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否定 - Wikipedia

否定ひてい

数理すうり論理ろんりがくにおける論理ろんり演算えんざんひと
けしから転送てんそう

数理すうりろん理学りがくにおいて否定ひてい (ひてい、えい: Negation) とは、命題めいだいしんにせ反転はんてんする論理ろんり演算えんざんである。否定ひてい英語えいごで Not であるが、Invert ともわれ論理ろんり演算えんざんではインバージョン(Inversion)、論理ろんり回路かいろでは Not回路かいろやインバータ回路かいろ(Inverter)ともばれ入力にゅうりょくたいして出力しゅつりょく反転はんてんする。

命題めいだい Pたいする否定ひていを ¬P, P, !P などといて、「P でない」とか「P否定ひてい」、「P 以外いがい場合ばあい」などとむ。このようなかたちをした命題めいだい否定ひてい命題めいだいnegative proposition)という[1]

命題めいだい P否定ひてい含意がんい → と矛盾むじゅん ⊥ をもちいた命題めいだい P → ⊥ として定義ていぎされることもある(なずらえ補元ほげん参照さんしょう)。

ベン図べんずによる論理ろんり否定ひてい(NOT)
  • わたし身長しんちょうは 160 cm 以上いじょうである」

命題めいだい否定ひていは、

  • わたし身長しんちょうは 160 cm 未満みまんである」

である。

性質せいしつ

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論理ろんり演算えんざんちがい、対象たいしょうとなる命題めいだいひとつということから、単項たんこう演算えんざんであることがわかる。

真理しんりひょう

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否定ひてい真理しんりひょう

命題めいだい P ¬P
しん にせ
にせ しん

表記ひょうきほう

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論理ろんりがく

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命題めいだい p否定ひていは、以下いかのように複数ふくすう表記ひょうきがなされる。

表記ひょうきほう かた
¬p ノットp
p否定ひてい
p でない
p pバー
~p ノットp
チルダp
  p プライム
  p バー、
バー p
  ノットp
bang p

電子でんし工学こうがく

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Aの否定ひていは、  とく。

プログラミング言語げんご

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C言語げんごなどでは!あらわされ、

if (!z) ;

のように使用しようされる。
また、ビット単位たんい否定ひてい~あらわされ

y = ~x;

のように使用しようされる。

VBScriptではNotあらわされ、

z = Not x

のように使用しようされる。

Perlでは、!notあらわされ、

if (!$f) {}
if (not $f) {}

のように使用しようされる。

Schemeでは、notあらわされ、

(not s)
(map not (map odd? lst))

のように使用しようされる。

ぜん否定ひてい部分ぶぶん否定ひてい

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ある対象たいしょうかんする命題めいだいで、対象たいしょうすべてにかんする否定ひていぜん否定ひてい一部いちぶかんする否定ひてい部分ぶぶん否定ひていという。これらは、述語じゅつご論理ろんりにおいて、つぎのように表現ひょうげんされる。

ぜん否定ひてい
x ¬ A(x) 「すべての x について、「A(x) でない」」あるいは「絶対ぜったいA(x) ではない」
すべての xたいして、命題めいだい A(x) の否定ひてい主張しゅちょうする命題めいだい
部分ぶぶん否定ひてい
¬ ∀ x A(x) 「「すべての x について A(x)」というわけではない」あるいは「かならずしも A(x) ではない」
「すべての xたいして命題めいだい A(x) がしんである」という命題めいだい否定ひていする命題めいだい

これらは、述語じゅつご論理ろんりかんするド・モルガンの法則ほうそくによって、つぎのようにえることができる。

ぜん否定ひてい
x ¬ A(x) = ¬ ∃ x A(x)
部分ぶぶん否定ひてい
¬ ∀ x A(x) = ∃ x ¬ A(x)

つまり、ぜん否定ひてい「すべての x について、「P(x) でない」」は、「「ある x について P(x)」ということはない」といいかえることができ、部分ぶぶん否定ひてい「「すべての x について P(x)」というわけではない」は、「ある x については「P(x) ではない」」といいかえることができる。

