出自しゅつじことなるが、かつての恋人こいびと同名どうめいである「イゾルデ」という女性じょせい出会であう。これ以降いこう2人ふたりのイゾルデを区別くべつするため、アイルランドのイゾルデひめは「金髪きんぱつのイゾルデ」あるいは「うつくしいイゾルデ」とばれ、ここで登場とうじょうした女性じょせいは「しろのイゾルデ」とばれることになる。

トリスタンは「しろのイゾルデ」と結婚けっこんする。彼女かのじょ結婚けっこんした理由りゆうとして、名前なまえになったから、「しろのイゾルデ」あるいは「しろのイゾルデ」のあに友人ゆうじんになったから、などと説明せつめいされる。しかし「金髪きんぱつのイゾルデ」のことがわすれられなかったトリスタンは、「しろのイゾルデ」とゆかおなじにすることはなかった、と説明せつめいはいることがおおい。

そんなある、ふとしたきっかけからトリスタンは瀕死ひんし重傷じゅうしょうってしまう。これを治療ちりょうできるのは「金髪きんぱつのイゾルデ」しかいない、ということで使者ししゃがアイルランドに派遣はけんされる。このとき、トリスタンは、かえりのふねにイゾルデがっているならしろを、っていないならくろかかげてくれるように依頼いらいする。はたして、「金髪きんぱつのイゾルデ」をせたアイルランドのふねがやってきた。もはやうごきもままならないトリスタンはつまである「しろのイゾルデ」にいろたずねるが、彼女かのじょ嫉妬しっとから「くろです」とこたえてしまう。このこたえに絶望ぜつぼうし、気力きりょくをなくしたトリスタンは、「金髪きんぱつのイゾルデ」の到着とうちゃくたず死亡しぼうした。

アーサーおう物語ものがたりでの活躍かつやく

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マロリーばんなどでのトリスタンきょうは、マークおう確執かくしつからコーンウォールをのち円卓えんたく騎士きしとして数々かずかず活躍かつやくをするエピソードが追加ついかされている。ただし『トリスタンとイゾルデ』と『アーサーおう物語ものがたり』は、もともとべつ系統けいとう物語ものがたりなので、さまざまな整合せいごうせいのとれないてんられる。たとえば、マルクおうはコーンウォールのおうという設定せっていだが、『アーサーおう物語ものがたり前半ぜんはんでは、アーサーおうははであるイグレーヌの前夫ぜんふ、ゴルロイスがコーンウォールこうとして領地りょうち支配しはいしていることになっている。一方いっぽうのマルクおうは、物語ものがたり初期しょきのブリテンの統一とういつ戦争せんそう終幕しゅうまくカムランのたたかなどに登場とうじょうしないが、トリスタンきょうにかかわる中盤ちゅうばんのみに領主りょうしゅとして登場とうじょうする。

また、マロリーばんでは、トリスタンきょうはイゾルデいちすじというわけではなく、イゾルデの登場とうじょうまえに、セグワリデス婦人ふじん恋仲こいなかだったとするエピソードも挿入そうにゅうされている。さらに叔父おじのマルクおうもセグワリデス婦人ふじん懸想けそうしており、このときからマルクおうとトリスタンきょう対立たいりつ関係かんけいにある。

武勇ぶゆうにおいて、トリスタンきょう円卓えんたく最高さいこう騎士きしであるランスロットきょうとならぶ騎士きしであり、数々かずかず武勲ぶくんのこしている。交友こうゆう関係かんけいとしては、ランスロットきょうラモラックきょうディナダンきょうらとなかがよい。また、イゾルデに恋心こいごころいだパロミデスきょう対立たいりつし、のちには友人ゆうじんとなるエピソードが比較的ひかくてきよくかたられる。

あるやり試合しあいで、「アーサーおうてきかたについて、すぐれた円卓えんたく騎士きしかすほう名誉めいよられるだろう」というパロミデスきょう提案ていあんり、変装へんそうしたうえでパロミデスきょうガレスきょう、ディナダンきょうの4にんガウェインきょうらをはじめとする円卓えんたく騎士きしおおくをたおしたりもしている。

マロリーばんでは、「しろのイゾルデ」と結婚けっこんするものの、「金髪きんぱつのイゾルデ」をあいつづけ、ついには「金髪きんぱつのイゾルデ」とする。グェネヴィア王妃おうひとの不倫ふりん関係かんけいにあったランスロットきょうが、「よろこびのしろ」を2人ふたりまいとして提供ていきょうし、しあわせな日々ひびおくることとなる。パロミデスきょうキリスト教きりすときょう改宗かいしゅうさせたのち、トリスタンきょう物語ものがたり登場とうじょうしなくなる。

