可能かのう動詞どうし

可能かのう動詞どうし（かのうどうし）とは、現代げんだい日本語にほんご（共通きょうつう語ご）において五ご段だん活用かつようの動詞どうしを下した一いち段だん活用かつようの動詞どうしに変化へんかさせたもので、可能かのう（行為こういをすることができること）の意味いみを表現ひょうげんする。「書かく」に対たいする「書かける」、「打うつ」に対たいする「打うてる」の類るいをいう。室町むろまち時代ときよに発生はっせいし、次第しだいに元来がんらいの可能かのうの助動詞じょどうし「〜れる」を用もちいる語法ごほうに取とって代かわった。

可能かのう動詞どうしの例れい

	五ご段だん活用かつよう動詞どうし	可能かのう動詞どうし
あ行くだり	会あう・買かう・扱あつかう	会あえる・買かえる・扱あつかえる
か行こう	行いく・書かく・歩あるく	行いける・書かける・歩あるける
が行くだり	漕こぐ・研とぐ・泳およぐ	漕こげる・研とげる・泳およげる
さ行ぎょう	貸かす・足たす・起おこす	貸かせる・足たせる・起おこせる
た行こう	打うつ・立たつ・放はなつ	打うてる・立たてる・放はなてる
な行くだり	死しぬ	死しねる
ば行ぎょう	飛とぶ・呼よぶ・遊あそぶ	飛とべる・呼よべる・遊あそべる
ま行くだり	編あむ・積つむ・楽たのしむ	編あめる・積つめる・楽たのしめる
ら行ぎょう	釣つる・蹴ける・練ねる	釣つれる・蹴けれる・練ねれる

「行いくことができる」という可能かのうを表あらわす表現ひょうげんには、「行いける」のほかに「行いかれる」もある。「行いける」が可能かのうのみを表あらわすのに対たいし、「行いかれる」は自発じはつ・尊敬そんけい・受身うけみの意味いみでも使つかわれる。

「行いかれる」のような「～れる・られる」の形かたちは、古語こごの「～る・らる」の形かたちから変化へんかしたものだが、「行いける」のような可能かのう動詞どうしはそれとの関係かんけいは不明ふめいである。由来ゆらいには大おおきく2説せつがあり、「知ちるる（知しれる）」等とうからの類推るいすいで、従来じゅうらいからあった四よん段だん（後のちに五ご段だん）活用かつよう動詞どうしに対たいする下した二に段だん（後のちに下した一いち段だん）段だん活用かつようの自発じはつ動詞どうしが一般いっぱん化かした（類似るいじの動詞どうしの項こうを参照さんしょう）という説せつと、「行いき得どく（る）」のような「連用形れんようけい＋得とく（る）」の表現ひょうげんが変化へんかしたという説せつとがある。

なお形態けいたい的てきには全まったく異ことなるが、「する」に対たいして「できる」も可能かのう動詞どうしと同様どうように用もちいられる（例れい：「使用しようする」に対たいして「使用しようできる」など）。

可能かのう動詞どうしには命令めいれい形がたが用もちいられにくく、「読よめろ」・「走はしれろ」などの命令めいれい的てきな表現ひょうげんは極きわめて稀まれである。

可能かのう表現ひょうげんの変化へんか

元来がんらいは可能かのう動詞どうしを使つかわず、動詞どうしの可能かのうを表あらわすには助動詞じょどうし「る・らる」（現代げんだいの「れる・られる」）を用もちいていた。今いまは「読よむ」のような五ご段だん活用かつよう動詞どうしの可能かのうを表あらわすには、専もっぱら可能かのう動詞どうしを使つかって「読よめる」とするが、鎌倉かまくら時代ときよ頃ころには「読よまるる（読よまれる）」の形かたちのみが認みとめられていたのである。

可能かのう動詞どうしの発生はっせいは室町むろまち時代ときよまで遡さかのぼるが、多おおく用もちいられるようになったのは近代きんだいに至いたってからである。

そうして可能かのう動詞どうしの使用しようが一般いっぱんに広ひろまるにつれ、逆ぎゃくに旧来きゅうらいの可能かのう表現ひょうげん「れる」が耳慣みみなれないという理由りゆうだけで疑問ぎもん視しされるような風潮ふうちょうも現あらわれてくる。例たとえば「○○方面ほうめんへは行いかれません」という道路どうろ標識ひょうしきを見みて「間違まちがいではないか？」と行政ぎょうせいに問とい合あわせることなどがある。しかし「行いかれる」など一部いちぶの「動詞どうし+れる」については、これを可能かのうの意味いみで使つかうことはしばしば行おこなわれている。

可能かのう動詞どうしの例れい

	五ご段だん活用かつよう動詞どうし	可能かのう動詞どうし	元来がんらいの可能かのう表現ひょうげん
あ・わ行ぎょう	会あう	会あえる	会あわれる
か行こう	行いく	行いける	行いかれる
が行くだり	漕こぐ	漕こげる	漕こがれる
さ行ぎょう	貸かす	貸かせる	貸かされる
た行こう	打うつ	打うてる	打うたれる
な行くだり	死しぬ	死しねる	死しなれる
ば行ぎょう	飛とぶ	飛とべる	飛とばれる
ま行くだり	編あむ	編あめる	編あまれる
ら行ぎょう	釣つる	釣つれる	釣つられる

類似るいじの動詞どうし

可能かのう動詞どうしと別べつに、五ご段だん活用かつように対たいする下した一いち段だん活用かつよう（古ふるくは下した二に段だん活用かつよう）の自発じはつ動詞どうしも数かずは少すくないが存在そんざいする。例たとえば「切きる」に対たいする「切きれる」や、「裂さく」に対たいする「裂さける」などがある。「気きが置おけない」という慣用かんよう句くも、「気きを置おくことができない」ではなく、「気きが置おかれない」という意味いみである。

ら抜ぬき言葉ことば

「日本語にほんごの乱みだれ」も参照さんしょう

いわゆるら抜ぬき言葉ことばは、上うえ一いち段だん活用かつよう動詞どうし（例れい：起おきる、閉とじる、見みる）、下した一いち段だん活用かつよう動詞どうし（例れい：受うける、見みせる、出でる、食たべる）、カ行ぎょう変格活用へんかくかつよう動詞どうし（『来くる』の1語ごのみ）に対たいして、可能かのうの助動詞じょどうしを付つける場合ばあいに、「〜られる」を「〜れる」とする現象げんしょうである。これは、ラ行ぎょう五ご段だん活用かつよう動詞どうしの可能かのう動詞どうしと混同こんどうすることで発生はっせいしたと考かんがえられている。

これは上記じょうきの可能かのう動詞どうしのみで発生はっせいするから、「れる」「られる」の４よっつの意味いみのうち、次つぎに示しめす3つの意味いみではら抜ぬきは発生はっせいしない。

1. 受身うけみ…例れい「部屋へやに入はいって来きたられると困こまる。」
2. 尊敬そんけい…例れい(実験じっけん室しつにて実験じっけん器具きぐの配置はいちが変かわっている様子ようすを見みて驚おどろく人ひとに向むけて)「先生せんせいが変かえられました。」
3. 自発じはつ…例れい「(統計とうけい図ずを見みながら)春季しゅんきには売うり上あげが伸のびると見みられる。」

関連かんれん項目こうもく

• 日本語にほんごの乱みだれ