ぜん否定ひてい命題めいだい否定ひてい部分ぶぶん肯定こうてい部分ぶぶん否定ひてい命題めいだい否定ひていぜん肯定こうていである。

その論理ろんりてき否定ひてい

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否定ひていをさらに観念かんねんわせてかんがえることもできる。可能かのうせい「~でありうる」、必然ひつぜんせい「~にちがいない」などを論理ろんりがく枠組わくぐみとしてあつかうのが様相ようそうろん理学りがくであり、ここではそれらにたいする否定ひてい基本きほんてき法則ほうそく公理こうり)として必要ひつようとされる。

たとえば意味いみとしては(言語げんご形式けいしきじょうとはことなる)

  • 「〜しなければならない(命令めいれい)」の否定ひていは「〜しなくてよい(免除めんじょ)」
  • 「〜であるにちがいない」の否定ひていは「〜でないかもしれない」
  • 「〜してよい(許可きょか)」の否定ひていは「〜してはならない(禁止きんし)」
  • 「〜であるかもしれない」の否定ひていは「〜でないにちがいない」

かんがえられる。様相ようそう論理ろんり一般いっぱんには古典こてん論理ろんり必然ひつぜんせい演算えんざん  可能かのうせい演算えんざん  導入どうにゅうして形式けいしきされ、「可能かのうせい演算えんざんつきの命題めいだい  は、「命題めいだい否定ひてい必然ひつぜんせい演算えんざんをつけた命題めいだい否定ひてい  として定義ていぎされる。たとえば「「かれがそれをしていないにちがいない」というわけではない」は、「かれがそれをした可能かのうせいがある」と同値どうちである。

自然しぜん言語げんごにおける否定ひてい

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自然しぜん言語げんごにおいて、否定ひてい極性きょくせい表現ひょうげん一種いっしゅである。否定ひていあらわ言語げんご表現ひょうげんぶん否定ひてい構成こうせいもと否定ひていけられる。

ぶん否定ひていは、英語えいご日本語にほんご

  • I do not have a pen.
  • わたしはペンをっていない

のように、述語じゅつご否定ひてい標識ひょうしき付与ふよすることによって否定ひてい命題めいだい表現ひょうげんする方法ほうほうである。

構成こうせいもと否定ひていは、英語えいご

  • I have no pens.

のように、述語じゅつご以外いがい構成こうせいもと否定ひてい標識ひょうしき付与ふよすることで否定ひてい命題めいだい表現ひょうげんする方法ほうほうである。日本語にほんごでは「ないそでる」のように修飾しゅうしょく否定ひていしても否定ひていぶんにはならない(「そでらない」の意味いみにはならない)。

ぶん否定ひてい構成こうせいもと否定ひていも、どちらもほぼおな意味いみあらわすことができるが、ぶん否定ひていほう一般いっぱんてきである。

語形ごけい変化へんかによる否定ひてい表現ひょうげん

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述語じゅつごかたち変化へんかさせることで否定ひていあらわす。たとえば日本語にほんご動詞どうし否定ひていでは否定ひてい接尾せつびもちいられ、ペルシャでは接頭せっとう使つかわれる。

語形ごけい変化へんかによる否定ひていれい
接頭せっとうペルシア
نخرم
na- xar -am
NEG- -1SG
わたしわない」
接尾せつび日本語にほんご
わない
kaw -ana -i
-NEG -NPST

屈折くっせつ要素ようそ融合ゆうごうしている場合ばあいもある。たとえばナナイでは否定ひていぶし特別とくべつ時制じせい標識ひょうしきもちいる。

語形ごけい変化へんかによる否定ひていれいナナイ
肯定こうてい現在げんざい
xola -j -si
-PRS -2SG
「あなたはんでいる」
肯定こうてい過去かこ
xola -xa -si
-PST -2SG
「あなたはんでいた」
否定ひてい現在げんざい
xolā -si -si
-NEG.PRS -2SG
「あなたはんでいない」
否定ひてい過去かこ
xolā -ci -si
-NEG.PST -2SG
「あなたはんでいなかった」

