天然てんねん砥石といし

天然てんねん砥石といし（てんねんといし）とは、自然しぜん界かいから産出さんしゅつする砥石といしである。日本にっぽんにおいては太平洋戦争たいへいようせんそう後ごの復興ふっこう期きまでは盛さかんに掘ほられたものの人造じんぞう砥石といしと電動でんどう工具こうぐの普及ふきゅう、資源しげん枯渇こかつで採掘さいくつ場じょうはほとんど閉山へいざんしたが、京都きょうと府ふ亀岡かめおか市しと熊本くまもと県けん(天草あまくさ砥石といし)で砕石さいせき生産せいさんが続つづけられている。 海外かいがいではアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくアーカンソー州しゅう産さんが世界せかい規模きぼで流通りゅうつうしている

特徴とくちょう

天然てんねん砥石といしは粒つぶ度どにより荒砥あらと、中砥なかと、仕上しあげ砥とぎに大別たいべつされる。多種たしゅ多様たような天然てんねんの石いしを掘ほり出だして加工かこうするため、同おなじ天然てんねん砥石といしは二ふたつとない。

天然てんねん砥石といしで仕上しあげると刃先はさき硬化こうか作用さようがあり、刃は持もちがよくキレがいいといわれている。化粧けしょう研とぎには、人造じんぞう砥石といしにはないボカシの効きいた半はん鏡面きょうめんの独特どくとくの仕上しあがりになる。特とくに日本にっぽん刀がたな研磨けんまでは重宝ちょうほうされる。

天然てんねん砥石といしの原料げんりょうは主おもに堆積岩たいせきがんや凝灰岩ぎょうかいがんなどであり、荒砥あらとは砂岩さがん、仕上しあげ砥とぎは粒子りゅうしの細こまかい泥どろ岩がん（粘板岩ねんばんがん）から作つくられ、中なかでも放散ほうさん虫ちゅうの石英せきえい質しつ骨格こっかくが堆積たいせきした堆積岩たいせきがんが良質りょうしつであるとされる。

産出さんしゅつ地ち

日本にっぽんにおいて荒砥あらとと中砥なかとは全国ぜんこく各地かくちに産地さんちがあり、仕上しあげ砥とぎの最さい上質じょうしつ品ひんの産地さんちは京都きょうととされた。伝承でんしょうでは、梅ケ畑うめがはた（京都きょうと市し右京うきょう区く）の郷士ごうしであった本間ほんま藤左衛門とうざえもん時成ときなりが菖蒲谷しょうぶたにで採とれた砥石といしを後鳥羽上皇ごとばじょうこうに献上けんじょうして嘉賞かしょうにあずかり、源みなもと頼朝よりともから1190年ねんに日本国にっぽんこく礪石師し棟梁とうりょうと認みとめられたという。江戸えど時代じだいまでは一般人いっぱんじんが砥石といしを掘ほることは禁きんじられていた。

代表だいひょう的てきな産地さんちでは、荒砥あらとは佐賀さが県けんや和歌山わかやま県けんの大村おおむら砥とぎ、中砥なかととして愛媛えひめ県けんの伊予いよ砥とぎ、京都きょうとの青砥あおと、熊本くまもと県けんの天草てんぐさ砥とぎ　備水砥とぎ、群馬ぐんま県けんの虎とら砥とぎ（南牧なんもく村むら）や沼田ぬまた砥とぎ　御蔵おぐら砥とぎ（ごぞうと）、対馬つしま（長崎ながさき県けん）の黒くろ名倉なぐら砥とぎ、三河みかわ（愛知あいち県けん東部とうぶ）の三河みかわ白しろ名倉なぐら砥とぎ、兵庫ひょうご県けんの但馬たじま砥とぎ、仕上しあげ砥とぎとしては京都きょうとの合ごう砥とぎ（あわせど）などがある。

