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循環取引 - Wikipedia

循環じゅんかん取引とりひき(じゅんかんとりひき、えい: Round-tripping)は、複数ふくすう企業きぎょう当事とうじしゃたがいに通謀つうぼうし、商品しょうひん転売てんばい業務ぎょうむ委託いたくなどの相互そうご発注はっちゅうかえすことで、架空かくう売上うりあげだか計上けいじょうする取引とりひき手法しゅほうのこと。

概要がいよう

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循環じゅんかん取引とりひきにおいては、商品しょうひんやサービスそのものは最終さいしゅう消費しょうひしゃ需要じゅよう販売はんばい提供ていきょうされず、当事とうじしゃ業者ぎょうしゃあいだ転売てんばいかえされているだけであり、本来ほんらい意味いみでの売上うりあげ(=消費しょうひ)は発生はっせいしない。なお、商社しょうしゃ卸売おろしうり業者ぎょうしゃでは、一般いっぱん商品しょうひん在庫ざいこ多寡たか背景はいけいに、業界ぎょうかい仲間なかまない保有ほゆう在庫ざいこ転売てんばいし、在庫ざいこ資金しきん(キャッシュ)の保有ほゆう比率ひりつ適正てきせい維持いじするためのしょう取引とりひき普及ふきゅうしている。そのため一般いっぱん商品しょうひん転売てんばい行為こういそのものが違法いほう不当ふとうとして認識にんしきされているわけではなく、それをまる法的ほうてき根拠こんきょい。

しかし、循環じゅんかん取引とりひきでは通謀つうぼう伝票でんぴょうをやりりするだけで売上うりあげだか不正ふせい操作そうさできることから、企業きぎょう成長せいちょうせいたかいように仮装かそうして金融きんゆう機関きかん融資ゆうし容易よういにし、あるいは債券さいけん株式かぶしき新規しんき発行はっこう有利ゆうりみちび目的もくてきおこなわれることがあり、この場合ばあい融資ゆうし関連かんれん調査ちょうさ資料しりょう有価ゆうか証券しょうけん報告ほうこくしょたいする虚偽きょぎ記載きさい容疑ようぎとして立件りっけん摘発てきはつ対象たいしょうとされる。企業きぎょう営業えいぎょう責任せきにんしゃ売上うりあげノルマ達成たっせい目的もくてきとして取引とりひきさき業者ぎょうしゃ癒着ゆちゃく仮装かそうしている場合ばあいや、取引とりひきさきからの短資たんし融通ゆうずうことわれないままめている場合ばあいがあり、内部ないぶ監査かんさ告発こくはつなどにより経理けいり資料しりょう公正こうせい状態じょうたいになっていることが発覚はっかくするケースもおおい。

循環じゅんかん取引とりひきれい

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一般いっぱん新興しんこう企業きぎょうでは売上うりあげだか成長せいちょうせい重視じゅうしする傾向けいこうにあり、利益りえきかならずしも計上けいじょうされていなくても「将来しょうらいせいのある企業きぎょう」として評価ひょうかされることがある。そのためたがいに通謀つうぼうした企業きぎょう実態じったいとぼしい商品しょうひん転売てんばいやサービス受発注じゅはっちゅうバーター取引とりひきかえし、売上うりあげだか不正ふせい操作そうさすることで当該とうがい企業きぎょう成長せいちょうせい演出えんしゅつできる余地よちしょうじる。

この場合ばあい毎期まいきごとに売上うりあげ相応そうおうした消費しょうひぜいや、従業じゅうぎょういん給与きゅうよなどの固定こてい発生はっせいすることとなるが、仮装かそうされた成長せいちょうせい背景はいけい毎期まいき毎期まいき増資ぞうし融資ゆうし獲得かくとくかえすことで欠損けっそん補填ほてんすることが可能かのうであれば、架空かくうでの循環じゅんかん取引とりひき破綻はたんしない。

