信用しんよう収縮しゅうしゅく

信用しんよう収縮しゅうしゅく（しんようしゅうしゅく、credit crunch、別名べつめい：信用しんよう危機きき、信用しんよう逼迫ひっぱく、credit crisis, credit squeeze）とは、融資ゆうし枠わく（または信用しんよう枠わく、availability of loans (or credit)）の縮小しゅくしょう、あるいは銀行ぎんこうの融資ゆうし条件じょうけんの急激きゅうげきな厳格げんかく化か、という現象げんしょうである。一般いっぱん的てきに、信用しんよう収縮しゅうしゅくは公的こうてき金利きんりの上昇じょうしょうと無関係むかんけいな信用しんよう枠わくの縮小しゅくしょうを含ふくむ。このような状況じょうきょう下かでは、融資枠ゆうしわくと金利きんりの関係かんけいは暗黙あんもくのうちに変化へんかする。つまり、公的こうてき金利きんりと無関係むかんけいに融資枠ゆうしわくが縮小しゅくしょうしたり、金利きんりと融資枠ゆうしわくとの間あいだの明瞭めいりょうな関係かんけいが失うしなわれる（すなわち信用しんよう割当わりあて（credit rationing）が発生はっせいする）。信用しんよう収縮しゅうしゅくは、貸かし手てや投資とうし家かがよりリスクの低ひくい国債こくさいなどの投資とうし先さきを（しばしば中小ちゅうしょう企業きぎょうを犠牲ぎせいにして）探さがす質しつへの逃避とうひ（flight to quality）をもたらす。リチャード・ヴェルナーは、1991年ねんという段階だんかいで、日本にっぽんが歴史れきし的てき規模きぼの不ふ況きょう型がた信用しんよう収縮しゅうしゅくに移行いこうし、銀行ぎんこう破綻はたんを招まねこうとしていることを指摘してきしていた。

背景はいけいと原因げんいん

銀行ぎんこうが突然とつぜん融資ゆうしをストップまたは貸かし渋しぶりする理由りゆうはいくつかある。予想よそうされる担保たんぽ価値かち低下ていか、融資ゆうし先さきの業績ぎょうせきの悪化あっか、金融きんゆう環境かんきょうの外因がいいん性せい変化へんか（例たとえば中央ちゅうおう銀行ぎんこうが突然とつぜん、預金よきん準備じゅんび率りつを上あげる、あるいは新あたらしい融資ゆうし規制きせいを課かす状況じょうきょう）、金融きんゆう界かいで直接ちょくせつ信用しんよう管理かんりを行おこなわせる中央ちゅうおう政府せいふ、金融きんゆう界かい内部ないぶで他行たぎょうのソルベンシー・マージン比率ひりつ（solvency）に関かんするリスク意識いしきの向上こうじょう、などである。

信用しんよう収縮しゅうしゅくは、しばしば不注意ふちゅういで不適切ふてきせつな融資ゆうしの継続けいぞくによって発生はっせいする。それらの融資ゆうしにおける焦こげ付つきの発生はっせいや貸倒かしだおれ（不良ふりょう債権さいけん、bad debt）の蔓延まんえんが知しられるようになると、融資ゆうし機関きかんと投資とうし家かは損失そんしつを被こうむり債務さいむ（debt）を負おう。これらの機関きかんは信用しんよう枠わくを削減さくげんし、金利きんりを上あげることにより信用しんよう取引とりひきのコストを増加ぞうかさせる。中なかには損失そんしつを出だした結果けっか、純資産じゅんしさんが減少げんしょうし、貸かし手てが追加ついか融資ゆうししたくてもできないという場合ばあいもある。

