下町の商店街に、数年前に家族を残して家を飛び出したきりの浜中康一が帰ってくる。妻の久子は何事もなかったかのように夫を迎えるが、久子を秘かに慕っている作家志望の青年・朝倉は、浜中への反感から、浜中と久子の過去を探り始める。浜中電気の向かいにある「喫茶大沢」を経営するたみは、かつて浜中と恋仲にあった。
そのたみを病身の大沢が愛し、やがてたみは大沢と結婚するが、それが愛情からか憐みからかは分からない。その当時、大沢を強く想っていた久子だったが、残された者同士がそれぞれの想いを胸に秘めたかのように康一と結婚する。
しかし、大沢の病死によって危うい均衡を保っていた四人の複雑な関係が崩れ、康一はそのことから逃れるように町を出た。康一にも負い目はあるはずだが、それを何事もなかったかのように許す久子にも、かつての大沢への想いを秘め康一と結婚したという罪悪感のようなものが残る。
やがて浜中は家電屋を辞めてゲームソフト店にして成功し、たみは店を若手に譲って、実家のある岡山に引っ越すことになる。
四人の複雑な大人の恋愛模様があったことを知った朝倉は、久子への想いを断ち切り、作家デビューをきっかけに町を出て行った。