べつ事例じれいとして、複数ふくすう商社しょうしゃおろし仲間なかま取引とりひきとして商品しょうひん在庫ざいこ転売てんばいおこなっている関係かんけいにおいて、特定とくてい商品しょうひん在庫ざいこおも保存ほぞんせいたかいもの)を指定してい倉庫そうこ保管ほかんしたまま転売てんばいかいかえすうちに、かつて自社じしゃ転売てんばいしたのとどう数量すうりょううたてかいするケースがある。指定してい倉庫そうこ保管ほかんしたまま(場合ばあいによっては輸送ゆそうちゅう貨物かもつせん船荷ふなに証券しょうけん対象たいしょうとして)転売てんばいかいかえすことは商社しょうしゃおろしにおいては通常つうじょう業務ぎょうむであり、原油げんゆやゴム、穀物こくもつ、くずてつどうるいなど産業さんぎょう資材しざいのほか、冷凍れいとう食材しょくざいしぼしる果汁かじゅうなど中間ちゅうかん生産せいさんぶつなど多岐たきにわたり存在そんざいし、上流じょうりゅう原材料げんざいりょう)からの購入こうにゅう以外いがいにも同業どうぎょう他社たしゃからの転売てんばいかいふくめて在庫ざいこ調整ちょうせいをおこなうことがある。転売てんばいかい取引とりひきにおいては通常つうじょう1~すう%の転売てんばいかい手数料てすうりょう(マージン)をもうがわがわ支払しはら慣習かんしゅうがあることから、正常せいじょう取引とりひき意識いしきにおいては「転売てんばいした商品しょうひん同値どうちもどす」と確実かくじつ損失そんしつ発生はっせいする。一方いっぽう短期たんき資金しきん必要ひつようとする企業きぎょう倉庫そうこ証券しょうけん転売てんばいすることで資金しきん融通ゆうずうすることが可能かのうとなる。

このしょうりゅう活用かつようし、期末きまつ保有ほゆう在庫ざいこ転売てんばい決算けっさんもどすなどの手法しゅほうをもって架空かくう売上うりあげだか演出えんしゅつできる余地よちがある。カネボウでは決算けっさんまつ子会社こがいしゃ在庫ざいこ転売てんばい期首きしゅもど不正ふせいみ・宇宙うちゅう遊泳ゆうえい)が問題もんだいとされ、上場じょうじょう企業きぎょうへの連結れんけつ決算けっさん義務付ぎむづけられる要因よういんとなった。しかし、資本しほん関係かんけいのない企業きぎょうあいだにおいては通謀つうぼうした仮装かそう行為こうい監査かんさ対象たいしょうかられる状態じょうたいとなっており、複数ふくすう仲間なかま取引とりひき舞台ぶたいとした売上うりあげ操作そうさ余地よち存在そんざいする。

エンロン事例じれいでは、デリバティブによる匿名とくめい流通りゅうつう市場いちば存在そんざい背景はいけいに、自社じしゃりの電力でんりょく自社じしゃいするという仮装かそう売買ばいばい手法しゅほう駆使くしして売上うりあげだかきゅう成長せいちょう演出えんしゅつした[よう出典しゅってん]

カルーセルスキーム

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付加ふか価値かちぜいえい: value-added tax, VAT)の還付かんぷ制度せいど利用りようして国庫こっこから不当ふとう利益りえきるスキームとしてカルーセルスキーム英語えいご:carousel scheme)がある。カルーセルスキームは事業じぎょうしゃあいだ取引とりひき循環じゅんかんつくり、その循環じゅんかん取引とりひきチェーンのなかで、納税のうぜい義務ぎむしゃ還付かんぷ担当たんとうしゃつくりあげ、還付かんぷける一方いっぽう納税のうぜい義務ぎむしゃが(ミッシングトレーダーとして)義務ぎむたさないことで利益りえきようとするスキームであり、付加ふか価値かちぜい歴史れきしふるいEUではとくおおきな問題もんだいとなっており年間ねんかんやく500おくユーロの被害ひがいしょうじているとされる[1]日本にっぽんでもすでに同様どうよう犯罪はんざいおこなわれており、2018ねん9がつ財務省ざいむしょう公表こうひょうした金地きんじきん密輸みつゆスキームモデルによると、香港ほんこんなどで金地きんじきん購入こうにゅうしそれを日本にっぽん密輸みつゆし(制度せいどじょうはこのさい消費しょうひぜい支払しはらうことになるがこれを支払しはらわず)、日本にっぽん国内こくない消費しょうひ税込ぜいこみで売却ばいきゃくすることで消費しょうひぜいぶん利益りえきるというものである[2]。これは金地きんじきん国際こくさい市場いちば存在そんざいすることを利用りようしたカルーセルスキームであり、本来ほんらい輸入ゆにゅう支払しはらうべき消費しょうひぜいおさめない密輸みつゆしゃがミッシングトレーダーに該当がいとうする[3]