一般いっぱん的てきに信用しんよう収縮しゅうしゅくは、"膨ふくらみ過すぎた"資産しさんの市場いちば価格かかく下落げらくと価格かかく崩壊ほうかいによる金融きんゆう危機ききによって生しょうじる。その結果けっか、膨ふくれ上あがった資産しさん価格かかくが急激きゅうげきに下落げらくし、投資とうし家かや市場いちばに遅おくれて参入さんにゅうした起業きぎょう家かへの幅広はばひろい差押さしおさえや倒産とうさんが起おこる。対照たいしょう的てきに流動りゅうどう性せい危機きき（liquidity crisis）は、健全けんぜんな事業じぎょうに対たいして、事業じぎょう拡大かくだいまたはキャッシュフロー支払しはらいを円滑えんかつ化かするために必要ひつようなつなぎ融資ゆうし（ブリッジ・ファイナンス、bridge finance）が一時いちじ的てきに実行じっこうできない場合ばあいに発生はっせいする。この場合ばあい、追加ついか信用しんよう取引とりひきにより、企業きぎょうによる問題もんだいへの対処たいしょと支払しはらいおよび事業じぎょうの継続けいぞくが可能かのうになる。危機ききの最中さいちゅうには、問題もんだいを抱かかえる事業じぎょうが支払しはらい危機ききの状態じょうたいにあるのか、それとも一時いちじ的てきな流動りゅうどう性せい危機ききの状態じょうたいにあるのか、判断はんだんすることは難むずかしい。

信用しんよう収縮しゅうしゅくが発生はっせいした場合ばあい、"値ね洗あらい"（mark to market、時価じか評価ひょうか損益そんえきの計算けいさん）を行おこなうことが望のぞまれる。そして影響えいきょうを受うけた事業じぎょうの金融きんゆう資本しほんが信用しんよう循環じゅんかんの後退こうたいフェーズを生いき残のこるために不十分ふじゅうぶんな場合ばあい、その事業じぎょうは売却ばいきゃくまたは清算せいさんされる。他方たほう、流動りゅうどう性せい危機ききの場合ばあいは、追加ついか信用しんよう取引とりひきを求もとめることが望のぞまれる。一旦いったん流動りゅうどう性せい危機ききが克服こくふくされると成長せいちょうのための機会きかいが期待きたいできる。

長期ちょうきの信用しんよう収縮しゅうしゅくは、安易あんいで潤沢じゅんたくな融資ゆうし（"あぶく銭ぜに"あるいは"信用しんよう喪失そうしつ"）とは対極たいきょくにある。信用しんよう循環じゅんかんが上昇じょうしょうフェーズの間あいだは、資産しさん価格かかくの激はげしい値ね付づけ競争きょうそう、借入金かりいれきんをてこにした入札にゅうさつ、特定とくていの資産しさん市場いちばにおけるインフレーションなどが生しょうじる。その結果けっか、投機とうき価格かかく"バブル"が発生はっせいする。これがまたマネーサプライ（money supply）を拡大かくだい、経済けいざい活動かつどうを刺激しげきし、経済けいざい成長せいちょうと雇用こようの一時いちじ的てきな上昇じょうしょうをもたらす。

関係かんけい者しゃにとってバブルがいつ崩壊ほうかいしたかは、後ごから振ふり返かえった時ときにのみ分わかる。経済けいざいバブルは、ポンジ・スキーム（Ponzi scheme）や無限むげん連鎖れんさ講こう（ピラミッドスキーム、Pyramid scheme）のようではない、ダイナミックな特徴とくちょうを持もっている。

世界せかい恐慌きょうこう最中さいちゅうの1931年ねん、ケインズは次つぎのように述のべている。「悲かなしいかな、健全けんぜんな銀行ぎんこう家かとは、危険きけんを予測よそくしてそれを回避かいひする人ひとではなく、破産はさんした時ときに誰だれも自分じぶんを非難ひなんできないように、仲間なかまと一緒いっしょにありきたりの方法ほうほうで破産はさんする人ひとのことだ。」

関連かんれん項目こうもく

• 金融きんゆう危機きき
• ミンスキー・モーメント

参考さんこう文献ぶんけん

• George Cooper (2008) (英語えいご). The Origin of Financial Crises : central banks, credit bubbles and the efficient market fallacy. London: Harriman House. ISBN 1905641850. OCLC 252734545 
• Graham Turner (2008) (英語えいご). The Credit Crunch: Housing Bubbles, Globalisation and the Worldwide Economic Crisis. London: Pluto Press. ISBN 9780745328102 
• Larry Elliott; Dan Atkinson (2008) (英語えいご). The Gods That Failed: How Blind Faith in Markets Has Cost Us Our Future. London: The Bodley Head. ISBN 9781847920300 
• Gerry Gold; Paul Feldman (2007) (英語えいご). A House of Cards - from fantasy finance to global crash. London: Lupus Books. ISBN 9780952345435