その、ランスロットきょうらのくちから世間せけんはなしのひとつとして「マルクおう和解わかいして、イゾルデは結局けっきょくアイルランドへかえされた。だが、マルクおうはトリスタンきょうひどうらみ、イゾルデのまえ竪琴たてごといているトリスタンきょう背後はいごから心臓しんぞういちとっきにして殺害さつがいした」とかたられる。

また、マロリーばんには登場とうじょうしないが、イタリアスペイン騎士きし物語ものがたりでは、トリスタンきょうは「金髪きんぱつのイゾルデ」とのあいだ男女だんじょ1にんずつの子供こどもをもうけたとするものもある。なお、このトリスタンきょう同名どうめい息子むすこ・トリスタン2せいはコーンウォールのおうとなり、カスティリャおういもうと結婚けっこんするなどのエピソードがある[8]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 狩野かの晃一こういちきたイタリアのトリスタン物語ものがたり円卓えんたく物語ものがたり』」渡邉わたなべ浩司こうじ編著へんちょ『アーサーおう伝説でんせつ研究けんきゅう 中世ちゅうせいから現代げんだいまで』(中央大学ちゅうおうだいがく出版しゅっぱん 2019)164ぺーじ
  2. ^ ナタリア・ペトロフスカイア(渡邉わたなべ浩司こうじやく)「中世ちゅうせいウェールズ文学ぶんがくにおけるグワルフマイ」渡邉わたなべ浩司こうじ編著へんちょ『アーサーおう伝説でんせつ研究けんきゅう 中世ちゅうせいから現代げんだいまで』(中央大学ちゅうおうだいがく出版しゅっぱん 2019)363ぺーじ。なお、この論文ろんぶんのターゲットであるウェールズめい「グワルフマイ Gwalchmai」はフランス語ふらんすごめい「ゴーヴァン Gauvain」、英語えいごめい「ガウェイン Gawain」、ドイツめい「ガーヴェイン Gâwein、あるいはガーヴァーン Gâwân」に相当そうとうする円卓えんたく騎士きしはなであり、かれがこの作品さくひんではトリスタンとアーサーとの和解わかいみちびく。
  3. ^ ふつ: Tristan
  4. ^ どく: Tristan
  5. ^ どく: Tristrant
  6. ^ : Tristano
  7. ^ アーサーおう - その歴史れきし伝説でんせつ』、10ぺーじ; 狩野かの晃一こういちきたイタリアのトリスタン物語ものがたり円卓えんたく物語ものがたり』」渡邉わたなべ浩司こうじ編著へんちょ『アーサーおう伝説でんせつ研究けんきゅう 中世ちゅうせいから現代げんだいまで』(中央大学ちゅうおうだいがく出版しゅっぱん 2019)147ぺーじ
  8. ^ 図説ずせつアーサーおう伝説でんせつ事典じてん』の「トリスタン」、および「トリスタン2せい」の項目こうもく [ようページ番号ばんごう]

参考さんこう文献ぶんけん

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  • コグラン, ローナン『図説ずせつアーサーおう伝説でんせつ事典じてん山本やまもと史郎しろうわけ、1996ねん8がつISBN 978-4-562-02834-4 
  • バーバー, リチャード『アーサーおう - その歴史れきし伝説でんせつ高宮たかみや利行としゆきわけ東京書籍とうきょうしょせき、1983ねん10がつISBN 978-4-487-76005-3 

関連かんれん書籍しょせき

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  • 佐佐木ささき茂美しげみ「『トリスタン物語ものがたり』-変容へんようするトリスタンぞうとその<物語ものがたり>」(人文研じんぶんけんブックレット30)、中央大学ちゅうおうだいがく人文じんぶん科学かがく研究所けんきゅうじょ、2013ねん3がつ
  • 渡邉わたなべ浩司こうじ「トリスタン」、『かみ文化ぶんか事典じてん白水しろみずしゃ、2013ねん、pp.366-368.
  • 渡邉わたなべ浩司こうじ「アーサーおう物語ものがたりにおける固有こゆうめい神話しんわがく(その2)-トリスタンのをめぐって」、中央大学ちゅうおうだいがく人文研じんぶんけん紀要きようだい49ごう(2003ねん10がつ)、pp.237-268.
  • フィリップ・ヴァルテール『アーサーおう神話しんわだい事典じてん』〔Philippe Walter, ”Dictionnaire de mythologie arthurienne”. Paris: Imago 2014〕( 渡邉わたなべ浩司こうじ渡邉わたなべ裕美子ゆみこやくはら書房しょぼう 2018 ISBN 978-4-562-05446-6
  • 渡邉わたなべ浩司こうじ編著へんちょ『アーサーおう伝説でんせつ研究けんきゅう 中世ちゅうせいから現代げんだいまで』(中央大学ちゅうおうだいがく出版しゅっぱん 2019)ISBN 978-4-8057-5355-2