2017ねんには東京とうきょう秋葉原あきはばら免税めんぜいてん運営うんえいする宝田たからだ無線むせん電機でんき貴金属ききんぞく関連かんれん製品せいひん製造せいぞう手掛てがける明成めいせいなどから仕入しいれた金製きんせい工芸こうげいひん訪日ほうにち外国がいこくじんに900おくえん販売はんばいしたとして、仕入しいれ負担ふたんした消費しょうひぜいやく70おくえん還付かんぷ申告しんこくしたところ、東京とうきょう国税局こくぜいきょく税務ぜいむ調査ちょうさ結果けっか購入こうにゅうしゃ名義めいぎしただけだったケースが複数ふくすうあり、製品せいひん大半たいはん国外こくがいていなかったことが確認かくにんされ、仕入しいれかいもどかえ循環じゅんかん取引とりひきおこなっていたと認定にんていされた。訪日ほうにち外国がいこくじん免税めんぜい対象たいしょう商品しょうひん国内こくない購入こうにゅうした場合ばあい消費しょうひぜい支払しはら必要ひつようはなく、事業じぎょうしゃ申告しんこくすれば仕入しいれ負担ふたんした消費しょうひぜい還付かんぷされるという制度せいど利用りようしたものとされる[4]

round trippingという用語ようごについて

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"round trip"は往復おうふく旅行りょこう周遊しゅうゆう旅行りょこう表現ひょうげんする英語えいごであり、ウォールストリートジャーナル用語ようご解説かいせつ[5]によれば、round-trippingは「企業きぎょう収益しゅうえきげるために、せかけの相殺そうさい取引とりひきおこなうこと」[6]とされ、FincyclopediaによればLazy Susans表現ひょうげんすることもあるとされる[7]。この「round-tripping」という表現ひょうげん国際こくさい投資とうし関係かんけいにおいて「投資とうしが(節税せつぜいとう目的もくてきとして)タックスヘイブンなど海外かいがい特定とくてい目的もくてき会社かいしゃ資金しきん出資しゅっしし、その自国じこく直接ちょくせつ投資とうしというかたち資金しきん還流かんりゅうさせること」[8]としても利用りようされるので注意ちゅうい必要ひつようである。