一般いっぱんには文法ぶんぽうてきほう一種いっしゅとして「否定ひていほう」とされる。

また否定ひていがた肯定こうていがたまったことなる形態けいたいをしている場合ばあいもある。たとえば日本語にほんご「ある」-「ない」など(文語ぶんごたい関西かんさいべんは「あらず」、「あらへん」という否定ひていがた使つかう)。

日本語にほんごでは動詞どうしたいしては未然みぜんがた助動詞じょどうし「ない」・「ぬ」が接続せつぞくしたかたち否定ひていする。「ない」・「ぬ」は独立どくりつせいのない接尾せつびかんがえるのが適切てきせつである(助詞じょし「は」が介入かいにゅうした場合ばあい「*しょか-は-ない」でなく「き-は-しない」とう)。一方いっぽう形容詞けいようし形容動詞けいようどうし否定ひていには「ない」を使つかうが、これは学校がっこう文法ぶんぽうでは助動詞じょどうしでなく補助ほじょ形容詞けいようしび、「しゃっく-は-ない」というように独立どくりつせいがあり、またこの「ない」には本来ほんらい意味いみのこっている(「ない」を肯定こうていがたの「ある」にえ「しゃっくはある」とすることもできる)。

このほか、動詞どうし形容詞けいようし単独たんどく否定ひていすることができず「…であるということはない」のようにぶんふし)を否定ひていする言語げんごもある。

言語げんごにおける否定ひてい注意ちゅういすべきてんとして、否定ひていほう観念かんねん可能かのう必然ひつぜん許可きょか義務ぎむなど、話者わしゃ判断はんだん介入かいにゅうする)とわせた場合ばあいには、意味いみてき否定ひてい論理ろんりてき否定ひてい)と形式けいしきてき否定ひてい一致いっちしない場合ばあいもある。意味いみてき否定ひてい上記じょうき様相ようそう論理ろんりがくにおける否定ひていとしてあつかうことができ、たとえば許可きょか「…してよい」の意味いみてき否定ひてい許可きょか禁止きんし「…してはならない」、義務ぎむ「…しなければならない」の意味いみてき否定ひてい否定ひてい許可きょか「…しなくてよい」である。しかし英語えいごで must not は「…してはならない」または「…はありえない」をあらわす。つまり not によって、助動詞じょどうし(あるいはぶん自体じたい)を否定ひていする(外部がいぶ否定ひてい)のではなく、動詞どうし不定ふてい否定ひていするのだ(内部ないぶ否定ひてい)とかんがえるべきである。それにたいし cannot は can の否定ひてい不可能ふかのう「…できない」または「…はありえない」:外部がいぶ否定ひてい)とかんがえてよい。may not は場合ばあいによって意味いみことなり、禁止きんし「…してはならない」(must not とほぼおな意味いみ;ただし発話はつわで not を強調きょうちょうすると「…しなくてよい」の意味いみにもなる)、または否定ひてい可能かのう不可能ふかのうではない)「…でないかもしれない」になる。

上記じょうきのようなあきらかな否定ひてい以外いがいにも、意味いみてき否定ひていちかかたり表現ひょうげんもある。英語えいごでいえば、"only~"(文脈ぶんみゃくによる)、"few"、"scarcely"などがある。これらに相当そうとうする日本語にほんご表現ひょうげんでは「~しかない」「ほとんど~ない」「滅多めったに~ない」と否定ひてい明示めいじすることがおおい。

さまざまな否定ひてい

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時制じせいアスペクト・ムードなどによって、ことなる否定ひてい変化へんか接辞せつじもちいる言語げんごもある。たとえば、否定ひてい命令めいれいぶん禁止きんし)に否定ひてい平叙へいじょぶんべつ手段しゅだん使つか言語げんごや、存在そんざい否定ひてい特別とくべつ方法ほうほうっている言語げんご数多かずおおくある。