特とくに京都きょうとの合ごう砥とぎは古ふるくから鳴滝なるたき砥とぎと呼よばれ、仕上しあげ砥とぎとして非常ひじょうに有名ゆうめいであった。その中なかでも京都きょうと市し北西ほくせい部ぶの本ほん成層せいそう 東ひがし物ぶつの、梅うめヶ畑はたけ地区ちくの中山なかやま鉱山こうざん 戸前とまえ層そうは最高さいこう品質ひんしつとされる。梅うめヶ畑はたけ地区ちくでかつて主要しゅようなものは尾崎おざき、向むかいノ地ち、中山なかやま、菖蒲谷しょうぶたに、奥殿おくとの、大だい突、木津山きづやまなど。その他たには、西にし物ぶつで　大平おおひら、水木みずき原げん、奥おくの門もん、新田にった、愛宕山あたごやまなどある。また丹波たんば地方ちほうにも大内おおうち、八木はちぼくの島しま、八箇はっか山さん（はっか山さん）、富田とみた日にち照山てるやま、三さん号ごう山やま、若狭わかさなどがあった。滋賀しが県けんの高島たかしま妙たえ覚さとし谷たにや相あい岩谷いわがたにでも産出さんしゅつしている。

この他ほかにも鉱山こうざんはあったが現在げんざいは枯渇こかつし供給きょうきゅう不足ふそくや品質ひんしつが揃そろわないので価格かかくが安定あんていしていない。新山しんやま開発かいはつに高額こうがくな資金しきんが必要ひつようで、また経営けいえい者しゃが高齢こうれいなこと、後継あとつぎがいないなどの要因よういんで閉山へいざん・休山やすみやましている。天然てんねん砥石といし向むけの石いしが埋蔵まいぞうされている土地とちでも、鉱脈こうみゃくを掘ほり当あてられないこともあり、資金しきんが続つづかず廃業はいぎょうした例れいもある。

用途ようと

刀剣とうけんのほか、包丁ほうちょう、剃刀かみそり、大工だいく道具どうぐ（鑿や鉋かんな）、鉈、鎌かま、刻こく刀がたな、小刀こがたななどの刃は付づけ、表面ひょうめん仕上しあげ研磨けんまに使つかわれる。京都きょうと府ふ亀岡かめおか市しの砥取ととり家か（ととりや）は国内こくない需要じゅようの減少げんしょうで一時いちじ廃業はいぎょうを検討けんとうしたが、ホームページを開設かいせつしたところ、道具どうぐにこだわる海外かいがい40カ国かこく以上いじょうの料理人りょうりにんや大工だいくから注文ちゅうもんが来くるようになり、希望きぼうに合あわせた天然てんねん砥石といしを選えらんで輸出ゆしゅつしている。

注意ちゅうい

砥石といしを濡ぬれたままにして置おいておくと、凍こおって割われることがある。また研とぐ面めんの側面そくめんに漆うるしやカシュー、油性ゆせいニスで養生ようじょうしたほうがよい。和紙わし、布ぬのを貼はる人ひともいる。多おおくの場合ばあい、人造じんぞう砥石といしのように水みずに浸ひたす必要ひつようはなく、適宜てきぎ水すいを掛かけながら加減かげんして使用しようする。

参考さんこう文献ぶんけん

• 京都きょうと天然てんねん砥石といし組合くみあい記念きねん誌し編集へんしゅう委員いいん会かい（編へん） 編へん『京都きょうと天然てんねん砥石といしの魅力みりょく』京都きょうと天然てんねん砥石といし組合くみあい、1993年ねん10月がつ。 NCID BN15834890。 
• 築地つきじ正本しょうほん『砥石といしと包丁ほうちょうの技法ぎほう 基礎きそから実践じっせんまで、すべてがわかる決定けってい版ばん』誠まこと文ぶん堂どう新光しんこう社しゃ、2010年ねん5月がつ。ISBN 978-4-416-81033-0。 

外部がいぶリンク

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