循環じゅんかん取引とりひき問題もんだいとなった事例じれい

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 錦織にしきおり俊介しゅんすけ 2021, p. 236.
  2. ^ 錦織にしきおり俊介しゅんすけ 2021, p. 293.
  3. ^ 錦織にしきおり俊介しゅんすけ 2021, p. 294.
  4. ^ a b 秋葉原あきはばら免税めんぜいてん消費しょうひぜい不正ふせい還付かんぷ申告しんこく 会社かいしゃがわ否定ひてい”. 日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ. 2023ねん6がつ16にち閲覧えつらん
  5. ^ Terminology of Turpitude. (Sept. 25, 2002 7:02 pm ET)
  6. ^ "In round-tripping, a company engages in sham, off-setting transactions to boost revenue. "
  7. ^ Fincyclopedia "Lazy susans"(Last update: Apr 25, 2013)
  8. ^ ISSUES PAPER (DITEG) # 13 "ROUND TRIPPING (PDF) "(IMF COMMITTEE ON BALANCE OF PAYMENTS STATISTICS AND OECD WORKSHOP ON INTERNATIONAL INVESTMENT STATISTICS )
  9. ^ 子会社こがいしゃ架空かくう取引とりひきについて”. 日本電気にほんでんき (2006ねん3がつ22にち). 2006ねん4がつ23にち時点じてんオリジナルよりアーカイブ。2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  10. ^ 不適切ふてきせつ取引とりひき行為こういかんする報告ほうこくとう” (pdf). 加ト吉かときち (2007ねん4がつ24にち). 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  11. ^ 神戸大学こうべだいがく経済けいざい経営けいえい研究所けんきゅうじょ 新聞しんぶん記事きじ文庫ぶんこ 製糖せいとうぎょう(06-071) 大阪おおさか朝日新聞あさひしんぶん 1919.7.11 (大正たいしょう8)
  12. ^ 当社とうしゃ関係かんけい会社かいしゃ取引とりひきかんする一部いちぶ報道ほうどうについて”. 富士通ふじつう (2007ねん6がつ7にち). 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  13. ^ 告発こくはつ現場げんばから③-IT企業きぎょう粉飾ふんしょく” (pdf). 金融きんゆうちょう証券しょうけん取引とりひきとう監視かんし委員いいんかい. 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  14. ^ 参考さんこう資料しりょう最近さいきん粉飾ふんしょく事案じあん”. 金融きんゆうちょう証券しょうけん取引とりひきとう監視かんし委員いいんかい. 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  15. ^ 当社とうしゃ子会社こがいしゃ不適切ふてきせつ取引とりひきについて” (pdf). ジーエス・ユアサコーポレーション (2008ねん9がつ19にち). 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  16. ^ 調査ちょうさ報告ほうこくしょ” (pdf). ジーエス・ユアサコーポレーション (2009ねん10がつ28にち). 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  17. ^ 当社とうしゃ連結れんけつ子会社こがいしゃにおける不適切ふてきせつ取引とりひきおよ会計かいけい処理しょりについて” (pdf). 伊藤忠商事いとうちゅうしょうじ (2015ねん4がつ17にち). 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  18. ^ 伊藤忠いとうちゅう子会社こがいしゃ不適切ふてきせつ取引とりひき 在庫ざいこ循環じゅんかん取引とりひきなど”. 日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ. 日経にっけいQUICKニュース(NQN). (2015ねん4がつ17にち). https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL17HNT_X10C15A4000000/ 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん 
  19. ^ 毎日新聞まいにちしんぶん関西かんさい)の記事きじ[リンク]
  20. ^ 樋口ひぐち晴彦はるひこメルシャン循環じゅんかん取引とりひき事件じけん事例じれい研究けんきゅう」『千葉ちばしょうだい論叢ろんそうだい50かんだい1ごう千葉商科大学ちばしょうかだいがく、2012ねん9がつ、71-83ぺーじISSN 0385-4558NAID 110009487309 
  21. ^ 被害ひがいがく100おくえん以上いじょう?TSR独自どくじ取材しゅざい循環じゅんかん取引とりひき実態じったいせま”. 東京商工とうきょうしょうこうリサーチ. 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  22. ^ インデックス粉飾ふんしょく関連かんれん80しゃで「循環じゅんかん取引とりひきじゅうすうかい会長かいちょう主導しゅどう”. 産経さんけいデジタル (2014ねん5がつ30にち). 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん
  23. ^ 粉飾ふんしょく決算けっさんしん有罪ゆうざい ゲーム会社かいしゃのインデックス”. 産経新聞さんけいしんぶんしゃ. (2017ねん11月7にち). https://www.sankei.com/affairs/news/171107/afr1711070029-n1.html 2019ねん7がつ11にち閲覧えつらん 
  24. ^ 当社とうしゃ子会社こがいしゃにおける実在じつざいせい確認かくにんできない取引とりひきについて” (PDF). 東芝とうしば. 2020ねん1がつ21にち閲覧えつらん
  25. ^ 共和きょうわコーポ、架空かくう循環じゅんかん取引とりひき社員しゃいん関与かんよ 過去かこ決算けっさん訂正ていせい”. 日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ. 2020ねん5がつ31にち閲覧えつらん
  26. ^ 第三者だいさんしゃ委員いいんかいによる調査ちょうさ報告ほうこくしょ受領じゅりょう業績ぎょうせきあたえる影響えいきょう再発さいはつ防止ぼうしさくとうについて” (pdf). 共和きょうわコーポレーション. 2020ねん5がつ31にち閲覧えつらん
  27. ^ (株)かぶしきがいしゃTMD(きゅう宝田たからだ無線むせん電機でんき(株)かぶしきがいしゃ”. 東京商工とうきょうしょうこうリサーチ. 2023ねん6がつ16にち閲覧えつらん

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 循環じゅんかんきの法的ほうてき検討けんとう遠藤えんどう元一げんいち(『NewBusinessLaw 4がつ1にちごう(No.902)、4がつ15にちごう(No.903)』)
  • 循環じゅんかんきによる粉飾ふんしょく実態じったい発見はっけんチェックポイント」井畑いばた和男かずお(『NewBusinessLaw 4がつ15にちごう(No.903)』)
  • 錦織にしきおり俊介しゅんすけ消費しょうひぜい納税のうぜいなき仕入しいれ税額ぜいがく控除こうじょとカルーセルスキーム」『税務大学校ぜいむだいがっこう論叢ろんそうだい103かん、2021ねん6がつ、229-303ぺーじ 

関連かんれん項目こうもく

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