しるべ否定ひてい存在そんざい否定ひてい禁止きんしれい北京ぺきん官話かんわ
しるべ否定ひてい
かつしゅ
bu jiǔ
かれ NEG さけ
かれさけまない」
存在そんざい否定ひてい
ぼつゆう哥哥
méi yǒu gēge
かれ NEG ある あに
かれにはあにがいない」
禁止きんし
べつはし
bié zǒu
NEG.IMP
かないで!」

否定ひてい表現ひょうげん歴史れきしてき変化へんか

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いくつかの言語げんご否定ひてい表現ひょうげん歴史れきしてきに、つぎのような一定いってい傾向けいこう変化へんかすることがられており、発見はっけんしゃイェスペルセンちなイェスペルセン周期しゅうき英語えいごばんばれる。

  1. 否定ひてい否定ひてい標識ひょうしきあらわされる。
  2. 否定ひてい標識ひょうしき弱化じゃっかし、強調きょうちょう副詞ふくしくわえられる。
  3. 強調きょうちょう副詞ふくし義務ぎむ強調きょうちょう意義いぎ希薄きはく)して否定ひてい副詞ふくし変化へんかし、否定ひていは2あらわされるようになる。
  4. 否定ひてい標識ひょうしき副詞ふくしはなれている場合ばあいには、否定ひてい否定ひてい副詞ふくしあらわされ、元来がんらい否定ひてい標識ひょうしき任意にんいになる。否定ひてい標識ひょうしき副詞ふくし隣接りんせつする場合ばあいには、否定ひてい標識ひょうしき副詞ふくし融合ゆうごうする。
  5. 否定ひてい否定ひてい副詞ふくし(または融合ゆうごうがた)だけであらわされる。
  6. 否定ひてい副詞ふくし(または融合ゆうごうがた)が否定ひてい標識ひょうしきとして使つかわれる。
  7. 1にもどる。

これが典型てんけいてきられるのはフランス語ふらんすごである。現代げんだい文語ぶんごでは本来ほんらい否定ひていneと、本来ほんらい強調きょうちょうのために追加ついかされた副詞ふくしpasで動詞どうしをはさむ。しかし口語こうごではneを省略しょうりゃくしpasだけで否定ひていあらわすのが普通ふつうである。つまり現代げんだいフランス語ふらんすごは3から5の段階だんかいにある(フランス語ふらんすご否定ひていぶん参照さんしょう)。英語えいご否定ひていnot、ドイツのnichtなどは、元来がんらい否定ひてい標識ひょうしき強調きょうちょう副詞ふくし融合ゆうごうがたであり、つまり5段階だんかいにある。

またこのほかにも、否定ひてい強調きょうちょう表現ひょうげん通常つうじょう否定ひてい表現ひょうげんとしてもちいられるようになったれいおおくの言語げんごられる。たとえば英語えいごの「do not 動詞どうし構文こうぶんふるくは動詞どうしのちにnotをけるだけでよかった)、近畿きんき方言ほうげん助動詞じょどうし「へん」(「・・・はせぬ」からてんじた)など。

道徳どうとくにおける否定ひてい

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日常にちじょう生活せいかつもちいられる否定ひてい論理ろんりとしてはことなり、結論けつろんだけをいいあらそ誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうとなっている、 論証ろんしょう存在そんざいしないために、 相手あいてかす目的もくてき中傷ちゅうしょうする、 詭弁きべんしてしまう、 結論けつろんだけをうのみで、 なぜそういう結論けつろんいたったか? こたえが暴力ぼうりょくてきであったり、 相手あいて危害きがいくわえる内容ないようおおい、 論理ろんり形成けいせいなしで相手あいて悪口わるぐちうため、 哲学てつがくにおいての「否定ひてい」は正当せいとう論証ろんしょう必要ひつよう不可欠ふかけつで、 こちらは算術さんじゅつとはことなる否定ひていである。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 近藤こんどうひろしいっこうなみ英司えいじ論理ろんりがく概論がいろん岩波書店いわなみしょてん、1964ねん、31ぺーじNDLJP:2969913 

関連かんれん項目こうもく

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